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試料方位 [110] PC の単結晶試料での強誘電状態

第5章 混晶系強誘電体 PZN-xPT における低 Ti 組成域での強誘電状態の特徴

5.3. 実験結果

5.3.1. 試料方位 [110] PC の単結晶試料での強誘電状態

本研究では、まず0 < x < 0.10組成を有する試料方位[110]PCの単結晶試料 での強誘電状態について、その特徴を透過型電子顕微鏡により調べた。図 5-2 には、その一例として、x = 0.02単結晶試料から得られた室温での暗視野像と対 応する[110]PC 入射の電子回折図形を示している。像(a)、(b)、(c)、および(d)は、

それぞれg = 1_10PC、11_0PC、002PC、および002_PCを用いて結像した同一領域から の暗視野像である。まず、電子回折図形中には、単純ぺロブスカイト構造から の基本格子反射に加え、1/2 1/2 1/2 タイプの位置にBサイトイオンの短距離秩 序化に起因する散漫散乱が認められる。これらの像の中で、1_10PC像(a)と 11_0PC

像(b)には、広い明・暗のコントラスト領域が観察される。これらの像で明・暗 のコントラストが反転していることから、像(a)の明・暗のコントラスト領域は、

それぞれP// [1_10]PCP// [11_0]PCの分極ベクトル成分を持つ。さらに、もう1つ の特徴として、1_10PC像(a)と11_0PC像(b)には、広いコントラスト領域内に細かい 縞が認められる。これらの縞は002PC像(c)、および002_PC像(d)の領域全体にも観 察される。このことは、縞状コントラストがフリーデル則の破れによるもので はなく、歪場によるものであることを示唆している。そこで、4つの暗視野像 中に観察される細かい縞を、歪縞と呼ぶことにする。一方、002PC像(c)、および 002_PC像(d)には、上述した歪縞に加え、像(a)の左下に存在する明るいコントラス ト領域中にバンド領域が観察される。このバンド状コントラストは、像(c)と(d) でその明・暗が反転していることから、この領域ではフリーデル則の破れが生 じていることが理解される。そこで、このバンド領域に着目し、その強誘電状 態について解析を行った。

図5-3には、図5-2(c)のバンド領域から得られた暗視野像と決定した強誘 電状態のモデルを示している。像(a)、(b)、(c)、および(d)は、それぞれg = 1_10PC、 11_0PC、002PC、および002_PCを用いて結像した室温での暗視野像である。まず、

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図5-2. 試料方位[110]PCのx = 0.02板状単結晶試料から得られた室温

での暗視野像と対応する電子回折図形。結像に用いた散乱ベクトルは (a) g = 1_10PC、(b) 11_0PC、(c) 002PC、および(d) 002_PCを用いて結像して いる。

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1_10PC像(a)と11_0PC像(b)には、領域全体にそれぞれ暗いコントラストおよび明る いコントラストが認められる。従って、明・暗のコントラストの反転から像(b) が示す領域は P//[1_10]PC分極成分のみをもつ。一方、002PC像(c)と 002_PC像(d)に は、明・暗のバンド状コントラストの反転が認められる。従って、像(c)での明・

暗のバンド状領域は、それぞれ P//[001]PCP//[001_]PC分極成分を持つことにな る。そこで、各バンド内での分極ベクトルの方向を<001>PCと斜方晶系の<110>PC

成分の重ね合わせにより決定した。図5-2(e)には、決定したバンド領域における 分域構造の模式図を示している。この図から、青と黄色のバンドは、それぞれ P// [1_11]PC (= [1_10]PC + [001]PC)、およびP//[1_11_]PC (= [1_10]PC + [001_]PC)の分極成分 をもつ。従って、決定された分域構造は、{110}PC双晶構造に等価な FR 相での 109 分域構造として同定することができる。実際、バンド領域から得られた電子 回折図形中には双晶構造によるスポットの分裂が確認された。さらに、これら 4つの像に観察される歪縞の方向は、P//[1_11]PC成分の青いバンドでは[11_1]PC方 向、P//[11_1_]PC成分の黄色いバンドでは[1_11_]PC方向であることが分かる。これら の<11_1>PC方向に沿った細い縞は、菱面体晶歪と矛盾しない。このような歪縞を 含んだFR相のドメイン構造は、Pb(Ti1-yZry)O3 (PTZ)でのFR 相で報告されたド メイン構造と全く同じものである[16]。

試料方位[110]PC の単結晶試料に出現する強誘電状態の注目すべき特徴の 1つは、図5-2(c)と(d)の中央付近の矢印が示すように、g = 002PCと002_PC像中に 歪縞のみを示す領域が多数存在することである。実際、上述した 109 分域構造 よりも歪縞のみを示す領域が多く観察された。ここで重要な点は、このような 歪コントラスト領域では、フリーデル則の破れによるコントラストの反転が得 られないことである。一方、図 5-2(b)が示すように、各歪縞領域は<110>PC成分 の1つによって特徴付けられる。従って、歪縞領域での強誘電状態はFO状態で あると考えられる。しかし、歪縞は図5-2(c)の左下のバンド領域にも観察される。

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図5-3. 図5-2(c)の左下に観察されるバンド領域から得られた室温での暗視

野像と決定した強誘電分域構造のモデル。結像に用いた散乱ベクトルは、(a) g = 11_0PC、(b) 1_10PC、(c) 002PC、および(d) 002_PC

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このことは、バンド構造のない歪縞領域では、少なくとも、局所領域での対称 性として、菱面体晶系を有していることを示唆している。すなわち、歪縞は菱 面体晶系の対称性をもつナノドメインの存在によって生じたものとして理解す ることができる。このため、歪縞領域では分極の方向がPと-Pの同じ菱面体晶 歪をもつ2つのナノドメインがランダムに分散して存在していることになる。

一方、バンド領域での各バンド内では、分極の方向が揃った単一のナノドメイ ンのみが配列して存在している。従って、x = 0.02試料での強誘電状態は、菱面 体晶系のナノドメインの集合体によって特徴付けられる。ここで注目すべき特 徴は、BTZの場合とは異なり、<110>PC成分領域は広い領域として存在するもの の、<001>PC成分領域の成長は強く抑制されていることである。

得られた実験結果から、試料方位[110]PCの単結晶試料に出現する0 < x ≤ 0.08組成域での強誘電状態は、全て上述したx = 0.02試料と同じ特徴を示すこと が分かった。図5-4には、x = 0.02、0.045、0.08、および0.09試料から得られた 室温での暗視野像と対応する[110]PC入射の電子回折図形を示している。像(a)-(d) と像(a)-(d)は、それぞれg = 1_10PCg = 002PCを用いて結像している。まず、x

= 0.02試料の1_10PC像(a)には広く明るいコントラスト領域、一方、002PC像(a)に は、矢印で示すように菱面体晶歪による歪縞が観察される。これと同様のコン トラストがx = 0.045と0.08試料の像(b)と(c)にも認められる。このことは、x =

0.045と0.08試料の強誘電状態がx = 0.02試料と同様の菱面体晶系の対称性をも

つナノドメインの集合体から成ることを示唆している。一方、x = 0.09 試料の 002PC 像(d)には斑点状コントラストが観察され、他の組成で見られた歪縞は認 めることはできない。従って、x = 0.09試料の局所領域での対称性は、0 < x ≤ 0.08 組成域での菱面体晶系とは異なる。そこで、1_10PC像(d)に着目すると、広く明る いコントラスト領域が観察される。このことは、x = 0.09試料での強誘電状態は FO 状態である可能性を示唆している。しかし、隣接する<110>PC成分領域の間 には、矢印が示すように、湾曲したドメイン境界が認められる。すなわち、x = 0.09 試料での強誘電状態では、低指数の結晶学的分域界面をもつ分域構造は観察さ れない。このことは、x = 0.09試料の強誘電状態での分極ベクトルの方向が、FO 相の<110>PC方向からずれていることを示唆している。従って、斜方晶系は、

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5-4. 0 < x < 0.10組成を有する試料方位[110]PC単結晶試料から得た室温での

暗視野像。結像に用いた散乱ベクトルは、(a)-(d) g = 1_10PCと(a’)-(d’) g = 002PC (a) x = 0.02、(b) x = 0.045、(c) x = 0.08、(d) x = 0.09

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空間平均としての対称性であり、ナノ領域での対称性は斜方晶系よりも低下す る。このことから、x = 0.09試料での強誘電状態は、FO相を含むMCタイプの単 斜晶状態であると推察される。実際、この可能性については以前 Kaneshiro と Uesuらによって指摘されている[9]。

次に(PC→FR)強誘電相転移における強誘電状態の出現・発達過程を理解 するため、透過型電子顕微鏡によるその場観察を行った。観察の結果、0 < x ≤ 0.08 組成域では、基本的に同じ状態変化を示すことが分かった。そのため、ここで

はx = 0.08試料での実験結果について報告する。図5-5には、x = 0.08単結晶試

料から得られた各温度での暗視野像と対応する[110]PC 入射電子回折図形、およ び線形誘電率 の温度依存性を示している。誘電率ピークからx = 0.08試料での キュリー温度Tcは、約440 Kと決定した。また、加熱・冷却速度は約1 K/min とし、撮影した温度は、加熱過程での(a) (a) 300 K、(b) (b) 423 K、(c) (c) 600 K (PC)、および冷却過程での(d) (d) 423 Kと(e) (e) 300 Kである。さらに、像(a)-(e) はg = 1_10PC、像(a)-(e)はg = 002PCを用いて結像している。まず、初期FR状態 では、1_10PC像(a)に広く明るいコントラスト領域、002PC像(a)に菱面体晶歪によ る歪縞が観察される。この状態から温度を上げていくと、像(a)の歪コントラス トは、大きさ約20 nmの斑点状コントラストに変化する(像(b))。一方、P//[1_ 10]PC分極成分の広く明るいコントラスト領域は、423 K では比較的弱いコント ラストとして残存している(像(b))。さらに、TC以上まで加熱すると、一様な コントラスト領域へと変化する(像(c)、(c))。しかし、コントラストは弱いも のの、像(c)と(c)には、大きさ約5 nmの斑点領域を認めることができる。

PC相から温度を下げると、TC直下で非常に複雑なコントラストが出現し た(像(d)、(e))。ここで注目すべき特徴は、冷却過程において<110>PC成分領域 が成長しないこと、さらに冷却後の300 K においても、数十 nm の領域として 残存していることである。この状況は、加熱前の広い<110>PC成分領域と明らか に異なる。一方、<001>PC成分領域に関しては、ナノスケールの複雑なコントラ ストを示している(像(d)、(e))。このことは、PC相からの冷却において、<001>PC

成分領域だけでなく、<110>PC成分領域についても、その成長が強く抑制されて いることを示唆している。

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5-5. 試料方位[110]PCx = 0.08単結晶試料から得られた(PC→FR)強誘電

相転移、およびその逆変態を示す一連の暗視野像と線形誘電率 の温度依存性。

結像に用いた散乱ベクトルは、(a)-(d) g = 002PCと(a’)-(d’) g = 1_10PC。撮影した 温度は、加熱過程での(a)(a’) 300 K、(b)(b’) 423 K、(c)(c’) 603 K、および、冷却 過程での(d)(d’) 423Kと(e)(e’) 300 K。

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