第 4 章 男子会話におけるスピーチレベル
3 男子会話におけるスピーチレベルの出現状況
3.1 話題からみるスピーチレベル
3.1.2 話題の移行
宇佐美(1995)と三牧(2013)ではスピーチレベルシフトが生起する状況の一つに話題 の移行が挙げられている。
本研究における丁寧体基調会話で、そのような傾向が見られるかどうかを検討した。表
3
は①③④⑤組の会話における各話題の最初の発話のスピーチレベルの状況を示している。「N→P」は当該話者が普通体から丁寧体の基調に戻した場合、「P→N」は当該話者が丁寧 体から普通体へとダウンシフトした場合を表す。丁寧体基調会話であるだけに、最初の発 話では丁寧体発話が大半を占めており、普通体発話は丁寧体発話のわずか
5%にすぎない。
表
3
の右側の新話題導入時にスピーチレベルシフトが伴う比率で平均比率を計算すると、20%未満である。即ち、本稿の男子会話データは、話題をシフトする際に、スピーチレベル
シフトが必ずしも伴うわけではないことを示している。また、スピーチレベルシフトが伴 うことがあってもその確率は低かった。74
表 3 各話題における最初の発話のスピーチレベルの状況
P N→P N P→N NM
新話題導入時にスピーチレベルシフトが伴う比率
①一
42 6 0 0 5 12.8%
①二
28 5 1 1 4 18.2%
③一
35 2 3 3 7 11.1%
③二
33 6 2 2 3 21.1%
④一
41 11 1 1 3 26.7%
④二
36 5 4 4 4 20.5%
⑤一
31 7 1 0 1 21.2%
⑤二
28 1 2 2 0 10.0%
注:「新話題導入時にスピーチレベルシフトが伴う比率」の計算の仕方は{「N→P」+「P→N」}/{P+
N+NM}である。
実際に話題が移行する発話にスピーチレベルシフトが起こった話題を観察してみると、
「N→P」の場合では、新話題の導入をシグナルするためにスピーチレベルシフトを起こす というのはほんの一部で、ただ相手話者の丁寧体発話に続いて会話の基調に戻していると いう場合もある。
以下、スピーチレベルシフトを起こして話題を変えている例を一つ示す。
④組一回目
〈中国語で自分の名前の読み方〉
1M あ、一緒なんですか、ドイツ語。 P
2M 僕チャイ語やったんですけど、僕はみやたゆうへいなんですけど、ドンティエンヨウピンなん
ですね。 P
3M4 え、どう、どう変わるんですか、それ中国語読みになると? P
4M4 え、漢字をそのまま読んでいくって感じですか? P
5M なんかそのままっぽいのもあるんですけど、ちょっと変わる、なんか全然違うよみたいなんも。
NM
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6M なんか、宮田のみやのあの、三宮さんの宮の字なんですけど、それドンなんですよ。 P
7M4 お、はい。 NM
8M どこがドンやねんって感じですけど。 P
9M4 なんなら田の方がドンって読みそうな気しますよね。 P
10M そうですよね。 P
11M4 そうなんや。 N
12M4 名前変わるって怖いな、なんか。 N
〈ドイツ語で自分の名前の読み方〉
13M4 いや、あでも普通に、(はい)eが(はい)aの発音なんですよ。 P
14M4 だから、keiって書いたらたぶんkaiって読まれますね。 P
15M あー、じゃあ、
16M4 だから、あ、eiであいになんのかな。確か、、 N
17M4 だからどう、自分でけいって言う、書くんかなとひたすら思ったまま終わりました、ドイツ語。
P
18M あー、ローマ字を打ち込んだらなんか違う、間違いになるんですね。 P
19M4 全然違うんです、 なんか。 P
M
とM4
は自分が履修した第二外国語を用いて自分の名前の読み方を紹介しあっている。M
は自分の名前の中国語読みを覚え間違えて、違った中国語読みが全然漢字の読みと違う という感想を述べている。それに対して、M4 は理解を示して感想を述べている(11M4、12M4)。それから、M4の第二外国語がドイツ語であったため、自分の名前のドイツ語の読 み方を紹介し始め(13M4)、相手と同じ種類の話題に変えた。ノダ文に丁寧体を用いてこれ から語る新情報をシグナルしている。
次の話題における最初の発話にスピーチレベルシフトが起こっているが、それはただ相 手の丁寧体発話に続いて丁寧体基調を維持している印象を受ける。
①組二回目
〈試合の詳細〉
1M1 答え合わせは2対1で勝ったんですけど、(はい)なんか、あのー、前半先制して、(はい)で、
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僕らまあ普通に応援してたんですよ。 P 2M はいはいはい。 NM
3M1 で、なんかこう、いろんなチームのサポーターが集まってるんで、(はい)いまいち一体感に欠
けとったんですよ。 P 4M はい。 NM
5M1 こう試合中に、後半の十何分かにこう、追いつかれて、(はいはい)あーもうやばいなーみたい
な感じで、しかもけっこうボール支配されとって(はい)勝てないかなーと思ってたんですけ どー(あぁ)その状態で、ゲリラ豪雨が、豪雨が降ってきて。 NM 6M あーふってましたねー、めっちゃ。 P
7M1 もうやばかったですよね。 P
8M はい。 NM
9M1 どっさふってて、女の子とかもう、ひっそり避難するかなー思ったんですけど、(はいはい)な
んか、雨降って、(はい)で逆にこう、なんですかね、なんか恥ずかしいものがなくなって、(は いはい)なんかもう、やけくそなったんですよね。‹笑い› P
10M1 やけくそなって、あの、声めっちゃ出して、(はい)そこにちょうどいいタイミングで(はい)
あのー、なんですかねその、あこ、長居はセレッソのホームで(はい)偶然セレッソのその太
鼓叩いてる人がやってきて(はい)太鼓もってきて(はい)太鼓の質が上がったんですよ。 P
11M はい。 NM
12M1 なんか、太鼓の質上がって、(はい)ちょうど雨も降ってきてゲームもなんかヤバそうって感じ
やから(はい)みんなの気持ちがい、一つになって、(あーあーあー)なんか、もう叫びだした ら(はいはい)その五分後に点取ったんですよ。 P
13M おー、ドラマチック。 N
14M1 ドラマチックで、あと、なんかもう、(はい)そっからお祭り騒ぎみたいな感じでチーム応援し
て、どしゃどしゃに雨降って(はい)昨日帰ってきたらくしゃみずっとしてたみたいな感じな んですけどね。 P
〈声がやばい〉
15M 風邪ひいたんですね。 P
16M1 だから今日声ヤバいと思うんですよ。 P
17M あー。 NM
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18M1 意外に大丈夫ですか? P
19M いやし、うーん、どうでしょう、そんなにでも風邪っぽくはないですけど。 P
……
M1
は昨日スタジアムで見たサッカーの試合の状況について語っている。日本代表チーム は豪雨が降っているにもかかわらず、太鼓の音が盛り上がっている中、点を取ったという シーンが紹介された後、M は「おー、ドラマチック」とスピーチレベルを下げて感想を述 べている(13M)。それから、M1 はまた試合の状況を語り続け、雨に降られたために風邪 気味になったと話した。その次、M
は「風邪ひいたんですね」と話題を声にシフトした(15M)。 ここで、話題がシフトした際にM
の発話においてスピーチレベルシフトが起こっているが、M1
の発話の流れに沿って丁寧体基調に戻していると思われる。このように、丁寧体基調の会話において、話題の移行に伴うスピーチレベルシフトの比 率が低いことが分かった。スピーチレベルシフトが起こった場合でも、自らスピーチレベ ルを変えるのではなく、相手による丁寧体発話に引き続き、丁寧体に戻している印象を受 けた。