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胃癌の体系から眺めた診断

ドキュメント内 資料 富山消化管撮影研究会 2011text web0810 (ページ 86-90)

第 8 章 胃癌取扱い規約に関して 76

9.4 胃癌の体系から眺めた診断

図9.2 胃癌臨床診断の基本概念

第9 胃癌X線診断の取り組み方 86 角の観点から病変を再検討することによって,判読の結果をある程度修正することができ

る.また,2)1つの検査によって得られた良質の資料による診断を基準として,他の良質 でない資料の所見を胃癌の三角を通して補い,より確かな診断へ導くことができる.資料 の所見から得られた診断と胃癌の三角からみた診断との間に矛盾が生じた場合は,病変を よりよく描出すべき所見に焦点を合わせて再検査することができる.これらのことから,

胃癌の三角は胃癌臨床診断のいわば安全装置(fail-safe system)の役割を果たすと述べて いる.

癌組織型と肉眼型の関係については前述したので,ここでは癌発生の 場 から見た胃 癌の三角についてその概略を述べる.

9.4.1.1 癌発生の[]から見た胃癌の三角

腸上皮化生のない胃底腺粘膜を限界づける線 をF境界線, 胃底腺粘膜が巣状に出 現する領域を限界づける線 をf境界線と定義する.十二指腸側のF境界線は幽門腺粘膜 と胃底腺粘膜の境界線,口側のF境界線は胃底腺粘膜と噴門線粘膜の境界線である.これ が胃本来の粘膜状態である.このような胃固有の粘膜には,腸上皮化生が発生する.腸上 皮化生の発生様式は,一般に,はじめは小彎側の幽門腺粘膜,ついで,噴門腺粘膜に腸上 皮化生腺管が巣状に発生する.腸上皮化生巣は幽門前庭部・噴門部で増加し,やがて小彎 側から前後壁にある胃底腺粘膜にも発生するようになる.腸上皮化生の程度は加齢ととも に著明となっていく傾向がある.腸上皮化生巣が胃全体の粘膜に波及するようになると,

胃体部は腸上皮化生粘膜の中に巣状に散在する胃底腺粘膜といった状態になる.一般に,

F境界腺は加齢とともに腸上皮化生によって胃上部大彎側へ移動する(9.3)

■ F境界線の肉眼的同定 粘膜ヒダを指標にすることで,おおよそのF境界線の位置を知 ることができる.切除胃におけるF境界線は粘膜ヒダが消失するところを結んだ線と一 致する.胃粘膜の萎縮は,F境界線の型から通常型と萎縮型に分けられる.

■ X線的なF境界線の同定 適当な空気量で撮影された二重造影像で描出された粘膜ヒ ダを指標に行う.すなわち,写し出された粘膜ヒダの途切れた端を結んだ線がX線なF 境界線に相当する(9.4)

ところで,二重造影像の粘膜ヒダを指標としたF境界線の推定は,粘膜ヒダの現れ方 が空気量によって変化するところに問題がある.この問題を解決するには,二重造影像に おける粘膜の模様すなわち胃小区像と合わせて判読する必要があろう.胃小区像と胃粘膜 の萎縮程度との関係は図9.5に示したごとくである.すなわち,萎縮が軽度な胃底腺粘膜 の胃小区像は大型で多角形,幽門腺粘膜は類円形であり,粘膜萎縮と共に円形化・小型化 し,顆粒間の胃小区間溝も拡大する傾向が認められる.また,粘膜萎縮の程度と腸上皮化 生の程度は相関する.

図9.3 腺境界(F)の経時的移動 中村による

図9.4 X線ならびに肉眼的なF境界線の推定

第9 胃癌X線診断の取り組み方 88

図9.5 背景粘膜の組織構成と粘膜面の画像(胃小区像) 馬場らによる

9.4.1.2 F境界線内部領域の癌

胃底腺粘膜領域では良性の消化性潰瘍は稀である.したがって,単発の潰瘍病変に対し ては,まず癌しかも組織発生からは未分化型癌であると見なしても誤る確率は低い.この 領域にはlinitis plastica型癌(以下,LP型癌と略)が含まれ,その早期診断のためには標 的病変である2cm前後の潰瘍合併のない未分化型癌のIIc型を発見することが必要であ る.中村(恭)はLP型癌を発育時期から前LP型癌,潜在的LP型癌,典型的LP型癌 に分けている.もちろん,LP型癌にも癌発生から間もない極微小癌(2mm以下),発 育初期と言える微小癌(2-5mm)あるいはそれより大きな粘膜内癌の時期がある.極微 小癌(2mm以下)では癌細胞は胃底腺粘膜の表層1/2の腺頚部近傍に限局して存在し,

粘膜表面にビランはなく,健常上皮で覆われており,肉眼的にはIIb型である.径5mm 以下の微小癌では肉眼的には局所的な粘膜萎縮ないしは微小ビラン,内視鏡的には褪色粘 膜ないしは微小ビランとして認められる.径5mmより大きい粘膜内癌あるいは早期癌で は陥凹面,境界,ヒダに未分化型癌に特有な所見が認められる.前LP型癌は潰瘍合併が なく,癌浸潤が粘膜下層に浸潤している時期の癌,潜在的LP型癌は粘膜下層以下をビマ ン性に浸潤しているが癌浸潤に伴う繊維化が弱く,胃壁の収縮がないかあってもその範囲 は局所的である.また,この時期では原発巣に潰瘍が生じるので,臨床的に発見される機 会が多くなる.典型的LP型癌は癌の深部浸潤部では癌浸潤に伴う繊維性組織の増生と収 縮のため,胃壁の大部分は肥厚して硬くなり,胃の全体は管状狭搾を来す.

LP型癌の特徴は原発巣が潰瘍化する前に粘膜下組織へ浸潤していることである.LP 型胃癌へと発育する癌は,胃底腺粘膜領域から発生した未分化型癌で肉眼的にはIIc型の 粘膜内癌であり,その大きさが径2cm前後あるいはそれ以下で,原発巣の潰瘍化に先行 して癌細胞が粘膜下組織へ浸潤した場合に.LP型胃癌へ発育進展するとみなすことがで きる.その可能性は,胃底腺粘膜領域に存在する未分化型癌で潰瘍化のない粘膜内癌の頻 度(0.4)と粘膜下組織以下への浸潤頻度(0.7)の積0.28(0.4Ö0.7)に求められ,その相対 頻度は約30%になる.以上のことから,中村(恭)はlinitis plastica型癌を早期に発見 するには,胃底腺粘膜領域に存在する原発巣の大きさ2cm以下の粘膜ヒダ集中のない未 分化型癌のIIc型を発見する必要があるとしている.しかし,原発巣の大きさが径2cm 以下の癌では,粘膜下組織を広範に広く拡がっている潜在的LP型癌が多く含まれること から,臨床的早期発見の標的病変の大きさを径1cm以下と修正している.いずれにして も,LP型癌の臨床診断にとって大切なことは,癌発生から典型的LP型癌に至るまでの 発育過程における形態変化を知ることである.

9.4.1.3 F境界線外部領域の癌

この領域は組織学的に腸上皮化生を伴う粘膜,あるいは幽門腺粘膜から成り立っている ので未分化型癌と分化型癌の両者が発生する.腸上皮化生の程度は年齢・性によって異な るので,若年者の胃癌の三角と高齢者の胃癌の三角に分けることもできよう.その際の若 年者と高齢者を区別する年齢については,以下のようになる.すなわち,腸上皮化生の程 度あるいはF境界線(通常型と萎縮型)の観点からは,男性では30-40歳代,女性では

40-50歳代とすることが適当であろう.

9.4.1.4 F境界線近傍の癌

本領域は,胃底腺粘膜と幽門腺粘膜との境界であり,一般には腸上皮化生の弱い領域で ある.したがって,この領域は胃固有粘膜から成り立っているとみなしてもよく,ここか ら発生する癌の組織型は大部分が未分化型癌である.

ドキュメント内 資料 富山消化管撮影研究会 2011text web0810 (ページ 86-90)