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X 線 ( エックス線 )

ドキュメント内 資料 富山消化管撮影研究会 2011text web0810 (ページ 41-46)

第 3 章 撮影装置 34

3.9 X 線 ( エックス線 )

X線写真とは,物体あるいは人体を透過したX線によって写真上に作られる目に見え る記録画像である.

X線とは,高速で動いている電子がある物体に衝突した時に生ずる電磁放射線の一種で あり,電気的,磁気的作用をもつ.可視光線とおなじく,波動や粒子としての性質があり,

1秒あたり約300,000kmの速さで進む.波長は可視光線のそれよりも短く,医療用X 写真として使用できる波長の範囲はおよそ0.01−0.05nmで,可視光線の1/10,000程度 である.波長が極端に短いために,可視光線を吸収あるいは反射する物質でも透過するこ とができ,身体の内部構造の観察や研究を可能とする.最も簡単な発生手段は,固定陽極 X線管(3.3)である.陽極と陰極の間にkV(キロボルト)単位の高い電圧(管電圧) かけると,加熱された陰極フィラメントから放出された電子が陽極側のターゲットに衝突 し,電子のもつエネルギーの約1%X線として発生する.この電子が衝突する部分を 焦点という.フィラメントの温度が高いほど,放出電子量は多くなりX線管を流れる電 流mA(管電流)も大きくなる.電圧が高いほど,電子の速度は大きくなり,発生するX 線の強度は高く,波長は短く,透過力は大きくなる.また,電圧が高いほどエネルギーの 大きなX線光子が多くなる.ただし,発生するX線のエネルギーや波長は必ずしも同じ とは限らない.

■ 焦点 焦点とは,加熱されたフィラメントから放出される電子がターゲットに衝突する 部分である.電子流の拡がりが小さいほど,その領域は小さくなる.焦点の大きさは,X 線画像の形成に重要な影響を及ぼす.他の条件が同じ場合,焦点が小さいほど画像の鮮鋭 度が高くなる.逆に,小さい焦点よりも大きい焦点のほうが大きな熱に耐えることがで きる.

■ ラインフォーカス原理 一般的なX線管球のフィラメントの形状は,細長い形をして いることから,放出される電子流も細長い長方形の形に集まる.ただし,ターゲット面の 傾斜を15−20度とすることで,受像器側からターゲットをみると見かけ上の正方形とな る.ラインフォーカス(線焦点)原理という.焦点の寸法は,受像面に投影された見かけ 上の焦点の大きさで表示されている(実効焦点).すなわち,焦点サイズが公称0.8mm

図3.3 固定陽極X線管

図3.4 ターゲット面の角度と線焦点原理

管球とは,電子流がターゲットに衝突する面の大きさではなく,受像面に0.8×0.8mm の正方形に投影される管球をさす.実際の焦点と実効焦点との関係を図3.4に示した.

■ 回転陽極 陽極の耐熱容量を大きくするために,回転陽極X線管が開発された.円盤 状の陽極は管の中心を軸として回転し,電子流が円盤周囲の傾斜部分に当たるように陰極 フィラメントが配置されている.陽極が高速回転することによって,つねに円盤の冷たい

第3 撮影装置 42

図3.5 回転陽極X線管()と回転陽極を正面から眺めたシェーマ()

領域に電子が衝突するので,熱は輪状の焦点軌道に分散され,耐熱性が高い.固定陽極X 線管の約1/6以下の焦点面積にすることができるとされる.

■ X線 強 度 固 定 陽 極X線 管 や 回 転 陽 極X線 管 の タ ー ゲ ッ ト 面 は ,陰 極 に 対 し て 普 通 15−20度の角度がついている.角度を小さくするほど実効焦点も小さくできる(3.6) が,現実的には照射野とX線強度の観点で限度がある.角度が小さくなる程,照射野は減 少する.また,ターゲット表面と平行に近い角度で移動するX線は,垂直に近い角度で放 出されるX線に比べて強度が低いために,ターゲット角度が小さくなるほど陽極側のX 線強度が低下する.

■ 管 電 圧 X線 管 の 基 本 構 成 は ,高 電 圧 ト ラ ン ス ,陽 陰 極 性 を 維 持 す る た め の 整 流 器 , フィラメント用電源と制御装置,およびタイマーなどであり,陽極側には正の高電圧が,

陰極側には負の高電圧がかかる.加熱フィラメントから放出される負の電荷をもつ電子 は,負電圧の陰極には跳ね返され,正電圧の陽極に引きつけられる.すなわち,管電圧で 陰極から陽極に流れる電子の速度を調節する.管電圧が高いほど電子は速い速度で陽極に ぶつかり,発生するX線のエネルギーおよび強度は大きくなる.

■ 管電流 陰極から放出される電子の数は,陰極フィラメントの温度で調節する.フィラ メントの温度が高いほど電流,すなわち電子流をつくる電子数は大きくなる.X線管では 1秒間に流れる電子の数の単位としてmA(ミリアンペア)が用いられる.一定の管電圧の 際に発生するX線強度は,管電流に関係する.つまり,1秒間に流れる電子数が2倍にな るとX線強度も2倍になる.

図3.6 ターゲット面の角度と実効焦点

図3.7 ターゲット面の角度と照射野およびX線強度

■ 高電圧(発生装置) X線装置の大部分においてX線管球にかかる電圧は絶えず変化し ているために,1回の曝射に関与する電子はすべて同じ速度で焦点に衝突している訳では ない.電気エネルギーのほとんどは60(50)Hzの交流で供給されており,電子の流れは1 秒間につき60回向きを変えていからである.すなわち,60Hzの交流で電気が供給され ている場合には,図3.8の上図に示すように,電圧は0V から1/240秒後に正の最大値に

達し,1/120秒後には再び0V に戻り,次に1/80秒後には負の最大値に達し,サイクル

開始から1/60秒後に0V に戻る.最大電圧となるのはほんの一瞬であることがわかる.

一般的に高電圧発生装置では数100V の電圧を変圧器で昇圧しすると同時に,整流器

第3 撮影装置 44

図3.8 電圧波形

(コンバータ)により交流を直流にかえて,つまりX線管内の電子流が常に陰極から陽極 に向かうように制御している.すなわち,図3.8の中図に示すように,負の部分を折り返 した状態で1/60秒間に2回のピークをもつパルス状の電圧が発生することになる.単相 2ピーク型高電圧発生装置とも呼ばれる.当然,放出されるX線もパルス状で波長も異な り,X線写真の形成に必要なエネルギーをもつものは,それらのうちの一部だけとなる.

3相の交流電源を用いれば,図3.8の下図のように重なりあった3つの波を得ることが できる.たくさんのパルスが重なり合うことによって,単相のように0V になることはな く,X線の発生効率も良い.管電圧の最低値はピーク時にくらべて,36パルス(ピー ク)の場合で約13%312パルス(ピーク)の場合で約3%程度の低下率しかなく,X 線の平均エネルギーも単相より高い.

近年では直流電流を交流電流に変換するインバーター(逆変換装置)を組み込むことで 高周波の交流を作り,これを整流することで,管電圧の立ち上がり特性を向上させ,さら に安定した電圧を発生する装置が主流となっている.供給電源は,単相,3相ともに使用 できる.

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