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7.5 エネルギー分解能評価
シードサーチの閾値の最適化
今回のビーム試験においては、単一の電子が入射するイベントが測定された。このようなイ ベントにおいては、単一のクラスタが形成されるため、シードの数は1かそれに比類する値で ある事が期待される。
例えば、シードサーチの閾値Ethreが小さすぎれば、多くのチャンネルがシードと判定され、
シードサーチの意味をなさない。逆に、高すぎる閾値を設定すると、シードサーチの効率が落 ちる。したがって、これらの間を保つような値が好ましい。そこで、実験データにおけるノイ ズカット係数acut = 3.0、1 MeV≤Ethre ≤100 MeVにおけるシード数と効率を求めた。こ こで、効率はシードサーチを行った全イベント数に対する、シード数が1以上であったイベン ト数の比として定義した。
図7.15と図7.16に、それぞれシードサーチの閾値の関数としてシード数と効率を示す。今 回の解析において、Ethre = 20 MeVを採用した。
7.4.3 結果
本節の最適化の結果、ノイズカット係数3.0、シードサーチの閾値20 MeVを採用した。こ れらのパラメータを用いて、各ビームデータについてエネルギーの再構成を行った。得られた クラスタのエネルギー分布を図7.17に示す。
また、シミュレーションデータを実験データと同様に解析し、エネルギー分布を得た。シ ミュレーションが完全であるならば、この分布は実験データにおけるノイズやエネルギー較正 のばらつき等の影響を除き、実験データから得られた分布を再現する。本解析において、シ ミュレーションデータから得られた分布は、完全には実験データを再現せず、これは実験デー タのふらつきによって説明できるものではなかった。図7.18に、105 MeVの電子ビームにお ける実験データとシミュレーションデータの比較の様子を示す。原因として、例えば電子ビー ムのエネルギー中心値や、エネルギー較正の係数がずれている事が考えられる。
7.5 エネルギー分解能評価
ECALには、105 MeVの電子に対して、5%のエネルギー分解能が要求される。実験デー
タを用い、ECALのエネルギー分解能を評価した。しかし、図7.17に示した分布は、以下で 述べる理由により、ECALの実機のエネルギー分解能とは異なるものとなる。
第1に、電磁シャワーの漏れだしの度合いが異なる。ビームの進行方向に対する電磁シャ ワーの漏れ出しは試作機と実機で同様である。しかし、試作機は8×8チャンネルしか無く、
直径1 m となる実機と比較して非常に小さい。このために、検出器側面から電磁シャワーが 漏れだすイベントが発生しやすい。また、デッドチャンネルへの電磁シャワーの漏れ出しも考 慮する必要がある。したがって、デッドチャンネルの無い実機と比較してエネルギー分布は低 エネルギー側にシフトする。この効果を排除するため、デッドチャンネルを取り囲むチャンネ
[MeV]
Ethre
0 20 40 60 80 100
# of Seed [A.U.]
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
65 MeV 75 MeV 85 MeV 95 MeV 105 MeV 125 MeV 145 MeV 165 MeV 185 MeV
図7.15: シードサーチの閾値Ethre の関数としてのシード数。
[MeV]
Ethre
0 20 40 60 80 100
Efficiency [%]
75 80 85 90 95 100
65 MeV 75 MeV 85 MeV 95 MeV 105 MeV 125 MeV 145 MeV 165 MeV 185 MeV
図7.16: シードサーチの閾値Ethre の関数としての探索効率。
7.5 エネルギー分解能評価 89
[MeV]
cluster
0 50 100 150 E200 250
Fraction / 1 MeV [A.U.]
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08
65 MeV 75 MeV 85 MeV 95 MeV 105 MeV 125 MeV 145 MeV 165 MeV 185 MeV
図7.17: 各ビームデータにおけるクラスタのエネルギー。
Energy [MeV]
0 50 100 150 200
Fraction [A.U.]
0 20 40 60 80
−3
×10
Data MC
図7.18: 実験データとシミュレーションデータの比較。
トを排除し解析を進めた。このカット前後のイベント数と残存率を表7.2に示す。
ビームエネルギー カット前のイベント数 カット後のイベント数 残存率
65 MeV 186,444 128,018 68.7 %
75 MeV 137,406 89,325 65.0 %
85 MeV 190,123 117,862 62.0 %
95 MeV 133,966 79,767 59.5 %
105 MeV 195,183 112,384 57.6 %
125 MeV 184,855 98,729 53.4 %
145 MeV 144,505 72,235 50.0 %
165 MeV 182,376 86,416 47.4 %
185 MeV 175,142 78,762 45.0 %
表7.2: 電磁シャワーの漏れ出しの影響を排除するカットの残存率。
第2に、電子ビームは図5.10に示した通り、入射位置が一様でない。実機においては、電 子は輸送ソレノイドを経由して検出器に入射するため、入射する電子の分布は1チャンネルレ ベルで見た場合には一様と見なしてよい。入射位置の非一様性の効果を排除するため、以下の 平均化を行う。
検出器への電子の入射位置を、図7.19に示すように、結晶の中心、辺、角の3種に分類し、
それぞれのエネルギー分布を得る。これらの分布を、それぞれのイベント数の比率が面積比 となるように足し合わせ、ECAL結晶に一様に電子ビームが入射した場合に相当するエネル
図7.19: ビーム入射位置の分類。黒線が結晶の境界線を表す。
7.5 エネルギー分解能評価 91 ギー分布を得る。本解析では、ビン幅が1 MeVのエネルギー分布を用いた。
7.5.1 エネルギー分解能の取得
前述の通り、シミュレーションの分布は、実験データをそのままでは再現しないが、以下に 述べる変換を施した関数f(E)ではピークやテール部分を良く再現する。このフィッティング の様子を図7.20に示す。本解析では、この関数f(E)をフィッティングに使用し、得られた関
/ ndf
χ2 64.53 / 45
integral 39.92 ± 0.15 smear 1.492 ± 0.065 mu −22.18 ± 1.01 calib 1.268 ± 0.010
Energy [MeV]
60 80 100 120 140
Fraction / 1 MeV [A.U.]
0.0 0.1 0.2
/ ndf
χ2 91.47 / 45
scale
p 13.34 ± 0.05
smear
p 1.469 ± 0.000
mu
p −22.69 ± 0.08
calib
p 1.273 ± 0.001
図7.20: エネルギー分布のフィッティングの例。
数f(E)のピーク位置EMPVと最大値f(EMPV)を、分布のピーク位置と最大値として得た。
シミュレーションから得たエネルギー分布を、標準偏差がpsmearであるガウス関数を用いて 畳み込み積分し、ノイズを含む分布とする。この分布FMCpsmear(E)に対して、大きさpscale、 原点の補正係数pmu、エネルギー較正の補正係数pcalibによって変換し、関数
f(E) =pscaleFMCpsmear
(E−pmu
pcalib
)
(7.16) を得た。フィッティングパラメータは、pscale、psmear、pmu、pcalibの4つである。なお、シ ミュレーションから得たエネルギー分布は、ビン幅0.1 MeVで作成した。畳み込み積分のパ
ラメータpsmearがこの間隔と比較して小さい場合は、関数f(E)の滑らかさが失われ、ピーク
位置を求める際の障害となる。そのため、psmearの下限として、ビン幅程度の0.25 MeVを設 定した。
次に、データ分布の高さがこの最大値の半分となる箇所を求める。ピーク位置や最大値とは 異なり、こちらは実験データから得られたエネルギー分布を用いる。エネルギー分布は、ビン
幅1 MeVであるため、ビンの中心値の間は3次スプライン曲線を用いて補間した。この箇所
分布の標準偏差に相当する分布の幅σeq を得る。これにより、ECAL試作機のエネルギー分 解能σ/E =σeq/EMPV を得た。
エネルギー分解能σ/E の統計誤差として、フィッティングにおける誤差を用いた。エラー の範囲でフィッティング関数のパラメータを変化させ、その中で得られた最大値(σ/E)max と 最小値(σ/E)min から、フィッティング誤差
(σ/E)stat = (σ/E)max−(σ/E)min
2 (7.17)
を得た。各ビームエネルギーにおけるエネルギー分解能とその統計誤差を表7.3のエネルギー 分解能の列に示す。
ビームエネルギー エネルギー分解能 系統誤差 [%]
[MeV] [%] (1) (2) (3) (4) 合計
65 4.66±0.03 0.022 0.208 0.038 0.025 0.216 75 4.52±0.08 0.004 0.159 0.016 0.040 0.183 85 4.34±0.04 0.016 0.166 0.003 0.013 0.172 95 4.22±0.02 0.009 0.124 0.003 0.011 0.127 105 4.17±0.02 0.007 0.104 0.003 0.017 0.108 125 4.11±0.02 0.009 0.079 0.002 0.019 0.085 145 4.06±0.02 0.017 0.081 0.001 0.031 0.091 165 4.11±0.02 0.016 0.050 0.002 0.019 0.059 185 4.10±0.02 0.018 0.042 0.001 0.021 0.053
表7.3: エネルギー分解能測定の実験結果。
7.5.2 系統誤差の見積もり
エネルギー分解能に寄与する系統誤差を評価した。本解析で考慮した項目を以下に列挙 する。
(1) エネルギーデポジットの分布におけるビン幅
エネルギー分布のビン幅を0.1、0.2、0.3、. . .、2.0 MeVとした。
(2) エネルギーデポジットの分布に対するフィッティングの範囲
エネルギー分布に対するフィッティングの下限を、ビームエネルギーの0.05、0.10、 0.15、. . .、0.90倍とした。
ただし、シードサーチの閾値である20 MeV以下にはエントリーが存在しないため、
下端が20 MeV以下になるような場合は試さなかった。
(3) クラスタリングパラメータのシードサーチの閾値
7.5 エネルギー分解能評価 93 シードサーチの閾値を15、16、17、. . .、25 MeVとした。
(4) クラスタリングパラメータのノイズカット係数
ノイズカット係数を2.5、2.6、2.7、. . .、3.5とした。
各エネルギーにおける結果を表7.3に示した。いずれの場合も、それぞれのパラメータにつ いて値を変えてエネルギー分解能を求め、それらの標準偏差を系統誤差として計上した。系統 誤差の合計は、各項目における系統誤差の二乗和平方根で求めた。系統誤差の主要な寄与は (2)のフィッティング範囲に起因するものである。
7.5.3 エネルギー分解能曲線
電磁カロリメータのエネルギー分解能は、一般に以下で表される [65]。 σ
E = psto
√E ⊕pconst⊕ pnoise
E (7.18)
この関数をエネルギー分解能曲線と呼称する。また、右辺の項は左から順に統計項、定数項、
ノイズ項と呼ばれる。
この関数を用いて、エネルギー分解能のエネルギーの関数としてフィッティングを行った。
フィッティングには、系統誤差と統計誤差の二乗和平方根をフィッティングの誤差に用いた。
これを図7.21に示す。このフィッティング関数から、105 MeV電子に対するエネルギー分解 能として、
σ/E = 4.22±0.05% (7.19)
を得た。
Beam Energy [MeV]
100 150
/E [%]σ
4.0 4.2 4.4 4.6
4.8 χ2 / ndf 3.805 / 6
sto 0.0001463 ± 5.431 const 3.951 ± 0.04464 noise 156 ± 10.16
/ ndf
χ2 3.805 / 6
sto 0.0001463 ± 5.431 const 3.951 ± 0.04464 noise 156 ± 10.16
図7.21: エネルギー分解能曲線。各点の誤差は統計誤差と系統誤差の二乗和平方根である。