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木造建物モデルの解析条件及び結果・考察

6. 液状化を含む軟弱地盤が木造建物に与える影響

6.1 木造建物モデルの解析条件及び結果・考察

6.1.1 2階建て木造建物モデルと解析条件

この節で対象とする建物モデルは,標準的な2階建て木造住宅を想定し2質点系モデル を基礎固定とする.つぎに,復元力特性は木造建物について低下荷重時に剛性が低くなる スリップ性状を示す特徴を考慮するために,トリリニア型のスケルトンとし履歴特性は

Takeda-Slipモデルを適用した.このモデルのパラメタには,各剛性K,第一折点の耐力

Qc,第二折点(降伏点)の耐力Qy,変位δy,塑性域のせん断剛性低下率α2,α3,徐荷

剛性低下指数γ,スリップ剛性低下指数λ,スリップ剛性硬化係数δがある.ここで,ケ ーススタディを行えなかったこと,および解析ソフトの制約上,本稿ではスリップ剛性硬 化係数δの値を1とおいた.ただし,Takeda-Slipモデルについて,本来はRC造建物に用 いるが,本検討で用いるソフトの制約上,このモデルが妥当であると判断し採用した.こ のことについて,これ以上議論しない.これらの解析モデル・パラメタについて,文献24 を参考に,図6-1,図6-2および以下の式に示すように仮定した.ただし,包絡線の負の勾配 について考慮しない.

図6-1 解析質点モデル,復元力特性モデル

図6-2 Takeda-Slipモデル簡略図

46 Qy

Qc0.275 (6.1)

0 2

1 K

K

 (6.2)

376 .

2 0

(6.3)

K0:弾性域におけるせん断剛性

K1:塑性域におけるせん断剛性

2:塑性域のせん断剛性低下率

0 3

2 K

K

(6.4)

03 .

3 0

(6.5)

K2:塑性域におけるせん断剛性

3:塑性域のせん断剛性低下率

 

2 max 2

1 y y

y y c d

Q

K Q (6.6)

0.4

(6.7)

:徐荷剛性低下指数

 

2 max y S

S K

K

(6.8)

  0 . 368

(6.9)

:スリップ剛性低下指数

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つぎに,減衰について,内部粘性減衰で評価し瞬間剛性比例型として1次の固有周期に 対して一定の3%とした.

  C h   K

1

2

1

 

(6.10)

瞬間剛性に対する1次の固有円振動数ω1を次式に示す.

     

     

e T

T

e

k

k

1

1

(6.11)

 

C :瞬間減衰マトリクス

 

K :瞬間剛性マトリクス

 

Ke :初期剛性マトリクス h1:0.03で一定

1e:初期剛性による1次の固有円振動数

  

:初期剛性による1次の固有ベクトル

この2質点系モデルに,前章までに得られた地表面加速度波形を与え,直接積分法によ る動的弾塑性解析を実施した.なお,数値積分についてニューマークβ法で平均加速度法 としβ=0.25,積分時間刻みを0.001secとした.また,1階の降伏せん断力係数,すなわち ベースシア係数Cy,0.2,0.4,0.6に対する,解析モデルの固有値解析から得られた弾 性時1次固有周期を表に示す.

表6-1 ベースシア係数Cy,弾性時一次固有周期T0

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6.1.2解析結果および考察

ベースシア係数Cy,0.2,0.4,0.6にモデル化した2階建木造建物について,動的弾 塑性解析により得られた最大層間変形角1/Rを,第二折点に対応する層間変形角1/R2で除 した値を最大塑性率R2/Rとし,R2/R=μと置く.この節では,前節までの地盤の地震応答 解析によって得られた地震荷重が,2階建木造建物を想定したモデルに対し,どのような影 響を与えるかについて,最大塑性率μに着目し考察を行う.図6-3に木造建物モデルの動的 弾塑性解析による各サイトの最大塑性率μを示す.ここで,図6-3で等価有効応力波形(危 険側考慮)は4.2.1,2,3において,危険側を考慮した検討により得られた地表面加速度波 形である(以下同様).

図6-3 ベースシア係数Cy=0.2,最大塑性率μ

図6-3から,ベースシア係数Cy0=0.2の建物モデルについて,全サイトで各最大塑性率 μが5を超えており,大変形に至っていることが分かる.また,サイト3,4,5,6におけ る建物の各最大塑性率(全応力波形入力)は,サイト1,2における建物の各最大塑性率より も大きい値となっていることが確認でき,3,4章の各全応力解析による検討から,長周期 側で加速度を増幅するサイト(軟弱地盤)ほど,その傾向が顕著に見られる.特に,サイト3 では両ケースともに最大塑性率が15以上であり,このことから,工学的基盤までの深度が 深い軟弱地盤ほど,比較的耐力の低い木造建物に対して与える影響が大きくなると示唆さ れる.ここで,各サイトによって入力地震動に多尐の違いはあるが,ここでは地盤の増幅 特性(加速度伝達関数・加速度フーリエ振幅スペクトル比)に着目していることに留意された い(以下同様).なお,長周期側で加速度を増幅する傾向については,3,4 章で示した両全 応力解析における地表面加速度応答スペクトル(5%)により示してある.

つぎに,サイト 4,5,6 のそれぞれのケースに着目すると,等価有効応力解析における 地表面加速度波形を入力したケースは,各全応力解析における地表面加速度波形を入力し たケースと比較して,最大塑性率が大きい値となっている.このことから,液状化が発生

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すると比較的耐力の低い建物に対して,大きな影響を与えることが示唆される.したがっ て,液状化を建物の応答低減要因とすることは,危険であると考えられる.

一般的に,現代工法による木造軸組みの倒壊基準は,層間変形角 1/30,最大塑性率μ=

4を超える辺りが安全限界の目安とされており,また,伝統工法による木造軸組みは,低 耐力であるが変形能力に富んでいる場合が多いため,層間変形角 1/15,最大塑性率の値 8 を超える辺りが安全限界の目安とされている.したがって,本検討からCy0=0.2 程度の 耐力の低い木造建物は,倒壊する危険性が高いと言える.

図6-4 ベースシア係数Cy=0.4,最大塑性率μ

つぎに,図6-4からベースシア係数Cy0=0.4の建物モデルについて,工学的基盤まで深 度が深い軟弱地盤であるサイト3(全応力等価線形解析波形)と,サイト4で危険側を考慮し た液状化地盤[等価有効応力解析波形(危険側考慮)]において,最大塑性率が他のサイトの各 解析結果より大きいことが分かる.したがって,工学的基盤まで深い軟弱地盤や液状化地 盤は,Cy0=0.4 程度の耐力の低い木造建物に対して大きな影響を与えることが示唆され る.サイト5,6から全応力解析波形を入力したケースと比較して,液状化により応答が低 減しているケースが見られるものの,サイト4で等価有効応力解析波形(危険側考慮)のケー スを考えると,液状化を建物の応答低減要因とすることは,危険であると言える.

ここで,建物の弾塑性解析について減衰の与え方を,瞬間剛性比例型から初期剛性比例 型としたケースで解析を行っているが,サイト 3 において全応力非線形解析における地表 面加速度波形を入力した場合,建物モデルは耐力を失い,最大層間変形角が1/0という結果 になった.これについては,次節で示すこととする.

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図6-5 ベースシア係数Cy=0.6,最大塑性率μ

つぎに,図 6-5からベースシア係数Cy0=0.6の建物モデルについて,サイト2 におけ る各最大塑性率は,他のサイトにおける各最大塑性率よりも,大きな値であることが確認 できる.これは,先述したように3章の検討からサイト2は,両全応力解析結果ともに短 周期側で,加速度を大きく増幅したことに起因するものと考えられる.

つぎに,サイト 4,5,6の各最大塑性率に着目すると,サイト5において等価有効応力 解析波形を入力した場合で最大塑性率が最も大きな値となり,このことから,液状化が必 ずしも変形を抑止するとは言えず,ベースシア係数Cy0が0.6程度の建物についても,液 状化を建物の応答低減要因とすることは,危険であると考えられる.

6.2液状化を含む軟弱地盤が建物応答に大きな影響を与えるメカニズムの考察