第4章 小学校における図的表現の指導 体系と指導上の留意点
第2節 図的表現の指導上の留意点
2.図をかく指 に関して
教師が、児童に図をかかせる一つの理由は、「児童に図をかかせることによっ て、そこから新たな情報を取り出させ、立式させやすくするため」である。しか
し、実際には、図から情報を取り出し、立式するまでには、次のような段階を経 ると考えられる。
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文章題
文章題の状況をつかむ
・
図をカ、く
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図から新たな情報を取り出す
・
立弄する
第3章の分析から、問題C(文章題の数量関係を表す線分図に数値をはめ込む 問題)の成績の高い児童に、問題A(文章題内の数量関係を図にかかせる問題)
においてSuccessfu1 Diagramが集中していることがはっきりした。このことから、
児童の図がかけない理由として、図をかく以前の段階(状況をつかむ段階)に問 題があるのではないかと推察される。つまり、第3章の調査問題Cで1点や0点 の児童は、図をかく以前の、「文章題の状況をつかむ」ということができていな いのではないかと考えられる。そのような児童に対しては、図をかくという指導 を行う前に、文章題の状況をつかませるための指導が必要であると考えられる。
そのためには、どのような指導が必要であろうか。
ブルーナー,J,S,(1966)は、著書「教授理論の建設」の中で次のように述べて
いる。
《 いかなる知識の領域も、次の三つの方法で表すことができる。一つは、
ある結果を達成するのに適切な、一連の活動によるもの(活動的表象)、
二つは、ある概念を完全に定義づけするということをしないで、一連の
概括的な心像や図表によるもの(映像的表象)、三つには、命題を形成 したり変形したりするためのきまりや法則によって支配されるところの 記号体系から引き出される、一連の記号的ないしは論理的な命題による
もの(記号的表象)である。....かれはシーソーで、自分がもっと下へ おりたければ、中心から遠くへ移動せねばならないのだということを知 っている。もう少し大きな子どもになると、環をぶらさげてバランスが とれるようなモデルをつかうとか、図をかいてみるとかして、バランス ビームを心に描くことができる。バランスビームの「心像」はしだいに 精錬されてきて、直接関係をもたない細部はますます省略され、物理学 の入門教科書にみられるような典型的な図になっていく。》(pp.67−68)
つまり、ブルーナー,J.S.(1966)は、いかなる知識の領域も「活動的表象
(Enactive Representation)」、「映像的表象(lconic Representation)」、「記号的表 象(Symbolic Representation)」の三つの方法で表すことができ、さらに、その三つ
の方法も、活動的表象→映像的表象→記号的表象という順で発達していくという ことを指摘している。これは、各々の頭文字をとって、「EIS原理」と呼ばれ
るものである。
帯図、線分図、数直線は、ブルーナー .J.S.(1966)の分類から考えると、記号 的表象に含まれると考えられる。したがって、上記のEIS原理から、児童にと って記号的表象(帯図、線分図、数直線)が難しく理解しにくい場合、活動的表 象や映像的表象を使って指導することが有効であると思われる。
また、小学校国語科の指導の中では、物語の文の状況をつかませるために、よ く「物語絵」をかかせる。国語科においての物語の文の状況をつかむことと、算 数科においての文章題の状況をつかむこととの間には、かなり共通する部分があ
るものと考えられる。したがって、算数科においても、文章題の状況を具体的な 絵にかかせる指導は有効であると思われる。
以上のことから、文章題の状況をつかませるための指導として、次のようなこ とが考えられる。
・文章題が表す状況を実際に行ってみたり、文章題が表す状況の劇を演じさ てみたりする指導(活動的表象)。
・文章題の状況を情景図や場面図にかかせる指導(映像的表象)。
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多くの教師は、難しい問題(複雑な問題)に対して、児童に図をかかせること で問題の状況をつかませようとする。しかし、実際には、問題の状況をつかんで
いないと図はかけないと思われる。したがって、第3章の調査問題Cにおいて、
0点や1点をとる児童に対して、4点や5点を取る児童と同じようにして図をか く指導を行っても意味がないのである。
一・方、第3章の調査問題Cの成績の高い児童は、既に問題状況をつかむことが できていると考えられる。そこで、これらの児童に対しては、帯図、線分図、数 直線のかき方を指導する必要があると考えられる。
上記のことから、児童が、文章題の解決において、図的表現を利用できない理 由には、児童のレベル沿った段階があると考えられる。したがって、図の指導に は、その段階にあった指導をする必要があると思われる。
おわりに
本研究では、算数科における図的表現、特に、帯図、線分図、数直線に焦点を 当て、これらに対する児童の困難性の原因究明のため、先行研究の概観、実態調 査から考察を行ってきた。
まず、中原忠男(1995)の算数・数学における表現様式の研究から図的表現と 記号的表現の特性を抜き出し、それらをもとにして、一図、線分図、数直線の表 現上の特性を考察した。
次に、三三表現に対する児童の困難性を具体的に明らかにするために、以下の 3点についての調査を実施した。
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その結果、主に次のような点が明らかになった。
A.児童がかく図は、現実的状況の代理的表現が多い。
B.3単位の数直線を使った問題は難しい。
C.離散量を扱い、文章題の状況と演算が逆になる問題が難しい。
上記の原因として、筆者なりに次のような解釈を行った。
A.現実的状況の代理的表現が多い理由としては、「児童は、対象を抽象 化したり、記号化したりして表現することが苦手である」ということ と、「計図や線分図などのかき方についての明示的な指導がされてい ない」ということが考えられる。
B,3単位の数直線を使った問題が難しいのは、2単位や5単位の数直線 に比べると、3単位の数直線は、1目盛りの単位を同定することが難 しいからであろう(除法との関連)。
C.文章題の状況と演算が逆になる問題が難しいのは、文章題の状況と演 算が逆になるために、文章題に述べられている数量関係がよみとれず、
線分図を数量関係をよみとるために利用しないからであろう。
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さらに、児童が問題解決の場で図をかくことができない理由としては、以下の ようなことが考えられるのではなかろうか。
・児童が問題解決の場で、図をかくことができないのは、図のかき方を知 らないという理由以外に、文章題の状況がつかめていないという理由が
ある。
問題解決の場で図的表現(三図、線分図、数直線)を使うことができるように させることは、児童の問題解決能力を高めるものと考えられる。本研究から、筆 者は、なぜ児童が文章題解決において図的表現(帯図、線分図、数直線)を使え
ないのか、に対するいくつかの原因を指摘することができたものと思う。
しかしながら、本研究において指摘した事柄が、図的表現に対する児童の困難 性の原因の全てをいいつくしているわけではない。これから教授実践のなかで、
新たに顕在化してくる原因もあるだろう。
また、いくつかの原因を指摘できたものの、その原因に対する指導法の改善策 については、まだまだ不十分である。それは、現時点では推測による提案の域を 出ないからである。例えば、第4章で指摘した指導法については、その指導法を 実際の学校現場で行うことによって、はじめて、その指導法の妥当性や限界が明
らかになるものであろう。児童の反応は様々である。その児童の反応によっては、
第4章で指摘した指導法以外に、新たな指導法を開発していかなければならない とも考える。
これらの課題に早急に取り組み、小学校算数科における、児童の問題解決能力 を少しでも向上させたいと考えている。
最後になりましたが、本研究を進めるにあたり、細部にわたって適切な教示な らびに示唆を与えてくださり、最後まで懇切丁寧なご指導をしてくださいました 國岡高宏先生に心より感謝申し上げます。
また、本研究に対して調査の機会を快く与えてくださいました静岡市立面豊田 小学校の4年部の先生方及び4年生の児童の皆様、さらに、研究全体にわたり、
貴重なご助言を賜りました矢吹治一先生、崎谷眞也先生、山田篤史先生はじめ数 学コースの諸仏生方に、感謝申し上げます。
そして、兵庫教育大学での貴重な経験の機会を与えてくださいました静岡県教