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5.3.3 視覚的注意の範囲

視覚的注意の範囲とは,単位時間あたりに光点を検出できる範囲(光点検出可能範囲)に基づき 推定する範囲である.本実験で設定したP1~P9の走行場面について,菊地他(2008)や菊地他(2010)

の手法によって,視覚的注意の範囲によって比較を行った.図5-8は,走行場面P1の全条件,全 ドライバの光点検出範囲の円を描いたものである.一つの円は,1回の光点検出タスクのデータか ら求められた,1秒以内に光点を認識できる範囲の推定値といえる.

図5-9が示す範囲は,図5-7の円の集合のうち5割の円が重なっている領域である.すなわち,

全ドライバが5割の確率で1秒以内に光点を認識できる範囲であると考えることができる.筆者ら はこの円の重なりによって求まる範囲が大きい場合,確率的にある対象を認識できる範囲が広いこ とを意味していることから,視覚的注意の範囲と定義し,以降の解析に用いた.

図 5-8 P1 における全ドライバの光点検出範囲(1 秒)

図 5-9 P1 における視覚的注意の範囲

-1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500

-2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000

スクリーンの水平方向の座標(mm)

の垂直方向の座標(mm)

-1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500

-2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000

(mm)

スクリーンの水平方向の座標(mm)

前述の視覚的注意の範囲について,面積を数値化したものを走行場面P1~P9について比較した ところ,走行場面P1~P6の交差点内および交差点進入直前(以下,「交差点付近」という)は比 較的広く,走行場面P7~P9の交差点間の単路(以下,「交差点間」という)では比較的狭いとい う特徴がみられた.そこで図5-10の示すように,全ドライバの通常状態における交差点付近およ び交差点間のそれぞれの全条件について,視覚的注意の範囲の面積を比較した.その結果,交差点 付近のように,比較的周囲に対して注意を払う必要がある場面では広くなる一方,交差点間のよう にあまり周囲に注意を払う必要がない場面では狭くなることが示された.すなわち,ドライバは交 通環境によって視覚的注意の範囲を変化させて運転していることが示唆された.

図 5-10 交通環境と視覚的注意の範囲

次に,交差点付近と交差点間の各走行場面において,眠気の状態および先行車の有無の条件ごと の視覚的注意の範囲の面積について比較したものを図5-11と図5-12に示す.図5-11は先行車に 追従した条件,図5-12は単独で走行した条件で,各条件において,全ドライバの通常状態とぼん やり状態の視覚的注意の範囲の面積を比較したグラフである.先行車に追従して走行した条件では,

交差点付近および交差点間における,通常状態に対するぼんやり状態の面積比はそれぞれ1.13と 0.76となっている.対して,単独走行した条件での面積比はそれぞれ0.43と0.46となっている.

つまり,特に先行車がなく単独で走行している場合,通常状態に比べぼんやり状態における視覚的 注意の範囲の狭窄が著しいことが明らかとなった.これは光点検出反応時間の結果とも一致する.

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4

交差点付近 交差点間

視覚的注意の範囲(m2/s)

交通環境

図 5-11 条件ごとの視覚的注意の範囲(先行車あり)

図 5-12 条件ごとの視覚的注意の範囲(先行車なし)

5.3.4 交通環境による影響

図5-13と図5-14は,眠気による影響が大きかった先行車なしの条件において,さらに交通環境 要因(混雑度)ごとに比較したものである.これによると,特に混雑度の低い環境下で上記の特徴 が大きく現れていることがわかる.つまり先行車がなく単独走行の場合,交通他者が少ないような 状況で,低覚醒(ぼんやり)の影響が大きくなると考えられる.一方で,先行車に追従している場 合は,たとえぼんやりしていても視覚的注意の範囲という点では,通常と変わらない可能性が示唆 された.しかし,例えば先行車の急減速に対する反応時間の遅れなどを考慮するためには,追加検 討が必要であると考えられる.

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4

通常状態 ぼんやり状態

視覚的注意の範囲(m2/s)

覚醒度

交差点付近 交差点間

0.76 先行車あり 1.13

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4

通常状態 ぼんやり状態

視覚的注意の範囲(m2/s)

覚醒度

交差点付近 交差点間 0.43

0.46 先行車なし

図 5-13 条件ごとの視覚的注意の範囲(交差点付近)

図 5-14 条件ごとの視覚的注意の範囲(交差点間)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4

通常状態 ぼんやり状態

視覚的注意の範囲(m2/s)

覚醒度

高混雑 市街地 低混雑 市街地 低混雑 田舎道 先行車なし,交差点付近

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4

通常状態 ぼんやり状態

視覚的注意の範囲(m2/s)

覚醒度

高混雑 市街地 低混雑 市街地 低混雑 田舎道 先行車なし,交差点間