第 3 章 ポイントと値引きの知覚価値(研究Ⅰ)
2. 実験1(スーパーマーケット:低価格条件における実験)
2.1. 実験の手続き
通常のポイント付与率が1%のスーパーマーケットのポイントカード会員で,かつ過去 1年間に当該チェーンの利用経験がある消費者を対象として,web調査によるアンケート 実験調査をおこなった25。ポイント付与率1%のチェーンとしたのは,提示するセールス・
24 野村総合研究所の2012年の調査によれば,消費者のポイント保有認識率が最も高い業界が家電量販 店(80.7%)であり,2位がドラッグストア(77.0%),3位がスーパーマーケット(75.8%)となってい
る(安岡2014)。
25 株式会社クレオのウェブ調査サービス「なるほどMC.net」を利用して調査はおこなわれた。スーパ ーマーケットにおける調査対象者は,イトーヨーカ堂,遠鉄ストア,オークワ,オオゼキ,しずてつスト ア,マミーマート,ヨークベニマル,ライフの利用者である。
52 プロモーションの参照点を1%に合わせるためである。調査は2014年2月21日から3月 2日にかけておこなわれた。調査の結果,945名(全員女性)のサンプルが得られた。
2.2. 提示刺激
通常のポイント付与率が1%のスーパーマーケットにおいて,[1,000円/5,000円/
10,000円]の買物の計画で来店したという想定のもと,バスケット価格において[1%/5%
/10%/25%]の[値引き/ポイント付与]のセールス・プロモーションを提示した。例えば,
1,000円で25%値引きの場合の教示は以下のようにおこなわれた26。
この質問は●●(普段最も使っているスーパー)での買物を思い浮かべながら回答をお 願いします。
あなたは、●●(普段最も使っているスーパー)で
1,000 円
の買い物の計画をしてい るものとします。あなたがヨドバシカメラの店舗に行くと、下記のようなプロモーション が実施されていました。以下の質問にお答えください。 ポイントカード利用で25%値引き
(1,000円のお買い物で250円をお値引きします)
※ただしポイントは貯まりません
Figure 10 提示刺激の例(1,000円の購買時において25%の値引き)
実施されているプロモーションは、金銭的に得だと思う。
(1.まったく得ではない←→7.とても得である,の7件法)
Figure 10は,1,000円の買物の計画で来店したときに,バスケット価格において25%
の値引きを実施する際の刺激提示の例である。表示の仕方によるバイアスを除去するため,
値引額と値引率の水準の両方が提示されている。ポイントに関しても同様に,実際の付与 ポイント数およびポイント付与率の両方が提示されている。
2.3. サンプルの割り付け
提示刺激による2×3×4被験者間要因配置である。すなわち,2水準のプロモーション条 件(値引き/ポイント付与),3水準の購入金額(1,000円/5,000円/10,000円)およ び4水準の値引率・ポイント付与率(1%/5%/10%/25%)が割り付けられている。1 つのセルにつき,30から44サンプルが割り付けられている(Table 7)。
26 詳細は補章の1.「研究Ⅰにおけるweb調査の質問票」を参照されたい。
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2.4. 質問項目
質問項目としては,Chen et al. (1998),Hardesty and Bearden (2003),Sinha and Smith (2000)などと同様に知覚価値を用いた。Chen et al. (1998)とHardesty and Bearden (2003)では7件法,Sinha and Smith (2000)では5件法が用いられており,本研 究では7件法を用いている。
2.5. 実験結果
実験によって得られた各条件における知覚価値の平均値と標準偏差を算出し,サンプル サイズと合わせてTable 9にまとめた。
Table 9 知覚価値の平均と標準偏差(スーパーマーケット)
N Mean S.D. N Mean S.D.
1,000円 40 3.87 1.45 41 4.34 1.13
5,000円 40 3.35 1.49 38 4.13 1.28
10,000円 43 3.33 1.61 41 4.15 1.28
1,000円 38 4.74 1.16 39 5.41 0.88
5,000円 43 4.44 1.64 37 4.92 1.19
10,000円 41 4.73 1.25 42 4.64 1.25
1,000円 38 5.50 1.35 37 5.70 1.05
5,000円 30 5.23 1.19 38 5.47 1.18
10,000円 41 5.44 1.27 42 5.43 1.27
1,000円 44 5.86 1.17 38 6.18 0.98
5,000円 35 5.80 1.30 37 5.89 1.17
10,000円 42 6.33 0.69 40 5.65 1.08
10%
25%
1%
5%
値引率
ポイント付与率 購買金額 値引き ポイント付与
3要因2(プロモーション条件:値引き,ポイント付与)×3(購入金額:1,000円,5,000
円,10,000円)×4(値引率・ポイント付与率:1%,5%,10%,25%)の分散分析をお
こなったところ,プロモーション条件の主効果(F(1, 921)=11.46, p<0.01,
η
2=0.008 ),購入金額の主効果(F(2, 921)=4.981, p<0.01,
η
2=0.007),および値引率・ポイント付与 率の主効果(F(3, 921)=126.23, p<0.01,η
2=0.279)は,すべて有意であった。ただし,プロモーション条件の主効果と購入金額の主効果に関する効果量は,Cohen (1969)による
「小さな」効果量の基準である
η
2=0.010を下回っている。また,値引率・ポイント付与54 率の効果量は,Cohen (1969)による「大きな」効果量の基準である
η
2=0.137を上回って いる。1次の交互作用は,プロモーション条件×値引率・ポイント付与率(F(3, 921)=4.23, p<0.01,
η
2=0.009)のみが有意となっている。ただし,効果量はCohen (1969)による「小 さな」効果量の基準であるη
2=0.010を若干下回っている。プロモーション条件×購入金額(F(2, 921)=2.76, p=0.064,
η
2=0.009),および値引率・ポイント付与率×購入金額(F(6, 921)=0.39, p=0.887,η
2=0.002)は有意ではなかった。また,2次の交互作用は有意では なかった(F(6, 921)=1.23, p=0.287,η
2=0.005)。そこで,値引率・ポイント付与率の水準ごとにプロモーション条件の単純主効果を検定 した結果,値引率・ポイント付与率が1%(F(1, 921)=18.71, p<0.01)および5%
(F(1,921)=4.86, p=0.028)のときに有意な差があった。これに対して,値引率・ポイン
ト付与率が10%(F(1,921)=0.75, p=0.386)および25%(F(1,921)=0.31, p=0.578)のと きには有意差はなかった。(Figure 11)。
3.51 4.21
4.63 4.98
5.40 5.53
6.01 5.90
**
*
** p<0.01
* p<0.05
01234567知覚価値
1% 5% 10% 25%
値引率/ポイント付与率 値引き ポイント付与
Figure 11 知覚価値(値引率・ポイント付与率;スーパーマーケット)
これらの結果から,仮説1a「値引率・ポイント付与率が低い場合には,ポイント付与の 方が値引きよりも知覚価値が高い。」は支持されたといえる。しかしながら,仮説1b「値 引率・ポイント付与率が低い場合には,値引きの方がポイント付与よりも知覚価値が高 い。」については,値引きの方がポイント付与よりも知覚価値が高いとまでは言えず,支 持されたとはいえない。
また,購買金額に関しては,仮説2a「購買金額が低い場合には,ポイントの方が値引き よりも知覚価値が高い。」および仮説2b「購買金額が高い場合には,値引きの方がポイン トよりも知覚価値が高い。」については,上記の通りプロモーション条件×購買金額に関
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する1次の交互作用が有意ではなく,支持されなかった。
ただし,購買金額の主効果は有意であり,購買金額が1,000円の時に最も知覚価値が高 かった。すなわち,購買金額が最も低い金額時に知覚価値が最も高いという結果が得られ
た。Bonferroni法を用いた多重比較によると,購買金額が1,000円のときと5,000円のと
きの知覚価値を比較したところ,有意な差が認められた(p=0.010)。また同様に,購買
金額が1,000円のときと10,000円のときの知覚価値を比較したところ,有意な差が認め
られた(p=0.043)。ただし購買金額が5,000円のときと10,000円のときの知覚価値の差
は有意ではなかった(p=1.000)(Figure 12)。
まとめると,値引率・ポイント付与率が低い場合には,ポイントの方が値引きよりも消 費者の知覚価値が高いことが示された。一方で,ベネフィット水準が高いときに,値引き の知覚価値はポイントの知覚価値よりも高くなることは確認されなかったものの,値引 率・ポイント付与率が高くなるにつれ,値引きとポイントの知覚価値の差がなくなる傾向 にあることも明らかになった。
5.20 4.87 4.95
*
*
** p<0.01
* p<0.05
01234567知覚価値
1,000 円 5,000 円 10,000 円
購買金額
Figure 12 知覚価値(購買金額;スーパーマーケット)