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第4章 混晶系強誘電体 BTZ におけるリラクサー状態での結晶学的特徴

4.4. 考察

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図4-7. 本研究から得られた0.17 ≤ x ≤ 0.40組成域でのBTZの物性相図、

ならびに各領域におけるヘテロ構造の模式図

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縞状<P110>成分領域とバンド状<P001>領域の成長は、共に強く抑制されることが 明らかとなった。ここで注目すべき点として、<P110>成分領域の成長は完全に抑 制されるものの、局所的ではあるものの、<P001>成分領域は<001>PC 方向に沿っ て再配列・連結し、局所的な 180°分域構造を形成することである。そこで、こ れらの実験結果を基に、BTZ でのリラクサー状態出現の物理的起源について検 討した。我々は、まず混晶系強誘電体において予想される物理的因子について 検討した。BTZでは、BサイトのTiイオンがイオン半径の大きいZrイオンによ って置換されている。一方、BTZの電子回折図形中にBサイト秩序を示す超格 子反射等は観察されない。よってZrイオンは基本的にTiイオンをランダムに置 換していると理解される。この状況下を踏まえた上で、従来の研究から、リラ クサー組成域での BTZの TiO6および ZrO6酸素八面体は、エンド物質である強

誘電体 BaTiO3と常誘電体 BaZrO3での酸素八面体と類似していることが指摘さ

れている[15]。すなわち、BTZでのリラクサー状態には、大きさの異なる2種類 の酸素八面体が共存する。特に重要な点は、サイズの大きなZrO6酸素八面体が、

全対称歪を生む欠陥中心として振る舞い、弾性的なランダム場を生み出す可能 性があることである[17-19]。これらに加え、(PC→FR)直接転移においては<P001>

成分の 180°分域構造が局所的に形成され、その局所性のため、試料内には長範 囲な歪場が生じることになる。よって、Zr置換によるランダム場と180°分域構 造による歪場が共存する中、さらなる長範囲な歪場の発生を抑制するため、

<P110>成分領域の再配列・連結は完全に抑制されると推察される。結局、BTZで

のリラクサー状態は、置換によって生じたランダム場と局所性に関係した歪場 との弾性的な相互作用によって出現した、非平衡状態であると理解される。

リラクサー状態に引き続き、0.17 ≤ x ≤ 0.27組成域に存在する(PC→FR) 直接転移について検討した。本実験結果から、キュリー温度 TC直上の PC 相の 状態は、図 4-3(c)に示すように、<P001>と<P110>成分領域の合成によって得られ るナノドメインの集合体で、その特徴は非極性領域が存在しないことであり、

その結果、ナノ強誘電分域状態として同定されることになる。ここで注目すべ き点は、このナノ強誘電分域状態が高 Zr 組成域において出現することである。

このことから、ナノ分域状態の出現は、Bサイト置換によって生じたランダム場 によるものであると推察される。特に、PC/FR 相境界では弾性的・電気的なラ ンダム性の寄与が顕著なため、このランダム場は強誘電相転移で出現した微細

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な強誘電領域の成長を強く抑制することになる。このため、BTZ における実際 の(PC→FR)直接転移の転移温度は、誘電率ピークから決定したキュリー温度TC

よりも高温側に存在すべきであると推察される。従って、本実験で見出された BTZ におけるナノ強誘電分域状態は、転移点で出現したナノ極性領域の成長が 強く抑制された状態であると結論される。結局、キュリー温度TCおよびピーク 温度Tmはナノ極性領域が再配列・連結を開始する温度、すなわちヘテロ構造ゆ らぎが顕著となる温度であると結論される。

63 4-5 まとめ

第4章では、BTZの0.17 ≤ x ≤ 0.40組成域に存在するFR相、PC相、お よびリラクサー状態の特徴について、ヘテロ構造およびそのゆらぎという視点 から検討を行った。具体的には、固相法で作製した0.17 ≤ x ≤ 0.40組成を有する BTZ 試料の結晶学的特徴を主に透過型電子顕微鏡でその場観察することにより 明らかにした。さらに得られた結果から、リラクサー状態出現の物理的起源に 関して、Zr 置換によるランダム場の存在を考慮することにより議論した。以下 に、得られた結果について要約する。

本章では、まず実験の見通しを立てるため、Zr置換量を増加した際の0.17

≤ x ≤ 0.40組成域における誘電状態の変化について調べた。その結果、x = 0.17

付近のFR相はヘリングボーン型の強誘電分域構造を示すこと、一方、FR/PC相 境界に近いFR相では、ヘリングボーン型分域構造は観察されず、(PC→FR)直接 転移の中間状態に対応する縞状<110>PC領域が存在した。さらにFR/PC相境界を 越えたPC 相でも、<001>PCと<110>PC成分領域がナノ極性領域として観察され、

これら成分領域の重ね合わせから、菱面対称性を有するナノ極性領域の存在が 明らかとなった。すなわち、キュリー温度 TC直上の PC 相のヘテロ構造は、菱 面体晶系の対称性によって特徴づけられるナノドメインの集合体である。

0.29 ≤ x ≤ 0.40組成域に存在するBTZでのリラクサー状態について、透過

型電子顕微鏡を用いた低温その場観察により、その詳細を明らかにした。その 結果、BTZ でのリラクサー状態は、(PC→FR)直接転移を特徴付ける、ナノ成分 領域の成長および再配列・連結が強く抑制された状態として理解された。具体 的には、PC 相からの冷却により、<001>PC成分領域は局所的に 180°分域構造を 形成するものの、<110>PC成分領域の再配列・連結は完全に抑制された。このこ とから、BTZでのリラクサー状態は、<001>PC分極成分の局所的なフリップ・フ ロップ、すなわちフリップ・フロップに伴うヘテロ構造ゆらぎによって特徴付 けられることが分かった。さらに、リラクサー状態出現の起源に関しては、Zr 置換によって生じたランダム場と局所的な歪場との弾性的な相互作用が重要な 役割を果たしていると推察した。

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Appendix FR 相での強弾性分域構造の特徴と解析

本研究では、BTZのFR相に存在する強弾性分域構造について、その詳 細を走査電子顕微鏡観察により明らかにした。さらに、その結果を強弾性体の 双晶面に関するSaprielの理論を基にして解析を行った。

Sapriel は、強弾性体での双晶面の方位決定を行う条件として、以下の2 つの仮定を行っている[20]。

①結晶を連続弾性体として見做す。

②2つの隣接する分域間の分域壁に関して、自発歪による原子変位は等しい。

2つ目の条件は、以下のように定式化される。

(1)

ここで、 は隣接する2つの分域での自発歪を表わす歪テンソル成分であ る。(1)式を用いて、0.17 ≤ x ≤ 0.28組成域における強誘電状態での強弾性分域構 造の分域壁の方向を決定した。

図4-1(a) に示す物性相図から、0.15 ≤ x ≤ 0.20組成を有するBTZ試料は室 温でFR相である。そこでFR相での結晶対称性を確認するため、ナノ・メソス ケールより大きなマイクロスケールでの強弾性分域構造について、その特徴を 走査電子顕微鏡観察で調べた。図4-8には、x = 0.15試料から得られた室温での 高角度環状暗視野像と対応する電子回折図形を示している。まずマイクロスケ ールの広い領域に注目すると、白矢印で示すように、像(a)には(11_0)PC 面に平行 な分域界面をもつ単純なバンド構造が観察される。一方、局所領域では、(11_0)PC

面に加え、像(b)において白矢印で示す(001)面に平行な分域界面をもつバンド構 造も存在した。よって、これらの像から、0.15 ≤ x ≤ 0.20組成域での強弾性分域

構造は、(11_0)PC面と(001)面に平行な分域壁によって特徴付けられることが明ら

かとなった。そこで、これらの分域壁の出現を強弾性相転移に関するSapriel の 理論を基に検討した。

本研究では、出現する分域壁を予想するため、2種類の強誘電相転移を 仮定した。1つは、(i)PC相からFR相、もう一方は、(ii)PC相から強誘電単斜晶 相への相転移である。これら2つの相転移において、例えば2つのバリアント

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での自発歪テンソルは、以下の行列によって与えられる。

and

・・・・(i)

and

・・・・(ii) (1)式を用いて計算すると、(i)の場合は4 、一方、(ii)の場合には 4 となり、共に と と同じ解が得られる。こ れは、双晶面が{001}PC面および{011}PC面に平行であることを示している。すな わち、相転移(i)と(ii)において、{001}PCおよび{110}PC分域構造が出現すること になる。ここで重要な点は、他のバリアントを考慮した場合、(ii)の相転移では、

別の方位の分域壁の分域構造の出現も予想されることである。しかし本実験に おいて、そのような分域壁を確認することはできなかった。この結果を基に、

FR相の対称性は、単斜晶系ではなく、従来報告されている菱面体晶系であるこ とが確認された。

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図4-8. x = 0.15試料から得られた室温での高角度環状暗視野像

と対応する電子回折図形

67 参考文献

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