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第五章 ソロン・エヴェンキの牧畜経済におけるジューの役割と意義

第六節 ジューの役割

3. ジューの分析

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要だが、ジューを構成している牧畜世帯は、そのメンバーの誰かに委託して⽺を飼育して もらう傾向がある。そのことで、乳⽜の舎飼い労働や搾乳、牧草の確保などの労働⼒を確 保しているようである。それができない個別経営では、⽺の放牧頭数を減らさざるを得な い。

秋の草刈り終了後、⽜と⽺はしばらく「共有地」や「草場」両⽅に放牧されるが、草 原が完全に⼤雪に覆われる厳冬季には⽺でも畜舎に⼊れて飼育することが少なくない。オ トルから畜舎への移動時は、バイクで家畜を追いつつ、トラクターで引くキャンピングカ ーで⽬的地に移動する。

以上で⾒てきたように、Aガチャーにおける家畜の放牧及び飼育は⽣産活動としてロ ーカルな慣習的知識と技に頼るものである。同時に、この⽣産の過程では牧草地など資源 の利⽤をはじめ、牧畜経営においてジューのような社会関係が⼀定の役割を果たしてい る。 ⽇常の労働、必要な機械の購⼊や利⽤、共同作業が必要な放牧や草刈りなどで、ジ ューが重要な機能を担って、請負制度の下での様々な変化への対応を可能にしていると考 えられる。

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た。乳業などの資本設備、特に牧草の確保などで⼤型トラクターの必要性がジューの編成 要因になっていると⾔えよう。

さらに、⽜の飼育頭数を決定している要因が何かを検討した。説明変数としてジュー 編成、牧草地⾯積、⼤型トラクター、畜舎⾯積、牧畜従事者⼈数を説明変数として分析し た。牧草地⾯積、⼤型トラクター、畜舎⾯積、牧畜従事者⼈数が有意であり、飼育頭数牧 増加には草地もさることながら⼤型トラクターや畜舎など⾼額の投資が重要であることが うかがえる。⽺の分析も同様に試みたが、有意であった説明変数は牧畜従事者数と⼩型ト ラクターであった。ほとんどの期間放牧をして⼿間をかけない⽺の場合、若⼲の監視と春 の⽑刈りのための労働⼒と軽作業に必要な機械がヒツジの飼育頭数を決める要素であろ う。

また、⽜乳販売収益を得ていた世帯は

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件であった。⽜乳の販売額を決定するのに 重要なのは⽜の頭数と従事者数であることがわかる。

⽇々の搾乳作業には家族労働が重要であることの表れであろう。⼗分な家族労働がな ければ搾乳を継続するのは難しい。⽜の確保のためには、様々な農業機械が重要であり、

また草地⾯積もしかりであるが、基本的には⽜の場合は舎飼いであり、⼟地そのものもさ ることながら飼料たる牧草の確保が必要である。その確保のためには、各世帯は⼩型のト ラクターなどを⼀般的に利⽤してきたが、そのような作業を請け負うなど⼤型のトラクタ ーの導⼊の傾向が強まっている。

本論⽂では、Aガチャーにおける牧畜業の経済状況を家畜頭数・構造、牧草地利⽤、

家畜の飼育技術の

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つに分けて考察した。そこから得られた知⾒は次のようにまとめる ことができる。

まず、家畜の頭数や構成から⾒ると、Aガチャーの状況は、フルンボイル地域全体の 牧畜経営と⽐べて独⾃の特徴がある。つまり、フルンボイル地域全体の牧畜は家畜の販 売、中でも⽺の販売を中⼼とする中・⼤規模の牧畜経営であることに対して、Aガチャー では⽺の⾷⽤品としての価値を重視しており、主な収⼊は⽜乳の販売という酪農経済的側

⾯が強い。とはいえ、酪農経済という単純な経済構造ではなく、幾つかの収⼊源を持ち、

⼩規模牧畜を中⼼としながら多様性に富んだ経済活動を営むことが特徴的である。しか し、中国全体の経済発展に利⽤される⽯炭など再⽣不能資源の開発が進む中で、経済構造

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の⼤規模化・単純化が進んでおり、⼀時的な経済的利益の背後に⻑期的経済の脆弱が隠さ れていることが⾒られる。

A

ガチャーにおけるジューの役割を考察した。それをまとめると次のようなものであ った。経済発展とともに⽜乳の販売額が増加し、⽜の飼育頭数が増加、それに伴って飼料 である⼲し草の必要量が急増した。そのための草刈り労働の負担が急増した。草刈り労働 は、⼿作業の草刈りから、機械利⽤に代わり、2000年代以降には⼤型機械の導⼊が始ま った。2009年から

A

ガチャーでは⼤規模な⽯炭開発が⾏われ、請負地の徴⽤により⼀部 の世帯に⾼額の補償⾦が⽀払われた。これは

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つの変化をもたらした。畜舎を新たに建 設し、⼤型トラクターなどの草刈り⽤機械の購⼊がすすんだことと、⽺の飼育が盛んにな ったことである。しかし、すべての世帯が⾼額の機械をセットで購⼊できるわけでない。

世帯の請負地⾯積が⼩さく家畜頭数の少ない、家族内における牧畜従事者の不⾜など、世 帯別に牧畜経営を維持するのに困難な世帯がある。本研究では、このような困難を克服す るための組織的な対応が観察された。そして、親族関係を基礎に編成されるジューのメン バー間では、⼤型機械の貸し出し、労働⼒の補充、家畜の預かりなど集団利⽤が容易にな り、調査地の乳業を⽀えていることがわかった。

これらのことから、牧畜経営の新たな展開が、伝統的なエヴェンキの親族関係を再起 動させることでジューが編成され、個別対応では難しい牧畜経営上の課題を克服している ことが明らかとなった。そして、世帯を単位とした⼩規模牧畜を中⼼としながらも、⼟地 や機械資本労働の集団利⽤協⼒作業を可能にしていることがわかった。

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結論

第⼀節 要約

本研究は、中国の経済発展に伴って著しい変化にさらされているソロン・エヴェンキ 社会を対象とした。急速に変化する社会経済情勢の中、中国の少数⺠族と位置づけられて いる彼らは⽣業とする牧畜をどのように営み、急速に変化した⼟地制度のもとで牧畜を⽀

える⼟地をどのように管理しているかを検討し、伝統的な親族関係がどのような影響を受 けているのかを明らかにしようとしたものである。

本研究では、調査地の

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の世帯を観察した結果、18のジューが観察された。これら

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のジューを中⼼に分析し、牧畜を⾏う中でジューが形成される要因とその役割が何か を検討した。牧畜エヴェンキの地域を対象に、ヒアリング調査を主な研究⼿法とし、収集 した

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世帯のデータを⽤いてソロン・エヴェンキの牧畜経営がどのように⾏われ、そ こで⼈々は如何なる課題をめぐって協⼒しあっているのかを具体的に明らかにした。

近年、⼀部公開されている公⽂史料を利⽤した歴史学的研究が盛んであるが、現在の エヴェンキの牧畜社会を対象として取り上げて考察する研究はほとんどなかった。中国に おける⼈類学者による研究は⿅飼育を営むオルゴヤ・エヴェンキにとどまっており、牧畜

⽣業を始めとする経済やコミュニティ内部における社会関係の変化が著しいソロン・エヴ ェンキについてはほとんど研究されていない。本研究はエヴェンキの⺠族誌研究に重要な

⼀筆を貢献したと考えられる。

第⼀章では、課題の設定、課題の背景、エヴェンキの親族関係に着⽬する理由、及び 研究の⽅法とデータ収集に関して詳しく報告し、調査ガチャー(村に相当)の概要を

1.

⼈⼝流⼊と婚姻状況、2.集落と居住様式、3.⼆重⽣活の発⽣とその要因という点から紹介 した。

第⼆章では、エヴェンキに関する少数⺠族政策と、現在まで研究されてきたエヴェン キ族の⺠族誌概要に関して先⾏研究を踏まえながら報告した。そして、エヴェンキの⽒族 制度、現⾏⺠族政策、教育と⾔語、⾏政機構とその他制度について論じた。

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第三章では草地政策と牧畜政策について論じた。中国では⼟地は国有である。内モン ゴルでも牧畜⺠を含む⼈⺠に国有地が提供され、それぞれ決められた利⽤⽬的で農業や牧 畜を営んでいるが、本章ではこれらの政策について説明した。

第四章ではソロン・エヴェンキ社会に観察される親族関係のジューの編成について詳 細に分析した。親族関係の呼称と特徴、ジューの編成原理、⽣産・財産関係にみる活動単 位という点に分けて論述をした。特に牧畜と家畜管理、⼟地管理と財産配分に関して調査 データ⽤いて検討した。

第五章は、エヴェンキの⼈々が具体的にどのように⽣業を営み、どのように取り組ん でいるかを検討した。特にエヴェンキの⽣業の柱である牧畜業に着⽬し、その基本である 家畜の飼育管理、⼟地利⽤について論じた。牧畜経営の現状と親族間の協⼒関係の顕われ

⽅を考察し、現代エヴェンキの社会経済的特徴を明らかにした。親族間の⼟地、家畜の管 理及び財産配分などの点に注⽬して、彼らはモホンをコアにしたジュー集団を新たに再編 成していることが分かった(那孫孟和、⽶倉等

2017)。本研究では、社会変化に伴う困

難を克服するための組織的な対応が観察された。そして、親族関係を基礎に編成されるジ ューのメンバー間では、⼤型機械の貸し出し、労働⼒の補充、家畜の預かりなど集団利⽤

が容易になり、調査地の乳業を⽀えていることがわかった。これらのことから、牧畜経営 の新たな展開が、伝統的なエヴェンキの親族関係を再起動させることでジューが編成さ れ、個別対応では難しい牧畜経営上の課題を克服していることが明らかとなった。そし て、世帯を単位とした⼩規模牧畜を中⼼としながらも、⼟地や機械資本労働の集団利⽤協

⼒作業を可能にしていることがわかった。

第⼆節 研究課題に対する結果と総括

これまでエヴェンキの伝統的関係により編成される組織及び共同体が具体的にどのよ うに成されているかは⼗分な検討がなされてこなかった。そこで、本論⽂は経済発展の過 程で新たに編成される集団組織というものがどのように成されているのかを、エヴェンキ の先⾏研究を踏まえながら検討し、その上でその集団がどのような役割を担っているのか を明らかにした。本研究はこのような事例の⼀つとしてジューに注⽬した。ジューは親族

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