本章では視覚フィード バック制御性能の評価基準としてL2ゲインを利用することを提 案し,L2ゲインを利用した制御性能解析を行った. まずマニピュレータダ イナミクスの特 徴とカメラモデルの特徴を利用することで漸近安定性を解析した. つぎに消散不等式を満 足する蓄積関数を漸近安定性の解析で利用したリアプノフ関数により与えることで, 従来 解析が困難であった非線形システムのL2ゲインによる性能を解析することが可能となっ た. そしてゲインの調整だけで,L2ゲインの大きさを指定できることを示した. 最後に実 機によりL2ゲインで制御性能をはかることの妥当性を示した.
ではL2ゲインの大きさをいったいどれだけ抑えればよいのかという疑問が生じるであ ろう. 定理4.2によれば,ゲインK1やαを大きくしていけばγはいくらでも小さくできる.
しかしながら,じつは実験で示したゲインAよりもそれぞれのゲインを大きくすると実際 にはさまざ まな問題が生じてきた.
• K1を大きくすると対象の追従時に過大なトルクが発生, 制御装置の安全装置が働い
4.5. おわりに 41
0 5 10 15 20 25
-0.2 -0.1 0 0.1 0.2
Time (s)
0 5 10 15 20 25
-0.2 -0.1 0 0.1 0.2
Time (s)
図 4.3: Angular Velocity (Gain A Case)
てしまうので実験が不可能となった.
• αを大きくすると,モータより発振音が発生し実験の続行が不可能となった.
まず過大なトルクが発生した理由としては, 今回考慮した問題は制御出力に制御入力を含 まないいわゆる特異なH∞制御問題となっていることがあげられる. これにより入力エネ ルギーを非常に過大にするような設計も許容してしまう問題設定となっている. 制御入力 も出力にもつ一般的なH∞制御問題への拡張は視覚フィード バックに限らずマニピュレー タ制御全般の課題である3. またマニピュレータの制御問題で注目を浴びている SP-D 制 御[6]もこの問題を解決する手段としては重要であろう.
αを大きくできない理由としては,いくつか考えられる.
1.制御則(4.7)はマニピュレータダ イナミクスを有する構造となっている. しかしマニ
ピュレータダ イナミクスのモデルの厳密な同定は非常に困難であり, 同定したダ イナ
3H∞逆最適化制御手法を利用し,マニピュレータの関節空間での制御問題に対して制御入力も評価する 方法を文献[46]で考察した.
42 第4章 2次元視覚フィード バックシステムのL2ゲイン制御性能解析
0 5 10 15 20 25
-0.2 -0.1 0 0.1 0.2
Time (s)
0 5 10 15 20 25
-0.2 -0.1 0 0.1 0.2
Time (s)
図 4.4: Angular Velocity (Gain B Case)
ミクスモデルには不確かさが存在する. その不確かさに対するロバスト性が確保でき ていない.
2.制御則の構造はいわゆる状態フィード バックを仮定している. しかしq˙やf˙などは差 分情報を利用して構成している. 差分情報では図4.3や図4.4をみてもわかるように 高周波の雑音などがのってしまう. またf˙はその観測には時間遅れが存在するなど, いわゆるモデル化されない動特性が存在する.
これらの不確かさに対するロバスト性の問題は扱いが非常に困難である. 線形システム におけるロバスト制御の研究においても, 近年ようやく解決しつつある問題であり, 視覚 フィード バックシステムも含まれる非線形システムに対してはまだまだ未解決な研究分野 である.
第 5 章
視覚フィード バックシステムの適応 H ∞ 制御
5.1 はじめに
本章ではマニピュレータダ イナミクスモデルの慣性パラメータの不確かさに対してロバ スト性を有する制御則を提案する. これは前章の最後に述べたモデルの不確かさに対する ロバスト性に関する問題の一つの解になる. 近年,非線形システムに存在するパラメトリッ クな不確かさの値を適応的に推定し,システムの安定性のみならずL2ゲイン制御性能を解 析する適応H∞制御が注目を浴びている[43]. その特徴は, 非線形システムの消散性に関 する理論と従来の適応制御を組み合わせることでパラメトリックな不確かさに対してロバ ストな制御則を導出することにある. しかし解析的に解を求めることが困難なハミルトン ヤコビ不等式を解くことが適応H∞制御においても要求されるために, 実システムへの応 用例は数少ない.
4章で提案した制御則(4.7)はもともと, Slotine と Liが提案したマニピュレータの関節 空間での適応制御則[69]を視覚フィード バックシステムに対応するように発展させたもの である. 例えば証明のポイントとなった変数変換
ξ= ˙q−αJpTRf
は, Slotineと Liが提案したマニピュレータの関節空間での適応制御則における変数変換 s= ˙e+λe
43
44 第5章 視覚フィード バックシステムの適応H∞制御
(ここでeは各関節の目標値との誤差,λは適当な正の値とする)に似た構造となっている.
つまり提案した視覚フィード バック制御則(4.7)を拡張することで,マニピュレータの慣性 パラメータの不確かさが存在する場合の適応制御則を構築することが可能であると思われ る. その上制御則(4.7)において, L2ゲイン解析を行うための蓄積関数も前章で考察した.
その蓄積関数とマニピュレータの適応制御に関する研究を組み合わせることで,パラメト リックな不確かさが存在する視覚フィード バックシステムの適応H∞制御を導出すること
がLuと Packardが提案した適応H∞制御の枠組みで可能であると考えられる.
本章の構成は次のとおりである. まずマニピュレータの慣性パラメータの不確かさの表 現法を紹介する. このパラメトリックな不確かさに対して, 制御則(4.7)に適応推定部を もうけた適応視覚フィード バック制御則を提案して,トルク外乱や対象の運動が存在しな い場合の内部安定性について議論する. そして前章の蓄積関数を拡張して, 適応H∞視覚 フィード バック制御則となる条件について考察し,シミュレーションによりこの制御則の 有効性について確認する.