( 1) 総 説
中国の民事訴訟制度は、二審制を採用している。特許権侵害訴訟もその例外ではなく、二審制 がとられている。但し、個々のプロセスにおいて、特許法の特別規定及び関連の司法解釈が適用 されるため、通常の民事訴訟とは異なる特殊性も持ち合わせている。特許権侵害訴訟のそれぞれ の段階を詳しく説明する前に、まず、後掲の第一審、第二審及び再審のフローチャートを参照し て、特許権侵害訴訟手続の全体的な流れを把握していただきたい。
( 2) 管 轄
中国の人民法院に訴訟が提起された場合、被告としてまず考慮しなければならないことは、① 人民法院の管轄権の有無、及び②送達が適法になされたか否か、という2点である。
管轄については、民事訴訟法241条乃至244条に明文の規定がある。注意すべきは、被告が中 国国内に駐在員事務所を有している場合には中国の管轄が認められ、駐在員事務所の所在地の人 民法院が管轄権を有するとされることである。従って、訴えの原因となった事実関係に駐在員事 務所が全く関与していない場合でも、駐在員事務所所在の人民法院に訴えが提起されることがあ る。
管轄を争う場合には、明示的に管轄異議を申し立てなければならない。これをせずに訴えに応 じて答弁した場合には、当該人民法院の管轄を認めたものとみなされる(民事訴訟法243条)。
( 3) 送 達
送達方法については、民事訴訟法245条に規定がある。注意すべきは、本条により、国際条約 に定める方式による送達や外交ルートによる送達が認められているだけでなく、中国国内の駐在 員事務所に対する送達を認めていることである。
駐在員事務所に対する送達は、簡便であるため、実務的にも広く用いられている。人民法院か ら書類を受け取りに来るようにとの連絡が入り、人民法院に出向いて書類を受け取り、受領のた めの署名をしたところ、中身は訴状であったという例もある。
( 4) 答 弁 書 提 出
被告が訴状の送達を受けてから答弁書を提出するまでの期間は、原則として15日であるが(民 事訴訟法113条)、中国に住所を有しない外国企業等の場合は30日である(民事訴訟法246条)。
さらに、延長を申請することもできるが、認められるかどうかは人民法院の裁量による。
答弁書の提出は被告の権利であり義務ではない。従って、答弁書を期限内に提出しないからと いって、審理に影響はないことになっている(民事訴訟法 113 条)。しかしながら、外国企業と しての主張や反論を人民法院にきちんと理解してもらうためには、答弁書を提出した方がよい。
一般的に、限られた答弁期間内に詳細な答弁書を作成するのは非常に困難であるため、答弁期間 内にとりあえず主張の骨子を記載したシンプルな答弁状を提出しておき、その後、詳細な主張を 記載した補充書面を提出することが多い。
( 5) 公 判 期 日 の 指 定
審理が開始される前に、第1回公判期日が指定される。訴状送達時に第1回公判期日の呼出状 が添付されていることもあるが、そうでないことも多い。公判期日は3日前までに当事者に呼出 状で通知されることになっている(民事訴訟法122条、民事訴訟法意見155条)。
被告が呼出状による呼出を受けたにもかかわらず、正当な理由なく出廷しない場合には、人民 法院は被告欠席のまま判決を下すことができる(民事訴訟法130条)。
なお、日本と異なり、中国には答弁書の擬制陳述の制度がない。従って、被告が答弁書を提出 したが出廷しない場合には、被告欠席のまま判決が言い渡されることもあるので、注意が必要で ある。
( 6) 事 前 調 査 ・ 証 拠 交 換
場合によっては、公判期日の前に当事者が人民法院に出頭を求められ、裁判官から質問を受け ることがある。これは、日本における争点及び証拠整理のための弁論準備手続に近い。中国でも、
裁判官は公判期日における審理の準備のため、事前に訴訟資料を審査し証拠を調査収集しなけれ ばならないので(民事訴訟法 116 条)、案件によっては事前調査として当事者から事情を聴取す ることがある。
また、開廷前の段階で、「証拠交換」が行われることがある(開廷前の証拠交換が全ての案件で 必ず行われるわけではない)。証拠交換とは、双方当事者が裁判官の主宰において証拠を交換する ことである(「民事訴訟証拠に関する若干規定」37条乃至40条)。
( 7) 公 判 廷
A 開廷手続
中国では公判期日を開くことを「開廷」という。
第1回公判期日の審理方法であるが、まず書記官が当事者の出頭を確認し、法廷規則を宣告す る(民事訴訟法 123条 1項)。これは、許可なく写真撮影することや私語の禁止等、法廷の秩序 維持に関する規則の朗読である。
次に、裁判官が法廷に入り、当事者を確認し、事件名を宣告し、裁判官と書記官の名前を明ら かにし、当事者に訴訟上の権利義務を告知する。さらに、裁判官は当事者に、裁判官や書記官を
忌避する申立を行うかを質問する(民事訴訟法123条2項)。
B 法廷調査
忌避の申立がなければ、又は忌避の申立が却下されれば、審理が開始される。
中国の裁判における審理は、「法廷調査」(①当事者の陳述、②証人の権利義務の告知、証人の 証言及び出廷していない証人の証言の朗読、③書証、物証及び視聴覚資料の呈示、④鑑定結果の 朗読、⑤検証記録の朗読)と「法廷弁論」(①原告及びその訴訟代理人の発言、②被告及びその訴 訟代理人の答弁、③第三者及びその訴訟代理人の発言又は答弁、④相互弁論)から構成される。
前者は日本の証拠調べの概念に近く、後者は日本の口頭弁論の概念に近いが、異なる点も多い。
特に、日本では口頭弁論で事実の主張が終わってから証拠調べに入るが、中国では法廷調査(民 事訴訟法124条)が終わってから法廷弁論(民事訴訟法127条)を行うことが特徴的である。
(ア)当事者の陳述
法廷調査の最初に、当事者の陳述が行われる(民事訴訟法124 条 1号)。ここでは、原告が訴 状をもとに請求の趣旨と請求を基礎付ける事実関係を述べ、被告がこれに対して認否を行う。従 って、この部分は証拠調べというよりも、当事者の弁論に近いが、当事者の陳述は証拠に及ぶこ とがある。
(イ)証人尋問
続いて証人尋問が行われる(民事訴訟法 124条 2号)。証人尋問に先立って、裁判官から証人 に対して権利義務が告知される。尋問の順序は特に定めがない。
裁判手続は中国語で行われるため、証人尋問でも中国語が使われる。必要な場合には、通訳が 付けられる。通訳は人民法院が提供し、当事者が費用を負担することになっている(民事訴訟法 238条)。実際には、当事者が通訳を同行することが多い。
中国の裁判の特色として、1 度の公判期日に多数の証人尋問が行われることがある。迅速な訴 訟進行のため、人民法院が証人に対し、証言内容を書面にまとめて提出するよう求めることもあ る。
(ウ)書証、物証の取調べ
続いて書証と物証調べが行われる(民事訴訟法124 条3号)。書証は原本を提出しなければな らない。物証は原物の提出が原則である(民事訴訟法68条1項)。外国の当事者として、外国語 による書証はすべて中国語訳が必要なこと(民事訴訟法68条2項)に注意しなければならない。
この段階で、鑑定や検証による証拠調べが行われることもある(民事訴訟法124条4号、5号)。
C 法廷弁論
法廷調査が終了した後、法廷弁論が開始する(民事訴訟法 127 条)。ここでは、証拠調べの結 果をもとに事実の評価と法律論が戦わされる。まず原告が発言し、次に被告が答弁し、さらに相 互に反論がなされる。
最後に、裁判官は原告、被告の順に最終陳述を求める。これをもって、審理が終結される。多 くの場合、原告及び被告は最終準備書面たる「代理詞」を提出する。「代理詞」については項を改
めて述べる。
D 公開裁判
中国の裁判は公開が原則である。但し、プライバシーに関する事件は非公開であるし、営業秘 密に関する事件も人民法院の判断で非公開にすることができる(民事訴訟法 120 条)。よって、
第三者に知られたくない技術情報や経営情報が争点に関わるような場合は、審理を非公開とする よう申立てを行うことができる(但し、非公開審理となった場合、訴訟当事者の法定代表者及び 訴訟代理人以外の者(例えば、法務担当者等)は傍聴できなくなる)。また、プライバシ-や営業 秘密等に関わる証拠については、秘密を保持しなければならず、法廷において呈示しなければな らない場合には、公開の法廷で呈示してはならないものとされている(民事訴訟法66条後段)。
裁判報道のためのテレビ撮影や写真撮影については、裁判官の訴訟指揮によるが、日本のよう に開廷前の様子だけが撮影されるのではなく、審理の状況まで撮影されることがある。
E 審理期間
民事訴訟法135条によると、国内事件の民事訴訟第一審手続は、事件の立件日から6ヶ月以内 に結審しなければならず、特別の事由により延長する必要がある場合には、当該人民法院の院長 の承認により6ヶ月間の延長が認められ、さらに延長の必要があるときは、上級の人民法院の承 認を得なければならない。また、民事訴訟法 159 条によると、「判決」に対する上訴事件を審理 する場合は、事件立件日から3ヶ月以内に結審しなければならず、特別の事由により延長する必 要がある場合には、当該人民法院の院長の承認を得なければならず、「裁定」に対する上訴事件を 審理する場合は、事件立件日から 30 日以内に終審の裁定を下さなければならない。当事者の一 方が外国人である等の渉外民事事件の場合には、上記各規定は適用されないが(民事訴訟法 248 条)、実際には上記各規定が参考とされている。日本における訴訟進行よりもずっと速いペースで 進行することが多いといえる。
なお、再審事件(最高人民法院が審理する再審事件も含む)については、上記の審査期間の制 限を受けない。
実際の審理は、1 回の公判期日で終結することもあるし、次回公判期日が指定される場合でも 1 週間後に期日が入ることもある。従って、日本企業としては、中国の裁判は日本の裁判と異な ることを十分に認識し、周到な準備をして第1回公判期日に臨むことが必要である。
F 代理詞
実務上、法廷での弁論期日が終了した後、数日以内に、当事者双方から、「代理詞」という書面 が人民法院に提出される。この「代理詞」には、法廷での弁論期日において口頭でなされた主張 が要領よく書面にまとめて記載される。いわば、当事者の主張の総まとめ的なものである。裁判 官はこの代理詞を見て判決を検討するので、実務上、「代理詞」は極めて重要なものである。双 方当事者が並行的に代理詞を提出するため、相手方当事者が提出した代理詞を閲覧すること はできない。