第5章 終止の形で用いられる「V-サセル」
5.3 複文の主節述語としての「V-サセル」
5.3.4 複文の主節述語としての終止の形の「V-サセル」が表す使役の意味(観点Ⅱ)
次に、連用の形の従属節をともなう主節述語の「V-サセル」が表す使役の意味を観点Ⅱか ら考えてみる。この場合も、5.3.2節でみた連用の形の従属節の表す事態が手掛かりになる。
まず、5.3.2.1でみた、(ア)動作要求的な働きかけ、(イ)態度的な働きかけ、(ウ)駆使・
選別、(エ)移動型が従属節として現れている例をみると、「V-サセル」文は、使役主体自身 が実現させたい事態があって、その事態の実現のために自ら動作を行わず、代わりに使役
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対象に動作を行わせるという意味を表し、《つかいだての使役》として解釈できるものがほ とんどである33。前にあげた例もそうであるが、次の例からもそのことがうかがえる。
(88) 東洋新聞ブースには小島だけがいて、デパートの販売促進課の担当者に電話取材して
いた。三年ぶりの「寒い冬」で、衣料品や暖房器具といった冬物商戦が活況を呈して いる。地方紙時代よく使ったネタを小島に指示してやらせていた。(半落ち)
(89) 「PX の横流し?」「そうよ。闇ドルを買い集めて、それで脱走兵なんかをそそのかし
てね、PXの品物を買ってこさせるわけ。それを、お酒でもタバコでも、闇市で高く売 ってたの」(地下鉄に乗って)
(90) さっそく庄九郎は、赤兵衛を奉行とし、地割りをさせ、材木を集めさせた。(国盗り物
語・斎藤道三)
(91) (合戦には負けたが外交で締めあげてやる)と、信秀は大得意だった。さらにかれは、
重臣の織田播磨守、竹腰道鎮の二人に人数をつけて大垣城に派遣し、美濃衆に加勢さ せた。(国盗り物語・斎藤道三)
(オ)授与型の場合、《つかいだての使役》と《みちびきの使役》のどちらも現れる。5.3.2.1 であげた(52)から(54)の例は《つかいだての使役》であり、(55)(56)の例は《みち びきの使役》と解釈できる。前にあげた例を再掲する。
(92) 影村は、なんとなく高飛車だった。加藤に、酒はすすめなかったが、空の盃を加藤の 前につき出して、彼に酌をさせた。(孤高の人)(=(52))
(93) 少年のころから道三が、「これからは鉄砲だ」と言い、堺から購入した鉄砲を光秀にあ
たえ、その術を練磨させた。(国盗り物語・織田信長)(=(55))
そして、次のようなものも、従属節の事態が授与型として解釈できるが、使役の意味とし て《みちびきの使役》を表している。
33 対象とした用例の中には、次のように《みちびきの使役》として解釈できるものもあるが、全体からす るとごく少数である。
・「息子さんはこの銀行のキャッシュカードを持っているわけですか」「はい。お小遣いが足りなくなっ たら、ここから引き出しなさいといって、持たせていました」ぼそぼそとした声で路子はいった。(さ まよう刃)(動作要求的な働きかけ)
・この間、庄九郎は諸将を毎日のように城内に詰めさせ、かれ一流の戦法を十分に習熟させた。(国盗り 物語・斎藤道三)(派遣型)
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(94) 星はパンフレットの「選挙大学」をくばり、その巻頭に印刷してある青年道徳法典の 個所を、声をあわせて朗読させた。(人民は弱し官吏は強し)
(95) 彼は私に教えて、左手を上にした持ち方からはじめ、腮当りへ腮を当てる具合や、歌
口にあてがう唇のひらき方、幅の広い薄片のような風をそこへ送るコツなどを、念入 りに習得させた。(金閣寺)
従属節の事態が授与型である場合、使役主体から使役対象に何らかの所有権が移行し、
それをもって使役対象に変化が生じる事態が多く現れ、どちらかというと《みちびきの使 役》を表しやすいように思われる。
一方、(カ)物理的な働きかけの場合、使役主体自ら使役対象に手を下して動作を行わせ ているものであるが、その動作の実現は使役主体自身のためのものではなく、使役対象の ためのものである。もう少し具体的にいうと、使役主体は使役対象に手をかけることによ って使役対象の目に見える状態変化、または精神的な変化を望んでいるのである。つまり、
これらは使役の意味(観点Ⅱ)として《みちびきの使役》を表している。5.3.2.1 であげた 例も含めて、次の例もそうである。
(96) 翔人は、よたよたと婆さんをカブまで運び、荷台に座らせた。(しゃぼん玉)
(97) 「杉丸、杉丸」とお万阿は手代の杉丸をひっぱってきて、廊下から室内を見させた。(国
盗り物語・斎藤道三)
次に、5.3.2.2 の従属節の事態が使役対象とかかわりのない使役主体の動作を表す場合に ついて考える。(ク)準備、(ケ)きっかけ、(コ)方法・手段、(シ)単なる継起、羅列、
対照的な事態の場合34、5.3.2.1 の使役対象にかかわる使役主体の動作に比べて、使役の意 味(観点Ⅱ)に顕著な偏りがあるとはいえない。特に、(ク)準備、(ケ)きっかけの場合、
《つかいだての使役》《みちびきの使役》のどちらの例もみられる。それぞれの従属節が表 す事態における《つかいだての使役》の例と《みちびきの使役》の例をあげる。
(ク)準備
(98) その時刻になると、金網の中から出てきた監理人が、紙屑を整理しながら集め、緑色 の袋につめて製図工二人にかつがせる。(戦艦武蔵)
34 (コ)方法・手段の一部、そして(サ)原因に関しては、「V-サセル」のVが無意志動詞であるため、
使役の意味(観点Ⅱ)から論じることはできない。
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(99) 体温を測ると三十八度だった。吟子は早速風邪薬を調合し氷枕を用意して志方を休ま せた。(花埋み)
(ケ)きっかけ
(100)「(前略)ある日、漁港の組合長が東吉の絵を見て気に入ってくれて、自分の漁船の舳 先にペンキで絵を描かせたんだ。(後略)」(GO)
(101)基一郎は、徹吉の弟であり上ノ山町では顔役である城吉をねぎらい、あちこち箱根の 山中を見物させた。(楡家の人びと)
従属節事態が(コ)方法・手段を表す場合、「V-サセル」が意志動詞である場合はそれほ ど多くないが、対象とした例を見る限りでは《みちびきの使役》を表している。
(102)わたくしはただ今、乏しい家計を割いて、節子にピアノを習わせた。(草の花・春)
(シ)単なる継起、羅列、対照的な事態の場合、従属節事態と「V-サセル」事態とで意味 的なかかわりがないため、従属節が表す事態によって表す使役の意味に特徴を見出すこと はできない。
以上の考察を踏まえ、連用の形の従属節を伴う「V-サセル」がどのような使役の意味を表 すのか、その分布を示すと次のようになる。
表 13:複文の主節述語の終止の形の「V-サセル」が表す使役の意味(観点Ⅰ)の分布
《引き起こし》 《許可》 《放任》 不明 合計
415 4 1 9 429
表 14:複文の主節述語の終止の形の「V-サセル」が表す使役の意味(観点Ⅱ)の分布
《つかいだて》 《みちびき》 不明 合計
190 101 76 36735
連用の形の従属節を伴う「V-サセル」の場合、従属節に使役主体の使役対象への働きかけ が具体的に明示されることが多いことから、ほとんどが《引き起こし》を表すといえる。
35 この合計は、Vが意志動詞である場合の合計である。
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しかし、動作の実現が誰のためのものかという観点Ⅱからは《つかいだての使役》と《み ちびきの使役》のどちらもみられ、偏った傾向はみられなかった。