( 1) 証 拠
A 総説
証拠は、民事訴訟の核心となる問題である。但し、中国の民事訴訟法には証拠に関する規定が 全部で12条しかなく(民事訴訟法63条乃至74条)、そのほとんどが原則的な規定であり、実用 性は高くない。2001年 12月 21日、最高人民法院は、「民事訴訟証拠に関する若干規定」(以下
「民事訴訟証拠規定」という)を公布した(2002年4月1日施行)。民事訴訟証拠規定の制定及 び施行は、中国の証拠制度上の大きな進歩であり、司法実務上に存在する問題の多くが解決され た。
B 立証責任
民事訴訟法の立証責任の定義に関する規定は明確ではなく、民事訴訟法 64 条に「当事者は自 らが提出する主張について証拠を提供する責任を負う。」と規定されているのみであって、当事者 が証拠を提供しない場合又は提供した証拠が当事者の事実の主張を証明するのに不十分である場 合の結果に関する具体的な規定はなかった。裁判の実務では、事実が不明であるために、どのよ うな判決を行うべきか、裁判官が判断できない場合がある。民事訴訟証拠規定2条は、この点に ついて、当事者が証拠を提供しない場合又はその提供した証拠が当事者の事実の主張を証明する のに十分ではない場合、立証責任を負う当事者が不利な結果を負うことを明確に規定している。
民事訴訟証拠規定4条乃至7条は、さらに立証責任分配の原則を規定している。その一般的な 原則は、権利の存在を主張する当事者が権利発生の法律的事実について立証責任を負い、権利の 不存在を主張する当事者が権利の消滅又は権利を阻害若しくは制限する法律事実について立証責 任を負う(民事訴訟証拠規定2条)。
立証責任を確定できない場合、人民法院は、公平の原則及び信義誠実の原則に基づき、当事者 の挙証能力等の要素を総合して立証責任の負担を決める(民事訴訟証拠規定 7 条)。当事者が提 供する証拠が中国国外で形成されたものである場合、当該証拠について、所在国の公証機関の証 明を受けた後に当該国にある中国大使(領事)館の認証を受けるか、又は中国と当該所在国が締 結した関連条約に規定する証明手続を履行しなければならない(民事訴訟証拠規定11条)。外国 語の書証については、中国語の翻訳を添付しなければならない(民事訴訟証拠規定12条)。
C 新製品の製造方法の場合における立証責任の転換
特許権侵害訴訟における特許権侵害の立証責任は、原則として、特許権侵害を主張する特許権 者の側にある。しかし、製造方法の特許権者(原告)が被告の侵害行為を立証しようとしても、
被告が具体的にどのような方法で製造行為を行っているかについて原告が調査したり証拠を取得 したりすることは通常、困難である。そこで、特許法 61 条 1項は、新製品の製造方法の発明特 許に係るときは、立証責任を転換し、被告が、「その製品の製造方法が特許の方法と異なること」
を証明しなければならないものとした。「新製品」の製造方法の場合に限定したのは、「既知の製 品」の製造方法の場合にまで立証責任を転換することは合理的でないとの判断によるものである。
製品又は製品の製造技術方法が特許出願日以前に国内外で公衆に知られている場合、人民法院 は当該製品が本条 1 項に定める「新製品」に該当しないと認定しなければならない(「特許権侵 害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」17条)。
また、「知的財産権の裁判職能作用を十分に発揮し、社会主義文化の大いなる発展及び繁栄を推 進し、並びに経済の自主的及び調和的発展を促進するための若干問題に関する意見」15条は、以 下の規定を置いた。即ち、特許方法を使用して得た製品及び当該製品を製造する技術案が特許出 願日以前に公衆に知られていない場合」には、同一の製品を製造した権利侵害を訴えられた者は、
その製品の製造方法が特許方法と異なることについて挙証責任を負わなければならない。特許方 法を使用して得た製品が「新製品」に該当せず、権利侵害を訴えられた者が同様の製品を製造し たことを特許権者が証明できる場合において、合理的な努力を尽くしてもなお権利侵害を訴えら れた者が当該特許方法を確実に使用したことを証明できないが、事件の具体的な状況に基づき、
既知の事実及び日常生活の経験を踏まえるとかかる同様の製品が特許方法により製造されたと認 定できる可能性が極めて高いときには、民事訴訟証拠に係る司法解釈の関連規定に基づき、特許 権者に対しさらなる証拠の提供を要求せず、権利侵害を訴えられた者にその製造方法が特許方法 と異なる旨の証拠を提供させることができる。方法特許の権利侵害の挙証が困難であるという現 状に対し、法により証拠保全措置を講じ、方法特許の権利者の挙証負担を適切に軽減しなければ ならない。被申立人の利益保護に注意を払い、当事者が証拠保全制度を濫用して違法に他人の営 業秘密を取得することを防止しなければならない。権利侵害を訴えられた者がその製造方法が特 許方法と異なる証拠を提供し、それが営業秘密に係る場合には、審査判断において保護を与える 措置を講じなければならない。
D 人民法院の証拠調査と収集
民事訴訟法 64 条は、当事者及びその訴訟代理人が客観的な原因によって自ら収集することが できない証拠、又は人民法院が案件の審理に必要であると認める証拠について、人民法院が調査、
収集を行わなければならないと規定している。但し、当該規定は、「人民法院が案件の審理に必要 であると認める証拠」の範囲及び「当事者及びその訴訟代理人が客観的な原因によって自ら収集 することができない証拠」の範囲及び条件を明確に規定していない。民事訴訟証拠規定15条は、
「人民法院が案件の審理に必要であると認める証拠」の範囲を2種類の状況に限定している。す なわち、国の利益、社会公共の利益又は第三者の合法的権益を損なう可能性のある事実、及び職 権による当事者の追加、訴訟の中止、訴訟の終結、回避等、実体の争いと無関係の手続である。
民事訴訟証拠規定 15 条に定める場合を除き、人民法院による証拠の調査、収集は、当事者の 申請によらなければならない(民事訴訟証拠規定16条)。当事者は、証拠が国の関連部門に保管 されており、かつ人民法院の職権による調査取得を必要とする資料である場合、国家機密、商業 上の秘密、個人のプライバシーにかかわる資料である場合、及び当事者及びその訴訟代理人が客 観的な原因によって自ら収集することができないその他の証拠に限り、人民法院に証拠の調査収 集を申請することができる(民事訴訟証拠規定17条)。
民事訴訟証拠規定 15 条に規定する場合を除き、人民法院は主導的に鑑定を委託しない。鑑定 は、当事者の申請によって行う。鑑定の申請も当事者の立証責任の内容に含まれるため、申請は 証拠の申出期間内に提出しなければならない。正当な理由がないにもかかわらず、証拠の申出期 間の後に提出された申請については、人民法院はこれを認めない(民事訴訟証拠規定25条)。
鑑定機関、鑑定人は、当事者双方が協議によって定めるものとされ、協議がまとまらない場合
には、人民法院が指定する(民事訴訟証拠規定26条)。鑑定機関、鑑定人が確定した後、人民法 院が委託する。当事者が人民法院の委託した鑑定部門の鑑定結果に異議を唱えて再鑑定を申請し た場合、①鑑定機関又は鑑定人が鑑定資格を備えていないこと、②鑑定手続に重大な法律違反が あったこと、③鑑定結果に明らかに証拠が不足していること、④証拠調べにより証拠として使用 することができないと認定されたその他の状況のいずれかを証明できるときは、人民法院は再鑑 定を認めなければならない(民事訴訟証拠規定27条)。当事者の一方が自ら関連部門に委託して 行った鑑定結果について、他方当事者が反論するのに十分な証拠を有しており、しかも再鑑定を 申請した場合、人民法院はこれを認めなければならない(民事訴訟証拠規定28条)。
E 証拠の申出期間
民事訴訟法には、証拠の申出期間に関する規定はなく、当事者が法廷で「新しい証拠」を提出 することが認められている(民事訴訟法 125条 1項)。さらに、当事者が原判決、裁定を覆すの に十分な新しい証拠を有している場合には、人民法院は再審を行わなければならないとの規定も ある(民事訴訟法 179 条)。上記の規定を利用して、開廷前に証拠を提供せずに、開廷審理の際 に突然有力な証拠を提供して相手方に準備の時間を与えないようにしたり、第一審では証拠を提 供せずに第二審又は再審時に証拠を提供して訴訟を長引かせる目的を達成している当事者もいる。
かかる現象を是正するために、民事訴訟証拠規定では、人民法院は、受理通知書及び応訴通知書 の送達と同時に、当事者に証拠の申出通知書を送達しなければならないと規定している。証拠の 申出通知書には、立証責任の分配原則と要求、人民法院に証拠の調査・収集を申請できる事由、
証拠の申出期間及び期限を過ぎた場合の法律的結果を記載しなければならない。証拠の申出期間 は 30 日を下回ってはならない。証拠の申出期間は、当事者が協議によって定め、人民法院の認 可を受けることもできる(民事訴訟証拠規定33条)。期間が満了した後も証拠資料を提出しない 場合、証拠の申出の権利を放棄したものとみなす。期間が満了した後で提出された証拠について は、相手方当事者が同意する場合を除き、人民法院は審理の時に証拠調べを行わない。当事者が 訴訟請求を追加、変更する場合及び反訴を提出する場合、証拠の申出期間内に行わなければなら ない(民事訴訟証拠規定34条)。当事者が証拠の申出期間内に証拠を提供することが明らかに困 難である場合、期間内に延長を申請しなければならず、認可を受けて証拠の申出期間を適当な期 間、延長することができる(民事訴訟証拠規定36条)。
F 証拠交換と新たな証拠
民事訴訟法には、証拠の交換に関する規定はない。民事訴訟証拠規定では、37条から40条ま でにおいて証拠交換について規定している。当事者の申請があれば、人民法院は開廷前に証拠の 交換を行わせることができる。証拠が比較的多い事件又は複雑で難解な事件については、人民法 院は、当事者に開廷前に証拠を交換させなければならない。証拠交換の時期は、当事者が協議に よって定めた上で人民法院の認可を受けることもできるし、人民法院が指定することもできる。
証拠交換日が証拠申出期限になるが、当事者が証拠申出期限の延期を申請し、人民法院の許可を 得た場合、証拠交換日はこれに応じて順延する。証拠の交換は、裁判官の主宰のもとで行わなけ ればならない。証拠交換の過程において、裁判官は、当事者に異議のない事実及び証拠について