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第 4 章 男子会話におけるスピーチレベル

1 男子会話の発話状況

女子ベース話者が積極的に会話をカジュアルな雰囲気を醸し出して普通体を使用する傾 向を見せているのに対し、男子ベース話者はフォローアップインタビューで初対面であれ ばたとえ同級生に対してでも丁寧体を使用するという習慣があると述べ、実際の会話でも 丁寧体を多用していることが観察された。

初対面の会話は、自己紹介の部分で丁寧体から始まっている点で女子会話と共通してい る。自己紹介の部分の最初から最後まで丁寧体を使用しているのではなく、個人情報を紹 介するまでは丁寧体を使い、自分の名前の書き方を詳しく説明したり、名前についてのエ ピソードを話したりする部分は普通体に移すことが多いと見られる。二回目の会話も最初 から丁寧体で始まることが多い。

ベース話者は基本的に会話のどの段階でも丁寧体を用いる傾向があるが、会話②におい てだけ、対話者の普通体へ移行しようとする意志に影響され、自己紹介が終わってから間 もなく普通体に変えた。

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人の対話者の内、会話②だけがベース話者も対話者も二回とも普通体を基調に話してい る。

以下、グラフ

1

とグラフ

2

はそれぞれ男子ベース話者と対話者のすべての会話における スピーチレベルの状況である。「①」は第

1

組の会話、「一」は一回目の会話、「二」は二回 目の会話を表す。グラフ

1

とグラフ

2

から、会話②だけは普通体が会話の基調になってい るのに対して、ほかの

4

組の会話は丁寧体が基調になっていることが分かる。

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男子会話の中で、会話②だけは普通体基調で会話が行われている。個人情報や所属など について自己開示してから会話③と相似をなすように、サークルの話題が会話の切口とし て選ばれた。ただし、会話③は二人が模索しながら普通体を少し混ぜて会話しながらも、

会話の基調を丁寧体に設定しているのに対して、会話②は最初のサークルの話題から対話 者(以下、「M2」と表示)が一方的に会話の基調を普通体に導いて、ベース話者(以下、「M」

と表示)が相手の意図を見て取って従っていることが観察された。

以下、会話②の例を示す。

0% 20% 40% 60% 80% 100%

⑤ニ⑤一

④ニ

④一

③ニ③一

②二②一

①二①一

グラフ1 男子ベース話者の発話状況

丁寧体 普通体 中途終了 その他

0% 20% 40% 60% 80% 100%

⑤ニ

⑤一

④ニ

④一

③二

③一

②二

②一

①二

①一

グラフ2 男子対話者の発話状況

丁寧体 普通体 中途終了 その他

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【会話②】より

1M2 僕「学部名」です。

2M おお、あざます。

3M (じゃあ近い)じゃあ近いですね、はいはい、ランスで。

4M サークルとかってなんですか?

5M2 サークルはなんか、「サークル名1」って知ってます?

6M あ、知ってます。

7M2 「サークル名1」、入ってます。

8M そうなんだ。

9M 昨日、あの、もやったんですけど、この、しゃべるやつ、(あー)あれ、「サークル名1」の部長 の、はま…。

10M2 「サークル1の部長の名前の一部」「サークル1の部長の名前」ですか?

11M うん、「サークル1の部長の姓」くん。

12M2 なんか、てしらんひとが「サークル名1」に、(はい)あの、手伝ってくださいみたいな感じで、

(はあはあはあ、はいはいはい)だから、結構「サークル名1」の人が(あー)この実験参加してる

ってことですね。

13M じゃあ他にも参加してはる人いるんですかね?

14M2 たぶん、何人か。

15M あ、会うかもしれないですね。

16M2 しれないですね。

17M じゃあ、結構外国とか、留学とかするんですか?

18M2 留学はそんな考えてなくて、(はい)なんか、普通に、新歓の時にしよう、楽しいなと思ったか

ら(あああ)って感じなんで、普通なら、留学生と遊ぶのが。

19M 留学生どんな遊びするんですか?。

20M2 遊び、どんな遊び、普通になんかカラオケ行ったりとか。

21M へー、なに歌うんですか、留学生?

22M2 あっちの歌。

23M2 ‹笑い›洋楽バンバン歌う。

24M あーいいっすね。

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25M2 あ日本の歌が好きって人もいるし、(へー)なんか、えーとほかには、凄かった、まあ飲みに行

ったりもするし、(はい)あとはなんか観光とか。

26M あー、寺とか?

27M2 そうそう、京都とか奈良とかに行くから一緒に行こう、みたいなんがあったりとか。

28M あー、僕奈良なんですよ。

29M2 あ、奈良。

30M 東大寺とかもじゃあ行きました?

31M2 そうですね。

32M2 東大寺とか、奈良も、僕はそんなにいってないんやけど、(うん)まあ、他の人色々行ってたり。

33M なるほど、いいな。

34M2 なんかサークルとか?

35M 俺はあの、「サークル名2」の、「サークル名2の略称」(「サークル名2の略称」)、うん、「サ ークル名2の略称」と、えー、あの、広告研究会「サークル名3」っていうまあ、あんま‹笑い

›知られてないやつと、あと、「サークル名4」っていう軽音に、一応そんなに全然いってない、

半分幽霊みたいな感じやけどはいってるっていう感じですね。

36M2 結構、こうなんか幽霊なんは(うん)サッカーと、「サークル名5」が幽霊。

37M あー、じゃあサッカーやってたんですか、高校とか?

38M2 高校の時はサッカー、中高サッカーしてて。

39M あ、確かにやってそうな感じですね。

40M2 そうなん、そっか、したけども、部活でやるのはもういいな、と思って、サークルいったら、

(はい)いかんくなって。

41M あー。

42M サークルってなんか、緩くていつきても(なんか、そう)いいよってなるけど、いかんかったら 結局行きづらくなって、いかんくなる。

43M2 そうやな。

44M ね。

45M2 1回生とかも入ってきてるし、(うんうん)もう無理やと思って。

46M あー、わかる、それすごい。

47M2 ね。

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48M2 「サークル名1」の方は、(うん)一応サークルやけど結構入れ込んでるから、(うん)楽しいし、

すごくいいけど、(うん)そっちでもやっぱフェイドアウトする人おるし、(うーんまあ)そういう、

うちの感覚なんやろうなあとも思いながら、(うん)授業とかがあってこれん人もとかおったり か、(うん)するから。

49M その、定期的になにかやってんの、「サークル名1」は?

50M2 一応毎週、週1回ミーティング、(うん)してて、その他なんか、イベント、色々作るねんけど、

そのイベントを、運営していくために、まあ、昼休みとかに実行班っていうので集まって、(う ん)それでちょっと計画練って行くみたいな感じかな。

51M あー。

52M2 それで月に一回ぐらい色んな、イベント、してるかな、その留学生とどっか行くなり。

53M なるほどー。

会話②では二人はほかの組と同じく丁寧体を使用して自己紹介をしてから、M が相手が 参加しているサークルの情報を聞き始め、サークルを巡って会話を始めた。サークルとい う話題が提出されてから、M がその前日相手のサークルの部長と会話の調査をしたことに ついて話す時にはまだ丁寧体が維持されている。その後、実際に

M2

のサークルに関する 話が始まると、M が丁寧体で一連の質問(17M、19M、21M)をしたのに対して、M2 が 中途終了型発話から笑いを混ぜて普通体(18M2、20M2、22M2、23M2)という順で少し ずつ相手を普通体へと導こうとしている様子がうかがえる。M はその後もしばらく丁寧体

(24M、28M、30M)を維持し、最後に「いいな」というように普通体で感想を表したと ころで、相手のサークルの話が一旦ストップした。

次に、M2は「なんかサークルとか?」というように話題を

M

が所属しているサークル に変えた。M が

3

発話連続(35M、37M、39M)で丁寧体を使っているのに対して、M2 は相手のスタンスに構わずに依然として普通体と中途終了型発話を使用し、普通体を使う 意図を明示している。それで、Mは相手の意図を見て取って

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番目の発話(42M)から普 通体を使いはじめたと思われる。

以下、会話③の例を示す。

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【会話③】より

1M えー、一万ぐらい取られるらしいんですよ。

2M3 あー、きついっすね。

3M なんか、ライブ会場とかもとるんであの新歓のための新歓のライブのためのそれで、金ごっつ

取られるっていう。

4M3 あー、なるほど。

5M3 え、でも、バイトとか?

6M あ、まあ、ばい、うーん、いやバイトはあの、知り合いの家庭教してるだけなんですよね。

7M まあ一応してるんですけどやっぱりそれだけなんでやっぱりあんまり大した収入がないってい

う。

8M3 あの、家庭教って結構時給がよかったりとか。

9M まあ時給はね、いいんですけど。

10M3 でも、そんなに入れない?

11M そうなんです。

12M3 あー。

13M なんか、バイトなにやってるんですか?

14M3 「アルバイト名1」

15M あ、「アルバイト名1」。

16M 「アルバイト1の広告のキャッチフレーズ」の。

17M3 昔、昔いってて、(うんうん)で、大学合格した、大学、高校の途中、もう最初ぐらいでもうや

めて、(はいはい)大学受験して合格して報告にいって、報告にいったらその瞬間にもうあー、

入って入ってていわれて、‹笑い›報告いった日からもうなんか、働いてて、けど、時給めっち ゃ安い。

18M え、いくらなんですか?

19M3 800円。

20M あ、でも、まあうーん、塾っていうか、そういう教えるやつにしては安いけど、(うーん)僕奈

良県出身なんですけど奈良県って最低時給が697円なんですよ。

21M3 そんな安いんや。

22M くそ低いんで、だから「アルバイト名2」とかやったら700円なんですよ、 時給が。

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23M3 あー、きついっすね。

24M でまあ塾とかでもチューターとかやったら800円とかなんで、なんか普通な感覚がする##。

25M3 でも神戸とかやったら結構高いっすよ。

26M そうなんですか。

27M じゃあ神戸出身ですか?

28M3 いや、京都です。

会話③も最初サークルの話題から始まったのであるが、サークルの話題で一人の話者の 発話で

2

回以上連続で普通体か中途終了型発話を使用することが稀に見られず、スピーチ レベルシフトが起こってもすぐに丁寧体に戻っている場合がほとんどである。

ただし、サークルの話題が終了してからアルバイトの話題が取り上げられたときに、対 話者(以下、「M3」と表示)が「バイトとか?」(5M3)と中途終了型発話で始め、5 発話 連続(10M3、14M3、17M3、19M3、21M3)で普通体を使用し、それまでの丁寧体の会 話基調を変えようとする姿勢を積極的に見せていると考えられる。ところが、M がその姿 勢に対して丁寧体で応じており(6M、9M、11M、13M、18M、20M、22M)、その反応を 見て、M3 は普通体へ移行とする意図を改めて、M が維持する丁寧体に同調する(23M3)

ようになった。その後も会話の基調は丁寧体のままである。

このように、男子会話は会話参加者相互が基本的スピーチレベルの選択において同一レ ベルを選択し、対称的な様式を示している。そのうち、会話②と③は普通体基調と丁寧体 基調というように、会話のスピーチレベル基調が異なっているにもかかわらず、ベース話 者と対話者はスピーチレベルの使用を一致させている。普通体を選択した会話②では、同 学年である仲間意識を重視され、丁寧体を選択した会話③では、初対面という疎の人間関 係が優先的に考慮されていると考えられる。しかし、会話③は一貫した丁寧体の使用が生 じる堅苦しさを軽減するために、20%程度の発話が普通体で発されている。

また、この二組の会話において、対話者が異なることにより、ベース話者は異なるスピ ーチレベルを選択している。ベース話者は、フォローアップインタビューで自分が初対面 の場合に丁寧体を使用するというポリシーを持っていると述べているものの、実際の会話 では相手の出方を見て柔軟にスピーチレベルを使い分けている。

会話②と③の会話の進行の様子を追いながらスピーチレベルの変化を見てきた結果、会