• 検索結果がありません。

( 1) 総 説

従来、中国における特許権侵害訴訟に日本企業(日系企業を含む。本項において、以下同じ)

が係わる場合、日本企業が特許権侵害を主張する側(原告)になるケースがほとんどであった。

しかし、最近では、日本企業が特許権侵害を主張される側(被告)になるケースが出てきている。

そこで、以下では、中国の特許権侵害訴訟で被告となった場合の対抗手段について、検討する。

一般的に、特許権侵害訴訟において被告(被疑侵害者)となった場合、以下の手段をとること が考えられる。

①原告の主張・立証に対する反論・反証を提出することにより、人民法院が原告の請求を棄却す るようにする。

②被告としての抗弁(例えば、公知技術の抗弁、先使用の抗弁等)を主張・立証することにより、

人民法院が原告の請求を棄却するようにする。

③原告の損害に関する主張・立証に対する反論・反証を提出することにより、損害賠償額を少な くするようにする。

④管轄異議を申し立て、特許権侵害訴訟の進行を止めさせる。

⑤係争特許の無効宣告請求を申し立て、特許権侵害訴訟の審理を中止させる。

⑥非侵害確認訴訟を提起する。

⑦「善意の使用及び販売」(特許法70条)であることを主張して、賠償責任を免れる。

①及び②については本書「Ⅲ 訴訟段階」の「5 侵害論」を参照されたい。また、③につい ては本書「Ⅲ 訴訟段階」の「6 損害論」を参照されたい。

ここでは、上記のうち、とくに④乃至⑦について説明する。

( 2) 管 轄 異 議

管轄異議申立は、防御活動をするための時間稼ぎの目的、あるいは、不利な場所での訴訟を避 けて有利な場所での訴訟に移行させる目的のために行われることが多い。実際、被告により、管 轄異議申立が主張されることは少なくない。

管轄異議申立書の例は、以下のとおりである。

管轄異議申立書の例

管 轄 異 議 申 立 書

申立人: ○○○○有限公司 住所:

法定代表者: 役職:

電話: FAX:

△△△が○○○○有限公司(以下「当社」という)を特許権侵害訴訟で訴えた件につき、貴人 民法院が送付した(20○○)○○民初字第○○○号召喚状、挙証通知書等の文書を、当社は 20

○○年○○月○○日に受領した。当社は、貴人民法院は本件について管轄権を有しないと考え、

ここに以下のとおり管轄異議を申し立てる。

請 求 事 項 :

貴人民法院に対し、法に基づき本件を○○市第○中級人民法院の審理に移送するよう請求す る。

事 実 及 び 理 由 :

「最高人民法院による特許権侵害紛争事件の地域管轄の問題に関する通知」の規定によれば、

特許権侵害事件において、特許製品の生産地、特許製品の販売地、特許方法の実施地等は、いず れも権利侵害行為地であるとみなすことができ、特許権侵害事件について管轄権を有する。しか し本件においては、○○省○○市は、当社が権利侵害を訴えられている製品の生産地、販売地又 は方法の実施地ではありえず、本件においては、△△△の住所地、すなわち原告の所在地である にすぎない。従って、貴人民法院は、本件について管轄権を有さず、○○市第○中級人民法院が 権利侵害を訴えられた製品の生産地として法に基づき本件に対する管轄権を有する。

従って、貴人民法院におかれては、法に基づき、本件を○○市第○中級人民法院の審理に移送 していただきたい。

以上

○○省○○市中級人民法院御中

申立人:○○○○有限公司 20○○年○○月○○日

( 3) 無 効 宣 告 請 求

A 無効宣告手続の概要

無効宣告手続においては、申立人の申立(特許法 45 条)から始まり、申立人の無効請求に対し て特許権者が答弁した後に口頭審理を行い、口頭審理の終了後、審決が出される。口頭審理の手 続においては、例えば、証拠に対する質疑等がある。審決は、公告される(特許法 46 条 1 項)。

無効宣告手続は、誰でも、申し立てることができる。申立理由は、特許法実施細則 65 条 2 項に 列挙されている(「特許権を付与された発明創造が特許法 20 条、20 条 1 項、22 条、23 条、26 条 3 項及び 4 項、27 条 2 項、33 条又は特許法実施細則 20 条 2 項、43 条 1 項の規定に合致しないこ と、もしくは特許法 5 条、25 条の規定に合致すること、又は特許法 9 条の規定により特許権を取 得できないこと」)。申立てが受理されると、申立人は、申立日から 1 ヶ月以内に、理由の追加、

証拠の補充を行うことができる(特許法実施細則 67 条)。期間経過後に理由の追加、証拠の補充 を行うこともできるが、その場合、専利復審委員会は、これらを考慮しなくてもよいとされてい る(同条)。

審理は、通常は、合議体で行われる。専利復審委員会は、当事者の請求または事件の性質に応 じて、口頭審理を行うことを決定することができる(特許法実施細則 70 条 1 項)。口頭審理は、

普通は 1 日のみ、時間にして2~3時間程度である。

無効宣告の申立日から審決までの期間はケース・バイ・ケースではあるが、侵害事件が継続中 であるとの理由で審査促進を請求することもできる。

無効宣告された特許権は、はじめから存在しなかったものとみなされる(特許法 47 条 1 項)。

特許権無効宣告の決定は、特許権無効宣告以前に人民法院が判決しかつ執行された特許権侵害の 判決、裁定、すでに履行あるいは強制執行された特許権侵害の処分決定、並びにすでに履行され た特許実施許諾契約及び特許権譲渡契約については、遡及効を有しない。但し、特許権者が悪意 によって他人に損失を与えた場合は、これを賠償しなければならない(特許法 47 条 2 項)。上記 の特許法 47 条 2 項の規定に従い、特許権者又は特許権譲渡人が特許の実施許諾を受けた者又は特 許権譲受人に特許使用料又は特許権譲渡代金を返還しないことが明らかに公平の原則に反する場 合、特許権者又は特許権譲渡人は、特許の実施許諾を受けた者又は特許権譲受人に特許使用料又 は特許権譲渡代金の全部又は一部を返還しなければならない(特許法 47 条 3 項)。

人民法院は、特許権侵害訴訟においては、特許権が有効か無効かについては判断せず、特許権 が有効であることを前提に審理を行う。もちろん、専利復審委員会の審決に対して不服のある当 事者が提起した審決取消訴訟(行政訴訟)において、人民法院は、当該審決の適否について判断 することはできる。

無効宣告の審決(無効宣告、特許権維持)に不服がある当事者は、通知受領日から 3 ヶ月以内 に、北京市第一中級人民法院に対し、行政訴訟としての審決取消訴訟を提起することができる。

同人民法院は、無効宣告手続の相手方当事者に対し、第三者として訴訟参加するよう通知する(特 許法 46 条 2 項)。北京市第一中級人民法院の判決に対し不服がある当事者は、さらに北京市高級 人民法院に対し、上訴することができる。第一審は立件日から 3 ヶ月以内に判決をしなければな

らず(行政訴訟法 57 条)、第二審は上訴状受領日から 2 ヶ月以内に判決をしなければならないと 規定されている(行政訴訟法 60 条)。

B 無効宣告請求により、特許権侵害訴訟の審理は当然に中断されるのか

管轄異議申立の提起後、被告(被疑侵害者)としては、「特許紛争事件の審理における法律適用 問題に関する若干の規定」8 条に基づき、答弁期間内において係争特許に対し無効宣告請求を提 起することができる。これにより、特許権侵害訴訟の審理が中断され、証拠収集のための時間を さらに多く獲得することができる可能性がある。また、原告に対しプレッシャーを与え、今後行 われる可能性のある和解交渉等に向けて準備することができる。

しかし、特許権侵害訴訟において提起されるすべての無効宣告請求が訴訟中断の目的を達成で きるわけではない。「特許紛争事件の審理における法律適用問題に関する若干の規定」10 条は、

実用新案及び意匠特許権の侵害に関する紛争事件で、被告が答弁期間満了後に当該特許権の無効 宣告を請求した場合、人民法院は原則として訴訟を中断してはならないと定めている。また、同 規定 11 条は、発明特許権の侵害に関する紛争事件については、たとえ被告が答弁期間内に当該 特許権の無効宣告を請求したとしても、人民法院は、訴訟を中断しないことができると定めてい る。このほか、同規定9条は、実用新案及び意匠特許権の侵害に関する紛争事件で、次の各号に 掲げる状況のいずれかに合致する場合、訴訟を中断しないこともできると定めている。

① 原告が提出する検索報告において、実用新案特許権の新規性及び創意性の喪失を引き起こ す技術文献が発見されていない場合。

② 被告の提供する証拠が、使用している当該技術はすでに公知であるということを十分に証 明している場合。

③ 被告が当該特許権の無効宣告を請求するために提出した証拠又は根拠となる理由が、明ら かに不十分である場合。

④ 人民法院が、訴訟を中断すべきでないと認めるその他の事情。

上述のとおり、特許権侵害訴訟における被告が、発明特許権の無効宣告請求をしても、必ずし も侵害訴訟の審理が中断するわけではない。しかし、被告としては、侵害訴訟の担当裁判官に、

当該発明特許権が無効になる蓋然性が高いことを理解してもらい、侵害訴訟の審理を中断しても らうべく、当該発明特許権が無効であることの根拠資料を早めに提出すること等が考えられる。

C 無効宣告請求に必要な資料

無効宣告請求の提出は所定のフォームによる必要がある。以下、その中国語フォームと和訳を 掲載する。