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考察

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 37-43)

第 4 章 実験2 E 値と残響の最適ミキシングレベルの関係

4.4 考察

E2(20)値と残響の最適ミキシングレベルの平均の散布図を図-18 に示す。E2(20)値と残響の最

適ミキシングレベルの相関係数と有意確率は、全音源でr =-0.71 (p = 0.00002 < 0.01)、検証 用に追加した刺激音を除くオーケストラ音源で、r=-0.95(p=0.0000033 < 0.01)と計算され、

E2(20)値と残響の最適ミキシングレベルの相関係数は危険率1%の両側検定で有意と判定された。

全音源、オーケストラのみの音源、どちらも大きな相関があるが、特にオーケストラ楽曲音源 には大きな負の相関があり、E値が楽曲音響信号の特徴量として有用であることを示せた。

4.4.1 呈示音圧レベルの影響

呈示音圧レベルの影響を調べるためにDebussyを10dB増幅させた刺激音(Debussy_GAIN:

図の*)と増幅前の刺激音における残響の最適ミキシングレベルは、危険率5%(F [1, 11] = 7.722, p = 0.018 < 0.05)で有意差を持つことが判った。つまり、再生レベルが残響の最適ミキシングレ ベルに影響することを示しており、録音現業において作業時の再生レベルを一定にしないと適正 な残響音コントロールが難しいことを示唆している。現業では、どの現場に出向いてもモニター 音量を一定にするように指導されるが、その必要性の証左ともなった。

-1.0 -0.9 -0.8 -0.7 -0.6 -0.5

10 20 30 40 50 70 100 150 250 400

Correlation Coefficient

Segment Length (msec) All Stmuli

Stimuli except solo inst.

Orchestral Stimuli

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図-18 E値と残響の最適ミキシングレベルの関係

4.4.2 振幅エンベロープの影響

残響の最適ミキシングレベルの決定の要因となる楽曲の特徴が、曲の音楽的な構造的(テンポ やリズムなど)な特徴ではなく、振幅変化に関係する音色の特徴であることを検証するため、

PizzPolkaを異なる奏法で演奏したシンセサイザーの音源(図-18の▲)について検討した。そ

の結果、ピチカート(pizz.)スタカート(stac.)、レガート(legato)の順にE値は減少し、逆 に残響の最適ミキシングレベルは増加することが判った。

図-19、図-20に、各奏法の振幅エンベロープとパワースペクトルを示す。図より、レガート、

スタカート、ピチカートの順に振幅の減衰勾配は大きいが、周波数特性のほぼ等しいことが判り、

最適ミキシングレベルに最も影響した楽曲の要素は、音響信号の減衰勾配の大きさであることが 判った。また、奏法別のE値と残響の最適ミキシングレベルの関係は、全体の回帰直線に、ほぼ 沿った形で変化している。

Arle Traviata

Scotland

Figaro Ruslan

WaterMusic

PizzPolka_Ori PizzPolka_Pizz

PizzPolka_Stac

PizzPolka_Legato

Giovanni Debussy

Bruck_8_A Bruck_8_B

Mahler_1

Lascia_Mix

Lascia_Vo Lascia_Pf

Debussy_GAIN

Trp_Voluntary

Paganini

y = -3.10 x - 1.59 R = -0.95

y = -2.88 x - 2.44 R = -0.71

-10 -8 -6 -4 -2 0

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

Preferable Reverberation Mixing Level(dB)

E2 (20) Index

Orchestral Stimuli

All Stimuli

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図-19 PizzPolkaの各奏法における振幅(パワーレベル)エンベロープ

図-20 PizzPolkaの各奏法におけるパワースペクトル

これらを考え合わせると、同一の音楽的構造を持つ音源でも、演奏法によって振幅変化に伴う 音色変化が生じ、異なるE値として算出され、そのE値と残響の最適ミキシングレベルに線形な 関係があったと考察できる。

0 1 2 3 4 5 6

−60

−50

−40

−30

−20

−10

Time (s)

Power Level (dBFS)

pizzicato staccato legato

−70

−60

−50

−40

−30

−20

−10 0 10 20

Powere Level (dB)

102 103 104

Frequency (Hz)

pizzicato staccato legato

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4.4.3 楽曲構成要素の影響

次に、楽曲構成要素による影響を検証するため「ピアノパート」「歌唱パート」「合奏」に分け

たLascia(図の●)では、各要素によってE値が異なる値に計算され、「合奏」におけるE値、

及び残響の最適ミキシングレベルが「ピアノのみ」と「歌唱のみ」のときの中間であるという結 果を得た。

録音エンジニアが、ピアノと歌唱の演奏において、それぞれ最適と感じた残響レベルの妥協点 として合奏における残響の最適ミキシングレベルを決定し、そのE値がたまたま両者の中間の値 となったのか、ピアノと歌唱のミキシングの結果の音響信号について、そのE値に適合する残響 の最適ミキシングレベルを判断したのか、本実験だけでは判断できない。しかしながら、もし後 者であれば、我々はミキシングの現業において、各楽器の残響に気を配り、それぞれの楽器の残 響量をコントロールしていると信じているが、実は無意識の内に、ミキシング結果の音響信号の 特徴に残響量の決定が委ねられている可能性が高くなった。

4.4.4 同じ楽曲の異なる場所でのE値と残響の最適ミキシングレベルの関係

同一楽曲の異なる場所を調べたBurck_8_A、Burck_8_B(図の◆)について、E値と残響の最 適ミキシングレベルの関係を検討したところ、E値は曲の進行と共に変化するが、曲のある一部 分を切り出すと、その部分のE値と残響の最適ミキシングレベルは、オーケストラ楽曲データの 回帰直線に沿う傾向のあることが判った。

ただし、今回は時間的に近接した2カ所を選んだため、ペア間の有意差はp = 0.334 > 0.05と なって認められないという結果であったが、同一曲でも選ぶ場所によって、先の検討のPizzPolka のレガートとピチカートのように全く異なる音色となる部分もあり、楽曲の任意の部分について、

その部分のE値に見合う残響の最適ミキシングレベルが求められる。

この結果から、同じ楽曲中でも、その部分のE値に応じて残響量を変化させた方が良い、とも 考えられるが、現業におけるクラシック音楽収録の場合は、そもそも楽曲の途中で残響量を変え るという発想がない。しかし、ポピュラー音楽の場合、楽曲の進行に応じて残響量を変えること はしばしば行われるテクニックであり、本結果と整合する。

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4.4.5 オーケストラ楽曲とソロ楽曲におけるE値と残響の最適ミキシングレベルの関係

ソロ楽器について、Paganini、Trp_Voluntary共に、オーケストラの回帰直線から外れること が判った。また、Lasciaのボーカルも同様にオーケストラの回直帰線から外れ、単音で構成され る音源と、色々な音の集合体からなる音源では、E値と残響の最適ミキシングレベルの傾向が異 なることが判った。

オーケストラ楽曲の代表曲としてメンデルスゾーンのScotland、ソロ楽曲の代表曲として

Trp_VoluntaryのFFT分析による周波数特性を図-21に示す。

図からも明らかなように、ソロ楽器群とオーケストラ楽器群で最も異なる特徴は、オーケスト ラが低音楽器から高音楽器までの色々な楽器の集合体であるため、スペクトルも広範な範囲に広 がっているのに対し、独奏楽器は単音であるため、スペクトルは調波構造をもち、周波数の広が りも比較的限られているところにある。このような周波数方向の構造の差が、残響の最適ミキシ ングレベルに影響しているものと考えられる。

難波らの研究によると、同じ音源種類ではLAeqと音の大きさには良い対応関係が見られるが、

異なる種類の音源間には、エネルギ量が等しければ等しい大きさに聴こえるという「等エネルギ の原理」を見いだせない [24] ことが報告されている。

E値はある音源とその仮想残響音の等価音圧レベルを元に、エネルギの比として求めると定義 したので、楽曲の編成が大きく異なる音楽音源を異種音源と考えるならば、等価音圧レベルの比

図-21 オーケストラ楽曲(Scotland)とソロ楽曲(Trp_Voluntary)の周波数特性

101 102 103 104

-60 -40 -20 0 20

Mendelssohn Scotland Sym.

Powere Level (dB)

Frequency (Hz)

101 102 103 104

-60 -40 -20 0

20 J. Clarke Trumpet Voluntary

Powere Level (dB)

Frequency (Hz)

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であるE値も、異なる種類の楽曲音源間では、ある音源と残響音の音の大きさの比、すなわち残 響感と良い対応が見られないと推論できる。

この考察は、本実験において見いだされた、オーケストラ音源ではE値と残響の最適ミキシン グレベルに強い相関関係があるが、多種多様な音源では相関が弱くなる、という結果とよく合致 し、支持されるものと考えられる。これらについては、第8章で検討する。

4.5 まとめ

無響室録音のオーケストラ楽曲に電子残響を付加するという条件において、ミキシングエンジ ニアが最適と感じる残響の最適ミキシングレベルは、残響時間以外に、楽曲の要素によって変化 することが判り、楽曲の音響信号の特徴量として、エンベロープ指数 = E値を提案し、E値が特 にオーケストラ作品において、適切な指標であることが示せた。

クラシック音楽の録音現場では、曲の色々な部分で残響量を調整、検討し、最終的に全体の残 響量を決定する。この現場手法が残響量の平均を求めることに等しいとは断定できないが、長時 間の楽曲について、楽曲の様々な箇所の残響の最適ミキシングレベルの平均が、楽曲全体の残響 の最適ミキシングレベルとなるならば、楽曲全体のE値を求めて残響の最適ミキシングレベルを 推定することが可能と考えられる。

さらには、実際のホールではあり得ないことであるが、楽章によって残響量を変える、あるい は経時的に変化するE値に従って、残響量も動的に変化させる方が、録音物として聴取者に良い 印象を与える可能性も示された。

また、E値は、LAeqと同様に、同種の音源間では、残響の最適ミキシングレベルと極めて大き い相関関係にあるが、異種の音源間では、それら相関が小さくなることが判った。

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