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正弦波パルスによる試算・考察

6. 液状化を含む軟弱地盤が木造建物に与える影響

6.2 液状化を含む軟弱地盤が建物応答に大きな影響を与えるメカニズムの考察

6.2.3 正弦波パルスによる試算・考察

ここでは,これまでの検討に基づき正弦波パルス波を作成し,入力波の違いによる建物 応答の挙動について検討する.ある振幅A,固有円振動数

をもち位相無しの正弦パルス 波を仮定し,加速度,速度,周期の関係を求める.

t A

  sin

(6.29)

C A t

dt t A dt

V

sin



cos

(6.30)

ここで,初期条件として時間t=0,速度V(0)=0を与えれば,積分定数

C

は次式となる.

CA (6.31)

(6.30)から最大速度

V

は,明らかに(6.31)式の右辺であり,(6.29)式の最大加速度

は,振

Aである.したがって,(6.29~31)式から次式を得る.

2

p p p

A T

VA (6.32)

(6.32)式を介して正弦波パルスを作成する際,建物モデルの弾塑性域における固有周期の変

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動,および,3,4 章で行った地盤応答挙動の検討における地盤の固有周期(強震時)および最 大速度を参考に,最大速度Ⅴp=100cm,周期Tp=1,1.5,2,2.5s,の正弦波パルスを仮定 し,波数nw=1,4とした.図6-16に,波数nw=1の入力正弦波パルスを示す.なお,周期 2.5s について液状化時における地盤の等価固有周期より,やや長い周期の正弦波パルスを 仮定している.この正弦波パルスを前節のCy0=0.2 の 2 階建木造建物モデルに基礎固定と して入力し,弾塑性動的応答解析を実施した.減衰については,瞬間剛性比例型として 1 次固有周期に対し,h=0.03として与えた.図6-17に建物モデル1階における,せん断力-

変位関係の履歴ループを示す.

図6-16 入力正弦波パルス,nw=1

図6-17 建物モデル(1F)のせん断力-変位関係の履歴ループ

図6-17の履歴ループの第4象限に着目すると,建物モデルの弾性時1次固有周期に近い 周期をもつ入力正弦波パルスほど,応答変位が大きな値となっている.この応答変位に着 目すると,建物モデル1Fは塑性域に入っていることが分かり,このことからも建物全体の

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固有周期は多尐長周期化していること考えられる.その後,建物の固有周期が長周期化し たことにより,周期の長い正弦波パルスによる影響が,強くなる表れる傾向にある.ただ し,周期Tp=2.5sの正弦波パルスによる影響が,他の周期の正弦波パルスによる影響と比 較して小さいのは,建物モデルの初期1次固有周期と正弦波パルスの周期が2s程度と大き く離れていたため,この正弦波パルスの半波目が与える影響が小さいことによるものと考 えられ,また,建物モデル2Fの剛性および挙動を含めて,それに対する固有周期での建物 モデルの運動(振動)と正弦波パルスの周期や共振時の位相遅れ角と多尐離れていたことが 考えられる.なお,参考までに,正弦波パルス終了後も2Fを含めた建物全体の振動(運動) が続き,建物減衰によって静止するまでの挙動および残留変位が図6-17から確認できる.

次に,図6-18に波数nw=4として作成した入力正弦波パルスを示し,図6-19に建物モデ ル1階における,時刻歴加速度波形・相対変位を示す.また,図6-20に建物モデル1Fの せん断力‐変位関係を示す.

図6-18 入力正弦波パルス,nw=4

図6-19 建物モデル(1F)における時刻歴応答加速度・相対変位

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図6-20 建物モデル(1F)のせん断力-変位関係の履歴ループ

図6-19(b),図6-20から,周期が長い正弦波パルスほど建物モデルの応答に与える影響が

大きいことが分かり,大変形に至っている.ここで,周期1s,1.5sの正弦波パルスを入力 したケースでは,1波目で最大変位に至り,それ以降の波による影響は小さくなっている.

これは,建物モデルが塑性域に入ることで固有周期が長周期化し,パルス波の周期および 位相角と離れることによるものと考えられる.また,周期1.5sの正弦波パルスを入力した 場合の最大変位に着目すると,波数nw=1の場合と比較して最大変位が小さくなっているが,

これは,入力正弦波パルスの2波目との遅れ位相差に起因するものと考えられる.つぎに,

周期2s,2.5sの正弦パルス波を入力したケースでは,それぞれ2波目,4波目で最大変位

に至っている.周期4sの正弦波パルスを入力したケースに着目すると,時刻歴で変位振幅 が段階的に大きくなっている.これは,塑性域に入った建物モデルの固有周期と正弦波パ ルスの周期が近付き共振のような状態となっていると考えられる.このことから,周期の 長い地震波が建物モデルの固有周期を近づけるように引込む(巻込む)現象が,現実に生じる 可能性についても示唆される.

次に,文献25を参考に正弦波パルスと建物モデル1Fのフーリエ振幅スペクトルの計算 結果を図6-21に示す.また,文献27を参考に入力パルス波と建物モデル2Fの伝達関数を

(6.33)式より求め,伝達関数および伝達関数から求めた塑性域の等価固有周期を図6-22に

示す.ただし,低周波数領域に着目するため平滑化は行わない.また,表6-4に建物モデル の塑性領域における各剛性K(第1,2折れ点以降)を用いて固有値解析した結果を示す.

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) So(

) Si(

) (6.33)

H(

):正弦波パルスと建物モデル2Fの伝達関数

So(

):建物モデル2F応答加速度波形のフーリエ振幅スペクトル Si(

):正弦波パルスのフーリエ振幅スペクトル

図6-21から,表6-4に示してある剛性K2を用いた固有値解析結果の塑性域1次固有 周期近傍の振動数領域(周期域)において,周期が長い正弦波パルスによるケースほど振幅が 大きい.このことから,長周期側の地震波は比較的耐力の低い建物の固有周期を,地震波 の周期に近づけるように巻込む(引込む)現象が生じているとも考えられ,長周期地震動や長 周期側で地震波を増幅させる液状化を含む軟弱地盤は,耐力の低い建物に対して大きな影 響を与える可能性が示唆される.また,周期1s,1.5sの正弦波パルスによるケースは,入 力よりも加速度振幅が小さくなり低振動数(長周期)側で大きくなる傾向にあることが分か る.そして,周期2,2.5sによるケースは,塑性域において多尐の2次モード的挙動やK1

時塑性域1次固有周期による影響が伺える.

次に,図6-22から建物モデルの塑性域における明瞭な固有振動数を判断することはでき ないが,尐なくとも低振動数(長周期)側で卓越した振動数が確認できる.特定の固有振動数 を判断することができない原因として,スペクトルの平滑化を行っていないことや,建物 モデルの固有周期が複雑に変化したことが考えられる.本検討において,割線剛性ではな く接線剛性に着目しているが,スリップ剛性Kを一義的に定めることはできず,その剛性 Kを考慮した塑性域固有周期を求めていない.実際には,支配的となるかについては分か らないが剛性K時の塑性域固有周期が最も長い周期と考えられ,その周期による影響が同 図に表れている可能性も考えられる.ただし,同図に示してあるように仮定した周期2.5s の正弦波パルスによるケースの建物モデルの塑性域等価固有周期と,表6-4に示してある剛 性K2を用いた固有値解析結果の塑性域1次固有周期の値は,比較的近いことが確認でき,

先に示した結果を説明できる可能性がある.また,周期1sの正弦波パルスによるケースは,

その周期(振動数)領域で入力損失が見られる.これは,建物モデルが塑性化して長周期化す ることで,正弦波パルスの周期と離れることに起因すると考えら,先述した傾向と比較的 一致している.

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図6-21 正弦波パルスおよび1F応答加速度のフーリエ振幅スペクトル

図6-22 正弦波パルスと建物モデル2Fの伝達関数

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表6-4 塑性域における建物モデル(Cy0=0.2)の固有値解析結果

次に,図6-23に周期が短い正弦波パルスから順に,波数nw=1ずつ組み合わせて作成し た入力パルス波を示し,図6-24に建物モデル1階における,せん断力-変位関係の履歴ル ープを示す.

図6-23 入力パルス波

図6-24 建物モデル(1F)のせん断力-変位関係の履歴ループ

図6-24から,入力パルス波が長周期化していくことによって,建物モデルの応答変位が 大きくなり,時刻7.11sで最大変形に至っている.このことからも,建物が塑性域に入り長

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周期化すると,長周期側のパルス波は建物応答に大きな影響を与えることが分かる.

ここで,文献26を参考に建物の固有周期と入力波の周期の関係について,動的変位応答 増幅率を計算し検討する.簡卖のため1自由度系1質点モデルの地震動による減衰振動で,

支持地盤が地動により強制的に水平変位した場合を考える.なお,剛性項,減衰項につい て一定の場合を仮定する.質点の地盤基準点に対する絶対変位X と,質点の基礎からの相 対変位

x

との関係は次式となる.

XxGx (6.34)

ここに,

X :質点の地盤基準点からの水平方向の絶対変位 xG:地動による地盤支持点の水平方向の変位

x

:質点の水平方向の相対変位

(6.34)式を(6.13)式に代入すると,地盤の水平加速度xGによる慣性力が外力として質点に作

用した場合の強制振動方程式(6.35)式が求まり,さらに,

m

で除して整理すれば質点の地盤 からの相対変位による運動方程式(6.36)が得られる.

xG

m kx x c x

m    (6.35)

x2h

x

2xxG (6.36)

また,(6.35)式を(6.37)式とし,(6.13)式に代入して整理すれば,質点の地盤からの絶対変位

による運動方程式(6.38)が得られる.

xXxG (6.37)

mXcX kXcxGkxG (6.38)

ここで,誘導過程における途中式について割愛するが,xGDsin ptと置き(6.36)式,(6.38) 式の定常応答(特殊解)について考えると,それぞれの動的応答変位増幅率,及び位相差は次 式のように求まる.

2 2

2 2

) 2 ( ) 1

(

 

h

Et   (6.39)

1 2

2

tan

h

(6.40)

68 2 2 2 2

2 2

4 ) 1 (

4 1

h Ea h

  (6.41)

ここに,

  p

(6.42)

(6.39)式は,地動の動的相対変位による質点の動的変位増幅率であり,(6.40)式における

質点の地動に対する位相差である.なお,(6.41)式は,地動の動的絶対変位による質点の動 的変位増幅率である.図6-25,図6-26に,正弦波外力による位相差曲線および各動的変位 増幅率を示す.

図6-25 位相遅れ角α

図6-26 動的変位増幅率

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図6-25から,βが1より小さい場合で位相差はほとんど生じず,β=1では位相差は90°と なり,βが1より大きい場合に位相差は180°に近づくことが分かる.また,図6-26から,

β≒1,すなわち,地震波と建物の固有円振動数が著しく近いと共振し,絶対変位,相対変 位ともに増幅率が大きくなることが分かる.また,前節の検討において,正弦波パルスの 周期が小さい,つまりpが小さい場合で,建物モデルの塑性化に伴い

が大きくなる場合

には,相対変位が小さくなったことを説明できる.さらに,pが大きかった場合で,建物 モデルの塑性化に伴って

が大きくなる場合,図6-26で右側からβ≒1近くに移行し,増幅 率は大きくなることが分かる.これらのことから,地盤の非線形化に伴い長周期側で加速 度を増幅し,更に建物の塑性化に伴い固有周期がそれに追随する場合には,共振に近い状 態が続くことが分かる.さらに,長周期側で増幅した地震波は耐力の低い建物の固有周期 を地震波の周期に巻き込む現象が起こると共振現象が生じる可能性も考えられる.なお,3,

4章の検討における地盤の強震時等価固有周期および表6-4の建物モデル塑性域における固 有周期の関係から,液状化を含む軟弱地盤の応答挙動が,比較的耐力の低い建物に対して 大きな影響を与えたことを定性的に説明できる.