第 5 章 ポイントと現金の支払いに関する知覚コスト(研究Ⅲ)
3. 実験2(スーパーマーケット:低価格条件における実験)
3.1. 実験の手続き
通常のポイント付与率が1%で,なおかつ1ポイント単位でポイントを使用可能なスー パーマーケットのロイヤルティ・プログラムの会員で,なおかつ過去1年間に当該店舗の 利用経験がある消費者を対象として,web調査によるアンケート実験調査をおこなった。
調査は2016年4月22日から4月25日にかけておこなわれた。調査の結果,1,211名(男 性595名,女性616名)のサンプルが得られた48。
3.2. 提示刺激
使用しているスーパーマーケットにおいて,ポイント残高が[50ポイント/100ポイン ト/500ポイント/1,000ポイント]において,[1,000円/5,000円/10,000円]の買物の精 算時という想定のもと,精算時のポイント使用意図,支払方法の選択[現金のみ/ポイント 残高の50%/ポイント残高の100%]を尋ねた。最後に,3つのポイント使用割合それぞれ の支払いの知覚コストを尋ねた。掲示方法については,実験1の家電量販店と同様である。
ポイント使用の選択については,単に支払う現金と使用するポイント数を提示するだけ では,現金の支払いの重さだけに焦点が当たってしまうため,支払い後のポイント残高も 合わせて提示している。例えば,100ポイントのポイント残高で1,000円の買物の精算を する場合に提示した選択肢は,以下の通りである。
①現金1,000円,0ポイント使用(→支払後のポイント残高は100ポイントに)
②現金950円,50ポイント使用(→支払後のポイント残高は59ポイントに)
③現金900円,100ポイント使用(→支払後のポイント残高は9ポイントに)
このように表示の仕方によるバイアスを除去するために,支払う現金,使用するポイン ト数,支払い後のポイント残高が併せて提示されている。
3.3. サンプルの割り付け
買物の精算時のポイント使用意図および支払方法の選択については,提示刺激による
48 株式会社クレオのウェブ調査サービス「なるほどMC.net」を利用した。
91
4×3被験者間要因配置である。すなわち,4水準のポイント残高(50ポイント/100ポイ ント/500ポイント/1,000ポイント)と3水準の支払金額(1,000円/5,000円/10,000 円)が割り付けられている。1つのセルにつき,92から110のサンプルが割り付けられて
いる(Table 19)。支払いの知覚コストについては,3水準のポイント使用割合(現金の
み/ポイント残高の50%/ポイント残高の100%)すべてについて尋ねている。したがっ て,支払いの知覚コストについては,上記の4×3被験者間要因配置に加えて,ポイント使 用割合の3水準の被験者内要因配置を加えた混合計画となる。
Table 19 サンプルサイズ(スーパーマーケット)
1,000 5,000 10,000 50P 101 110 108 100P 105 97 101
500P 94 96 106
1,000P 96 105 92 ポ
イ ン ト 残 高
購買金額(円)
3.4. 質問項目
ポイント使用意図の質問項目としては,Kwong et al. (2011)の7件法(1=とてもポイ ントを貯めたい,7=とてもポイントを使いたい)を用いた。支払いのつらさの質問項目 としては,秋山(2010)の支払いへのつらさ評定の7件法を用いた。
3.5. 実験結果
3.5.1. ポイント使用意図に関する実験
ポイント使用意図がポイント残高と支払金額によってどのように異なるかを検討する。
各水準のポイント使用意図の平均値と標準偏差をTable 20にまとめている。
ポイント残高(4水準:50ポイント,100ポイント,500ポイント,1,000ポイント)
と支払金額(3水準:1,000円,5,000円,10,000円)を要因とする,2要因の分散分析を おこなったところ,ポイント残高条件の主効果のみが有意であった(F(3, 1119)=49.079,
p<0.001,ES:
η
2=0.109)。ポイント残高の各水準におけるポイント使用意図についてまとめたのが,Figure 21である。支払金額の主効果,およびポイント残高と支払金額の交 互作用は有意ではなかった(支払金額:F(2, 1199)=2.867, p=0.057,ES:
η
2=0.005;ポ イント残高×支払金額:F(6, 1199)=0.891, p=0.500,ES:η
2=0.004)。ポイント残高について,Bonferroni法による多重比較をおこなったところ,1,000ポイ
92 ントは50ポイント・100ポイント・500ポイントよりも高かった。また,500ポイントは 50ポイント・100ポイントよりも高かった(
MS
e= 3.131
,5%水準)。Table 20 ポイント使用意図の平均と標準偏差(スーパーマーケット)
ポイント残高 購買金額 平均 標準偏差
1,000 2.23 1.40 5,000 2.21 1.40 10,000 2.09 1.14 1,000 2.37 1.37 5,000 2.33 1.37 10,000 2.31 1.57 1,000 3.34 1.91 5,000 3.15 2.05 10,000 2.88 2.00 1,000 4.08 2.23 5,000 3.44 2.22 10,000 3.61 2.20 50
100
500
1,000
まとめると,支払金額はポイント使用意図には影響を与えておらず,したがって仮説5 は支持されなかった。しかしながら,ポイント残高が高くなるほどポイント使用意図は高 くなる傾向にある。したがって,仮説6は支持された。
Figure 21 ポイント使用意図(ポイント残高;スーパーマーケット)
3.5.2. 支払方法の選択に関する実験
2.5.2と同様に,購買の精算時に,①すべて現金による支払い,②ポイント残高の半分
だけポイントを使用する(残りを現金による支払い),③ポイント残高のすべてを使用す る(残りを現金による支払い)の3つの選択肢の選択について,順序ロジット・モデルに より分析をおこなった。推定結果をTable 21にまとめている。ポイント残高のみが有意で
93
あるため,支払いの選択はポイント残高にのみ影響を受けていることが確認された49。
Table 21 支払方法の選択に関する順序ロジット推定結果(スーパーマーケット)
被説明変数
支払方法の選択(現金のみ=1,ポ イント残高の50%使用=2,ポイント 残高の100%使用=3)
説明変数
ポイント残高 2.42×10-3 (8.05)***
支払金額 3.69×10-5 (1.28)
ポイント残高×支払金額 -7.69×10-8 (-1.69)
cut1(α1) 1.91
cut1(α2) 2.14
観測値 1,211
Log Likelihood -816.94
* p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001
係数 (z値)
また2.5.2.と同様に,限界効果の算出により各ポイント残高における支払方法の選択確
率を推定した(Figure 22)。ポイント残高が多くなるにつれて,現金のみの支払いの選択 確率が減少し,逆にポイント残高の100%使用の選択確率が高くなっていく。両者は900 ポイント前後で交差している。ただしポイント残高の50%使用の選択確率は,いずれのポ イント残高においても,3%前後でほとんど変わらない。
Figure 22 支払方法の選択確率とポイント残高(ポイント残高;スーパーマーケット)
まとめると,支払金額は支払方法に影響を与えないことが明らかになった。したがって,
支払方法の選択に関する実験でも仮説5は支持されなかった。一方で,ポイント残高が高 くなるほど,ポイント残高の100%使用がより選択され,現金のみの支払方法がより選択
49 順序プロビット・モデルでも同様に推定をおこなったところ,ポイント残高のみが0.1%水準で有意 となり,支払金額およびポイント残高と支払金額の交互作用は有意ではなかった。
94 されない傾向がある。したがって,支払方法の選択に関する実験でも仮説6は支持された。
3.5.3. 支払いの知覚コストに関する実験
支払いの知覚コストがポイント使用割合,ポイント残高,支払金額によってどのように 異なるかを検討する。各水準の支払いの知覚コストの平均値と標準偏差を算出し,Table 22 にまとめている。
Table 22 知覚コストの平均と標準偏差(スーパーマーケット)
平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差 1,000 2.35 1.26 3.02 1.41 2.96 1.45 5,000 2.41 1.37 2.91 1.54 2.86 1.51 10,000 2.52 1.37 2.89 1.44 3.02 1.56 1,000 2.25 1.26 2.94 1.56 2.89 1.57 5,000 2.66 1.43 3.13 1.44 3.09 1.51 10,000 2.78 1.58 2.94 1.50 2.97 1.54 1,000 2.63 1.50 3.07 1.50 2.86 1.58 5,000 2.81 1.43 3.29 1.41 2.94 1.56 10,000 2.96 1.52 3.19 1.35 3.09 1.37 1,000 2.91 1.43 3.04 1.46 2.57 1.37 5,000 3.21 1.53 3.05 1.40 2.85 1.47 10,000 3.13 1.30 3.26 1.29 2.82 1.19 支払金額
現金のみ ポイント残高の50% ポイント残高の100%
50
100
500
1,000 ポイント残高
支払いの知覚コストについて,ポイント使用割合(3水準:現金のみ,ポイント残高の 50%使用,ポイント残高の100%使用)を被験者内要因とし,ポイント残高(4水準:50 ポイント,100ポイント,500ポイント,1,000ポイント)と支払金額(3水準:1,000円,
5,000円,10,000円)を被験者間要因とする3要因の混合計画による分散分析をおこなっ
た。分散分析の結果を,分散分析表と単純主効果検定の結果としてまとめたものが,Table
23である。
ポイント使用割合の主効果およびポイント使用割合とポイント残高の交互作用,および ポイント使用割合と支払金額の交互作用が有意であった(ポイント使用割合:F(2, 2398)=46.841, p<0.001,ES:
η
2=0.038;ポイント使用割合×ポイント残高:F(6,2398)=14.625, p<0.001,ES:
η
2=0.035;ポイント使用割合×支払金額:F(4, 2398)=2.439,p<0.05,ES:
η
2=0.004)。ポイント残高および支払金額の主効果,ポイント残高と支払金額の交互作用,2次の交互作用は有意ではなかった(ポイント残高:F(3, 1199)=2.103, p=0.098,ES:
η
2=0.005;支払金額:F(2, 1199)=2.166, p=0.115,ES:η
2=0.004;ポイ ント残高×支払金額:F(6, 1199)=0.341, p=0.915,ES:η
2=0.002;ポイント使用割合×ポ イント残高×支払金額:F(12, 2398)=1.048, p=0.402,ES:η
2=0.005)。95
Table 23 支払いの知覚コストの要因に関する分散分析表と単純主効果検定の結果(ス
ーパーマーケット)
支払いの知覚コストの要因に関する分散分析表
SS df MS η2
ポイント残高 30.050 3 10.017 2.103 0.005
支払金額 20.636 2 10.318 2.166 0.004
ポイント残高×支払金額 9.758 6 1.626 0.341 0.002
誤差 5711.024 1199 4.763
ポイント使用割合 71.76 2 35.878 46.841 *** 0.038 ポイント使用割合×ポイント残高 67.21 6 11.202 14.625 *** 0.035 ポイント使用割合×支払金額 7.47 4 1.868 2.439 * 0.004 ポイント使用割合×ポイント残高×支払金額 9.63 12 0.802 1.048 0.005
誤差 1836.77 2398 0.766
* p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001
ポイント使用割合と支払金額の単純主効果検定
変動因 SS df MS η2
ポイント使用割合 at 1,000円 47.521 2 23.760 31.020 *** 0.025 ポイント使用割合 at 5,000円 21.199 2 10.600 13.838 *** 0.011 ポイント使用割合 at 10,000円 10.003 2 5.001 6.530 ** 0.005 (プールされた誤差 1836.774 2398 0.766)
支払金額 at 現金のみ 21.777 2 10.888 5.409 ** 0.009 (誤差 at 現金のみ 2413.392 1199 2.013)
支払金額 at ポイント残高の50%使用 1.191 2 0.595 0.285 0.000 (誤差 at ポイント残高の50%使用 2505.149 1199 2.089)
支払金額 at ポイント残高の100%使用 5.141 2 2.571 1.172 0.002 (誤差 at ポイント残高の100%使用 2629.257 1199 2.193)
* p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001
ポイント使用割合とポイント残高の単純主効果検定
変動因 SS df MS η2
ポイント使用割合 at 50P 57.146 2 28.573 37.304 *** 0.030 ポイント使用割合 at 100P 37.595 2 18.798 24.541 *** 0.020 ポイント使用割合 at 500P 21.937 2 10.968 14.320 *** 0.012 ポイント使用割合 at 1,000P 24.599 2 12.300 16.058 *** 0.013 (プールされた誤差 1836.774 2398 0.766)
ポイント残高 at 現金のみ 75.324 3 25.108 12.474 *** 0.030 (誤差 at 現金のみ 2413.392 1199 2.013)
ポイント残高 at ポイント残高の50%使用 11.078 3 3.693 1.767 0.004 (誤差 at ポイント残高の50%使用 2505.149 1199 2.089)
ポイント残高 at ポイント残高の100%使用 10.861 3 3.620 1.651 0.004 (誤差 at ポイント残高の100%使用 2629.257 1199 2.193)
* p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001
F
F
F
有意であったポイント使用割合と支払金額の交互作用について,支払金額とポイント使 用割合の各水準における支払いの知覚コストについてまとめたのがFigure 23である。ポ イント使用割合別に支払金額の単純主効果検定をおこなったところ,現金のみの場合に,
支払金額の単純主効果が有意であった(F(2, 1199)=5.409, p<0.01,ES: