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ポイントと現金の支払いに関する知覚コストに関する研究

ドキュメント内 ロイヤルティ・プログラムの消費者行動: (ページ 41-46)

国内11業界の主要企業が2013年度に発行したポイント・マイレージの最少発行額は

8,506億円と推計され,この主要企業以外にも多くの企業からポイントが発行されている。

しかしながら,実際には未使用のポイント数が多く存在していると言われており,発行ポ イント数の3分の1が未使用ポイントという推計も存在する(Lieber 2011)。企業会計上 は,未使用のポイント数が増大することは,ポイント引当金を減少させることになり,企 業会計上は有利になり得る19。しかしその一方で,消費者がポイントを使用しようと思わ ないようなロイヤルティ・プログラムには,そもそも参加しようとは思わないであろう

(Nunes and Drèze 2006b)。さらには,ポイントの使用がその後の購買行動に正の影響

を与えることが確認されている(Lal and Bell 2003,Taylor and Neslin 2005,Dorotic et

al. 2014)20。このようにポイント使用の有効性が認められている一方で,ポイント使用の

要因に関する研究は,既存研究においては非常に限定的であった(Smith and Sparks 2009;Noble et al. 2014)。

ポイント使用に関する先行研究は,プログラム特有の要素と償還率との関係を検証して いるものが中心となっている。プログラム特有の要素とは,ポイント使用が可能となる閾 値のポイント数や特典の価値および特典の魅力度などである。閾値のポイント数が高くな るにつれて,償還率は低下する(Drèze and Hoch 1998)。このことは,閾値が高ければ,

多くの消費者は閾値に達成する前にポイントを貯めることを諦めてしまうことを示唆して いる。ただし,逆に閾値が低すぎると,特典の魅力を減少させ,顧客のポイントを貯めよ うという気持ちをなくさせる。(Drèze and Nunes 2011)。また,ロイヤルティ・プログ ラムの開始時に,消費者に特別ボーナスとしてポイントを付与することは,ポイントを貯 めることを促進し,高い償還率をもたらす(Nunes and Drèze 2006a)。

ポイントの使用行動の要因として,Drèze and Nunes (2004)は支払金額について研究を おこなっている。現金による支払い,マイルによる支払い,現金とマイルの併用による支 払いの3つのタイプを選択できるとして実験がおこなわれ,航空券の価格が約300ドル未 満では現金による支払いが最も選択され,約300ドルから約1,200ドルまでは現金とマイ

被説明変数とするには不適切であるという問題が残ることは,既に述べた通りである。

19 ポイント引当金は,過去のポイント使用実績もしくは利用見積率に依存する。新日本有限責任監査 法人(2011)の第3章第3節参照。

20 この効果を特典行動効果(rewarded behavior effect)といい,既存研究では概ね支持されている。

40 ルの併用による支払いが最も選択され,約1,200ドル以上ではマイルによる支払いが最も 選択された。この研究結果は,低価格のときにはポイントを貯めようとして現金のみの支 払いが選好される一方で,高価格のときには現金を節約しようとしてポイント(マイル)

による支払いが選好される傾向を示している。Drèze and Nunes (2004)はこの現象につい て,低価格のときにはマイルの限界価値が高くなり(知覚コスト関数が凸関数),高価格 のときには逆に限界価値が低くなる(知覚コスト関数が凹関数)形状をしていることと整 合的であるとしている。このように,Drèze and Nunes (2004)の研究結果は,ポイントお よび現金を,低価格の場合と高価格の場合では異なるとらえ方をする傾向があることを示 唆している。

さらには,特典の魅力は償還率を高める傾向がある(Liu and Brock 2010)。そして,

ロイヤルティ・プログラムの特典が経済的特典か社会的特典か否かは,ポイント使用の意 思決定に影響を与えない(Noble et al. 2014)。

このように,ロイヤルティ・プログラムの要素が償還率やポイント使用意図に与える効 果に関する研究が既存研究では行われてきた。しかしながら,これらの研究は,非連続型 のロイヤルティ・プログラムに関する研究である。

非連続型のロイヤルティ・プログラムを採用している小売業では,特典を得るための条 件としてある一定の必要ポイント数の閾値を設けており,閾値に到達した顧客に対して割 引券のクーポンや商品券を発行している。したがって,非連続型のロイヤルティ・プログ ラムにおける消費者のポイント使用意図は,閾値の大きさや得られる特典の価値や魅力度 に依存するのは上述の通りである。

これに対して線形・連続型のロイヤルティ・プログラムの場合,1ポイント単位でポイ ントを使用することができる。ポイント使用に関する閾値がそもそも存在しないため,消 費者にとってはポイントをわざわざ貯めようとするインセンティブは存在しない。時間割 引率の観点からは,毎回の買物において毎回ポイントを使用することが合理的であるよう に思われる。

ところが,線形・連続型の場合で特典がポイント数に応じた値引きの場合のロイヤルテ ィ・プログラムにおいては,買物ごとに貯めたポイントを毎回使用している消費者は少数 派で,大多数はある程度のポイント数に達するまでポイントを貯めていることが確認され ている。本章の2.でも述べた通り,Smith and Sparks (2009)は,連続・線形型のイギリ スの小売業のカード保有者のポイント使用行動の記録を調査し,カード保有者の大多数は,

ある程度のポイント数まで貯めてからポイントを使用していることを確認している。中 川・守口(2013)は1ポイント単位(すなわち1 円単位)で償還可能なスーパーマーケ ットおよび家電量販店のポイントカード利用者を対象として調査をおこなった結果,スー

41

パーマーケットの88.2%,家電量販店の82.1%は,1 ポイント単位で使用できるにもかか わらず,ある程度のポイント数まで貯めてからポイントを使用する傾向が確認された。こ のようにポイントカード利用者は,ある一定程度以上のポイント残高になってからポイン トを使おうとする傾向が確認されている。

それでは線形・連続型の場合,ポイント使用はどのような要因によって決定されるので あろうか。Kwong et al. (2011) は,ポイント使用による利得の計算のしやすさがポイント 使用率を高めることを示している。この研究では,ハンバーガーのセットの価格(6ドル

/7ドル)とポイント残高(10ポイント=1ドル分/20ポイント=2ドル分/35ポイント

=3.5ドル分/50ポイント=5ドル分)の2×4の被験者間要因配置でポイント使用意図を 比較した結果,1次の交互作用が有意となり,35ポイント=3.5ドル分において,7ドル 条件の方が6ドル条件よりもポイント使用意図が高かった。すなわち,割引率は高いが利 得の計算が難しい6ドル条件よりも,割引率は低いが利得の計算が簡単な7ドル条件の方 がポイント使用意図が高かった。すなわちポイント使用の要因として,利得の大きさより もポイント使用による割引率の計算しやすさの方が大きいことが示唆されている。

Stourm et al. (2015) は,本研究と同じく線形・連続型のロイヤルティ・プログラムに

おけるポイント貯蓄行動の要因を,経済的動機,認知的動機,心理的動機の3つの観点か ら検証している。経済的動機とは,ポイントを使用すると現金による支払いに比べてポイ ントを使用する金額分だけポイントが貯まらないため,ポイント発生の機会費用が発生す ることを指す。認知的動機とは,精算時にポイントを使用することがコストと感じる,非 金銭的な取引費用を指す。心理的動機とは,Thaler (1985)のメンタル・アカウンティング 理論に基づく,現金と比較したポイントへの評価の高さを指す。Stourm et al. (2015)は,

実際に小売業の購買履歴データ(ポイント使用のデータを含む)を用い,ポイント使用に 関する消費者モデルに経済的動機,認知的動機,心理的動機を組み込んで検証をおこなっ

ている。Stourm et al. (2015)で使用されている消費者モデルを以下説明する21。現金の価

値関数をw x

( )

,ポイントの価値関数をv x

( )

としたときに,ポイントを使用しない場合

yij =0)の消費者i購買機会

j

の効用uijは,

(

0

) ( ) ( )

0

ij ij ij ij ij i ij

u y = =E +wm +v m rh +

ε

(5)

となる。ただし,Eijは購入した製品・サービスから得られる効用,mijは現金による支

21 Stourm et al. (2015) が使用したデータの小売業は,①ポイント残高の50%までしかポイントを使 用できない,②ポイントを使用する購買機会においては一切ポイントが発生しない,という特殊な仕様で あり,これらの点はStourm et al. (2015) のモデルにも反映されている。ここでは,この①と②を考慮し ない形でモデルを説明しているが,議論の本質には影響がない。

42 払金額,

r

はポイント付与率,

h

i

> 0

は消費者iの現金と比べた主観的なポイントの価値(固 定)であり,m rhij iは現金換算のポイントによる利得,

ε

ij0は誤差項である。

ポイントをすべて使用する場合(yij =1)の消費者i購買機会

j

の効用uijは,(6)式で表 される。

(

1

) ( ) ( ) ( )

1

ij ij ij ij ij ij i ij i ij ij

u y = =E +wm +s + −v s hv s rh − +c

ε

(6) ただし,sijは利用可能なポイント数,s rhij iはポイントを使用した分だけポイントが発 生しなかった機会費用,cijは非金銭的な取引費用,

ε

ij1は誤差項である.(5)式と(6)式から,

ポイントを使用しない場合に比べてポイントを使用する場合の効用の差,すなわちネット

の効用z s m

(

ij, ij

)

(7)式の通りである22

(

ij, ij

) (

ij ij

) ( ) (

ij ij i

) (

ij i

)

ij

(

ij i

)

z s m =wm +swm + −v s hv s rh − −c v m rh (7) (7)式より,ポイントを使用するための条件としては(8)式となる.左辺がポイントを使 用する利得,右辺がポイントを使用するコストを表している。

(

ij ij

) ( ) (

ij ij i

) (

ij i

) (

ij i

)

ij

wm +swmv m rh − −v s h +v s rh +c (8)

以上の想定にもとづいて,Stourm et al. (2015)はこのモデルに売上データを適用した結 果,大部分は認知的動機と心理的動機からポイントの貯蓄行動,すなわちポイントの使用 行動が説明できるとしている。

次に,支払い手段における知覚コストについての先行研究について述べる。Soman

(2003)は現金とプリペイドカードによる支払いの知覚コストを比較し,プリペイドカード

による支払いは現金に比べて支払いの痛みを減らし,支払額が上昇することを確認してい る。この理由についてSoman (2003)は,プリペイドカードは支払いのあからさまさ

(transparency)が現金よりも低いために,支払いの痛みやつらさを弱め,支払金額の上

昇を招くとしている。Raghubir and Srivastava (2008)では,商品券による支払い手段に ついてもプリペイドカードと同様に,現金よりも支払いの知覚コストを軽減することが確 認されている。このように,支払いのあからさまさという観点から,ポイントによる支払 いもプリペイドカードや商品券と同様に,支払いの知覚コストを軽減することが予想され る。

以上の既存研究をTable 7にまとめている。非連続型のロイヤルティ・プログラムにお

22 Stourm et al. (2015)では明記されていないが, 0 1

ij ij

ε

=

ε

であることが前提となっている。

ドキュメント内 ロイヤルティ・プログラムの消費者行動: (ページ 41-46)