第 3 章 ポイントと値引きの知覚価値(研究Ⅰ)
4. 考察
58 が高かった。つまり,金額水準や値引率・ポイント付与率の水準にかかわらず,全般的に ポイント付与の方が値引きよりも知覚価値は高かった(Figure 14)。ただし,この場合の 効果量は,Cohen (1969)による基準では非常に小さいと言える。
5.35 5.53
*
** p<0.01
* p<0.05
0 1 2 3 4 5 6 7
知覚価値
値引き ポイント付与
プロモーション条件
Figure 14 知覚価値(プロモーション条件;家電量販店)
59
店の実験で設定している金額に関しても1,000円,10,000円,100,000円となっており,
スーパーマーケットの実験に比べて全般的に高額である。したがって,実験の設定のほと んどが高額となってしまい,低いベネフィット水準の設定ができていなかった可能性があ る。ただし,家電量販店において10%未満の付与率を設定することは非現実的であり,実 験上の限界といえる。家電量販店においてベネフィット水準を低くするための操作につい ては,今後の課題である。
第3に,バスケット方式のプロモーションにおけるマグニチュード効果の境界が,商品 レベルのプロモーションのマグニチュード効果の境界とは大きく異なることが明らかにな った。白井(2005)は既存研究から,通常の提供されるベネフィットが一般的な水準の場 合(商品価格の25%程度まで)とベネフィットがかなり魅力的である場合(商品価格の 50%以上)で値引きの知覚価値が大きくことなることを示している。しかしながら,バス ケット方式のプロモーションを扱った本章においては,マグニチュード効果の境目が,5% から10%の間あたりであることが明らかになった。このように従来の商品レベルのプロモ ーションとは異なる,バスケット方式のプロモーションの特徴が明らかになったと考えら れる。
4.2. インプリケーション
本章は多くの研究で見られるような大学生対象の仮想実験とは異なり,参照点を揃える ために,スーパーマーケットではポイント付与率1%のチェーンおよび家電量販店では 10%のチェーンだけを実際に利用している消費者のみを対象としているため,本実験はリ アリティが高く,現実への適用可能性の高い結果が得られたと言える。
本章の実験結果から得られたインプリケーションとしては,以下の2点があげられる。
まず第1に,低いベネフィット水準においては,ポイントは小売業にとって魅力的なプロ モーション手法であると考えられる。スーパーマーケットでは,バスケット方式で1~5% 程度の値引きを実施するよりも,同率相当のポイントを提供することで消費者の知覚価値 を改善することができる。しかも,ポイントが償還されるのは次回以降の買物時以降であ り,なおかつ貯められたポイントはその小売業でしか償還されない。したがって,小売業 にとってポイント付与は,低コストで効果の高いセールス・プロモーション手段として有 効であると考えられる。ただし,ベネフィット水準が高い場合には,ポイント付与は値引 きに比べて消費者にとって知覚価値が高いとは言えない。
第2に,値引率・ポイント付与率の水準の高低と,値引額・付与ポイント数の水準の高 低の2つのベネフィット水準のうち,消費者にとって重要なベネフィット水準は値引率・
ポイント付与率の大小の方であるということである。同じ購買金額においては値引率・ポ
60 イント付与率が高くなるほど知覚価値は高くなっていく一方,同じ値引率・ポイント付与 率においては購買金額が大きいほど知覚価値はむしろ低くなっていく。購買金額が大きい ということは,得られる値引額・付与ポイント数は確かに大きくなるものの,それ以上に 出費が大きいということでもある。すなわち,購買金額の増大によって値引額・付与ポイ ント数が増えることによる知覚価値の増大が,出費の大きさによる知覚価値の減少によっ て相殺されている可能性がある。
4.3. 今後の研究課題
研究をさらに発展させるためには,以下の4点の課題に取り組む必要があると考えられ る。まず第1に,値引きとポイント付与について,マグニチュード効果が現れる境目,言 いかえれば現金とポイントの「少額」と「多額」の境目がどこか,という点である。これ は,分離型SPと統合型SPとの境目はどこか,という論点でもある。今回の実験で値引 率・ポイント付与率が高いときに,値引きの知覚価値とポイントの知覚価値との間に有意 差がなかった。この理由としては,現金のマグニチュード効果が生じる境目の金額と,ポ イントのマグニチュード効果が生じる境目のポイント数とが一致していない可能性がある。
すなわち,現金とポイントで「多額」と感じる額(ポイント数)が異なる可能性がある。
例えば,現金の場合には,500円や1,000円を「多額」と捉える人はそれほど多数派では ないと考えられる。一方ポイントの場合,ポイント会員の償還ポイント数(Figure 7)の 調査からも明らかなように,半数以上が500ポイントおよび1,000ポイントあたりまでに 償還おり,ポイントの場合には多くの消費者にとって,500ポイントや1,000ポイントは
「多額」と感じている可能性がある。
第2に,支払いの痛み(知覚コスト)に関する現金とポイントとの違いについての研究 である。本研究では,買物にともなうポイント付与もしくは値引きの知覚価値を研究対象 としたが,Drèze and Nunes (2004)が現金とマイルで比較したように,現金で支払う場合 とポイントで支払う場合とでは,知覚コストが異なる可能性が考えられる。秋山(2010) は,750円のランチが平日は600円に割り引いて提供されるか(割引率20%),150ポイ ントを付与されるか(ポイント付与率20%)に関する現金での....
支払いのつらさについて比 較をおこなっているが,現金での支払いとポイントでの支払いのつらさを比較している訳 ではない。スーパーマーケットや家電量販店における現金による支払いとポイントによる 支払いの知覚コストに関する研究は今後の課題として残されている。
第3に,出費を伴わなず単独でポイントや現金をもらう場合の効用についても今後の課 題である。スーパーマーケットの実験においては購買金額の主効果が有意であり,なおか つ最も購買金額が低い1,000円の購買時に知覚価値が最も高かった。この理由としては,
61
購買金額が大きくなるほど出費の痛みが増し,値引きやポイント付与による知覚価値を上 回っていたためと考えられる。通常の場合,ポイント付与や値引きは購買の結果得られる ものであるため,ポイント付与や値引きの効用を得るときには,出費の不効用が必ず同時 に発生する。したがって購買金額が大きくなると,値引きもポイント付与数も大きくなる 反面,出費という痛みも大きくなる。しかし出費の痛みをコントロールして,単独でポイ ント付与および現金を受け取る場合の知覚価値については今後の課題として残されている。
最後に,スーパーマーケットや家電量販店以外における適用可能性についても今後の課 題である。今回の実験で家電量販店は,そもそものベネフィット水準の高さゆえに,低い ベネフィット水準を設定できなかった可能性がある。ドラッグストアやコンビニエンスス トア,航空会社,さらにはTポイントやPontaなどのような提携型ポイントについても今 後研究対象として広げ,一般化が進められる必要があるだろう。
62