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考   察

ドキュメント内 問題と目的 (ページ 43-49)

他者参照としての社会的比較

本研究では,最大3年にわたるのべ人数を対象とし,

社会的比較を他者を参照する行為として広義に捉えたた め,分析したエピソードの約半数で何らかの社会的比較 行動が見られた。それらは運動遊び,ごっご遊び,制作 遊びを中心とした多くの遊び場面と,仲間との交渉で観 察され,日本の幼児の日常的行為での社会的比較の遍在 性が示されたと言える。その約半数は行為を対象として おり,次いで能力が他よりも多い。これはMosatche & Bragonier(1981)の知見と一致し,能力比較の対象は 成績や作品が大部分であることを考えると,幼児の社会 的比較は主に行為をはじめ外顕的・具体的な対象を巡っ て行われることを示唆している。

本研究で8種に類別した社会的比較行動を,その機能 に着目して検討すると,頻度が最も高いのは他児への関 心であり,殆どの遊び場面で見られた。他児への関心は,

他者を参照する社会的比較の出発点となるが,行為を対 象としたものが最も多い。その場合,他児の様子を窺い,

それによって自分の行動を決定しようとする点で,Frey

& Ruble(1985)の「仲間への注意」すなわち個人指向 的比較を含む。態度,所有物,特性を対象とした場合も これと同様に理解し得る。他方,能力を対象とした場合 は他児の成績や作品に関心が向いていることを考える と,Frey & Rubleの「仲間の成績への注意」すなわち 課題指向的比較に相当する。同時に,Butler(1989)の 指摘する技能習熟機能も含むと言え,このように幾つか の機能を果たしている故に,他児への関心は最も多く観 察されたと言えよう。

他児への関心については,年齢差に関して明瞭な傾向 が認められた。5つの分析のうち4つで有意差が見られ,

総じて4歳児で少なく6歳児に多い。多様な機能を含む この行動の頻度が年齢とともに増すことは,他者を参照 することを通じて,自他の関係や自身のあり方を捉えよ うとする傾向が,特に女児の場合,幼児期後期に伸張し ていることを示唆する。

自己評価機能

認知明瞭化は,他児の反応を参照することで自分の行 為や意見の妥当性を明確にしようとする点で,自己評価 の機能を含むと言える。その頻度について先行研究の結 果は矛盾しているが,本研究では全体の頻度は僅かで あった。幾つかの分析で有意な年齢差が見られたが,分

析間で有意差の方向が異なっており,明確な結論を出す ことは難しい。ただ,この比較行動は全体に女児に多く 認められ,他児への関心も男児より女児に多いことを考 えあわせると,自分自身のあり方を他者の参照によって 把握しようとする傾向は女児に著しい,と考えることも できる。

一方,直接評価,自己間接評価,他者間接評価は自分 の状態の明確化を指向する,自己評価機能に直接係わる 比較行動である。従来,自己評価に係わる比較行動は幼 児には乏しいとされるが(Ruble,1983),本研究の結果 はその見解への疑問を生む。直接評価が少ないことは Mosatche & Bragonier(1981) とChafel(1984,1987)

の知見に合致するが,3つの分析で4歳児から5歳児に かけて有意に増大している。また,前述したように先行 知見では他児を参照しない行為も含むことを考えると,

本研究の結果はむしろ一定程度の直接評価が幼児,とり わけ5歳児の社会的比較行動に認められることを示して いると言えよう。特に,制作遊び,玩具遊び,運動遊び など,比較の対象が明瞭な場合に相対的に多く生じてお り,そのような状況で幼児は自分と他児とを弁別・対比 する比較を行っていることが分かる。

自己間接評価は他児への関心に次いで多く観察された 行動であり,他者間接評価も運動遊びやごっこ遊びなど でかなりの頻度で生じるとともに,4歳児でも少なから ず見られた。また,4歳時から5歳時にかけて増える傾 向も縦断分析1で確認された。その一方で,直接評価と 他者間接評価は5歳児から6歳児にかけて減少し,自己 間接評価が女児でのみ6歳児で減る結果が3つの分析で 認められた。このように6歳児で自己評価に関連した比 較が相対的に少ないことについて,現段階ではその背景 を詳らかにし得ない。しかし,直接的であれ間接的であ れ,幼児の社会的比較には自己評価の機能が含まれ,他 児との遊びや相互作用の中で幼児が自己評価を行ってい ることが,特に5歳児を中心に示唆される。

自己評価以外の機能

Mosatche & Bragonier(1981)はじめ先行研究で幼児 に多く見られた類似確認は,本研究でも一定程度の頻度 で生じており,ごっこ遊びと制作遊びなどで,また,態 度を対象とした比較および女児を中心として相対的に多 く見られた。更に,2つの分析で6歳児で有意に減少し,

他の分析でも有意差には達しないが同様の傾向が見られ たことは,個人的比較が小学1年生で減少している知見

(Frey & Ruble,1985)と軌を一にしている。

他者より優位に立とうとする自己高揚機能を担い,類 似確認とは対照的な達成・競争に関しては,その頻度に ついて先行研究では矛盾した結果が報告されている。本 研究では,運動遊びを中心に全体として類似確認と同程 度に観察されたが,有意な年齢差はなく女児よりも男児

に多い傾向のみが見られた。したがって,関係維持・規 範習得と自己高揚の機能に係わる社会的比較行動につい ては,先行研究に比べて際だった相違は認められないと 言える。

他児を参照して同一の行動を行う模倣は,先行研究で は検討されておらず,これまでに検討してきた社会的比 較の機能の多くを含んでいると言える。運動遊びとごっ こ遊びなどでかなりの程度認められた反面,制作遊びや 感覚遊びでは相対的に少なかった。他児の模倣は,前者 のようにルールが明確でいずれかといえば定型的な行動 が求められる場合に生じやすく,後者のように自由で創 造的な行為が許される場面で抑制される傾向が示唆され る。同時に,ある程度の頻度で観察された一方,明瞭な 年齢差・性差は認められなかった。他児を参照した行為 の決定が普遍的なことを示唆すると考えられる。

結 論

本研究の2つの横断分析と3つの縦断分析を通じて比 較的一貫した結果が得られ,一定の信頼性があると考え 得る結果は次の3点であろう。(1)他児への関心が年齢 とともに増大し,特に女児にその傾向が目立つ。(2)5 歳児を中心に,自他の比較を通じた自己評価の傾向が認 められる。(3)自他を同一視する類似確認は女児,自他 の競争は男児を中心にある程度の頻度で見られ,前者は 年齢とともに減少する。

このうち,(3)は基本的に先行研究と概ね一致する結 果であるが,(1)は従来の研究では十分に検討されてい ない問題であり,(2)は米国での研究と最も異なって いる点である。観察が行われた時点と現在とで幼児の行 動傾向は変化している可能性もあり得るが,(1)(2)は,

他者の動向を参照して自己を認識する傾向が見られる点 で,日本文化に特徴的な自己認識の様態である相互協調 的自己観(Markus & Kitayama,1991)との整合性がある。

すなわち,他者との関係において自己を捉えようとする 特質が,幼児期の段階で社会的比較行動に現れている点 で,観察年代を越えた普遍性があると理解することもで きる。

しかし,本研究での観察状況は,自由な行動が許され ているという大枠の中で統制されておらず,同一の幼児 の縦断資料であっても観察場面が必ずしも同じではない 事例も多い。したがって,今回の知見はあくまでも日本 人幼児の社会的比較行動の発達の全体的傾向を示唆する ものであり,上述した日本文化における特質の妥当性を 確認するためには,今後の更なる分析と検討が必要であ ろう。

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