己効力感を高めることができた.そして,そのことが状態不安を低下させたと考えた.
しかし,特性不安を強く感じていると判定した2名は跳び越せなかった. これらの 要因として,特性不安に着目せずに状態不安だけを捉えてその対象を推定したことを挙 げることができる.
2.Uさんにおける特性不安の解消結果
Uさんの特性不安の具体的対象は,「成功する見通しが持てないことに対して,自分は できないと捉えてしまい新しい課題に挑戦できないこと」と推定した.Uさんの特性不 安の解消は,跳び箱の高さを徐々に変え,見通しが持てている環境と大きく環境を変え ないで見通しを持てるようにする.そして,少しの努力で常に成功体験をさせ,自己効 力感を高めることで,状態不安を繰り返し解消する方法を用いて行った.
その結果,Uさんは,運動面の改善点として,段差66cmまでしか跳び越せなかった のが段差71cmまで跳び越せるようになった.しかし,段差が変わるとたいていは挑戦 するまでに時間がかかり,ためらっていた.いったん跳び越し,成功すると,自信を持 って次の大きな段差にも挑戦することができた.しかし逆に,いったん跳び越せなく,
失敗すると挑戦できなくなり,そこで運動がストップしてしまった.このような状態は 改善されないままであった.
自己効力感,状態不安については,各段差への挑戦前後では自己効力感が高まり状態 不安が低下したところもあったが,指導を通して見ると,自己効力感が高まらず,状態 不安は低下しなかった.特性不安も低下しなかった.
3.0さんの特性不安の解消結果
0さんの特性不安の具体的対象は「再び失敗をして苦痛な体験をするかもしれない と感じていることjと推定した.そして,小久保式を用いて指導することにより両腕で 体を支えること,空中に浮くことを安定して行えるようにする.そして,それらに対す
る自己効力感を高め,状態不安を解消していく方法を用いて行った.その結果,0さ んは,運動面の改善点として,初めは両腕で体を支えること,空中に浮くことに対して 強い不安を感じていて,馬跳びができないことや踏み切り時に両足同時に踏み切れない こと,踏み切りが弱いことが見られた.しかし,指導をしていくことで,徐々にこれら の問題は解決されていき,最後には跳び越すことができた.踏み切りの強さにっいては
改善されないままであった.
自己効力感と状態不安については,各段差では自己効力感が高まり,状態不安は低下 したところもあった.指導を通して見ても,自己効力感は高まり,状態不安は低下した.
STAI調査の評価段階基準の「非常に高い」からr低い」にまで下がった.特性不安に っいてもわずかながら低下し,STAI調査の評価段階基準の「高い」から「普通』にま
で低下した.
Uさん,0さんにおける指導で自己効力感が高まり,状態不安が低下した部分が見ら れた.この要因として,今回の指導で成功体験をし,自分自身で能力の進歩の度合いを 認識することによって自己効力感が高まったと考えた.そして,自己効力感が高まった 結果,竹中やバンデューラが示唆しているr成功体験を繰り返し行わせ,自己効力感を 高めることによって状態不安を低下させることができる.」という見解と同様に状態不 安が低下したと考えた.
また,Uさんは跳び越したにも関わらず,自己効力感が高まらなかった.この要因と して,自己効力感を高める,いわゆる有能感を高めるためには,有能感の下位要因であ る「身体的有能さの認知」や「統制感」を高める必要がある.よって,Uさんの自己効 力感が高まらなかった要因として,これらの「身体的有能さの認知」や「統制感」が高 まらなかったと考えた.中でも,努力すればできるようになるという自信である「統制 感」が高まらなかったと考える.Uさんの思考パターンとして,完壁主義やマイナス思 考などがあった.また,行動パターンとして,見通しがもてないことに対して挑戦でき ないことや跳び越してはいるが時々失敗もしながらであることがあった.これらのこと をあわせ考えると,跳び越していても時々失敗していることから,おそらくUさんは成 功したことに満足していないことが考えられる.そのため,努力してもできないと捉え てしまい,「統制感」が高まらなかったと考えた.また,ある段差を努力して跳び越して も,すぐに次の課題である,新しく難しい課題があることを知っていることから,努力 し続けることをっらいことと捉えてしまい「統制感」を高めなかったと考えた.
第5章 今後の課題
1.今回は,跳び箱運動の開脚跳びを成功させることで自己効力感を高め,状態不安を解 消し,特性不安を低下,解消しようと試みた.しかし,Uさんについては開脚跳びを 成功することができなかった.この要因として,まず指導の仕方に問題があったと考 える.指導は,Uさんの都合を優先して期目,時間を決定して行ったことにより,指 導の実施間隔が長く空いてしまうことがあった.そのため,指導を行う時には,前に 指導したことを忘れており,その復習に時間を費やすことになった.その結果,新し いことに取り組む機会が減少した事に加え,その時には,すでに復習したことによる 疲労があり,思うようにカが発揮できない状態であった.これらのような点から,U さんは開脚跳びを成功できなかったと考える.そこで,Uさんの忘却,疲労のことを 考慮した指導目の設定,一回の指導時間の決定など,指導を計画的に行う必要がある.
次の要因として,Uさんにとって開脚跳びを成功するという課題が難しすぎたのか,
あるいは開脚跳びを成功することに対する価値を低く捉えていて,Uさん本人が思っ ているほど精一杯取り組めなかったと考える.いずれにしても課題の選択に問題があ ったと考える.そこで,最適な課題の選択を試みる必要がある.
2.0さんの「再び失敗をして苦痛な体験をするかもしれないと感じていること」を対象 とする特性不安は,開脚跳びを成功させ,自己効力感を高め,状態不安を低下するこ とでわずかながら低下した.そこで,この特性不安のさらなる解消法として,跳び箱 運動以外のこと,例えば,マット運動や鉄棒運動を取り上げ,それらにおいて成功体 験をし,自己効力感を高め,状態不安を繰り返し解消することで解消していけるかを 検討する必要がある.
注1)
状態不安とは,運動の特性・環境・教師・方法・用具等により運動者がその場の状況か ら感じる一過性の不安であり,特性不安とは,過去に恥ずかしい体験や痛い体験等の苦痛 体験によって感じた嫌な思いが現在のものの見方,考え方,扱い方に影響を与えている不 安でトラウマのようなものである.そして,特性不安の対象になるにはこのような苦痛体 験を何回か繰り返す必要があるものと強烈な体験による一回だけでも対象となるものがあ