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第5章 混晶系強誘電体 PZN-xPT における低 Ti 組成域での強誘電状態の特徴

5.4. 考察

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TEM観察に用いた板状単結晶は、観察中に大きく湾曲したものの、ある 領域において、フリーデル則の破れを用いてその強誘電分域構造を解析するこ とができた。本研究で解析により決定した強誘電分域構造の特徴は、基本的に 各ドメインでの分極ベクトルは、試料表面の法線に対して垂直である。もし、

分極ベクトルの方向がその垂直方向から外れている場合、表面に電荷が生じ、

板状単結晶は大きく湾曲することになる。ここで、注目すべき特徴は、電場印 加のない状態で、単斜晶の対称性をもつMA、およびMC状態が、試料方位[210]PC

の単結晶試料で見出されたことである。これら単斜晶状態の中で、<12_0>PC方向 の1つにほぼ平行な分極ベクトルをもつMC状態は、x = 0.08付近に存在した。

この組成付近では、試料方位[100]PC の単結晶試料において、顕著な圧電特性が 報告されている。そこで、電場印加のない状況下でのMC状態出現の起源につい て検討した。検討するにあたり、MPB 付近の MA、MC、および FR 状態の熱力 学的安定性、および表面電荷による弾性エネルギーの増加に着目した。まず、

各強誘電状態の熱力学的安定性は、MPB付近においてほぼ同じであると考えら れる。このことは、分極ベクトルの方向が、FR 状態の<111>PC 方向から容易に 外れることを意味している。さらに、表面電荷による弾性エネルギーの増加は、

分極ベクトルの方向を薄膜試料表面の法線方向に対して垂直することによって 回避できると考えられる。何故なら、この状況では表面電荷が生じないからで ある。すなわち、試料方位[210]PC の単結晶試料では、上述した2つの条件が満 たされ、その結果MA、およびMC状態が電場印加のない状況下で出現したと推 察される。

さらに、x = 0.08付近での顕著な圧電特性の起源について、MC状態出現 の立場から検討した。本研究では、電場印加のない状況下でMC状態が出現した。

MC 型単斜晶状態では{100}PC 面内での分極ベクトルの回転が可能なため、顕著 な圧電変形に直接関係していると考えられる。そこで、x = 0.08単結晶試料での

(PC→MC)強誘電相転移におけるその場TEM 観察結果に着目した。図 5-9 には、

(PC→MC)強誘電相転移におけるヘテロ構造の変化を示した模式図と対応する x

= 0.08単結晶試料での線形誘電率 の温度依存性を示している。まず、TCよりも

約150 K高いPC相は常誘電状態である((a))。この状態から冷却していくと、

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5-9. (PC→MC)強誘電相転移におけるヘテロ構造の変化を示した模式図

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<12_0>PC分極成分をもつ極性ナノ領域が出現し((b))、これらが局所的に合体し

ていく。ここで注目すべき特徴は、誘電率ピークよりも約50 K高い温度域で常 誘電領域が消失し、MC 型単斜晶のナノドメイン状態が形成されることである

((c))。さらにTC以下では、メイズパターンドメインが自己相似性と分極ベク トルのフリップ・フロップを伴いながら成長する((d), (e))。これは、従来指摘 されている分極ベクトルの回転とは全く異なるものである。また、この成長過 程において連続的な格子変形を伴わないため、弾性エネルギーの損失を考慮す る必要はない。よって、TC 以下での冷却過程で見出された分極ベクトルのフリ ップ・フロップと自己相似性を伴ったメイズパターンドメインの成長が巨大圧 電応答に関係していると推察される。

最後にPZN-xPTでのリラクサー状態の起源について検討した。本実験結 果から、0 < x ≤ 0.08組成域における室温での強誘電状態は、菱面体晶系のナノ ドメインの集合体によって特徴付けられることが明らかとなった。ここで注目 すべき特徴は、<001>PC成分をもつナノ領域が、<110>PC成分を有する広い領域 内に存在していることである。すなわち、このナノスケール状態は、<P001>成分 領域の成長の抑制によって出現したものである。これは、菱面体晶歪による長 範囲な歪場の発生を抑制するためであると推察される。従って、0 < x ≤ 0.08組 成域に出現するリラクサー状態は、ナノスケール状態を生み出す<P001>成分領域 の成長の抑制に直接関係していると結論される。

90 5-5 まとめ

本章では、混晶系PZN-xPTでの低Ti組成域で見られるリラクサー状態お よびMPB付近での巨大圧電応答に関係する強誘電状態について、その結晶学的 特徴を透過型電子顕微鏡により明らかにした。本研究ではまず{100}PC面を有す る立方体状単結晶から板状単結晶を切り出した。その結果、[100]PC 方位の単結 晶試料では、試料の湾曲と複雑なナノドメイン構造からフリーデル則の破れに よるコントラストの反転は得られず、その強誘電状態を同定することはできな かった。一方、 [110]PCと[210]PC方位の単結晶試料では、試料の湾曲が見られた ものの、その程度が小さいため、出現した強誘電状態を決定することができた。

以下に、得られた結果について要約する。

PZN-xPTでのリラクサー状態は、<111>PC方向に分極ベクトルを持つナノ

FR 領域の集合体であることが分かった。その特徴は、<P110>成分領域は広い領 域として存在するものの、<P001>成分領域の成長は強く抑制されていることが明 らかとなった。このことから、リラクサー状態の巨視的な対称性は、菱面体晶 系ではなく、広い<110>PC成分領域の存在を反映して、斜方晶系の対称性である ことが示された。さらに、(PC→FR)強誘電相転移での分域構造の形成過程につ いて調べた。その結果、興味深いことにTEM 観察用薄膜試料では<P110>成分領 域の成長が強く抑制されることが分かった。これは、<P110>成分領域の核生成に よって生じる歪場が、特に薄膜試料の表面付近では緩和されやすいためである と推察される。結局、<P110>成分領域の核生成挙動がバルク単結晶と薄膜試料と で大きく異なっていることが分かった。

x = 0.08 付近の巨大圧電応答は、{100}PC面内に分極ベクトルを持つ MC

型強誘電単斜晶相の存在に直接関係することが分かった。ここで興味深い特徴 は、ほぼ<120>PC方向に平行な分極ベクトルを持つ MC相がメイズパターン状の

180°強誘電分域構造を呈すること、さらに(PC→MC)強誘電相転移での分域構造

の成長が自己相似性を有していることである。特に、自己相似性を有する分域 構造の成長は、分域壁の移動ではなく、<120>PC分極ベクトルの局所的なフリッ プ・フロップを通して生じていることが明らかとなった。このことは、MPB 付 近に存在する巨大な圧電応答の起源が、従来指摘されているMC相での分極ベク トルの回転ではなく、<120>PC 分極ベクトルのフリップ・フロップに起因した、

ヘテロ構造ゆらぎであることを示している。

91 参考文献

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