7. 液状化を含む軟弱地盤が中低層 RC 造建物に与える影響
7.3 液状化を含む軟弱地盤が 5 階建中低層免震 RC 建物に与える影響
7.3.2 解析結果および考察
ベースシア係数Cy0を0.6とした5階建て中低層免震RC造建物モデルに,前節までの 地盤の地震応答解析により得られた地表面加速度波形を入力し,動的弾塑性解析により得 られた,免震層の最大層間変形角1/Rの値に着目して考察を行う.以下の図7-11に,免震 層の最大層間変形角1/Rを示す.
図7-11 免震層の最大層間変形角1/R
ベースシア係数Cy0=0.6とした5階建て中低層免震RC造建物モデルの免震層の設計 用クリアランスが,最大層間変形角1/3であることは先述してある.
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ここで,図 7-11からサイト1,2,及びサイト4,6(両全応力解析波形))について,免震 層の最大層間変形角は1/4以下であり,免震層の設計用クリアランス内である.つぎに,サ
イト3,5(全応力解析波形),及びサイト4(等価有効応力解析波形),5(両等価有効応力解析
波形),サイト6(等価有効応力解析波形)において,免震層の最大層間変形角は1/3に至り,
設計用クリアランス内ではあるが,危険側に近くなっていることが分かる.これは,3,4 章の検討から確認できるように,長周期側で加速度・速度成分が増幅したことに起因して いると考えられる.さらに,サイト4において等価有効応力解析(危険側考慮),及び,サイ ト 6 において等価有効応力解析による地表面加速度波形入力ケースでは,免震層の最大層 間変形角は1/2に至り,設計用クリアランスを超える結果となった.これらのことから,液 状化を含む軟弱地盤による応答挙動の影響で,加速度・速度が長周期側で増幅する場合に は,免震建物はその挙動により大きな影響を受ける可能性があると示唆される.したがっ て,高知平野のような,液状化を含む軟弱地盤上で免震建物の設計を行うにあたって,こ のような危険性に留意しなければならないと考えられる.
80 8.結論
高知市の実地盤を対象に,中央防災会議により单海地震を想定して作成されたシナリオ 波に対し,地盤がどのような応答挙動を示すかについて,全応力時刻歴非線形解析,全応 力等価線形解析,有効応力解析,等価有効応力解析を実施し検討を行った.また,各サイ トにおいて各解析による地表面加速度波形を入力波とし,比較的耐力の低い 2 階建木造建 物,中低層RC造建物および中低層免震RC造建物を想定して,時刻弾塑性応答解析を実施 し最大塑性率に着目して検討を行った.さらに,建物・地盤の周期関係を明らかにするこ とを目的に,地盤の地震応答解析,及び建物の地震応答解析による検討に基づいて正弦波 パルスを作成し,建物応答のメカニズムについて試算・考察を行った.本研究で得られた 知見を以下に示す.
1)3 章の軟弱地盤の全応力解析(時刻歴非線形解析・等価線形解析)による検討から,サイト 1,2について,地表面加速度応答スペクトル(5%),速度応答スペクトル(5%)から周期1s より短周期側で加速度・速度が増幅する.また,サイト 3 については,工学的基盤まで の深度が約 G.L-100m と深い地盤であり,各全応力解析による地表面加速度応答スペク トル(5%),速度応答スペクトル(5%)から周期 1s より短周期側で加速度・速度が減尐し,
それより長周期側で加速度・速度が増幅する.また,地表と入力のフーリエ振幅スペク トル比からも,長周期側で加速度を増幅する傾向を確認している.
2)4章の液状化地盤の等価有効応力解析による検討から,液状化層で免震効果が生じて地表 面最大加速度が低下する場合がある.ただし,液状化が発生すると地表面加速度応答ス ペクトル(5%),速度応答スペクトル(5%)から,短周期側で加速度・速度が減尐するもの の,長周期側で加速度・速度が増幅する.また,加速度伝達関数から液状化発生に伴っ て地盤の等価固有周期が長周期化することを確認した.
3)5章の有効応力解析,等価有効応力解析による液状化地盤応答の結果・比較から,継続時 間が長い单海地震のような長周期地震動に対しても,等価有効応力解析(提案法SHAKE) は妥当性と有効性の高いことを確認した.
4)6,7章の検討から,工学的基盤までの深度が深い軟弱地盤や液状化地盤は,比較的耐力の
低い建物や免震建物に対して大きな影響を与える.また,定性的には耐力が低い建物ほ どその傾向が顕著に見られた.
5)有効応力解析による地表面加速度波形を入力し建物の応答解析を行った結果,水圧比が1
に達し,液状化に至る前の卓越した加速度によって,比較的耐力の低い建物は大きな影 響を受け大変形に至り塑性化する場合がある.さらに,正弦波パルスによる試算・考察 から,塑性化した建物に対して,長周期の入力パルス波ほど大きな影響を与える.なお,
その周期は強震時における液状化地盤の等価固有周期に近く,建物モデル(木造)の塑性域 固有周期に近い周期である.このことは,液状化層で免震効果が見られ地表面最大加速 度が低下しても 4 章で等価有効応力解析による地表面加速度波形を入力した場合に最大 塑性率が大きくなった結果と整合している.また,動的変位増幅率による考察から,地
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盤・建物の周期関係による建物応答のメカニズムを定性的に示した.これらのことから,
液状化地盤の強震時等価固有周期の長周期化に,建物の塑性化に伴う固有周期の長周期 化が追随する場合には,建物の応答は大きくなる可能性がある.また,長周期側の入力 パルス波は,比較的耐力の低い建物の塑性域固有周期を入力パルス波の周期近づけるよ うに巻込む(引込む)現象が見られた.したがって,液状化を含む軟弱地盤は比較的耐力の 低い建物に対して大きな影響を与えることが考えられ,液状化を建物の応答低減要因と することは,非常に危険であると言える.
高知平野における液状化を含む軟弱地盤上に市街地が位置していることや耐震化が進ん でいない現状において,本研究で使用したシナリオ波のような单海地震が発生した場合に 甚大な被害を受ける可能性が示唆される.したがって,建物の耐震化が急務であり地震防 災に資する対策を立てる上で重要課題の1つであると言える.また,1)~5)から液状化を含 む軟弱地盤上で免震層方式を採用するメリットはなく,その方式を採用することは避ける べきと言える.なお,本研究では地震荷重に着目して検討を行ったが,液状化が発生する と最大せん断ひずみ,最大相対変位は大きくなり,建物の基礎,杭に大きな被害をもたら す可能性についても示唆される.また,凍結サンプリング等による精度の高い地盤物性値 の把握および正確な地震動の予測の難しさを考えると,液状化に対して謙虚に対策を講じ る必要がある.
本研究では,建物モデルの動的相互作用について考慮していない.これは,建物応答が 地震荷重および動的相互作用のどちらに大きく起因するかについて判断できないため,本 研究において液状化を含む軟弱地盤の地震荷重のみに着目して検討を行った.今後の課題 として,ロッキング・スウェイを考慮し,建物と地盤の動的相互作用による影響について も検討を行う必要がある.
82 参考・引用文献
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