第 2 章 先行研究
4 まとめ
以上、この章では、スピーチレベルとスピーチレベルシフト、発話機能、話題に関する 先行研究を見てきた。
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節では、スピーチレベルとスピーチレベルシフトに関する先行研究を見た。スピーチレ ベルの用語や文末のスピーチレベルの分類は研究の立場によって異なっている。すべての 研究において、丁寧語の「です・ます」の有無で丁寧体と普通体に分けられているが、尊 敬語の使用不使用や終助詞の有無と種類によってスピーチレベルを分けるかどうかで立場 の違いがある。具体的な議論は大きく、社会的コンテクスト、話者の心的態度、談話の展 開という3
点をめぐってなされている。終助詞や接続助詞に関して、終助詞や接続助詞の有無と種類によって発話の改まり度が 異なるため、それでスピーチレベルを分けている研究がある(佐藤
2000、伊集院 2004、三
牧
2013)
。しかし、終助詞や接続助詞の用法により、意思伝達に必要な場合もあるため、本研究は終助詞でスピーチレベルを分けることはしない。
また、述部が明示されない発話について、「普通体」として扱っている研究がある(生田・
井出
1983、宇佐美 1995、岡本 1997)
。確かに、形式的には不完全であり、丁寧体の発話に比べ、改まり度が低いことが往々にしてあるため、普通体の発話と近い性質を持っている と見られる。しかし、丁寧体基調の会話では、時たま待遇表示を明確にしないことによっ てしかつめらしさを軽減し、普通体基調の場合では、相手に意思が伝わっていると認識す る際に文末を省いたり、もともと文末を言わないほうが一般的だというような発話があっ たりすることがある。このように、述部が明示されない発話は普通体の発話と機能が異な っているため、本研究は「中途終了型発話」を一つのスピーチレベルとして別立てをする。
よって、本研究はスピーチレベルを「丁寧体」「普通体」「中途終了型」という
3
分類をす る(第3
章の2.1
節で詳述)。2
節では、発話機能に関する先行研究を見た。Bühler(1934)とJakobson(1960)は
抽象的な大分類で、基本的な概念を整理する役割を果たしている。ただし、日常会話の性 格を説明するのには抽象的で不十分であるため、さらに具体的な項目を立てる必要がある と考えられる。熊谷(1997)は国立国語研究所の一連の発話機能の研究をまとめ、さらに 発話の特徴を多角的に分析するために発話特徴分析項目一覧表を作成した。本研究で扱う 会話データは同学年の大学生の初対面雑談であり、限られた時間内で会話を円滑に進行さ せ、人間関係を良好に保とうとすることが会話の目的であるため、④同調性については同 調的、⑤発話の受け手の種類についてはマトモの聞き手、⑧発話のうけわたしについては マトモの応答、というようにほとんど分化がない。このため、熊谷(1997)の発話特徴分31
析項目一覧表をそのまま適用することが難しい。一方、1 節で述べているように、「社会的 コンテクスト」「話者の心的態度」「談話の展開」という
3
つの要因がスピーチレベルに影 響を与えているため、スピーチレベルの変化を考察する際に、話し手はどのように相手に 配慮して会話の快適さを保っているか、話し手はどのように話の論理を効率よく伝達する かといったところに目を向けるべきだと思われる。その前に、発話によってどのような行 為が遂行されるかという行為的な機能を明確することが最も基本的かつ重要なことである。ポリー・ザトラウスキー(1993)は日常的な談話を分析するために発話機能という分析観 点を用いている。日常的な談話という点で本研究の会話データと共通しているため、ポリ ー・ザトラウスキー(1993)の発話機能の分類を参考に、本研究の会話データの特徴に基 づいて調整し、発話機能の分類リストを作成する(第
3
章の2.2
節で詳述)。3
節の話題について、筒井(2012)は話題内容と言語形式との関連を分析するために、前もって設定した話題転換の形式を用いて区切るのではなく、内容の変化に着目して話題 区分の作業を行っている。本研究は話題と発話機能およびスピーチレベルとの関連を分析 することが目的であるため、話題と言語形式との関連を見るという点で筒井(2012)と共 通している。したがって、筒井(2012)の話題の区切りの基準を援用し、話題の区切り作 業を行う(第