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第 4 章
ECAL 試作機の開発
ECALの性能評価のため、試作機を製作した。ECAL試作機は、実機と同じ構成要素を用 いた縮小版である。本章ではECAL試作機の構成と、試作機の開発における研究について述 べる。
図4.2: Saint-Gobain社製LYSO結晶。 図4.3: APD S8664-1010。
LYSO結晶、反射材、APD、LED、APD基板、スペーサー1つずつからなる。また、縦横 2×2のセグメント検出器の組を検出器モジュールと呼称する。これは、セグメント検出器 4 つ、温度計1つ、セグメント検出器をまとめる反射材からなる。最後に、縦横4×4の検出器 モジュールの組をスーパーモジュールと呼称する。
試作機は、実機において要求される真空中での動作を研究するため、真空チェンバー内に設 置する。この真空チェンバー内部にスーパーモジュールを設置する。ポリテトラフルオロエチ レン(PTFE: Polytetrafluoroethylene)製の治具により、スーパーモジュールを左右と上方か ら押さえつけて固定する。各検出器の信号はフィードスルー基板を通して、真空チェンバー 外の前段増幅器に入力する。前段増幅器から出力される信号は、波形記録装置を用いて記録 する。
以下では各パーツについて述べる。
LYSO結晶
ECALに用いるLYSO結晶として、Saint-Gobain社とOXIDE社の製品が候補となってい る。図4.2にSaint-Gobain 社製のLYSO結晶の写真を示す。両LYSO結晶のサイズは、実
機と同じ20×20×120 mm3 である。本研究では両結晶の性能差について評価した。これは
第4.2章において述べる。
光検出器
光検出器として、浜松ホトニクス社製APD S8664-1010 [40]を採用した。これは受光面の サイズが10×10 mm2 であり、LYSO結晶のシンチレーション光の波長 420 nmに対して 70%以上の高い量子効率を持つ。使用したAPDの写真を図4.3に示す。APDとLYSO結晶 は、1 mm厚のEljen Technology社製シリコンクッキーEJ-560 [41]で光学的に接続する。
APDは、温度計とLEDと同一の基板(APD基板)上に設置する。APDの信号は、ツイス トケーブルによって読み出す。ECAL試作機の初期設計では、このケーブルを後述の中間基
4.1 試作機の構成 39
図4.4: PTFEテープ BC-642。 図4.5: 3M社製ESR。写真右下の部分につ いて保護フィルムをはがしている。
板に半田付けし、中間基板とフィードスルー基板をコネクタ付きのケーブルで接続する予定で あった。しかし、コネクタを多数経由する事によって発生するノイズが、無視できなかったた め、ツイストケーブルをフィードスルー基板に直接半田付けし、ノイズを削減した。
反射材
LYSO結晶を包む反射材としてSaint-Gobain社製80 µm厚のPTFEテープ BC-642 [42]
と、65 µm厚の3M社製Viltki Enhanced Specular Reflector反射フィルム(ESR) [43]の組 み合わせを用いる。第4.3章で述べる選定の結果この組み合わせを選んだ。PTFEテープは 乱反射型の反射材であり、ESRは全反射型の反射材である。それぞれの写真を図4.4と4.5に 示す。
これらでLYSO結晶を包んだ後、検出器モジュールを20 µm厚のアルミ蒸着マイラーで作 成されたケースに入れる。このマイラーを熱によって収縮させ、検出器モジュールを物理的に まとめ上げる。図4.1で示したチェンバー内部には、アルミ蒸着マイラーのケースによってま とめられた検出器モジュールの状態で積み上げられている。
APD基板
APD基板上に、APD、温度計、LEDをマウントする。APDはツイストケーブルによっ て、温度計およびLEDはフラットケーブルによって外部と接続される。APD 基板の写真を 図4.6に示す。
温度計として、Heraeus 社の白金測温抵抗SMD0805 Pt 10 kΩ [44]を用いた。温度計は検 出器モジュール1つに付き1個配置した。
LED は、Kingbright 社製 LED KA-3528QBS-D [44]を使用した。LYSO 結晶のシンチ レーション光の波長420 nmに対して、このLEDの波長は460 nmである。できる限りLED の個体差や環境に依存せず安定に駆動させるために、供給する電圧を高めに設定する。その
図4.6: APD 基板。図中で APD(中央) と LED(右) が確認できる。測温抵抗は裏面に 設置している。
図4.7: NDフィルタ取り付け前(右)とND フィルタの取り付けと反射剤塗布後 (左)の スペーサー。
ままでは光量が大きすぎるため、減光する。これには、富士フィルム社製 ND フィルター ND3.0 [45]を用いた。
APDとシリコンクッキーの厚さは、合わせて2.8 mmである。APD基板が傾き、APDと LYSO結晶の接続が一部でも剥がれる事の無いよう、APDの周囲には厚さ2.2 mmのスペー サーを設置した。スペーサーは光を透過しないよう黒色のABS樹脂を使用したが、そのまま ではAPDに向かう光を吸収する恐れがあったため、Saint-Gobain社製の反射剤BC-620 [42]
を塗布した。
NDフィルターは、このスペーサーに取り付けた。当初ND フィルターはLED の正面の みに取り付ける予定であったが、側面からの光の漏れを全く考慮していなかった。また、ND フィルターを張りつける事によってスペーサーが厚くなる事も考慮していなかった。そこでス ペーサー側面にNDフィルターを張り、反射剤を塗布してLEDの正面にしか光が向かわない ようにした。また、スペーサーの厚さが変化しないように、深ザグリを入れてからLED正面 のNDフィルタを貼付けた。この時、側面と正面のNDフィルター同士の隙間を埋めるよう に反射剤を塗布した。隙間を埋める反射剤にヒビが入った場合には、APDで観測されるLED の光量が倍以上になるため、セグメント検出器の作成後にLED光の読み出し試験を行い、正 常に動作する事を確認した。以上の工程を経て作成されたスペーサーを図4.6に示す。
中間基板
フィードスルー基板上のコネクタ数を最小限にするため、検出器モジュール8つ分の温度計 の配線を1セットのフラットケーブルに集約させ、また、LEDの駆動電流を16個に並列に分 配する。
4.1 試作機の構成 41
図4.8: 前段増幅器。 図4.9: E-MEZ(左)とEROS(右)。
真空チェンバー
真空中での動作試験のため、アルミニウム(A5052)製の真空チェンバー内に、スーパーモ ジュールと中間基板を納める。ビーム上流側は、遮光用の25 µm厚のアルミ蒸着マイラーと、
125 µm厚の真空封止用のマイラーを取り付け、荷電粒子のエネルギー損失を最小限にする。
ビーム下流側は、27 cm四方のPCB基板として一般的な Flame Retardant Type 4 (FR4) を基材とするフィードスルー基板により、真空を封止しつつ信号の読み出しを行う。
前段増幅器
共同研究機関であるロシアのブドカー核物理研究所(BINP: Budker Institute of Nuclear
Physics)において開発された前段増幅器を用いる。これの写真を図4.8に示す。1台の前段増
幅器は、16チャンネルのAPDを扱う事ができる。ECAL試作機では4台の前段増幅器を用 いた。
前段増幅器を通してAPDに電圧を印加する。各APDへの印加電圧の調整は後述のHV分 配モジュールで行う。前段増幅器から出力される信号は差動信号であり、後段の波形記録装置 に伝送中に乗るノイズの影響を最低限に抑える。
HV分配モジュール
APDの主電源には、ISEG社製電源モジュールNHQ203M [46]を使用した。この電源を HV分配モジュールで抵抗分割して供給する。1台の HV分配モジュールは、入力電圧を 32 個に抵抗分割する。また、各チャンネルへの供給電圧は、可変抵抗により調整できる。ECAL 試作機は、2台のHV分配モジュールを使用した。このモジュールは、APDに電圧を供給す る出力端子以外に、計測用端子を備えており、計測モジュールを接続する事で各チャンネルの 電圧値を記録する事ができる。
波形記録装置
ストローチューブ飛跡検出器における波形の読み出し装置としてReadout Electronics for Straw Tube Instrument (ROESTI) [47]の開発が行われている。ROESTIにおけるアナログ 部とデジタル部を分割すれば、アナログ部を変更するだけで他の検出器の読み出しシステムと して運用が可能となる。ECALにおいて、これを実現しようと読み出し装置の開発が行われ ている。ECALにおける波形記録装置は、アナログ部のE-MEZとデジタル部のEROSで構 成される。これらを接続した状態の写真を図4.9に示す。
E-MEZは、前段増幅器から送られてくる差動信号を、シングルエンド信号に変換する。
この過程において、抵抗分割により信号を減衰させる事が可能である。ECAL 試作機では、
200 MeV相当の信号がEROSのダイナミックレンジを超えるように前段増幅器の増幅率を設
定した。そしてE-MEZは、EROSのダイナミックレンジに収まるように前段増幅器の信号を 減衰し、後段のEROSに信号を入力する。これにより、信号の伝送中に乗るノイズの影響を さらに減らす事ができる。
EROSは、PSIにおいて開発されたDRS4チップ [48]を2枚搭載しており、各セグメント 検出器の波形を記録する。各DRS4チップは、トリガー記録部1つと信号記録部 8つを有す る。EROSに入力されたトリガーは、内部で分割されそれぞれのDRS4チップのトリガー記 録部で記録される。DRS4チップの測定原理は第4.4.1章において述べる。以降では、ECAL における波形記録装置をまとめてEROSと呼称する。
EROSで取得する波形には、真の波形とは関係のない数値が記録される事がある。典型的に は、波形のデータ点1つが周囲のデータ点と比較して突出して大きな値を示す。この現象をス パイクと呼び、解析はその存在を考慮して行う必要がある。EROSに何も接続せずに取得した 波形におけるスパイクの例を図4.10に示す。
EROSには、レイテンシと呼ばれるパラメータが存在する。これは、DRS4チップにトリ ガーを掛けてから、読み出しを開始するまでの遅延時間に相当する。本研究において、レイテ
Time [ns]
300 350 400 450 500
Amplitude [mV]
−40
−20 0 20 40
図4.10: EROSにおけるスパイクの例。
Time [ns]
0 50 100 150 200
Amplitude [mV]
−100
−50 0 50 100
図4.11: EROSのレイテンシを0に設定し た場合の波形の例。