5.2 方法
5.2.4 評価指標
光点検出反応時間は,スクリーン上に呈示される赤い光点に対するドライバの反応時間のことで ある.すなわち,光点が呈示されてから,ドライバが気づき,ステアリングに付いたボタンを押す までの時間である.
(2) 視覚的注意の範囲
視覚的注意の範囲は,以下の定義式(1)によって算出される光点検出可能範囲にもとづいて推定さ れる.
「光点検出可能範囲(deg/s)」= 光点と注視点との角度θ[deg] / 光点検出反応時間t[s]・・式(1)
ドライバのアイポイント(DSスクリーンから2mの距離)から,スクリーン上の注視点(光点 呈示された瞬間の視線位置)と光点のそれぞれに引いた2線がなす三次元的な角度をθとし,この 角度を光点検出反応時間tで除することで,単位時間(1秒)あたりに光点に気づくことができる 角度を算出した.この角度をもとに,スクリーン上での距離に換算した値を半径とし,注視点を原 点として描いた円を「光点検出可能範囲」と定義した.厳密には,光点検出可能範囲には指向性(鉛 直・水平・奥行き)があると考えられるが,本研究では全方向へ一様に広がると仮定した上で,円 で表現することにした.なお,本指標はある注視点周辺の検知視野の考え方に加え,視線移動を伴 い対象に気づくことのできる範囲も加味した動的利用可能視野の考え方(三浦,2002)に着目して いる.図5-5に指標の説明図を記す.
図 5-5 光点検出可能範囲の計測方法
光点検出可能範囲を示す円は,1回の光点検出タスクに対して一つ描くことができる.ある条件 での光点検出可能範囲の円の集合について,例えば5割の円が重なる範囲は,5割の確率で光点が 検出可能な範囲と考えることができ,本研究ではこの範囲を視覚的注意の範囲と定義した.詳細は
5.3.3に示す.
光点が呈示される位置は,図5-6が示すように,スクリーン上の9箇所(①~⑨)とし,それぞ れⅠ~Ⅴの領域に配置した.Ⅰ~Ⅴの各領域の分類名義と各領域において安全走行する上で注意を 払うべき対象物として想定されるものを以下に示す.
Ⅰ. 走行車線:先行車,走行車線上の停止車両など
Ⅱ. 対向車線:対向車,対向車線上の停止車両など
Ⅲ. 走行車線側方:進行方向左側の歩行者など
Ⅳ. 対向車線側方:進行方向右側の歩行者など
Ⅴ. 上方:信号,標識など
なお,各領域には,光点が呈示される場所を2箇所設定しているが,周囲の①,②,③,④,⑨は近接 側(自車から 15m 前方),中央寄りの⑤,⑥,⑦,⑧は遠方側(自車から 50m 前方)の対象を想定し ている.ただし,Ⅰの領域は近接側の①のみとした.光点が呈示される走行場面として,9パター ン(P1~P9)を用意した.各走行場面を大別すると,以下のようになる.
図 5-6 光点の呈示位置
P1~3:信号のない交差点 P4~6:信号のある交差点 P7~9:交差点間の単路
走行場面の9パターンは,交通環境要因として設定した三つの各走行条件(C1:高混雑市街地,
C2:低混雑市街地,C3:低混雑田舎道)においてランダムに出現し,3 回ずつ通過するよう設定
した.すなわち参加者は1走行条件で27回(9パターン×3回),全3走行条件で81回の光点検出 タスクを行うことになる(ただし,光点出現を予測されにくくするためにダミーの光点を適宜呈示 している).また,同一走行条件内で 3回走行する各走行場面では,それぞれ異なる 3箇所(①~
⑨のうち)に光点が呈示される.表5-1は,各走行場面P1~P9において呈示される光点呈示位置
①~⑨について整理する.
Ⅰ Ⅱ
Ⅲ Ⅳ
Ⅴ 9
6 8
7 1 4
5
2 3
表 5-1 各走行場面における光点呈示位置一覧
(3) 顔評定による眠気度合いの評価
本研究では,ドライバの眠気度合いを,走行中に記録した顔面映像の画像解析によって評価した.
走行中に光点が呈示される30秒前から,10秒毎の眠気レベルを北島・沼田・山本・五井(1997)
の開発した顔表情による眠気の評定方法(以下,「NEDO 評定」という)を用いて評価した.2 名 の評価者が10秒毎の映像を見て,眠気レベルD0~D5までの6段階で評価し,2名の評価が一致 するまで繰り返し評価を行い,光点が呈示される 10 秒前からの評定値を代表値として用いた.な お評定者は,実験直前のドライバの顔面画像を,各評価対象者の眠気レベルD0に相当する表情(評 価基準)として適宜利用し,以下の判断基準によって,眠気レベルの評価を行った.
D0:全体的に動きが敏捷であり,視線移動も速く,キョロキョロする.
D1:一点を見詰め続けるなど,視線移動が少なく遅い.口に締まりがない.
D2:目の開度が小さくなり,瞬き頻発.あくびの出現.
D3:目はかろうじて開けていられる程で,1秒以上の瞬目が頻繁に生じる.
D4:眉などの目の周辺に抵抗する意識は残るも2秒~3秒以上の閉眼が立て続けに生じる.
D5:抵抗する意識がなく,眠る.
光点呈示パターン 走行場面 光点呈示位置 交通環境
C1 C2 C3 C1 C2 C3 C1 C2 C3 C1 C2 C3 C1 C2 C3 C1 C2 C3 C1 C2 C3 C1 C2 C3 C1 C2 C3
P9 ⑤,⑥,⑦
P7
交差点間
①,⑥,⑧
P8 ①,②,⑧
P5 ②,④,⑨
P6 ③,⑧,⑨
P3 ③,④,⑤
P4
信号あり交差点
②,⑥,⑨ P1
信号なし交差点
①,④,⑦
P2 ③,⑤,⑦
本研究では眠気レベルD0とD1を通常状態,D2とD3をぼんやり状態,D4とD5を眠い状態 と定義して分類した.