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組織学的解剖 9, 10, 12)

ドキュメント内 資料 富山消化管撮影研究会 2011text web0810 (ページ 60-64)

第 4 章 被曝に関することがら 48

5.2 組織学的解剖 9, 10, 12)

図5.9 X線的な収縮輪(矢印) (背臥位二重造影正面位のX線像)

第5 胃の解剖 60

図5.10 幽門前庭部ないしは前庭部と幽門前部 (太矢印:収縮輪 幽門前部に分布する輪状筋により形成される)

噴門腺粘膜は,重層扁平上皮である食道粘膜と接している(5.11).噴門腺は幽門腺 と極めて類似しているが,幽門腺粘膜と比べると,腺管密度が低い.また,食道の粘膜固 有層にも噴門腺が見られるが,胃噴門腺と区別して食道噴門腺と称される.一方,食道腺 は食道の粘膜下層に存在し,導管が粘膜筋板を貫いている.

胃底腺粘膜には,表層の約4分の1に腺窩上皮が,深部約4分の3に副細胞,壁細胞,

主細胞からなる固有胃腺が認められる.副細胞は腺頸部近傍に多く見られ,壁細胞は中部 に密集し,主細胞は腺底部に多い.副細胞は粘液性頸細胞ともよばれ,細胞質内に粘液顆 粒が充満し円柱状である.塩酸を分泌する壁細胞は,立方形ないしは三角形で,細胞質は エオジンに好染し赤い.主細胞は立方状で,HE染色では赤紫色を呈する.これら3つの 細胞はいずれも幹細胞から分化したものである.腺窩上皮への流れは表面側を向いている

図5.11 噴門腺粘膜と食道粘膜

のに対し,これらの流れは深部側を向いている.

幽門腺粘膜では,表層の約2分の1に腺窩上皮が,深部2分の1に幽門腺が認められ る.胃底腺と比べて幽門腺は群をなして配列していることが多い.幽門腺の細胞は立方状 で,細胞質には多量の粘液を有するのでHE染色では明るく,核は扁平で基底膜側に位置 している.時に,少数の壁細胞も見られる.

なお,胃の上皮は単一管状腺管や分枝管状腺管で構成される. 腺窩上皮 や 固有腺 とはひとつの腺管の部分的な名称である.腺窩上皮は表面に近いほど表面上皮の形態に近 く,深部では幹細胞に移行している.幹細胞は,表面に近い腺窩上皮の細胞と比べると丈 が低く,ヘマトキシリンで濃染する核を有している.上皮を新生する能力があり,表面上 皮や胃腺に分化する機能を有することから,本細胞が配列している腺頸部を増殖帯と称す る.胃底腺粘膜の顕微鏡像を図5.12に示す.

図5.12 胃底腺粘膜の顕微鏡像(弱拡大)

粘膜筋板は,粘膜と粘膜下層を境する平滑筋の層で,筋の伸縮により粘膜表面の凹凸に 関係する.近傍にはリンパ濾胞が観察されることもある.内輪筋と外縦筋の2層に分け ることができ,最小動・静脈やリンパ管が粘膜筋板を貫いている.粘膜下層は疎な結合織 で,線維細胞,膠原線維,弾性線維と大小の動静脈,リンパ管,神経叢などからなる.ま た,少数のリンパ球や好酸球も観察される.固有筋層は,内斜筋,中輪筋,外縦筋の3 からなり中輪筋が最も厚い.内斜筋は食道の内層筋と連なり,胃上部の前後壁を走行す る.中輪筋は,幽門輪の部分で発達し幽門括約筋となる.外縦筋は,食道の外層筋と連な り特に小彎,大彎部を胃の長軸方向に走行する.中輪筋と外縦筋の間には,Auerbach

第5 胃の解剖 62 経叢がある.漿膜は胃の最外表を覆う一層の立方上皮で,腹膜表面を覆う中皮細胞と同じ

細胞で構成される.漿膜下層は薄く疎な結合織である.

X線的に胃粘膜の質を診断するための指標が数多く報告されている.中村はその著書

12)

において,組織学的に腸上皮化生のない胃底腺粘膜領域を限界づける線をF境界線,

胃底腺粘膜が巣状に出現する領域を限界づける線をf境界線と定義し,肉眼的には粘膜ひ だの消失するところを結んだ線がF境界線にほぼ一致すると述べている.本知見をX 診断に応用した報告は多い.杉山ら6)は,組織学的なF線がX線的なF(5.13) 小彎側に存在する傾向があることから,X線的F線より大彎側の領域は腸上皮化生のない 胃底腺粘膜領域とみなすことができるとした.西山ら7)は,切除標本における肉眼的な F線と組織学的なF線の位置を対比した結果,組織学的なF線は大彎側方向に離れて存 在する傾向にあるとし,萎縮型を示すものでよりその傾向が顕著になると報告している.

このことは,ある程度の萎縮が生じた胃粘膜の場合,組織学的なF線をX線的に診断す ることの難しさを表している.そこで,馬場ら8, 7)は胃小区を示すX線的な顆粒像に着 目した.すなわち,胃底腺粘膜領域の胃小区像は基本的に角形から円形で,顆粒間の開大 や粘膜萎縮による顆粒変化は軽度であることを明らかにし,X線的なF線近傍あるいは それより大彎側の領域の胃小区像に円形から類円形顆粒,小顆粒から微細顆粒,顆粒の大 きさと形に不均一さが認められる場合には,腸上皮化生のない胃底腺粘膜領域よりも中間 帯粘膜を考える必要があると報告している.なお,F(f)線は,腸上皮化生の有無による固 有腺粘膜の質の違いを考慮して定義された線lineであり,領域area(面積)はない.一方,

腺境界(中間帯粘膜)は,形態や機能の異なる固有腺粘膜の境界部分であり,領域(面積) がある.用い方に留意するべきであろう.

5.2.1 胃粘膜の萎縮と腸上皮化生

粘膜上皮が減少したり消失したりする現象を,胃粘膜の萎縮という.胃底腺や幽門腺な どの胃固有腺の数や密度の減少を指すことが多い.臨床的には,慢性萎縮性胃炎として観 察され,粘膜の炎症に続いてみられる胃粘膜の形態変化である.組織学的には,固有腺の 密度や腺窩上皮と固有腺が占める面積比により判定される.萎縮は年齢とともに強くな り,固有腺の萎縮とともに粘膜固有層の炎症細胞浸潤,浮腫,リンパ濾胞,平滑筋の増生 が種々の程度に認められる.一般的に,幽門腺粘膜は胃底腺粘膜と比べて萎縮性胃炎を起 こしやすく,胃の肛門側から口側方向に萎縮が進行する.胃底腺の萎縮により粘膜ひだが 減少ないしは消失するが,これは粘膜を構成する腺管密度の低下に由来していると考えら れる.逆に,幽門腺粘膜には萎縮が認められず,胃底腺粘膜にびまん性の高度の萎縮が認 められる場合もある.悪性貧血で見られる萎縮はこのタイプである.この場合,胃底腺粘 膜の炎症細胞浸潤が乏しいとされる.

一方,胃の粘膜に腸上皮に類似した粘膜が認められる場合があり,これを腸上皮化生粘

図5.13 背臥位第1斜位二重造影像におけるX線的なF 粘膜ひだの肛門側起始部を結ぶ仮想線をX線的なF境界線とする.

膜という.その組織学的特徴は,吸収上皮,杯細胞およびパネート細胞である.吸収上皮 は遊離面に刷子縁を有している.杯細胞は,粘液顆粒が細胞質内に充満して杯状に丸く腫 大した細胞である.パネート細胞は,主に腺底部に認められる.細胞質内にはエオジンに 染まる顆粒を有している.このパネート細胞を有する腸上皮化生を完全型,パネート細胞 のない腸上皮化生を不完全型と称する.中村12)は,幽門腺粘膜の小彎側,および幽門腺 粘膜と胃底腺粘膜の接する部位(腺境界)近傍の幽門腺粘膜が腸上皮化生の初発部位であ り,多中心性に発生した腸上皮化生粘膜は幽門前庭部の前後壁および胃底腺粘膜へと漸次 拡大していくと述べている.その程度は,年齢が増加するに従って著明となる.

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