第五章 ソロン・エヴェンキの牧畜経済におけるジューの役割と意義
第六節 ジューの役割
1. 草刈り労働と⼤型機械の導⼊
調査地の牧畜⺠は請負した⼟地「草場」を主に草刈地として使⽤している。⼤きけれ
ば
300ha
もあり、⼩さければ80ha
程度を請け負っている。牧畜⺠にとっては、草刈りと放牧をし、また⽜舎に留まって⽜を飼育するのが主な活動である。乳⽜は搾乳の必要か ら、常に屋敷地にある畜舎で飼育されている。秋には、請負地は草刈り場として越冬⽤の 飼料草を取るために使われる。毎年
8
⽉から9
⽉中旬までは越冬⽤の牧草を刈り、その 後、次の春に新芽が⽣えるまで家畜放牧に使われる(草地を休ませるため放牧しないこと もある)。このような牧草地の利⽤の仕⽅は、⼟地の請負制度が導⼊されてから現れたと 考えられる。「草場」である牧草地は「共有地」と違って各世帯の専属利⽤地として各区 画が各世帯に特定されて家畜は⼟地区画間を⾃由に移動することができなくなった。この ために、越冬⽤の牧草は世帯毎に確保する必要が⽣じた。共有地では季節と関係なく常時 家畜を放牧することができる。世帯毎に牧草を確保する必要性が⽣じたものの、秋の越冬⽤飼料の草刈り作業はいくつかの世帯の協同作業で⾏われる。J01の事例で、草刈り場の
⾯積は約
900
畆を持つ牧畜⺠QL
の場合、草刈りから草の運搬が終了するまで本⼈及び雇⽤労働
4
⼈で約20
⽇間労働する必要がある。また、⼩型トラクターにつける機械の燃料 費、労働者の⾷費などを含めておよそ3500
元を必要とする。このほか、刈り取った草の3
割が雇⽤労働者3
⼈の労賃として⽀払われていた。⼝頭契約の内容によっては労賃とし て草の5
割を払うこともあった。ところが近年、草刈り作業に⼤型機械を導⼊したこと によって、外部から労働者を雇⽤することが徐々に減った。QLは以前、⼩型トラクター81
などで草刈りをしていたが、調査時には⼤型トラクターを持っていた。本⼈の請負地は
900
畆に過ぎないが、J01のジューの請負地は合計で7120
ムーあり、⼤型機械を有効活⽤している。
最初は、⼤型草刈りの機械を持つ者が⾃分及びジューの他のメンバー草刈り作業を短 期間で済ませて、その後はガチャーの他の住⺠の草刈り作業に雇われていた。こうした機 械やオペレーターの提供によって秋の草刈り作業を通じてかなり稼げるのである。そのた め、⼤型草刈り機械が⾼額にもかかわらず、年々増えて今はガチャーには
17
セット(⼤型トラクターと梱草機、1セット当たりおよそ
55
万元以上)の⼤型機械がある。17のう ち12
セットの⼤型機械はジューのメンバーが所有している。⼤型トラクターは梱草機と セットで所有される。購⼊額がトラクターだけでも⼀台当たり20
万元を超える資⾦が必 要のため、所有者の数は多くない。以下の表は、機械の所有者とその台数、機械の相互貸 出をまとめたものである。表 17 機械の所有者とその台数
世帯番号 世帯成員⽒名
機械(台)
トラクター 草刈機
AL001 WLTY、JFX、DZ、JXL 1 1
AL003 CGDM、QMG、DBSL 5 3
AL010 HSSR、SBD、SRY、XF 1
AL013 GRL、SRN、HQT、BYDLGE 1 1
AL015 QCS、QZY 1
AL020 AR、HQL、TQ 1
AL022 ADBH、GRL、AJ 1
AL024 JBC、WCM、JYF、JYH 2 2
AL025 ADBLG、TN、TM 2 2
AL028 WLGRL、QCL、ZG、ALT 2 2
AL030 BLD、ADSCL、XJL 1 1
AL031 GDQ、GY 2 1
AL033 HSL、AL、HN 2
AL034 HGJL、SY、QJ 4 2
AL035 CHJ、CF、XF 1
AL036 CHS 1
AL037 TD、ALY 2 1
AL041 SYLQQG、ERQ 1
82
AL042 BHSR、QQG、ALMS、ANMD 1 2
AL044 SRGL、WRLG、ENRLT 1 2
AL047 AEMS、DYS、WRH、DTR 1 1
AL048 BYT、QB 1 1
AL051 HM、GQ、BHS 1 1
AL052 SYLT、WRQMG、MD、ML 2 3
AL054 SDET、TXM、WRH 1 1
AL055 MHL、WRQMG、BLR 2 1
AL062 EHBT、ERGJM、HSBTR、BLJ 3 1
AL064 WXH、WL、WHY 1
AL065 NRGW、CGJL、NHY、DN 1
AL066 NRTY 1 1
AL070 NR、TL、HLMJ、HYL、AH、NDH 1
AL071 JFY、HT、SH 1
AL073 AN、SRT、ADBL、YR 1 1
AL074 TMQL、NRGRL、WRH、JY 2 1
AL076 HBSGET、NRTY、MG、MQL 1
AL077 GSJ、JM、KXY、XH 2
AL079 TMRBG、GRLM、QLMG 1
AL081 WJ、NM、YJ 1 1
AL083 SYLBH、NRTY、AW、AM 3 1
AL086 TMR、ZL、NMY 1 1
AL087 TML、EHX、DRX、HSF、DCY 1 1
AL089 HBSHET、GRS、SS、LXH 1 1
AL091 GRLBT、WXH、THX 1
AL093 NRH、JMS、ANR 1
AL096 SYLBTE、HX、ZGF 1 1
AL098 SPLM、LY、LKX 1
AL100 MRZB、NRG、HN 1
AL101 GXJ、NRGRL、GM 1 1
AL102 TLG、ARS、WRH、HSTY 1 1
AL103 BTTMR、WYQMG、AD、DN 2
AL110 QCY、SRGW、WR 1
AL119 QCL、GRL、QSZ、SM 1 1
出所:調査より筆者作成。
83
表 18 ⺠族別に⾒た⼾籍種類
⼾籍種類 ⺠族 世帯
農業⼾⼝
エヴェンキ族 194
ダグール族 17
モンゴル族 19
ロシア族 1
漢族 6
満州族 2
計 239
⾮農業⼾⼝
エヴェンキ族 73
ダグール族 12
モンゴル族 8
ロシア族 8
回族 1
漢族 10
計 112
(空⽩) エヴェンキ族 7
ロシア族 1
総計 359
出所:ヒアリング調査より筆者作成。
表 19 ⼤型機械の種類と所持台数
⼤型機械 併⽤機械
⼤⾞ 梱草機 草刈機 楼草機 トラクタ
ー
AL028 1 1 2 2 2
AL096 1 1 3 2 3
AL047 1 1 4 3 4
AL070 1 1
AL083 1 1 3 2 2
AL037 1 1 2 1 2
AL103 1 1
AL024 1 1 2 1 2
AL108 1 1 3 2 3
AL064 1 1 1 1 1
AL043 1 1 1 1 1
SDET 1 1 3 2 4
CHM、WZH 1 1 1 1 1
PTG 1 1 2 1 2
AL042 1 1 2 1 2
AL053 1 1 1 1 1
AL003 1 1 2 2 2
CGJL 1 1 1 1 1
NRH 1 1 2 2 2
EH 1 1 2 2 1
SS 1 1 4 3 3
JM 2 1 3 2 3
出所:調査より筆者作成。
84
また、⼤型機械を持つ世帯へ改めて聞き取りをし、どのような種類の⼤型機械をどの ような台数所持しているかをまとめた結果は、表
19
の通りである。⼤型機械を所有しないジューのメンバーは請負地で草刈りをする時に、同じジューの メンバーに依頼し、草刈りをしてもらう。草刈り作業の期間中の⾷費などは特に⽀払われ ることなどないが、実費の燃料代は現⾦で払っている。⼤型機械を所有する⼈は、より広 い⼟地で草刈りをして乾草をより多く獲得でき、ジューメンバーの無償の草刈り労働⽀援 を得られる。
草刈りは毎年秋の⼤きな作業になる。以前のように世帯別で草刈りをする場合、⼈件 費⽤と時間がかかる。ジューに参加(を編成)すると⼤型トラクター等を持っているメン バーの機械をほぼ無償で借りることができ、800畆程度の草刈りの作業は
3
⽇間で完成可 能になる。⼤型機械の所有者も、必要な時にメンバーの労働⼒の融通を得られるなど機械 を有効に活⽤できることになる。多くの⼈件費と時間を節約できる。これはジューの編 成・参加誘因として⼤きいと考えられる。2.
⽺の放牧ジューに参加している世帯は
66
世帯で、ガチャー全体の請負地13
万弱畆の7
万畆程 度を占めている。以下の表20
のジュー毎の請負地⾯積を⾒ると、J08、J14、J01の3
つ のジューが7000
ないし13000
畝と⼤きな⾯積を占めており、そのほかは3000
ないし4000
畝と⼩⾯積である。ジューの
J03
とJ08
の事例を⾒ると、⽜や⽺の飼育頭数が最も多く、牧畜を重要な⽣業としていることがわかる。しかし、世帯の粗収益はともに
23
万元前後で、ほぼジュー の平均的な⽔準である。J03は、請負地⾯積が⽐較的⼩さい8
世帯からなるジューだが、1745
頭の⽺を飼育していた。⽺は5
世帯の所有者のもので、⼆つの⽺の群れを構成して いた。調査時の観察では、J03は彼らのジューメンバーの請負地に2
のオトルを設けて2 郡の⽺を各々で放牧していた。J02、J04、J05、J011、J012、J15-18のジューは、⼤型85
トラクターを所有していない。これらのジューの請負地は⽐較的が⼩さく、家畜もほとん ど持っていない。J01、J08、J014の
3
つのジューは家畜が多く、機械も⽐較的多く所有 している。請負地⾯積が特に⼤きいJ08
は⼤型機械を多く所有している。表 20 ジューの世帯、⼟地、トラクター、収⼊にみる構成
ジュー 番号
世帯数(軒数)
請負地
⾯積(畆)
⼤型トラクター
(所有台数)
粗収⼊
(万元/ジュー)
粗収⼊
(万元/世帯)
J01 7 7120 2 531 75.9
J02 5 3288 0 206 41.2
J03 8 3680 3 185 23.1
J04 2 1600 0 6 3.0
J05 4 4100 0 15 3.8
J06 7 4065 1 314 44.9
J07 2 3100 0 17 8.5
J08 4 13200 2 91 22.8
J09 2 2400 1 32 16.0
J10 4 2206 1 66 16.5
J11 3 2200 0 5 1.7
J12 3 600 0 6 2.0
J13 2 2306 1 11 5.5
J14 4 9040 1 34 8.5
J15 2 3100 0 6 3.0
J16 3 2200 0 7 2.3
J17 2 3777 0 16 8.0
J18 2 2000 0 55 27.5
ジュー合計 66 69982 12 1603 2402
ジューを構成
しない世帯 72 58419 5 1159 16.1
全世帯総計 138 128401 17 2762 2418.1
出所:世帯別調査のデータを基に筆者作成。
請負地に建てられるオトルは、簡易なテントや移動しやすい移動家屋を置き、常時⽺
の放牧場として使われている。エヴェンキ⾃治旗の総⾯積は
19111
㎢であり、期域内の エヴェンキや他の⺠族は代々域内の牧草のよいところに沿って移動し、放牧してきた。⽺の放牧には最⼩でも
2
⼈の牧夫が必要とされる。⽺を所有する世帯では家族1〜2
⼈でオ トルに出て放牧をするか、「ホニチン(⽺管)」と呼ばれる牧夫を雇ってオトルに駐在さ せる。7世帯からなるジューJ01では5
つの世帯の⽺が1
群れにされている。この5
世帯 からは2
⼈だけが⽺のために労働可能で他にガチャー外からきているホニチンを2
⼈雇 って合計4
⼈でオトルに出ている。このように⽺の放牧には、常時誰かの監視労働が必86
要だが、ジューを構成している牧畜世帯は、そのメンバーの誰かに委託して⽺を飼育して もらう傾向がある。そのことで、乳⽜の舎飼い労働や搾乳、牧草の確保などの労働⼒を確 保しているようである。それができない個別経営では、⽺の放牧頭数を減らさざるを得な い。
秋の草刈り終了後、⽜と⽺はしばらく「共有地」や「草場」両⽅に放牧されるが、草 原が完全に⼤雪に覆われる厳冬季には⽺でも畜舎に⼊れて飼育することが少なくない。オ トルから畜舎への移動時は、バイクで家畜を追いつつ、トラクターで引くキャンピングカ ーで⽬的地に移動する。
以上で⾒てきたように、Aガチャーにおける家畜の放牧及び飼育は⽣産活動としてロ ーカルな慣習的知識と技に頼るものである。同時に、この⽣産の過程では牧草地など資源 の利⽤をはじめ、牧畜経営においてジューのような社会関係が⼀定の役割を果たしてい る。 ⽇常の労働、必要な機械の購⼊や利⽤、共同作業が必要な放牧や草刈りなどで、ジ ューが重要な機能を担って、請負制度の下での様々な変化への対応を可能にしていると考 えられる。