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第 4 章 男子会話におけるスピーチレベル

2 男子会話における終助詞の出現状況

2.3 スピーチレベルシフトの生起状況と終助詞の使用状況の関係

陳(2003)は丁寧体基調会話において、普通体発話へシフトしやすい状況として、(1)

情報の受信を示す時、(2)情報の整理を表す時、(3)感情の表出を行う時という

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つの状 況を指摘している。以下、丁寧体基調会話におけるスピーチレベルシフトの発話例につい て分析する。

2.3.1 情報の受信を示す時

まず、情報の受信を示す時――相手の発話の一部を繰り返す時の例を見る。

e.

1M それが、例えばなんですけど、(うん)一個があの、こういう、ひとり「漫画家の名前」の漫画

の、(うん)あの分析みたいなんしてるんですよ。

2M3 あー。

3M あの「漫画家の姓」の漫画はなんか、変身するキャラとかいっぱいでてくるけど、(うん)な

んか、それは「漫画家の姓」の願望が表れてるみたいな。

4M3 へー、なんか面白そうですね。

5M そうですね。

6M 今日は面白い回でしたね。

7M3 あ、今日は面白い回。

8M うーん、めっちゃ眠い回もあるんですけど。

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M

は当日の授業が面白い回だと紹介している。M3は相手の発話の核となる部分を繰り 返し、理解を表明している。

f.

1M1 大和小泉って駅からーわかります?

2M 大和小泉?

3M1 えーっとあれだ、郡山の駅。

M

M1

が言った駅名について知識がなく、その駅名を繰り返して確認を行っている。

以上、情報の受信を示す時のスピーチレベルシフトの発話例を観察した。情報の受信で は、聞き手にどのように伝えるかというより、何を伝えるかが優先されているため、伝達 態度を表す終助詞は付加されないことが多いと考えられる。

2.3.2 情報の整理を表す時

次に、情報の整理を表す時――自己発話に対する補足・例示をする時の例について見る。

g.

1M 日傘さして。

2M えー。

3M1 みたいなイメージのもうやめてくれって感じですよ。

4M1 勧誘しようにもなんかビラを、ビラをなんか、ガッて渡すとすっごいなんかもう、おどおどさ れる感じの(はいはい)おとなしいなんか守られて育った感じの女子たちが(はい)いたりす る空気。

M1

は女子大学の女子大学生の雰囲気について語っている。「もうやめてくれって感じ」

(3M1)とはどのような感じかを例示しながら、さらに説明を加えている。

h.

1M1 理系、「所属の大学名の略称」の文系のこうもう、「相手の学部名」だったらたぶんみんな数学

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苦手なんかなーって勝手なイメージあるんですけど。

2M あー、まあ苦手なんでしょうねー。

3M1 多い。

M1

は文学部の学生はみんな数学が苦手だと判断している。相手が断定的ではない反応 の仕方をしているため、

M1

は「少なくとも苦手な人が多い」という意味合いを表すのに「多 い」と付け足している。

また、情報の整理を表す時――何かを思い出しながら話す時の発話例を見る。

i.

1M なんでしたっけね、なんか、とりあえずみつって言葉ついてるんですけど、その前が変わって

てロケみつじゃないんですよね。

2M3 あ、そうなんや。

3M なんだったかな?

4M3 内容はでも、結構変わってるんですか?

M

は自分が直前の発話において言及したテレビ番組の名前を一所懸命考えながら、その 考えの過程を言葉にして「なんだったかな」と自問している(3M)。

2.3.3 感情の表出を行う時

感情の表出を行う時――感嘆の発話例を見る。

j.

1M 僕まあ、知り合いなんですよ。

2M5 あ、そうなんですか。

3M やってる人が、近所の、もう近所に住んでる子で、(あー)しかも僕が行くんじゃなくて、うちに

来てもらってやるんですよ。

4M5 うわー、いいなー。

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この例において、M は家庭教師のアルバイトで教えている子に自分の家に来てもらって 授業をしている話をしている。M5はそれを羨んで、「いいなー」と感嘆している。

i.と j.の例に現れた「かな」と「なあ」について、野田(2006)では議論がなされ、

「擬

似独話として、思考や情報処理の過程を表す発話と、心情を表出する発話があり、それは

「かな」「なあ」などを伴う。」と指摘されている。

本節では、丁寧体基調会話では普通体へシフトした発話に終助詞が付かないことが多い ことが観察されること、および、終助詞の性質により、丁寧体基調会話と普通体基調会話 における終助詞の出現状況が異なることが分かった。また、スピーチレベルシフトの生起 状況は終助詞の出現状況に関係していると考えられる。