5.3 適応 H ∞ 視覚フィード バック制御則
5.3.2 補助入力の提案と漸近的特性の解析
5.3. 適応H∞視覚フィード バック制御則 49
証明 : 定理4.2の証明から行列Pを正定にするようにゲインが選ばれているならば,ν= 0 の場合に正定関数V = 12sTM s+ k2sλzwokfk2 の解軌道に沿った時間微分は,
V˙ +1
2kzk2−γ2
2 krk2 ≤0 を満足する. しかしν 6= 0ならば上式は,
V˙ + 1
2kzk2− γ2
2 krk2 ≤ξTν
となることは簡単な計算から明らかである. また−ξ → νは正定関数Vψに関して受動性 を満足する仮定から,
V˙ψ ≤ −ξTν が成立する. そこで,
Wψ =V +Vψ としてその解軌道に沿った時間微分を求めると,
W˙ψ +1
2kzk2− γ2
2krk2 ≤ξTν−ξTν = 0 (5.17) であり, この式は供給率 γ22krk2 − 12kzk2, 蓄積関数Wψとしたときの微分消散不等式であ る. よってシステム(5.15)はγ以下のL2ゲインを有する.
(Q.E.D.) この2つの補題は 2. 4 節で紹介した定理2.1を視覚フィード バックシステムの制御へ拡 張したものである. この2つの補題を利用して以下では適応H∞視覚フィード バック制御 則の提案と解析を行う.
50 第5章 視覚フィード バックシステムの適応H∞制御
証明 : すべての時刻T ≥0に関して,
Z T
0 (−ξT)Y( ˜ρ+p)dt =
Z T
0 (d
dt( ˜ρ+p))Γ( ˜ρ+p)dt =Vψ(T)−Vψ(0) (5.19) が成立することから自明.
(Q.E.D.) 補題 5.4 q˙∈L∞,a ∈L∞, v ∈L∞であるとき, Y(q,q, v, a)ρ˙ ∈L∞である.
証明 : リグレッサY と慣性パラメータρの定義から,
Y(q,q, v, a)ρ˙ =M(q)a+C(q,q)v˙ +g(q) (5.20) となる. マニピュレータダ イナミクスの性質2.1, 2.4, 2.5から
M(q)a+C(q,q)v˙ +g(q)≤mMkak+cMkq˙kkvk+gM (5.21) なるqに無関係な上限値を有する. ここで補題の仮定より,
mMkak+cMkq˙kkvk+gM ∈L∞ (5.22) である.
(Q.E.D.) 補題5.1と5.3, 5.4を利用すると, つぎの定理が導出できる.
定理 5.1 補助入力として,
˙
p=−Γ−1YT(q,q, αη, α˙ η)ξ˙
u=p (5.23)
を考える. ゲインK1, Γは正定対称行列, k2, αは正の数とする. またヤコビアンJpは正則 であるとする. ならばつぎの閉ループ系はリアプノフの意味で安定である.
M(q) ˙ξ=−C(q,q)ξ˙ −K1ξ+k2JpT(q)R(q)f+Y(q,q, αη, α˙ η)(p˙ + ˜ρ) f˙=−sλα
zwoRT(q)Jp(q)JpT(q)R(q)f − sλ
zwoRT(q)Jp(q)ξ−RT(q) ˙R(q)f
˙
p=−Γ−1YT(q,q, αη, α˙ η)ξ˙ (5.24)
その上t → ∞でf →0, ξ →0を満足する. またt→0でp˙→0となる.
5.3. 適応H∞視覚フィード バック制御則 51
証明 :
ν =Y(q,q, αη, α˙ η)(p˙ + ˜ρ)
と選ぶことにより,補題5.3から−ξ→νのシステムは, Vψ = 12( ˜ρ+p)TΓ( ˜ρ+p)に関して 受動的となる. またマニピュレータの関節はすべて回転関節であることを仮定するならば, Jp(q)の各要素はqの有界な三角関数のみで構成される. よってその特異値もまた有界であ る. つまり正定関数として
W =V +Vψ = 1
2ξTM(q)ξ+k2zwo
2sλ kfk2+ 1
2( ˜ρ+p)TΓ( ˜ρ+p) (5.25) を選ぶと, 補題5.1の証明よりWの解軌道に沿った時間微分は準負定関数となる. その上, f, ξ, ˙q, Vψの有界性も証明される. Vψはρ˜+pに関する二次形式であるから, ˜ρ+pの有界 性,つまりp∈L∞も確認できる.
なおその上,
η=JpTRf
˙
η= ˙JpTRf +JpTRf˙ +JpTRf˙= ˙JpTRf +JpTRf˙ + sλ
zwoJpTJpq˙−JpRf˙
である. 回転関節からのみなるマニピュレータに関してはJpとRはqの三角関数で与え られることから,
sup
q σ( ˙Jp) =jMkq˙k sup
q σ( ˙R) = rMkq˙k
なるqに依存しない有界なjM >0, rM >0を有する. よって, ηとη˙はkq˙kやkfkの関数 で与えられるqに無関係な上界を有する. その上, ˙q ∈ L∞, f ∈ L∞であるため, η ∈ L∞,
˙
η ∈L∞となる. これを補題5.4に適用すると,νの有界性が確認できる.
以上の議論から定理5.1は, つぎのように証明できる. リアプノフ関数候補として正定関 数W を選ぶ. この時間微分は準負定な関数となるのでシステム(5.24)のリアプノフ安定 性が確認できる. またνの有界性から補題5.1によりt→ ∞でf →0とξ→0となる. ま たp˙=−Γ−1YTξからp˙→0となる.
(Q.E.D.)
注意 5.1 システム(5.24)は漸近安定な平衡点を有していることは証明できていないこと
に注意する. fとξに関しては0へ収束することが証明できたのだがp+ ˜ρの0への収束, つまり不確かさの推定ベクトルpの真値ρ˜への収束が証明できていないことが問題である.
52 第5章 視覚フィード バックシステムの適応H∞制御
この問題はマニピュレータの適応制御で長年議論されてきている問題である[57]. 厳密 に漸近安定性を議論するためには, リグレッサY や慣性パラメータρの設定などに仮定が 必要であり, これらの議論は本研究の対象外である. よって適応H∞視覚フィード バック 制御問題の内部安定性として, リアプノフ安定かつt → ∞でf →0とξ →0 となること を採用した.
定理5.1より適応H∞視覚フィード バック制御則の候補として,
˙
p=−Γ−1YT(q,q, αη, α˙ η)ξ˙
τ=−K1ξ+k2η+Y(q,q, αη, α˙ η)(ρ˙ 0+p) (5.26) を考える. 次節では外乱入力が存在する場合, 制御則(5.26)のL2ゲインによる制御性能解 析を考察する.