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分析

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 59-63)

第 7 章 実験5 残響時間の影響の詳細検討

7.2 分析

まず残響時間、楽曲の2因子について統計ソフト(SPSS)の一般線型モデルの反復測定手法 により分散分析を行い、被験者内効果について表-15の結果を得た。

残響時間因子、楽曲因子は、各々危険率1%で主効果の有意性が認められ、交互作用について

も危険率1%で有意であった。楽曲別の残響時間因子の主効果を図-32に、残響時間の主効果を

図-28に示す(エラーバーは95%信頼区間)。なお、楽曲のE値を表-14に併記した。

表-15 実験5の分散分析結果

因子 F値 有意確率 p

残響時間因子 F(6,78) = 242.837 p < 0.01

楽曲因子 F(6,78) = 42.365 p < 0.01

残響時間×楽曲 F(36,468) = 3.125 p < 0.01

図-32を検討すると、いずれの楽曲も残響時間と残響の最適ミキシングレベルには、強い負の 相関が見いだされる。楽曲別に見ると、11_Traviataは残響時間が2秒以下で、残響時間に対す る残響の最適ミキシングレベルがあまり変化せず、飽和する傾向が見られる。

この現象は、録音家としての筆者の経験に照らし合わせて考えると、楽曲に残響時間の短い電 子残響を付加する場合、残響音レベルがあるレベルを超えると、それ以上残響感が増えずに音の にごり感ばかりが増えてしまうことからも納得できる傾向である。

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図-32 残響時間別の楽曲因子の主効果

また、残響時間が例えば10秒などの長時間となった場合、残響時間を判別することは難しく、

残響時間と残響感の関係も残響時間が長大になると線形性が失われると考えていたが、残響時間 8秒という非常に長い残響時間まで、残響時間と残響の最適ミキシングレベルの線形性が保たれ ていることが判った。従って、残響感は、残響の長さではなく、残響の減衰の早さ、すなわち残 響の減衰の勾配によって決定されるものと考えられる。

この結果は、田原らが行った残響時間弁別閾の数式モデル化の研究で、残響の長さ感は、その 長さそのものを感じるのではなく、残響によるラウドネスの減衰勾配に決定される [12] との結 果と合致する。

次に、楽曲要因を平均し、残響時間と残響の最適ミキシングレベルの散布図を図-33に示す。

左図に示した残響時間と残響の最適ミキシングレベルの相関係数はr = 0.97(p < 0.01)と非常に 大きい。しかし、散布がやや円弧状となることに着目し、対数近似を適用したところ、破線のよ うに非常に良くフィットする。右図に示した残響時間の対数と残響の最適ミキシングレベルの相 関係数は、r = 0.999(p = < 0.01)とほぼ1に等しいことが判った。

-30 -25 -20 -15 -10 -5 0 5

Preferable Reberberation Mixing Level (dB)

1.0s 1.4s 2.0s 2.8s 4.0s 5.6s 8.0s

Reverberation Time

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図-33 楽曲要因を平均した残響時間と残響の最適ミキシングレベルとの関係

この結果から、残響時間の対数と残響の最適ミキシングレベルには、ほぼ負の比例関係のある といって良い。さらに楽曲別に検討を進めるため、各楽曲における残響時間の対数と残響の最適 ミキシングレベルとの相関係数を求めて表-16に示すと共に、楽曲別の残響時間と残響の最適ミ キシングレベルとの関係を図-34へ示した。表-16に示した勾配は時間2倍あたりに換算した 勾配で、括弧内の数値は、残響時間2.8秒以上のデータについて求めた回帰直線の勾配である。

楽曲別でも、残響時間の対数と残響の最適ミキシングレベルの相関は1に近い。図-34を見る

と11_Traviataと13_ Figaroは、残響時間2秒以上で直線性が悪化するが、残響のミキシングレ

ベルがある値以上になると残響感が飽和することに原因があると考えられる。特に11_Traviata では、残響の最適ミキシングレベルが、残響時間2秒以下で急に飽和していて、-2dB近辺に飽 和点が存在することを示唆している。本稿では、この現象を残響感飽和と呼ぶことにする。

表-16 各楽曲における残響時間の対数と残響の最適ミキシングレベルの相関係数 ※括弧内は残響時間2.8秒以上のデータにおける勾配

楽曲 相関係数 r

勾配 dB/(時間2倍) 有意確率 p

1 11_Traviata -0.971 -3.57 (-4.61) p < 0.01

2 13_ Figaro -0.989 -4.35 (-5.68) p < 0.01

3 10_Debussy -0.994 -5.60 p < 0.01

4 00_TrpCon_2 -0.995 -6.18 p < 0.01

5 03_TrpVolunt_NA -0.995 -6.57 p < 0.01

6 16_PizzPolka -0.996 -6.51 p < 0.01

7 05_TrpPolka -0.994 -6.66 p < 0.01

y= -2.12 x- 4.68 r= -0.970

-25 -20 -15 -10 -5 0

0 2 4 6 8 10

Preferable ReverberationMixingLevel (dB)

Reverberation Time (RT60)

y= -17.0 log10(x) - 4.56 r= 0.999

-25 -20 -15 -10 -5 0

1 10

Preferable ReverberationMixingLevel (dB)

Reverberation Time (RT60)

2 3 4 5 6 7 8 9

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図-34 楽曲別、残響時間と残響の最適ミキシングレベルとの関係

13_ Figaroについても残響時間2秒以下で、残響感飽和の生じる傾向がある。自然現象の中で

は、多くの場合、直接音より大きい単一反射音が発生することはほとんど無く、ミキシングによ って残響音のレベルを大きくしていくとき、残響感よりも違和感が大きく感じる残響感の限界レ ベルがあるものと考えられ、残響感飽和が生じると推察される。

しかし、図-34を観察すると、残響時間が2.8秒以上では、全楽曲において残響感飽和は生じ ていないので、11_Traviataと13_ Figaroの2楽曲は残響時間2.8秒以上の、他の楽曲は全ての 残響時間のデータによる回帰直線について再検討すると、回帰直線の勾配が、全ての楽曲で同程 度であることが判った。

また、表-16より、それらの勾配は時間2倍あたり約-6dBで、最適な残響感となるように 残響音のレベルを調節するとき、残響時間を2倍にすると残響の振幅がおよそ半分になる関係が ある。このとき残響のパワーはその二乗の1/4となるので、残響エネルギに相当する残響パワー と残響時間の対数との積は、残響時間が2倍毎に1/2となり、残響時間の対数と残響エネルギに は残響時間2倍あたりパワーレベルで約-3dBの勾配を持つ比例関係があると言える。

-30 -25 -20 -15 -10 -5 0

1 10

Preferable ReverberationMixingLevel (dB)

Reverberation Time (RT60) second)

11_Traviata 13_ Figaro 10_Debussy 00_TrpCon_2 03_TrpVolunt_NA 16_PizzPolka 05_TrpPolka

2 3 4 5 6 7 8 9 saturation value of

rebereberation mixing level

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この結果は、第2章で検討した、残響時間と残響音のミキシングレベルから求められる残響音 のエネルギが一定であるという考察とは異なる結果となった。

その理由は、実験対象とした楽曲が、第2章の実験ではオーケストラ楽曲のみであるのに対し、

本章の実験では独奏楽曲を含む点や、第2章の実験は、実験条件の残響時間が3段階で、残響時 間と最適な残響のミキシングレベルの関係の検討には、段階数が不足していた点が考えられる。

本章の実験では、残響時間と最適な残響のミキシングレベルの関係に対する楽曲要因の影響検 討のためには、楽曲数が不足している。また、先の検討で、実験者のミキシングエンジニアとし ての経験から、残響感飽和が生じると論じたが、これも証明されたわけではない。

このように本検討では、幾つかの課題を残したが、残響時間の対数と残響の最適ミキシングレ ベルに線形な関係があることが明らかになった。

ここで、Trを残響時間、Lmpを残響の最適ミキシングレベル、Lmp1を残響時間1秒のときの 残響の最適ミキシングレベル、lmpを残響の最適ミキシングレベル時の残響成分のパワー、lmp1

を残響時間1秒の残響の最適ミキシングレベル時の残響成分のパワーとすると、図-33より

Lmp = −17log10(Tr) + Lmp1, lmp = lmp1∙ Tr1720 , ここにLmp1= −4.56dB …(7-1)

という関係が導ける。但し、常数の-17、Lmp1は、実験5によって得られた常数で、一般化 のためには、さらに多数の実験参加者による検討が必要である。

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