本研究は,学習型推移律課題で明らかとなった非推移 律判断である「あて推量」「絶対的知覚判断」「言語的ラ ベリング」「線形配列イメージ」のうち,「言語的ラべリ ング」と「線形配列イメージ」を排除し,「絶対的知覚 判断」を2つの条件設定によって統制することで,真の 推移律に至る発達プロセスを比較方略の分析から明らか
にしようとするものであった。結果より,作業仮説(1)
(2)および(3)の一部はすべて支持されたが,本研究 で初めて明らかになった主な知見は次の2点に要約され る。第1に,知覚的判断と推移律による判断とを峻別 できる重さの系列化課題を用いることで,前操作期から 形式的操作期までの,比較を行わずに配列をする段階か ら,真の推移律にもとづく操作に至る発達的変化をとら えることができた。第2に,真の推移律にもとづく判断 は,「基準点を決め,それを固定して双方向の比較を行う」
という方略と密接に関連している,ということである。
Piaget(1964 / 1968)やFischer(1980),園田(1984a)
では,棒の長さの系列化の完成に至るまでの方略を大ま かに記述しているが,「全くできない」から「一貫した 適切な方略が使える」という一方向の発達の道筋しか記 述していなかった。さらに,従来の系列化研究では,差 の大きさや要素の数が課題の難易に影響することは指摘 されていたが,容易な課題と困難な課題で推移律判断や 非推移律による思考方略がどのように用いられている か,また,課題が推移律課題であるといえるための条件 を備えているかどうかについてはほとんど論じられてい ない。しかし,差の大きな5〜6個までの要素数の課題
(園田,1984b)は,絶対的知覚判断にもとづいて完成さ れる可能性があるし,年少児においては子ども自身が要 素を,「大きい」「小さい」という2分法にもとづくラベ
Table 4 年齢ごとの方略の使用率と正答率 (数字は%)
A条件 B条件
双方向の 比較(F)
総あたり
(VR)
1対の比較
(V1)
比較し
ない(N) 正答率 双方向の 比較(F)
総あたり
(VR)
1対の比較
(V1)
比較し
ない(N) 正答率
年中 2.08 1.04 13.54 83.33 30.73 1.04 0.00 10.42 88.54 15.10
年長 14.58 4.17 36.46 44.79 50.00 7.29 6.25 41.67 44.79 28.13
小1年 20.00 6.25 35.00 38.75 72.50 20.00 2.50 45.00 32.50 46.88
小2・3年 52.38 2.98 39.88 4.76 93.35 38.10 5.36 56.55 0.60 67.56
小6年 78.13 1.04 16.67 4.17 96.88 70.83 11.46 17.71 0.00 92.71
大学生 55.88 1.47 41.18 1.47 100.00 88.24 1.47 10.29 0.00 100.00
Table 5 年齢ごとの1対比較の正答率(数字は%)
A条件 B条件
年中 46.2 30.0
年長 48.6 53.7
小1年 78.6 58.3
小2・3年 71.8 55.8
小6年 100.0 82.4
大学生 100.0 100.0
リングを行うことも示されている(Sinclair, 1967 / 1977;
小田,1983)。さらに,差の小さな標準的な棒の系列化 は,きれいな階段状の形になるという線形配列イメージ が使われている可能性がある(園田,1984a)。このよう に,系列化課題において非推移律判断が用いられている 可能性は高いにもかかわらず,課題解決のプロセスの中 でどのような思考方略が用いられているかを明確に識別 するという分析は困難であった。さらに,非推移律判断 から真の推移律判断に至る発達プロセスについても明ら かになっていなかった。
それに対し,本課題で用いた方法は,実験参加者が自 発的に行う比較行為の方法を通じて,比較の必然性をど れだけ深く認識しているかを検討するものであった。本 研究の方法の最も重要な特徴は,重さの系列化課題を用 いることよって,課題解決に不可欠な「要素の比較」を,
手またははかりを使って量るという行為として外在化 し,内的な思考過程を観察可能にしたことである。
その結果,系列化課題においても推移律判断以外の思 考方略を用いていることが示され,さらにすべての課題 で双方向の比較が可能になるまでに,知覚的に判断でき る課題では双方向の比較をするが,はかりを用いて比較 をする課題では4)1対比較をするという段階,双方向の 比較をするが,部分と全体の関係の理解が不十分である
「総あたり」の比較をする中間的な段階が見出され,そ れぞれの段階を「知覚的推移律」 段階,「不十分な推移 律」 段階と位置づけることができた。
Figure 3に,年齢ごとの比較方略の変化と,その背景
にあると考えられる思考方略をまとめた。結果を総合す ると,真の推移律に至るまでには,1)「重いか軽いか」
という絶対判断で配列を決める段階,2)要素間を本当 に関係づけていない1対比較によって,比較した玉の右 か左に置く場所を決定する「1方向の比較」の段階,3)
双方向の比較はできるものの,比較する対と全体の配列 の構造の関係の理解が不十分であるために総あたり的 に比較を繰り返す「不完全な推移律」の段階,4)知覚 的に差が判別できるA条件では双方向の比較をするが,
知覚では判別が困難なB条件では1対比較をする「具 体的レベルの推移律」の段階,5)B条件でも双方向の 比較を行う「認知的レベルの推移律」の段階を区別でき た。Piagetが論じたとおり,この変化過程は「具体的レ ベルの推移律」は8歳前後に可能になり,「認知的レベ ルの推移律」は具体的操作期から形式的操作期に移行す 4)はかりの使用について小学校での学習が影響している可能性につ いて注釈を行う。天秤はかりを用いて重さを量る学習は小学校学 習指導要領によると,小学校3年生と5年生で行う。しかし天秤 はかりの通常の利用方法は,左右の皿を釣り合わせることによっ て「同じ重さを見つける」というものであるのに対し,本研究で は,「下がったほうが重い」という判断のみで十分であり,双方 向の比較をするかどうかに焦点があった。実験に先立つ練習の際 に,はかりによる重さの判断ができない実験参加者はいなかった ことから,小学校での学習は測定器具への慣れという点では全く 影響がなかったとはいえないが,双方向の比較をするか否かにつ いての直接的な影響はなかったものと考える。
Figure 3 結果から考えられる比較方略・思考方略・年齢の関係
<思考方略> <比較方略>
双方向の比 較( 知 覚 で きない課題)
課題に応じ た方略の使 い分け 認知的レベルの推移律
(真の推移律)
不完全な推移律 総あたり
双方向の比 較(知覚で きる課題)
具体的レベルの推移律
1方向の比較 1対比較
1対比較(知覚できない 知覚的絶対判断 見て遊ぶ 課題)
あて推量 比較しない
4歳〜5歳 5歳〜6歳 6歳〜7歳 7歳〜9歳 11歳〜12歳 大学生
る11歳〜12歳頃に可能になるということを物語ってい る。
また,4歳〜5歳では「比較しない」という方略が主 であるが,年齢が高くなるにつれて用いる思考方略に多 様性がみられるようになり,最終的には推移律判断を主 に用いるようになることが示された。さらに,大学生で は,課題要求に応じて比較方略を使い分け,比較方略と しては非推移律判断を用いているように見える1対比較 方略でも,知覚的判断と組み合わせることによって正答 していることがわかった。
このことは,Siegler(1996)が提唱した重層波モデ ル(overlapping waves model)とも符合しており,課題 に正答する方略は複数考えられるが,年齢段階によって 特定のいくつかの方略が主に使われ,発達段階の移行に よって,次第に方略がより高次の方略に移り変わってい くことが示された。また,認知的な課題でも十分に推移 律判断を用いることができるようになると,単に下位の 方略を上位の方略に入れ替えるのではなく,下位の方略 と上位の方略を維持したまま,状況に応じて適切に使い 分けていることが分かった。総括すると,方略同士を有 機的に統合し,推移律に裏づけられた双方向の比較行為 を支えるためのサブ方略を課題構造の特性に応じて柔軟 に利用できるようになるという方略の発達のプロセスを 見出すことができたといえよう。
文 献
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