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第4章 混晶系強誘電体 BTZ におけるリラクサー状態での結晶学的特徴

4.3. 実験結果

本章では、PC状態でのヘテロ構造ゆらぎ、室温でのZr組成の増加に伴う

(FR→PC)状態変化、さらにクロスオーバーおよびリラクサー組成域での温度変

化による状態変化の特徴を明らかにするため、0.17 ≤ x ≤ 0.40組成のBTZ試料を 対象にして、透過型電子顕微鏡によるその場観察を行った。まず、得られた実 験結果を基に作成した、0 ≤ x ≤ 0.40組成域でのBTZの物性相図を図4-1(a)に示 す。相図から、160 K付近における0 ≤ x ≤ 0.27組成域はFR相、0.29 ≤ x ≤ 0.40 組成はリラクサー領域、また強誘電相でのキュリー温度TCおよびリラクサー状 態でのピーク温度 Tmは、PC 相から試料を冷却した際に得られた複素誘電率の 実数部 の温度依存性から決定した。この相図から、(PC→FR)直接転移のキュリ ー温度TCはZr置換量増加と伴に低下し、その結果、室温付近でのFR /PC相境 界はx = 0.24付近に存在するが理解される。図4-1(b)には、x = 0.17、0.21、0.27、

および0.35試料から得られた複素誘電率の実数部 の温度・周波数依存性を示し ている。測定周波数は5、50、および100 kHz、相図中のTm値は100 kHzでのピ ーク温度をプロットしている。これらの温度依存性から、実際、x = 0.17、0.21、

および0.27試料は強誘電相転移における通常の挙動を示している。一方、x = 0.35 試料ではリラクサー挙動の特徴である特異な周波数分散が認められる。また作

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図4-1. (a)本研究から得られた組成域0 ≤ x ≤ 0.40でのBTZ物性相図と (b) x = 0.17、0.21、0.27、および0.35試料における複素誘電率 の実数部 の温度・周波数依存性

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製した試料の複素誘電率をVogel-Fulcher則で評価した所、リラクサー挙動が0.29

≤ x ≤ 0.40組成域で得られることも確認した。よって、BTZにはx = 0.28付近に

おいて、FR状態からリラクサー状態へのクロスオーバーが存在する。

作成した相図を基に、0.17 ≤ x ≤ 0.40組成域においてZr組成を増加した際 の室温でのヘテロ構造の変化について、その詳細を透過型電子顕微鏡で調べた。

図4-2(a)、(b)、(c)、および(d)には、それぞれ x = 0.17 (FR)、0.21 (FR)、0.27 (PC)、

および0.35(PC)試料から得られた室温の暗視野像を示している。ここで括弧内に

は、相図上に示した誘電状態を記入した。電子線の入射方向を[110]PC 方向とす る四つの像は、すべて散乱ベクトルg = 11_0PCを用いて結像している。これらの 像の中で出発状態としたFR相では、まずx = 0.17の像(a)から分かるように、第 3章で観察された分域構造と同様な、ヘリングボーン型の分域構造が観察され る。ここからZr組成を増加し、FR /PC相境界に近いFR相のx = 0.21組成にな ると、像(b)に見られるように、ヘリングボーン型の分域構造は消失し、[11_1]PC

方向に沿った明るい斑点状コントラストの一次元的な配列が認められる。一方、

FR /PC相境界を越えたx = 0.27および0.35では、像(c)および(d)に見られるよう

に、大きさが 50 nm程度の斑点状コントラスト領域が出現した。その特徴は、

FR /PC相境界に近いx = 0.27での斑点状コントラストは、x = 0.35に比べ、より

明瞭なことである。結局、これらの結果は、第3章に述べた(PC→FR)直接転移 の振る舞いと全く矛盾していない。

上述したように、x = 0.27および0.35での観察結果から、PC相でのヘテ ロ構造ゆらぎは斑点状コントラスト領域の存在によって特徴づけられることが 分かった。そこで斑点状領域の詳細を明らかにするため、クロスオーバー組成

に近い、PC 相のx = 0.27試料を用い、フリーデル則の破れを利用して斑点状領

域の解析を行った。図4-3には、図4-2(c)上の白線で囲まれた領域から得られた 室温での暗視野像、二つの独立な<P001>および<P110>成分領域の模式図、および 解析から得られたPC相のヘテロ構造モデルを示している。電子線の入射方向は [110]PC方向、 (a1)、(a2)、(b1)、および(b2)に示す暗視野像は、それぞれg = 002_

PC、002PC、11_0PC、および1_10PCを用い、二波励起の条件下で撮影した。また、表

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図4-2. Zr置換量増加にともなう室温でのヘテロ構造の変化を示す暗視野像。

電子線の入射方向は[110]PC、結像に用いた散乱ベクトルはg = 11_0PC。 (a) x = 0.19(FR)、(b) 0.21(FR)、(c) 0.27(PC)、(d) 0.35(PC)試料

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gおよび裏面- gで結像した暗視野像での対応関係を分かり易くするため、像 (a2)と(b2)の右側には、002PCと1_10PC実験像のコントラストを計算によって反転 させた計算像を示している。すなわち、002PC と1_10PC 像は実際に観察した視野 の全体像ではなく、像(a2)と(b2)での計算像(右側)は実験像(a1)と(b1)での右側 の領域に対応している。本章では、後で述べるリラクサー状態に関しても、同 様の方法で解析を行った。

得られた実験像の中で、まず(a1)と(a2)像中に観察される斑点状領域につ いて解析を行った。両像とも非常に複雑なコントラストを示しているものの、

白矢印で示すように、実験像(a1)の右側と計算像(a2)との比較から、前者での明・

暗のコントラスト領域は、後者の領域と基本的に一致していることが分かった。

このことから、実験像(a1)と(a2)においても明・暗のコントラストの反転が、大

きさ約20 nmの斑点状領域でも生じている。すなわち、像(a1)で明・暗のコント

ラストの斑点状領域は、それぞれ[001_]PCと[001]PC方向に平行な分極成分を持つ ことが明らかとなった。また像(a1)の挿入図には、白線領域における<P001>成分 領域の決定した空間分布を示している。次に<P110>成分領域についても、実験像 (b1)と(b2)を用いて空間分布の決定を行った。11_0PC と1_10PC 像中には、002_PC と 002PC像と比較して、やや大きい50 nm程度の斑点状領域が観察される。ここで 両者の像を比較すると、白矢印で示すように、この場合も明・暗の斑点状コン トラスト領域は、両者でほぼ一致していることが分かる。よって、像(b1)の明・

暗のコントラスト領域は、それぞれ[11_0]PCと[1_10]PC分極成分を持つことになる。

白線領域における<P110>成分領域の決定した空間分布は、像(b1)の挿入図に示し ている。

本解析では、決定した<P001>と<P110>成分領域の空間分布を重ね合わせる ことにより、図 4-3(c)に示す、PC 相におけるヘテロ構造ゆらぎのモデルの構築 を行った。ここで、第3章で述べた FR 相での強誘電分域と同様、PC 相に存在 するナノ極性領域の分極ベクトルの方向は、<P001>と<P110>分極成分の合成によ って与えられる。このためPC相の斑点状領域は、P//[11_1]PC (=[11_0]PC + [001]PC)、

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図4-3. x = 0.27試料から得られた室温での暗視野像とPC相のヘテロ構造モデル。

電子線の入射方向は[110]PC方向、結像に用いた散乱ベクトルは、(a1)g = 002_PC

(a2) 002PC、(b1) 11_0PCおよび(b2) 1_10PC

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P//[11_1_]PC (=[11_0]PC + [001_]PC)、P//[1_11]PC (= [1_10]PC + [001]PC)、およびP//[1_11_]PC (=

[1_10]PC + [001_]PC)方向に平行な分極ベクトルを持つことになる。すなわち、

<111>PC方向に平行な分極ベクトルから、これらの極性領域は菱面体晶対称性を

有していることが理解される。ここで注目すべき特徴は、<P001>と<P110>成分領 域の空間分布が異なるため、PC相には基本的に非極性領域が存在しないことで ある。結局、BTZでのPC相はナノドメインモデルによって説明され、その対称 性は極性領域の空間平均として立方晶系を示すことになる。

上述の解析結果は、クロスオーバー組成に近いx = 0.27のPC相において も FR 相の場合と同様に、<P001>と<P110>成分領域の空間分布が異なることを示 した。このことから、x = 0.27でのPC相には、非極性領域は存在しない。一方、

図4-2(d)から、x = 0.35での斑点状コントラストは、x = 0.27の場合に比べて、や

や不鮮明なものであることが分かる。そこでx = 0.35についても同様の解析を行 った所、<P001>と<P110>成分領域に関して、共に明瞭なコントラストの反転を得 ることができなかった。この結果は、x = 0.35でのPC相には、一部非極性領域 が存在することを示唆している。すなわち、x = 0.35での状態は、非極性母相中 にナノ極性領域が分布した状態であると推察される。よって、PC相でのPC/FR 相境界への接近は、非極性領域の体積分率の減少を導き、結果として、(PC→FR) 直接転移直前の状態は、菱面体晶系の対称性を有するナノドメインの集合体で あることが理解される。

室温でのPC相の解析に引き続き、クロスオーバー組成x = 0.28に近いx = 0.27での(PC→FR)直接転移に関して、<P001>と<P110>成分領域の成長様式に注目 して低温その場観察を行った。図4-4には、x = 0.27試料の同一領域から得られ た各温度での暗視野像と対応する電子回折図形を示している。電子線の入射方 向は[110]PC方向、像(a)と(b)および像(a’)と(b’)はそれぞれg = 11_0PC、と002_PCを 用いて二波励起の条件下で撮影した。撮影温度は、像(a)と(a’)が144 K、像(b)と (b’)が87 Kである。またx = 0.27のキュリー温度TCは、図4-1(b)に示す複素誘 電率の実数部から、約245 Kであると決定した。出発状態とした室温でのPC相 中には、図4-3(c)で観察されたのと同様な、ナノ極性領域による無数の斑点状コ ントラスト領域が存在している。この状態から冷却すると、像(a)と(a’)から、

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図 4-4. x = 0.27 試料の同一領域から得られた各温度での暗視野像と対応

する電子回折図形。電子線の入射方向は[110]PC、像(a)と(b)はg = 11_0PC、像 (a’)と(b’)はg = 002_PCを用いて結像している。撮影した温度は、(a)(a’) 144 K、 および(b)(b’) 87 K。

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<P110>成分領域では縞状領域、一方、<P001>成分領域においては波打った細いバ ンド状領域が出現した。特に、<P110>成分の縞状領域は、斑点状領域がほぼ

<111>PC 方向に沿って連結したように見える。ここで注目すべき特徴は、像(b)

と(b’)から分かるように、像コントラストは 87 K までの冷却によって基本的に 変化が認められないことである。すなわち、TC以下の低温域において、FR相を 特徴づけるヘリングボーン型の強誘電分域構造は出現しない。このことは、

(PC→FR)直接転移がクロスオーバー組成付近において強く抑制されることを示 している。

以上の実験結果を踏まえ、0.29 ≤ x ≤ 0.40組成域に存在するリラクサー状 態について、温度変化に伴う<P001>と<P110>領域の成長様式の特徴を低温その場 観察により調べた。図4-5には、x = 0.35試料の同一領域から得られた各温度で の暗視野像と対応する電子回折図形を示している。電子線の入射方向は[110]PC

方向、像(a)-(c)および像(a’)-(c’)は、それぞれ二波励起の条件下で散乱ベクトルg

= 11_0PCおよび002_PCを用いて撮影した。撮影温度は像(a)と(a’)が290 K、像(b)と (b’)が150 K、および像(c)と(c’)が87 Kである。また図4-1から、x = 0.35でのピ

ーク温度Tmは約 190 Kである。これらの像の中で、像(a)と(a’)に示した290 K

のPC相には、<P001>と<P110>領域がそれぞれ大きさ約20 nmおよび50 nmの斑 点状領域として観察される。この状態から試料を冷却すると、像(b’)と(c’)から、

<P001>領域の像中には細いバンド状領域が出現し、さらなる冷却により局所的な

バンド状コントラストへと変化することが分かった。ここで、<P001>領域の細い バンド領域は、PC 相の斑点状領域が、<001>PC方向に沿って連結することによ り形成されている。一方、<P110>領域については、温度低下に伴う像コントラス トの変化は基本的に認められない。その結果として、87 K の像においても PC 相に見られる斑点状領域が依然として観察されている。

87 Kでのリラクサー状態の特徴を明らかにするため、図4-5(c)の白線で囲 んだ領域を対象にして、様々な散乱ベクトルで暗視野像を撮影した。図4-6(a1)、

(a2)、(b1)、および(b2)は、電子線の入射方向を[110]PC方向とし、それぞれg = 00

2_PC、002PC、11_0PC、および1_10PC を用いて結像した暗視野像である。また像(b2) の右側に示す像は、上述したように、1_10PC実験像のコントラストを反転して得

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図4-5. x = 0.35試料の同一領域から得られた各温度での暗視野像と対応

する電子回折図形。電子線の入射方向は[110]PC、像(a)-(c)はg = 11_0PC、像 (a’)-(c’)はg = 002_PCを用いて結像している。撮影した温度は、(a)(a’) 室温、

(b)(b’) 150 K、および(c)(c’)87 K。

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図4-6. x = 0.35試料から得られた87 Kでの暗視野像とリラクサー状態のヘテロ

構造モデル。電子線の入射方向は[110]PC方向、結像に用いた散乱ベクトル

は(a1) g = 002_PC、(a2) 002PC、(b1) 11_0PCおよび(b2) 1_10PC

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られた計算像である。まず像(a1)と(a2)に注目すると、像中には局所的なバンド 構造が観察される。特に注目すべき点は、これらの像の間でコントラストの反 転が認められることである。すなわち、像(a1)に黒矢印で示すように、<P001>成 分領域は局所的な180 分域構造を形成している。一方、<P110>領域の実験像(b1) と(b2)には、以前として斑点状領域が観察される。ここで実験像(b1)での右側の 領域と計算像(b2)を比較すると、白矢印で示すように、これら像の間で明・暗の コントラストが反転している。このことから、像(b1)において明・暗の斑点状領 域は、それぞれ P//[11_0]PCP//[1_10]PCに平行な分極成分を有していることが理 解される。さらに、<P001>成分領域の180 分域構造と<P110>領域の斑点状領域を 重ね合わせることにより、図4-6(c)に示す、リラクサー状態のヘテロ構造モデル を作成した。図から、リラクサー状態は菱面体晶系の対称性を持つナノドメイ ンの集合体であり、PC相との相違はリラクサー状態では<P001>成分領域が180 分域構造を形成することである。

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