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第 4 章 被曝に関することがら 48

5.1.1 胃の区分

5.1.1.1 胃癌取扱い規約における胃の区分

胃の区分には従来より多数の分類がある.本邦では胃癌取扱い規約?)4)に定められた 区分(5.4)がよく用いられている.本規約は,胃癌患者の病像を正確に記録し解析する ことで,胃癌の診断法や治療法などの向上が可能になるとの考え方に基づいて編集されて おり,胃癌原発巣の観点から占拠部位を(1)胃の3領域区分と(2)胃壁の断面区分に分け て記載することとしている.すなわち,胃の大彎および小彎を3等分し,それぞれの対応

図5.3 胃壁の断面写真

胃角部前壁にあたる切片.写真右側が口側,左側が肛門側

図5.4 胃癌取り扱い規約に定められた占拠部位 (胃癌取扱い規約第14版 金原出版 p61,2より引用)

点を結んで,胃をU(上部)M(中部)およびL(下部)3つの領域に分け,E(食道)なら びにD(十二指腸)への浸潤も記載する.また,胃壁の断面区分では,小彎,大彎,前壁,

後壁および全周を区分し,これらを小(Less),大(Gre),前(Ant),後(Post),周(Circ) で表す.ただし,胃のX線読影診断では所見や病変の位置を表現するために,別の区分が 用いられることが多い.

5.1.1.2 読影診断における胃の区分

成書や研究者によって区分や名称が異なっている.そこで,図5.5には近年の読影診断 において一般的に用いられている区分と各部の名称を示した.ここでは,噴門部,穹隆 部,体部,胃角,胃角部,前庭部ないしは幽門前庭部および幽門前部を区別している.各 部の呼称に前壁,後壁,小彎,大彎などの壁在を表す用語を組み合わせて,所見や病変の 位置を特定する.より詳細に, 胃角部寄りの前庭部 や, 前壁寄りの小彎 などと表現 することもある.

噴門部とは,胃の最も口側の部分をいう.食道胃境界線から噴門腺の存在する上下2cm

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図5.5 X線読影診断における胃の区分

の領域を 噴門部と する西ら11)の定義が一 般的であ る.ただし ,組織学的 な噴門腺 の存 在領域をX線的に特定することは難しく,食道筋層と胃筋層の境界である食道胃接合部

(EGJ)X線的同定も同様に難しい.胃癌取扱い規約第14版には,His角を胃壁に沿っ

て延長した線や胃大彎の縦走襞の口側終末部をもって同定するとの記載があることから,

この境界線から口側2cmの領域を食道側噴門部,肛門側2cmの領域を胃側噴門部(図 5.6)と表現することが多い.

図5.6 胃側噴門部の領域

なお,タイミングよく撮影された食道二重造影像では,扁平上皮である食道粘膜と円柱 上皮である胃粘膜との境界(食道胃粘膜接合部,EGMJ)陰影が描出される.図5.7は,立

図5.7 立位第1斜位食道下部二重造影像

位第1斜位で撮影された下部食道の二重造影像である.胸部下部食道から腹部食道の境界 付近に鋭利に波打つ線状陰影(EGMJ:白矢印)が描出されている.線状陰影に一致する 右後壁側には,わずかな凹み像(黒矢印)が認められる.なお,胃上部の二重造影像では,

胃の入口部が開いたり閉じたりすることによって,様々な所見を呈する.富松ら5)は,特 に腹臥位第1斜位(上部)二重造影像における胃入口部の表れ方を閉鎖期,半閉鎖期,開 口期にわけて明らかにしている.すなわち,閉鎖期には噴門ひだ間に造影剤が溜まること によって,放射線像の線状陰影が観察される.半閉鎖期には,この線状分離像にHis角の 接線像である半月状陰影が交叉して写し出される.閉鎖期や半閉鎖期の二重造影像では,

食道胃粘膜接合部を示す不規則な波状の陰影が線状分離像の胃側に描出されることが多 い.開口期には,線状分離像は消失し半月状陰影のみがあらわれる.この時期には,食道 胃粘膜接合部が直接的に描出されることは少ない.ただし半月状陰影の起始部を結んだ仮 想線近傍,すなわち仮想線の胃側10mm以内,食道側5mm以内の範囲に食道胃粘膜接合 部があるとされる.図5.8に胃入口部各相のX線像を示した.

穹窿部とは,頭側の膨隆した領域である.解剖学的には,背臥位で最も背側に位置する ことから胃底部とも呼ばれる.立位では胃の下極,いわゆる胃角部付近を胃底部と呼ぶこ ともあるので注意を要する.NPO日本消化器がん検診精度管理評価機構の胃がんX線検 診技術部門テキスト作成作業部会(以下,作業部会)では,これらの混乱を避ける目的で,

図5.5のように穹窿部と表現した方が良いと考えている.

体部とは,胃の中央部で口側から肛門側にかけて下行する広い領域である.体部を3 分し,口側より体上部,体中部,体下部と称する.この部の前後壁や大彎側には,蛇行し

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図5.8 胃入口部各相のX線像(腹臥位第1斜位二重造影像)

左より,閉鎖期,半閉鎖期,開口期.矢印は食道胃粘膜接合部.点線は半月状陰影の起始部を結ぶ仮想線.

た粘膜ひだが観察される.なお,粘膜ひだの位置と形状は固定的なものではなく,胃の伸 展具合により変化する.胃粘膜と固有筋層の伸展度の差,および胃粘膜を構成する腺管密 度の差に起因すると考えられる現象である.X線検査や内視鏡検査では胃内の空気量を 変えることで,切除標本では胃壁をひっばる強さを調節することで,粘膜ひだの位置や形 状が変化する.しかし,伸展を解除するとほぼ元の形状に戻る.すなわち,不可逆的に変 化することはごく稀であるし,進展前後の粘膜ひだ形状は相似している.これは,胃粘膜 や固有筋層の体積と腺管密度が一定であることと,胃壁を構成する血管,リンパ管,神経 組織が,その本来の役割とは別に支持的な役割を果たしていることが要因と考えられて いる.

胃角と胃角部は使い分ける必要がある.胃角とは,体部小彎に続く右上方への屈曲部を 指す.胃角部とは胃角から大彎側に拡がる扇形の領域である.他の部位と同様に,胃角部 の境界線も明確には定義されていない.

胃角部に続く領域の区分法や名称も研究者によって差が見られる.そこで作業部会は,

X線的な収縮輪(5.9)の口側領域を幽門前庭部ないしは前庭部とし,収縮輪よりも肛門 側領域を幽門前部と呼称する区分・名称案(5.10)を運営委員会に提案中である.なお,

X線的に収縮輪が観察されない場合もあることから,胃側噴門部が食道と胃の境界から肛 門側2cmの領域であるのと同様に,(幽門)前庭部と幽門前部の区別には幽門輪から口側 約2cmの位置が適していると考えている.

図5.9 X線的な収縮輪(矢印) (背臥位二重造影正面位のX線像)

ドキュメント内 資料 富山消化管撮影研究会 2011text web0810 (ページ 55-60)