(1)希 釈海水潅水時のホウ レンソウの部位別生育量を調べた。その結果,1000ppm区において地 上部の葉面積が大 きくなってお り
,葉
面積の増加が生育促進の要因であると考 え られた。(2)RGRは,OppⅢ 区の変化 を基準 とすると,1000ppm区では生育後期の値が大きく
,乾
物生産 を 持続 していると考 え られ る。 この生育後期の乾物生産の差が地上部生体重および地上部乾物重 の差 となって現れると考 え られる。
第
3節
シ ュ ウ 酸 溶 液 の 葉 面 散 布塩生植物であるハマアカザや
,半
乾燥地帯 に生育す るアカザ科植物では,シ
ュウ酸が高濃度 で集積 している(Osmond,1967).ホウ レンソウで も乾葉 あた り 5〜15%ものシュウ酸 を集積 し(Libert・ Franceschi, 1987),葉 菜類の中では著 しく高い。また
,ホ
ウ レンソウ葉 に含 まれる有機酸 のうち 67〜 80%はシュウ酸であり
,シ
ュウ酸含量 と全有機酸含量 との間には正の相関関 係が ある(杉山・広 岡,1992)。 また,ホ
ウレンソウのシュウ酸含量はカチオ ン含量 との間に高 い正の相関がある (Bengtssonら ,1966)。 この ことか ら,ホ
ウレンソウ体内ではカチオ ン含量 に見合 ったシュウ酸が存在すると考え られる。 しか し,可
溶性 シュウ酸 と不溶性 シュウ酸 の割 合 は一定ではな く(人見 ら,1992),過
剰な可漆 性シュウ酸 の集積は生理作用に有害である。ホ ウ レンソウ体内では,シ ュウ酸 は Caと 結合 し,不溶性 として存在 していると考え られている(人見 ら,1992)。 すなわち
,ホ
ウ レンソウは体内に吸収 した Caの 多 くをシュウ酸 を不溶化す るために用いていると考え られる。一方,塩水潅水 したホウレンソウでは葉中の
Na含
量が高 まる(第2章
第 1節)が,こ
のNaと
可溶性 シュウ酸が結合 して シュウ酸 を不溶化することが考 え られ る。この仮説が正 しければ,吸
収 したNaが過剰 なシュウ酸 を不溶化 し,シ
ュウ酸 の不溶化 に利 用 されていたCaが生理反応 に利用 される結果 として,ホ ウレンソウの生育が促進 され る機構 の 存在が考 え られる。すなわち,塩
水の潅水がホウレンソウの生育 を促進する機構 を解明できる。81
そ こで
,NaCI溶
液 を潅水 して栽培 したホウレンソウにシュウ酸 を葉面散布 し,生
体重 におよば す影響 を調べた。材 料 お よ び 方 法
実験 は 1997年 6月 か ら 7月 にかけて行い
,鳥
取大学乾燥地研究セ ンターのガラス室内で実 施 した。1/5000aワ グネルポ ッ トに未耕作地の砂丘砂 を充填 し,6月
3日 にホウレンソウ師子暑 性 の強い ̀サンライ ト'と ̀オー ライ')を 1ポ ッ トあた り3株となるように播種 した。施肥 は,元 肥 と し て 苦 土 石 灰 (2.4g/ポ ッ ト
),ミ
ネ ラ ル G(0,8g/ポ ッ ト)お よ び 化 成 肥 料針P拇5:K20=0・ 56!0.52:0.54g/ポ ッ ト)を混合 した。潅水 には淡水 とNaCI溶 液 (20nlM(1170ppm),
401「M(2340ppm),60mM(3510ppm),120mM(7020ppm)}を 用 い
,適
宜行 った。播種 15日後 よ リシュ ウ酸 の散布 をはじめ,3日
毎 に 1000ppmシ ュウ酸溶液 3m1/ポッ トを葉面散布 した。また,対
照 区には淡水 を葉面散布 した。播種 30日 後 に地上部重 を測定 した。結
果
潅漑水中の
NaCl濃
度 とシュウ酸 の葉面散布がホウレンソウの生体重 におよばす影響 を第 4図に示す。シュウ酸 の葉面散布は
,い
ずれの潅水区にお いて も供試両品種の生育 を抑制 した. シュウ酸散布 による生育の抑制割合を NaCl濃 度別 に見 ると, ̀サンライ ト'で
はOmM区 が85%であったのに対 して 20mM NaCI区 は 56%,40nlM NaCI区 は 53%,601nM NaCl区 は 62%,120nM NaCl 区は43%であった。 ̀オー ライ
'で
は,OIIIM〜601nM NaCI区では約50%,120mM NaCl区で 28%と な り,生
育 は抑制 された.︵益 ゝ ︶側 雄 ¶ ︵益 ゝ ︶側 雄 期 10
8 6 4 2 0 10
8 6 4 2 0
0 20 40 60 120
潅漑水 中の
NaCt濃
度(mM)
第4図 潅漑水中のNaCI濃度とシュウ酸(1000ppm)の 葉面散布が ホウレンソウの生体重におよぼす影響
注)1997年 6月 3日播種.調 査は悟種30日後に行つた,
̀サ ンライド
□水散布囲シュウ酸散布
̀オ
ーライ
'38
考
察
両品種 とも
,シ
ュウ酸の葉面散布 によ り生体重が抑制された.体
内のシュウ酸含量は測定 し て いな いが,ホ
ウ レンソウは乾葉 に対 して 5〜 15%のシュ ウ酸 を集積 して いる(Libert and Franceschi,1987)こ とか ら,体
内には生体重の約 1%のシュウ酸が存在すると考 え られる。 この濃度 に対 して
,散
布 したシュウ酸の濃度は 1/10ほ どであったが,ホ
ウ レンソウの生育は抑制 された。生育の抑制割合 について水散布 とシュウ酸散布 を比較すると
,両
品種 とも淡水 を潅水 した時 の生育抑制が最 も少な く,NaCl溶
液 を潅水す ることで抑制割合が増 した。Naに シュウ酸 を不溶―化す る働 きがあるとした仮説が正 しければ
,シ
ュウ酸 を葉面散布 した ときに,体
内にNaが吸収 されている NaCl溶 液潅水区の生育が OmM潅 水区よ りもまさることが求 め られる。しか し,生
育は抑制されてお り
,Naが
Caに 代わってシュウ酸 を不溶化することによ り余剰のCaがホウレン ソウの生育 を促進するという仮説は否定 された。摘
要
体内の
Naが
シュウ酸 を無毒化することによ リホウレンソウの生育 を促進するという仮説 を 立て,OIIM(淡水)および 20mM,40耐 ,60mM,12011M NaCI溶 液 を潅水 して栽培 したホウレンソウに
,淡
水 と 1000ppmシ ュウ酸溶液 を葉面散布 した。その結果
,NaCl溶
液 の潅水 によ リホウレンソウ体内にNaが
存在 していて もシュウ酸 の葉面 散布 による生育阻害がお こり,Naが
シュウ酸 を無毒化するとした仮説は否定 された,第
4節
塩 水 の潅 水 が 光 合 成 速 度 お よ び 呼 吸 速 度 に お よ ば す 影 響ホウレンソウは秋冬野菜であ り
,生
育適温は15〜 20℃で,25℃以上では生育が困難 になると されている(香川,1974a)。 一般に,光
合成活性はそれぞれの植物の生育適温付近で極大値 を示す(沢田,1981)。 適温よ り温度が低 くなるほど光合成活性は低下 し
,同
様 に適温 よ り高温域でも活性 は低下する。ホウレンソウも同じ変化を示す と考え られるが
,低
濃度 の塩水 を潅水 した ホウレンソウの温度 と光合成速度 との関係は明 らかにされていない.そ
こで,塩
水 を潅水 した 場合 のホウレンソウの光合成速度 および呼 吸速度 を測定 した。材 料 お よ び 方 法
1996年
H月
か ら 1997年 1月 にかけて,鳥
取大学乾燥地研究センターのガ ラス室内でホウレ ンソウを栽培 した.1/2000aワ グネルポットに未耕作地の砂丘砂 を充填 し,H月
30日 にホウレンソウを1ポッ トあた り
6株
となるように播種 した。品種は,予
備実験 にお いて 20mM NaCI溶 液 の潅水で生育が促進 された ̀ア トラス(サカタのタネ)'と
促進 されなかった ̀オー ライ(タキイ種苗
)'を
用いた。施肥 は,元
肥 として苦土石灰(12g/ポッ ト),ミ
ネ ラル G(4g/ポ ッ ト)およ び化成肥料(NIP205:K20=2.8:2.6:2,7g/ボ ッ ト)を混合 した。潅水は播種後 40日 間は淡水 を用 い,その後 は淡水(OmMJと 20mM NaCI(20mM)を 各 々潅水 した
,播
種 60日 後 に人工気象室に搬入 し,光合成有効放射量約 450 μ mo1/m2/s,相対湿度60%に設定 した。温度条件は光合成速度測定時 には15℃
,20℃ ,25℃
および30℃の4段
階,暗
呼吸速度測定時には 10℃を加 えた5段
階 に設 定 した。測定には携帯式光合成蒸散測定装置を用い,ホ
ウレンソウを1時
間以上環境 に順応 させた後
,中
位葉 の中腹 について測定 した。結
果
潅漑水 中のNaCI濃度が光合成および呼吸速度 におよぼす影響 についてみた結果 は第
5図
の とお りである。呼吸速度は,両
品種 とも気温が高 くなるにつれて大 き くな り,品
種間差がな かった,光
合成速度 は20℃が最 も大きかった。品種および潅漑水の違 いについて見ると,15℃と20℃では差がないが
, ̀ア
トラス'に
20mM NaCIを潅水すると,25℃
では品種および潅水処 理 に対 して約l μ mOI CO/m2/s,30℃ では約 2 μ mol CO/m2/s光 合成速度が大 きかった。考
察
各気温 におけるOIIMと 20耐 NaCIの 呼吸速度 に差がないことか ら,20BIM NaClの 塩水 を潅水 した ̀ア トラス
'に
おいて,25℃および30℃での光合成速度が大きくなったのは,純
光合成速 度が大 き くなったためである。ホウレンソウは25℃以上の高温で生育が阻害 されるといわれている。また
,光
合成 の適温 は18〜 20℃である(香川,1974b)。 淡水潅水では
,両
品種 とも 25℃以上で光合成速度が低 下して お り,高
温 における生育阻害 を裏付 けている。 しか し,塩
水 を潅水することで生育が促進 され る ̀ア トラス'で
は,光
合成速度の低下割合が小さい。このことよ り,25℃以上 の温度条件で ホウ レンソウを栽培 した場合,個
葉 の光合成速度の差が乾物生産の差 となって現れていると考 え られ る。36
16
4 2 0 8 4 2