第 6 章 「V-サセテヤル/アゲル」「V-サセテクレル」
6.1 対象とした用例、および考察方法
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とするため、これらの例を除くと、「V-サセテヤル」が 346 例、「V-サセテアゲル」が 128 例、そして「V-サセテクレル」が353例となり、合計827例が考察の対象となる40。
表 15:「V-サセテヤル」「V-サセテアゲル」「V-サセテクレル」の用例の分布
「V-サセテヤル」 「V-サセテアゲル」 「V-サセテクレル」 合計 使役主体と使役対象が
ともにヒト
346
(92.1%)
128
(97%)
353
(43.1)
827
(100%)
使役主体、もしくは使役 対象がヒトではない
30
(7.9%)
4
(3%)
312
(46.9%)
346
(100%)
合計 376(100%) 132(100%) 665(100%) 1173(100%)
① そこで、もう一つの方法が考えられる。それは、フタを持って、ビンの方を時計と逆の方向 に回転させてやる、という方法だ。こうすることで、相対的に見て(つまり、ビンを固定し て考えてやると)、フタは時計方向に回ったのと同じことになる。だから、閉まるのだ。(思 いがけないアンコール)
② 「誤解してもらっちゃ困る。俺は何とか息子の恋を実らせてやろうと考えているだけでね。
あんたたちの邪魔をするつもりは毛頭ない」(女王陛下のアルバイト探偵)
③ あの静けさが、そして山の木々の静寂な雰囲気が私の心を驚くほど落ち着かせてくれた。(ヤ マネコ山にのぼる)41
ところで、使役主体と使役対象がともにヒトである計827例の中には「V-サセテヤル/ア ゲル」には恩恵性42を表さない場合があり、「V-サセテヤル」に 78例、「V-サセテアゲル」
に4例、「V-サセテクレル」に5例で、全部で87例あった(④⑤⑥の例)。これを表にまと めると次のようになる。
40 なお、「V-サセテアゲテホシイ」のように、依頼のムード形式をともなっているものも考察の対象から外 した。
41 しかし、使役対象がヒトでない場合の多くは、使役対象の部分である場合が多く、典型的なモノらしい ものは少ないという傾向がみられる。つまり、「V-サセテヤル/アゲル」「V-サセテクレル」の使役対象は ヒト同様のものがほとんどであるといえる。
42 「恩恵性」について益岡(2001)に指摘があり、益岡(同:28)は授受動詞「やる(あげる)」「くれ る」「もらう」が「てやる(てあげる)」「てくれる」「てもらう」の補助動詞構文で現れる場合も「恩恵 性の萌芽がみられる」とし、これはすなわち「授受の対象である事態が当事者にとって好ましいもので ある」ということであるという。
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表 16:「V-サセテヤル」「V-サセテアゲル」「V-サセテクレル」の恩恵性の有無
「V-サセテヤル」 「V-サセテアゲル」 「V-サセテクレル」 合計 恩恵性あり 268 124 348 740
恩恵性なし 78 4 5 87
合計 346 128 353 827
④ 「ひどい目にあわせてやりたい」(砂の上の植物群)
⑤ まあ勝手に馬鹿にしていてください、あとできっと驚かせてあげますから。(一瞬の夏)
⑥ 「このへちま野郎ども」男の人足なら赤鬼はそうどなる、「あんまりいい気になってのさば ると、野郎ども石を担がせてくれるぞ」(さぶ)
本論文では6.2節から6.3節にかけて、恩恵性がうかがえる「V-サセテヤル」268例、 「V-サセテアゲル」124例、そして「V-サセテクレル」348例の、計740例を対象に、表す使役 の意味について考察する。そして6.4節では「V-サセテヤル/アゲル」「V-サセテクレル」の Vにどのような動詞が現れるのかその分布を示す。最後に、6.5節で恩恵性がうかがえない 各形式の例、計87例についてごく簡単にふれる。
ところで、「V-サセテヤル/アゲル」と「V-サセテクレル」は、誰のほうに視点をおいて述 べる文であるかという観点からは異なるものである。すなわち、「V-サセテヤル/アゲル」(「太 郎が花子にパソコンを使わせてやった/あげた」)は主語(「太郎」=使役主体)側からの表 現であり、「V-サセテクレル」(太郎が花子にパソコンを使わせてくれた))は対象語(「花子」
=使役対象)側からの表現である。このような視点の違いがあるものの、本章における考 察の観点からは両形式をそれぞれ別のものとして考察する必要がないと思われ、これらの 形を一緒にとりあげることにする。
6.2「V-サセテヤル/アゲル」「V-サセテクレル」が表す使役の意味(観点Ⅰ)
「V-サセテヤル/アゲル」、「V-サセテクレル」がどのような使役の意味を表すのか考えて みる。まず、使役主体が、使役対象の行うV という動作に対してどのようにかかわってい るのかという観点から考える。
6.2.1《引き起こし》
まず、「V-サセテヤル/アゲル」「V-サセテクレル」のVが意志動詞である場合、次のように
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従属節をともなって使役主体の何らかの働きかけが文中に明示されるものがある。
(1) 小さな子どもたちの「どうしても欲しい!」を「本当はそんなに欲しくないのでは?」
と否定してはいけませんが、十分な時間を与えて「欲しい気持ちが変わらないか」よ く考えさせ、「待つ楽しみ」と「待ったからこその喜び」を経験させてあげましょう。
(本当の金銭教育)
(2) ―そういやぁ、母さんも、エーシャナをかわいがってたなぁ。よく家船にあげてやっ て飯を食わせてやってたもんなぁ。」(虚空の旅人)
(3) お前をわしらの寝室に入れ、開け立てた扉の後に潜ませてやろう。(ディアナの森)
(4) 占有する地所に多少でも余分があれば、親は長子以外の子に与えて独立させてやりた いと願う。(ふくろうと蝸牛)
対象とした用例の中には、使役主体の使役対象への何らかの働きかけが明示されている ものはそれほど多くない。しかも使役対象への働きかけのあり方として、単純な「V-サセル」
形式に多く現れる「命令して」、「頼んで」のような動作要求的な働きかけはみられない。 「V-サセテクレル」に現れる使役主体の使役対象への働きかけも、「V-サセテヤル/アゲル」と同 様、「命じて」、「頼んで」のような典型的な働きかけは見られないものの、「V-サセテヤル/
アゲル」のそれに比べてやや動作要求的な働きかけに近いものがみられるのが特徴である。
(5) クリスマスになると近くの進駐軍キャンプの将校クラブが「かわいそうな孤児たち」
を招いて、腹一杯ごちそうをたべさせてくれた上、帰りにはチョコレートだの、ドロ ップだの、パーカーの万年筆だのをくださる。(本の枕草紙)
(6) 軍刀だけは、出征時に、義父が、伍長になると要るから、といって持たせてくれてい る。(新・秘めたる戦記)
(7) 彼らには、薫がウロウロするわけがわかっている。それで、おいでおいでと手招きし て、ちょっと冷蔵庫の扉を開けては中をのぞかせてくれる。(アフリカポレポレ)
(8) その自分を死から救ってくれたのが「彼女」なら、おそらくはその時の衝撃で記憶を 喪失したのであろう自分をこの町につれて来て、就職させてくれたのも「彼女」だっ たに違いない。(エディプスの恋人)
(9) 女郎の有力な客が、遊所へ若衆を呼んで、一緒に遊ばせてくれれば、女郎にとっても 嬉しいに決まっている。(江戸の男色)
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次の例は、従属節に使役対象にかかわらない使役主体自身の動作が文中に明示されてい るが、その使役主体の動作の対象があとに続く「V-サセテヤル/アゲル」「V-サセテクレル」
の動作の対象にもなっている。具体的にいうと、次の(10)の場合「(お好み焼きを)一生 懸命焼いて、(その)おいしいお好み焼きを食べさせてあげたい」という事態を表している。
(10) 「一生懸命焼いて、おいしいお好み焼きを食べさせてあげたい」と話すこの道40余 年の女性店主が焼く。(街ナビマップル広島)
(11) 妻は、これから大学へ卒業試験を受けに行く明雄のためにハムサンドイッチを作って 持たせてやる。(鳥の水浴び)
(12) はるゑさんはびっくりして家に飛んで帰り、食べ物を集めてきて、私たちに食べさせ てくださったそうです。(チョッちゃんが行くわよ)
(13) 花の名前をじつによく知っていて、私がたまに行くと得意そうに教えてくれたり、つ ぼみのふくらんだ花を新聞紙にくるんで持たせてくれた。(されど道づれ嫁姑)
従属節の 部分の使役主体の動作は、「V-サセテヤル/アゲル」動作に対するいわば準備的 な動作と解釈できる。
さらに、文中に使役主体が使役対象に動作を行わせる目的が明示される場合もある。
(14) 自分たちの仕事に意味を見いだせる人財を育てるためには、スタッフに問題解決経験 を積ませてあげることが大切である。(介護保険改正に勝つ!経営)
(15) また、自分のしたいことやりたいことが明確になりにくく、欲望も少ないので、積極
性も乏しくなる傾向があります。それゆえ、目標をはっきりさせるために、いろいろ な適度の経験をさせてくれる親、意欲を引きだしてくれる親を求めています。(究極の エニアグラム性格学)
また、文中に使役主体が使役対象に動作を行わせるなんらかのきっかけが従属節に現れ るばあいがある。
(16) また、藤の花を目の前に近づけ、微かに形と色がわかるらしく喜んでおられる。その 様子にわたしまで嬉しくなり、つつじや、ほかの花に手をふれさせてあげたり、匂い を楽しませてあげると、「花がいっぱい。いいところへ連れてきてくださってありがと う」との喜びようです。(ありのままの自分を生きる)