5.1. ポイント付与と値引きの知覚価値に関する仮説
命題1に関して,ベネフィット水準を値引率・ポイント付与率,および購買金額に落と し込み,研究Ⅰとしての仮説を設定する。ベネフィット水準の高低については,値引率・
ポイント付与率の水準の高低と,値引額・付与ポイント数の水準の高低の2つが考えられ る。まず第1に,値引率・ポイント付与率の水準について仮説を考える。同一の購買金額 であれば,値引率・ポイント付与率が低い場合には,少額の現金は当座勘定になるために 統合型SPとなる一方,少額のポイントは貯蓄勘定になるために分離型SPとなるため,
ポイント付与の方が値引きよりも知覚価値が高くなることが予想される。値引率・ポイン ト付与率が高い場合には,高額の現金は貯蓄勘定になるために分離型SPとなる一方,高 額のポイントは当座勘定になるために統合型SPとなるため,値引きの方がポイント付与 よりも知覚価値が高くなることが予想される。したがって,値引率・ポイント付与率につ いて,消費者のバスケット方式による値引きおよびポイント付与の知覚価値に関する仮説 は,値引き・ポイント付与ともに会員カードを提示するという追加的な努力の水準が等し い場合には,以下の通りとなる。
仮説1a:値引率・ポイント付与率が低い場合には,ポイント付与の方が値引きよりも知 覚価値が高い。
仮説1b:値引率・ポイント付与率が高い場合には,値引きの方がポイント付与よりも知 覚価値が高い。
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第2に,値引額・付与ポイント数の水準について仮説を考える。同一の値引率・ポイン ト付与率であれば,購買金額が低い場合には,少額の値引額は当座勘定になるために統合 型SPとなる一方,少額のポイントは貯蓄勘定になるために分離型SPとなるため,ポイ ント付与の方が値引きよりも知覚価値が高くなることが予想される。購買金額が高い場合 には,高額の値引額は貯蓄勘定になるために分離型SPとなる一方,高額のポイント数は 当座勘定になるために統合型SPとなるため,値引きの方がポイントよりも知覚価値が高 くなることが予想される。したがって購買金額について,消費者のバスケット方式による 値引きおよびポイント付与の知覚価値に関する仮説は,値引き・ポイント付与ともに会員 カードを提示するという追加的な努力の水準が等しい場合には,以下の通りとなる。
仮説2a:購買金額が低い場合には,ポイント付与の方が値引きよりも知覚価値が高い。
仮説2b:購買金額が高い場合には,値引きの方がポイント付与よりも知覚価値が高い。
5.2. 値引率・ポイント付与率とプロモーション弾力性に関する仮説
1.で述べたように,現金とポイントのメンタル・アカウンティング理論によれば,低い ベネフィット水準であれば,値引きは統合型SP,ポイント付与は分離型SPとなると考え られる。そして高いベネフィット水準であれば,値引きが分離型SP,ポイント付与は統 合型SPとなると考えられる。このベネフィット水準とは,(商品単価を一定とした場合 の)値引率・ポイント付与率の水準と,(値引率・ポイント付与率を一定とした場合の)
商品単価の水準の2つが考えられる。
まず第1に,(商品単価を一定とした場合の)値引率・ポイント付与率の水準と弾性値 に関する仮説を提示する。商品単価が一定であれば,値引率が低い場合には,値引きは当 座勘定になるために統合型SPとなる一方,値引率が高い場合には,値引きは貯蓄勘定に なるために分離型SPになると考えられる。したがって,値引率が高くなるにつれて,値 引きの弾性値は高くなると考えられる。これに対して,ポイント付与率が低い場合には,
ポイント付与は貯蓄勘定になるために分離型SPとなる一方,ポイント付与率が高い場合 には,ポイント付与は当座勘定になるために統合型SPになると考えられる。したがって,
ポイント付与率が高くなるにつれて,ポイント付与の弾性値は低くなると考えられる。ま とめると,値引率・ポイント付与率の水準と弾性値に関して,以下の仮説3が導出される。
仮説3:【値引率・ポイント付与率に関するマグニチュード効果】値引率が高くなるに
46 つれて,値引きの弾性値は高くなる一方,ポイント付与率が高くなるにつれ て,ポイント付与の弾性値は低くなる。
次に,値引率・ポイント付与率を一定とした場合の)商品単価と弾性値に関して仮説を 導出する。値引率・ポイント付与率が一定であれば,低い商品単価では,値引きは当座勘 定になるために統合型SPとなる一方,高い商品単価では値引きは貯蓄勘定になるために 分離型SPになると考えられる。したがって,商品単価が高くなるにつれて,値引きの弾 性値は高くなると考えられる。これに対して,商品単価が低い場合には,ポイント付与は 貯蓄勘定となるために分離型SPになる一方,商品単価が高い場合には,ポイント付与は 当座勘定となるために統合型SPになると考えられる。したがって,商品単価が高くなる につれて,ポイント付与の弾性値は低くなると考えられる。まとめると,商品単価と弾性 値について,以下の仮説4が導出される。
仮説4:【商品単価に関するマグニチュード効果】商品単価が高くなるにつれて,値引 きの弾性値は高くなる一方,ポイント付与の弾性値は低くなる。
5.3. 本研究における仮説
Drèze and Nunes (2004)から示唆されるように,支払金額が高いほどポイントの使用意
図が高くなることが想定される。したがって,以下の仮説5が設定される(Figure 8)。
仮説5:支払金額が高い(低い)ほど,ポイントの使用意図が高い(低い)
3.1.で述べたように,消費者の主観的なポイントの価値はポイント残高の減少関数であ るため,ポイント残高が多い(少ない)ほどポイントの価値は低く(高く)なることが想 定される。そのため,ポイント残高が多い(少ない)場合にはポイントの使用意図は高く なる(低くなる)と考えられる。したがって,ポイント使用意図に関する仮説6が設定さ れる(Figure 8)。
仮説6:ポイント残高が多い(少ない)ほど,ポイントの使用意図が高い(低い)
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ポイント の使用 意図 支払金額 (+)
ポイント残高 (+)
仮説6 仮説5
Figure 8 本章の仮説(ポイントの使用意図)
次に,支払いの知覚コストに関する仮説を設定する。まず,支払金額が高くなるほど支 払いの知覚コストは高くなると考えられる23。そして,ポイントによる支払いのあからさ まさが現金による支払いよりも低いことが想定されるため,消費者のポイント残高のうち ポイントを使用する割合(以下,ポイント使用割合)が高いほど,支払いの知覚コストを 低くすると考えられる。したがって,以下の仮説7が設定される(Figure 9)。
仮説7:ポイント残高のうちポイントを使用する割合が高い(低い)ほど,支払いの知 覚コストは低く(高く)なる
さらには,ポイント使用割合が支払いの知覚コストを低くする効果について,ポイント 残高が多い場合にはその効果を増幅させ,ポイント残高が少ない場合にはその効果を減退 させると考えられる。というのは,ポイント残高が多い場合にはポイントの価値が低くな るため,ポイントによる支払いの知覚コストをより低くするためである。同様に,ポイン ト残高が少ない場合にはポイントの価値が高くなるため,ポイントに支払いの知覚コスト をより高めるためである。したがって,以下の仮説8が設定される(Figure 9)。
仮説8:ポイント残高のうちポイントを使用する割合が支払いの知覚コストに与える影 響に対して,ポイント残高は正の調整効果がある
23 自明であるために,仮説には含めていない。ただしコントロールすべき要因として分析には含める。
48 支払い
の知覚 コスト ポイント
残高
(+)
(-)
ポイント残高の うちポイントを 使用する割合
支払金額
(+)
仮説7 仮説8
Figure 9 本章の仮説(支払いの知覚コスト)
5.4. 本学位論文の研究の位置づけ
以上,導出した仮説1から仮説8について,実験および小売業のトランザクションデー タによって実証的に検証をおこなっていく。これから行う研究の概観についてまとめたの
がTable 8である。研究Ⅰでは,低価格条件としてスーパーマーケット,高価格条件とし
て家電量販店における実際の顧客を対象として,知覚価値に関する実験をおこない,仮説 1および仮説2の検証をおこなう。研究Ⅱでは,スーパーマーケットのID付きPOSデー タを用いて,値引きおよびポイント付与の売上に与える影響として価格弾力性およびポイ ント販促弾力性を測定し,仮説3および仮説4の検証をおこなう。研究Ⅲでは,高価格条 件として家電量販店,低価格条件としてスーパーマーケットの顧客を対象として,ポイン トによる支払い意図,支払方法の選択,支払いの知覚コストに関する実験をおこない,仮 説5~8の検証をおこなう。以降,第3章ではポイントと値引きの知覚価値に関する研究
(研究Ⅰ)を,第4章ではポイント付与と値引きのプロモーション効果の推定に関する研 究(研究Ⅱ)を,第5章ではポイントと現金の支払いに関する知覚コストに関する研究(研 究Ⅲ)の研究結果について述べる。