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分 析 Ⅲ

ドキュメント内 問題と目的 (ページ 52-76)

絵本場面における母子の指さし対象の発達的変化の検 討--積木場面との比較分析 分析Ⅰ,Ⅱでは母子の指 さしの発達的変化および場面間の特徴が示された。次に 分析Ⅲでは,絵本場面と積木場面で母子が何を指さして いるのか,指さし対象を時期別にまとめ,母親への面接 調査も含め,絵本場面での母子の指さし対象の時期別特 徴および場面間の特徴を,検討する。両場面で観察さ れた指さし対象と,それらの対象を指さした母子数を Table 4に示した。

結果 ・ 考察1 絵本場面での母子の指さし対象 Table 4をみると,1歳半,2歳半,3歳時期の絵本場面では,

絵本の「挿絵」が指さし対象となることが多いが,絵本 の挿絵以外にも絵本の「文字」や,周りにある「実物」

も指さし対象となる可能性が示された。

Table 4 両場面の指さし対象と各々の対象を指さした時期別の母子数と比率

場面 母子 指さし対象 1歳半 2歳半 3歳 全時期a)

絵本場面

子ども n=20

絵本 挿絵 15(75%) 17(85%) 17(85%)

12(60%)

10(50%)

文字 0 1(5%) 1(5%)

絵本以外 実物  3(15%)  3(15%) 0 母親

n=20

絵本 挿絵 19(95%) 19(95%) 17(85%)

16(80%)

文字 1(5%)  3(15%)  6(30%)

絵本以外 実物 1(5%)  3(15%) 0

積木場面

子ども n=20

積木

一個の積木 1(5%)  4(20%)  5(25%)

 3(15%)

0 積み上げた積木 1(5%) 1(5%) 0

見立てた積木 0  7(35%)  8(40%)

積木以外 実物 1(5%) 1(5%) 0

場所 0 0 1(5%)

母親 n=20

積木

一個の積木  8(40%)  5(25%)  6(30%)

1(5%)

積み上げた積木  3(15%)  2(10%) 1(5%)

見立てた積木 0  5(25%)  5(25%)

積木以外 実物 1(5%) 1(5%) 0

場所 0 1(5%) 0

注.表の数値は,人数と( )内は母子各々20人中の比率,20組中の比率を示す。

  a)1歳半,2歳半,3歳の全時期にわたり対象を指さした母子数および母子ペア数(比率)を示した。

「文字」や「実物」への指さしがいかになされたのか,

時期ごとにみていくことにする。

⑴ 「文字」への指さし

1歳半時期,子どもにはみられなかったが,母親には 20人中1人のみに,題名の文字を指さし読むことが観 察された。

続く2歳半時期には,子ども20人中1人,母親20人 中3人に文字への指さしが観察された。この1人の子 どもは,絵本に表記されている絵と文字を区別し,文字 がどのような働きをするのかということに気づいている ようで,題名の大きな文字を指さす。すると母親が題名 の文字を指さし読む相互作用が展開した。これは萌芽的 読みをめぐる共同活動であるといえる。それは「題名を 読むと絵本を読むと思うようになって,題名に気づくと 喜んで題名の文字を指さすようになりました。」と母親 が言及していることからも,題名の文字を指さすと,母 親が読んでくれることに絵本経験の中で気づき,母親の 導きのもと文字文化を楽しんでいることが明らかになっ た。しかし2歳半時期では,文字を指さす子どもは1人 のみであった。一方,母親には20人中,題名の文字を 指さし読むことが1人,文章の文字を指さしながら読む ことが1人,題名と文章の文字を指さしながら読むこと が1人,計3人に文字への指さしが観察された。この 時期には「いつも子どもが文字を指さして読んでほしい というので毎回文字を指さすようになりました。」と子

どもの要請に応じて母親が文字を指さすこともあること が,母親の言及から示された。

3歳時期になると,子ども20人中1人,母親20人中 6人に観察された。1人の子どもは,文字を読むことが できなくても,文字が音と対応し1文字ずつ順に読ん でいくという文字読みのルールを活動に参加し,文字 に触れながら理解しているようで,読むふり(pretend reading)をする萌芽的読み行動が観察された。しかし よくみると,題名を言いながら横書きの文字配列(「ち いさなねこ」)を,1文字ずつ右から左へと逆方向に誤っ て指さしてしまう(「こねなさいち」)。これに対し母親は,

文字を読むと同時に子どもの手を持ち,ともに左から右 へ順に正しく1文字ずつ指さし導きながら活動を続けて いく。観察分析からは,1人のみにみられた文字への指 さしであったが,面接では20人中6人の母親が,3歳 前後,3歳になってから,子どもが自分の名前の一部の ひらがなや,何度も読んだ絵本で覚えた文字等,特定の 文字を指さすようになったと報告している。一方で,20 人中2人の母親は題名の文字,3人の母親に文章の文字,

1人の母親に題名の文字と文章の文字を指さしながら読 むことが観察された。文章の文字を指さしながら読むこ とについて母親は,絵本の文章が長くなるとどこを読ん でいるのかわからなくなることや,絵本を読む姿勢によ り子どもの方に絵本を向けていると,逆さまから文字を 読まないといけないので指ささないと困難であることな

どを理由としてあげていた。

⑵ 「実物」への指さし

1歳半時期には,絵本に描かれている絵と対応する周 囲の実物への指さしが,子ども20人中3人,母親20人 中1人に観察された。例えば,絵本の絵を見ていた子ど もがはっと気づいたように突然立ち上がり,窓の近くま で歩いていき,窓の外にある自分の長靴を指さし母親を みる。母親がそこにあるねと頷き応じると,子どもが身 体を弾ませ喜びながら,絵本の絵の長靴(物の絵)と自 分の長靴(実物)を交互に指さすことを繰り返し,実物 をめぐる相互作用を展開していた。1歳半時期の面接で

「この2・3ヵ月,絵本の中の物と日常にある同じ物を指 さすことがあって,わかり始めたのかなと思ってとても 嬉しかったです。」等と,20人中3人の母親が,子ども と一緒に絵本を読んでいて印象的だったこととして述べ ていた。

2歳半時期も,実物への指さしが子ども20人中3人,

母親20人中3人に観察され,面接では20人中3人の母 親が,実物への指さしについて言及していた。物の絵と 実物を対応させるばかりでなく,事象の絵と実物を対応 させることも観察された。例えば,クマの頰にフォーク がつきささった事象の絵と対応させて,子どもが自分の 頰を指さし,母親の顔を何度もみて,驚きを共有しよう としたり確認したりすることを楽しむ,実物をめぐる相 互作用を展開していた。1歳半時期には,物と対応する 絵が描かれていることに気づき,実物を指さすことが観 察され,2歳半時期には事象を把握し,描かれている絵 の中でも事象が生じている部分に注意を向け,対応する 実物を指さすことも観察された。1歳半,2歳半時期に 現実世界の実物にまで注意を向けあう中で,物から事象 へ指示の仕方が変化していくことが推察される。

結果 ・ 考察2 積木場面での母子の指さし対象 Table 4をみると,積木場面では,「一個の積木」や,一個ず つ積みあげ高く「積み上げた積木」や,複雑に積み上げ「見 立てた積木」が指さし対象となるが,積木ばかりでなく,

積木の形との対応関係から同じ形の「実物」や,積木を 置く「場所(机,床など)」も指さし対象となることが 示された。積木への指さしと,絵本場面でも観察された

「実物」への指さしがいかになされたのか,時期ごとに みていくことにする。

⑴ 積木への指さし

積木遊びが,一個の積木の形をめぐるやりとりから,

高く積み上げること,積み上げたものを見立てることへ 変化していくのに伴い,指さし対象も,一個の積木,積 み上げた積木から見立てた積木へと変化していくようで ある。とくに見立てた積木への指さしは,母子ともに1 歳半時期には観察されず,2歳半,3歳時期になると観 察されるようである。子どもの見立てた積木への指さし

に伴う発話をみると,例えば2歳半時期には,家に見立 てた積木を指さし「おうち」等と命名しているが,3歳 時期になると自分がつくり見立てたものへ母親の注意を 向け,得意気に「ママのおうちちっちゃいの。」と大き さ等も含め,詳細に説明し伝えるようになっている。そ して母親は,3歳時期に,子どもが自分で見立てたもの を指さし詳細に説明するのを聞き,子どもと別な所を指 さして見立ての細部を質問したりすることなどで応答 し,子どものさらなる説明を促し,見立ての世界を広げ ていく姿が窺える。

⑵ 「実物」への指さし

実物への指さしは,1歳半時期に子ども20人中1人,

母親20人中1人,2歳半時期に子ども20人中1人,母 親20人中1人に観察された。1歳半時期に,丸い形の 積木をみて子どもが部屋の時計を指さすと,母親が「ね,

丸ね。」と時計を指さし応じる,積木の形と対応する実 物をめぐる相互作用が展開した。2歳半時期も,一個の 三角の積木の形と自分(子ども)の鼻を対応させる等,

実物への指さしが母子に観察された。実物への指さしは,

絵本場面でも同様に1歳半,2歳半時期に観察された。

本結果からは両場面共通して同じ時期に注意を向けあう 対象が,絵本や積木のみでなく,それと関連する現実世 界の実物にまで広がることが示唆された。

結果 ・ 考察3 両場面の対象への指さし 場面別に母 子1人ずつ,母子ペア1組ずつ,1歳半,2歳半,3歳 時期にわたり,対象を指さしたかどうかを縦断的に検討 した。結果(Table 4),絵本場面で,全時期指さした母 親は20人中16人,子どもは20人中12人,母子ペアは 20組中10組であり,全ての時期1度も指ささない母子 はいなかった。一方積木場面で,全時期指さした母親は 20人中1人,子どもは20人中3人と少なく,母子ペア では1組もいなかった。さらに積木場面では,全時期1 度も指ささなかった母親が20人中2人,子どもが20人 中4人いた。両場面の結果から,絵本場面では全ての時 期対象を指さす母子,母子ペアが多いこと,また全ての 時期指ささない母子がいないことが縦断的特徴として示 唆された。

総合考察

本研究では,乳児と母親が絵本をいかに一緒に読んで いるのかを明らかにするために,母子の共同注意の指さ しをめぐる発達的変化,および絵本場面の特徴を分析し 検討した。新たにみいだされた絵本場面と積木場面での 相違と共通性をもとに,乳児期の母子による絵本場面の 特徴について,総合的に考察していくことにする。

母子の共同注意の指さしをめぐる発達的変化

まず指さし平均生起頻度の指標で示した分析Ⅰの結果

(Figure 1)から,絵本場面での指さしによる母子の相互

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