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第 5 章 女子会話におけるスピーチレベル

2 女子会話における終助詞の出現状況

2.2 スピーチレベルシフトの生起状況と終助詞の出現状況との関係

陳(2003)は丁寧体基調会話において、普通体発話へシフトしやすい状況として、(1)

情報の受信を示す時、(2)情報の整理を表す時、(3)感情の表出を行う時という

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つの状 況を指摘している。

女子会話は③組の対話者の場合以外、自己紹介が終わる時を境に、スピーチレベルを普 通体に変えることが多く、そうでない場合でも自己紹介が終わって間もなくたってから完 全に普通体になる。最後の丁寧体発話が現れるまでに、丁寧体と普通体と中途終了型発話 が混じって会話が進行しており、必ずしも丁寧体が最も多く選択されているとは限らず、

スピーチレベルが不安定な状況にあることが観察できた。会話データを観察してみると、

それまでの普通体発話は、相手の発話に対する理解と確認を表明するものが多く、即ち、

情報の受信を示す発話が基本的であり、終助詞が一切付かなかったのである。

また、丁寧体を基調にしている③組の対話者の発話で観察されたスピーチレベルシフト が生起した発話では、一回だけ終助詞の「かな」が伴った以外、終助詞が一切現れなかっ た。スピーチレベルシフトが起こった後に普通体発話が続いている場合にもほとんど終助 詞が見られなかった。

以下、③組の対話者におけるスピーチレベルシフトの発話例について分析する。

2.2.1 情報の受信を示す時

相手の発話を繰り返して理解を表明したり、確認を行ったりする際に、スピーチレベル シフトが起こることが観察された。

a.

1F うん、うん、なんでもあるけど、結構じゃあ、国際文化と近いのかな。

2F3 あ、たぶん、おんなじような、なんか、専修によってはたぶん近いのもあると思います。

3F うーん、うちも、うん、前、ゆったかもやけど、その、言語のやつ、とってて。

4F3 あー、「授業名」

5F これ、そういえば文学部でもやったよなー、っていう話が、(あー)出てきたり、結構面白い。

6F 眠いけど。

7F3 それは間違いないです。

118

これは二人がお互いの学部における授業について紹介し合っている場面である。ベース 話者

F

は以前の文脈で相手の学部の授業を一つ履修しているという情報を提供していた。

ここで

F

がもう一度そのことをトピックにしたときに、

F3

はすぐその情報を想起して理解 を表明している。

b.

1F3 え、あの、武道場、(うん)ぶと、武道場?

2F 武道場。

3F3 で、するんですか。

4F うん。

5F3 あ。

6F 畳があって、(うん)半分は板で、半分は畳で、うちらは畳のほうでやってるけど。

7F3 うんうん。

Fの所属の合気道サークルの話題の続きで、F3は活動の場所について確認を行っている。相 手が答えを出しているにもかかわらず、そのすぐ後、F3は「で、するんですか」と質問を補足 して丁寧体を維持している。

2.2.2 情報の整理を表す時

発話者は発話の内容について不確定な場合に考えたり、前の発話について補足をしたり するときに、スピーチレベルシフトを行うことがある。

c.

1F3 ありますよね。

2F3 なんか私、受けてた教原の先生、国文、えちょっとごめんね、文学部か発達か(うんうん)、ど

っちかの先生で、(ふーん)文学部やったかな。

3F なんか、書く方は、発達、(あー)っていう感じ。

4F で、なんかその、絵を見て、考える方が、文学部かな、たぶん。

119

F3

は文学部の授業という話題の後、以前受けた授業の先生が文学部の先生かもしれない ということを思い出し、記憶を探りながら疑いを表す終助詞「かな」で情報提供を行って いる。

d.

1F3 てかめっちゃ、常に寝てました。

2F3 ちょっとなんか、常になんかあの、絵の解説、(うんうん)でしかも、真っ暗だからほかのこと

もできないし。

3F そう。

4F 寝るしかなくて。

5F いや、あかんねんけど、聞かなあかんねんけど。

6F3 うん、しかも先生も黒板書いてもなんかいっつも、(うん)ちょっと今暗いから後で写す時間と

るから、あとで写してね、みたいな、(うん)こと言ってるけど、でも普通にそのまま授業終わ るじゃないですか、あれ。

c.の話題の続き、F3

は受けていた文学部の授業について語っている。授業でよく寝ると

いう情報を提供した後、その理由を補足したときにスピーチレベルを下げている。

2.2.3 感情の表出を行う時

相手の発話に対して感情を表す時にスピーチレベルシフトが起こることがある。

e.

1F3 で、今まで合気道とか、やってたんですか?

2F んー、と、合気道は、大学からで、と、中学生まで少林寺、やってて、(あー)で一回

武道やめて、で大学からまた始めた感じ。

3F3 へー、かっこいいー。

4F なんか、見た目ではわからないってよく言われて。

5F3 なんか、あの、文系の、(うん)文化系の部活かなーと思いました。

120

F3

F

が今までずっと武道関係のサークルでやってきたことを聞き、感心して褒め称え ている。男子会話において、感情の表出を行う時に終助詞「なあ」を付けて発話される場 合が多いと観察されたが、③組の対話者は感情表出の発話が少ない上に、終助詞を付けな かった。③組の対話者が会話で一回緊張しているという発話をしたことがあり、そのこと が影響している可能性があると考えられる。

男子会話では、丁寧体基調会話では普通体へシフトした発話に終助詞が付かないことが 多いことと、スピーチレベルシフトの生起状況は終助詞の出現状況に関係していることが 観察できた。女子③組の対話者は、普通体発話は終助詞が付いたものより、終助詞が付か ないものが多い。この点においては男子会話にも同じ傾向を示しているが、女子③組の対 話者の普通体発話における終助詞の使用は男子会話に比べ、極端に少ない。