第 4 章 Mo,B 両元素添加による高強度化
4.4 考察
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Fig. 4.10 Optical micrographs of specimen performed water quenching after sintered.
They were quenched in the water from 1373 K for 3.6 ks. The white dot line indicates prior β grain boundary.
4.4.24Mo-0.4B-HIP材の延性低下要因
Fig. 4.7で示したように,4Mo-0.4B-HIP材は密度が向上しているにも関わらず,
延性が低下した.これについて原因を調査するため,XRD(X-ray diffraction)に よる相同定を実施した.その結果をFig. 4.11に示す.4Mo-0.4BについてHIPの 前後にて相組織の比較を行ったところ,α+βの二相組織であり,Ti3Al 等の脆化 相の析出は確認されなかった.このXRDパターンのピーク位置から,α 相のA 軸,C軸とβ相のA軸の格子定数を算出した結果をTable 4.3に示す.4Mo-0.4B-4h に対して,4Mo-0.4B-HIP はわずかに各軸の格子定数が増加していることがわか る.表の下段には,文献14,15)よりTi-6Al-4Vの焼きなまし材および1173 Kから の水冷を施した溶体化処理材の格子定数の数値を引用しているが,水冷を施す ことで α 相および β 相の格子定数が増加することがわかる.この格子定数増加
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の原因は主にα’マルテンサイトの発生によるものである.今回行った4Mo-0.4B のHIP処理による各軸の格子定数の増加量は,Ti-6Al-4Vの水冷による各軸の格 子定数増加量のおおよそ 1/10 となっており,格子定数増加の傾向は一致してい る.今回実施したHIP処理ではHIP処理後の冷却にGas fan coolingを使用して おり,冷却速度が炉冷と比較すると速いために α’マルテンサイトが発生し,強 度の上昇と延性の低下を引き起こしたものと推察される.また,4Mo-0.4B材の みが延性低下した原因として,4Mo-0.4B材はMoの添加によってβ 変態点が低 下しており,焼入れ性が向上しているために,Ti64と0.4B材では問題にならな
かったα’マルテンサイトの発生に至ったと考えられる.
Fig. 4.11 XRD patterns of 4Mo-0.4B-4h and 4Mo-0.4B-HIP
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Table 4.3 Lattice constants of 4Mo-0.4B-4h, 4Mo-0.4B-HIP and references.
Lattice constant [Å]
α phase β phase A axis C axis A axis
A: 4Mo-0.4B 2.935 4.687 3.242
B: 4Mo-0.4B-HIP 2.936 4.689 3.250
Difference(B - A) +0.001 +0.002 +0.008
C: Ti-6Al-4V14) 2.927 4.676 3.228
D: Ti-6Al-4V(900℃⇒WQ)15) 2.931 4.696 3.299
Difference(D - C) +0.004 +0.020 +0.071
その他の要因として旧 β 粒の影響が考えられる.伊藤らの結果では MIM 製
Ti-6Al-4V-4Mo合金焼結体の焼結時間を延長すると旧β粒が粗大化するために延
性が低下するとの報告がある 16).そこで,EBSD による旧 β 粒の観察を実施し た.β相のみを表示したIPFマッピング像をFig. 4.12に示す.HIP処理によって 旧β粒は粗大化していることが確認できる.今回,HIP処理の処理温度としては,
Ti-6Al-4Vのβ変態点1273 K以下のα+β域である1173 Kを選定した.これは二
相域で処理を行うことで HIP 処理中の粒成長を抑制することが目的である.し かしながら,4Mo-0.4Bにおいては著しい粒成長が発生していた.この原因とし てはMoの添加が考えられる.Moはβ安定化元素であるために,β変態点を低 下させる.Fig. 4.13にTi-Moの状態図を示す.状態図上では4 mass%のMo添加 によって,Tiの変態点は約40 Kほど低下することがわかる.非常に粗い推定で あるものの,Ti-6Al-4Vのβ変態点1273 Kに対して,4Mo-0.4Bのβ変態点は1233 K程度と考えられ,HIP処理温度1173Kにおいて4Mo-0.4Bはβ単相域ではなか ったものと考えられる.但し,α相の体積率はTi-6Al-4V組成よりも少なかった と推定され,そのために粒成長が生じたと考えられる.
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Fig. 4.12 IPF mapping images extracting only β phase. Group of dots in same color may indicate each single prior β grain.
Fig. 4.13 Phase diagram of Ti-Mo1).
20 µm (a) 4Mo-0.4B-4h
(b) 4Mo-0.4B-HIP
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