(4)指導を通しての自己効力感,状態不安,特性不安の関係
体重移動から段差73cmへの挑戦にかけて自己効力感,状態不安,さらには特性不安 がどのような変化をしたかを見るために,図15に各段差の跳び越す前のそれぞれの得 点の関係を示した.
80 70 60 不50 安
40
得
点30
これらの結果をまとめると,今回の指導で開脚跳びを成功させることによって自己 効力感は高まり,状態不安は低下した.STAI調査の評価段階基準では「非常に高い」
から「低い」の段階に低下した.そして,特性不安もわずかながら低下した. STAI の評価段階基準では「高い」から「普通」の段階に低下した. 以上のことから,0さ んの特性不安は状態不安を低下させることによって低下した.
第4節 考察
第1項 Uさん,0さんにおける指導で自己効力感が高まり,状態不安が低下した部分 が見られたことにっいての考察
Uさんについては,段差を徐々に変え,成功する見通しを持ちやすくして挑戦 させたことによって,失敗が少なく,調子よく挑戦できるようになった場面であ った.また,今までよりも踏み切りのリズムが良くなった場面であったために,
Uさん自身で自分の能力の進歩の度合いを認識できた.0さんの場合は,小久保 式を用いての指導を行ったこと,さらに跳び箱の長さを短くし,跳び越す体験を 容易にさせることができるように,横にした跳び箱に挑戦させたことによって体 を支えること,空中に浮くことに対して安心感が持て,強く踏み切れるようにな ってきた場面であった.そのために0さん自身で自分の能力の進歩の度合いを認 識できた.このように成功体験をし,自分自身で能力の進歩の度合いを認識する ことによって自己効力感が高まったと考える.これは,いわゆる運動ができると いう自信である「身体的有能さの認知」や努力すればできるようになるという「統 制感」が高まった.この結果は,岡澤ら20)が示唆している「有能感を高めること は,運動を上手に行い,『身体的有能さの認知』や『統制感』を高めることで可 能である」という見解と一致する。このようにして自己効力感が高まった結果,
竹中35)やバンデューラ1)が示唆している「成功体験を行わせ,自己効力感を高め ることによって状態不安を低下させることができる.」という見解と同様に状態 不安が低下したと考える.
第2項 Uさんの跳び越したにも関わらず,自己効力感が高まらなかったことについて の考察
自己効力感を高める,いわゆる有能感を高めるためには,有能感の下位要因
である「身体的有能さの認知」や「統制感」を高める必要がある.よって,U さんの自己効力感が高まらなかった要因として,これらの「身体的有能さの認 知」や「統制感」が高まらなかったことを考える.中でも,努力すればできる
ようになるという自信であるr統制感」が高まらなかったと考える.Uさんの 思考パターンとして,完壁主義やマイナス思考などがあった.また,行動パタ ーンとして,見通しがもてないことに対して挑戦できないことや跳び越しては いるが時々失敗もしながらであることがあった.これらのことをあわせ考える と,跳び越していても時々失敗していることから,おそらくUさんは成功した ことに満足していないことが考えられる.そのため,努力してもできないと捉 えてしまい,「統制感」が高まらなかった.また,ある段差を努力して跳び越し ても,すぐに次の課題である,新しく難しい課題があることを知っていること から,努力し続けることをっらいことと捉えてしまい「統制感」を高めなかっ た.しかし,これは,指導の仕方にも問題があったのかもしれない.具体的に は,技能を定着させる前に次の課題へ挑戦させてしまい指導を急ぎすぎたこと などを考える.以上のようなことから,Uさんは跳び越すとう成功体験をした にもかかわらず,「統制感」が高まらなかった,いわゆる自己効力感が高まらな かったと考える.
第3項
0さんの特性不安が低下したことについての考察0さんの特性不安の対象は「再び失敗をして苦痛な体験するかもしれないと 感じていること」であった。そこで,この特性不安を低下,または解消するた
めに,今回の指導では,跳び箱運動の開脚跳びにおける状態不安の解消を課題 として設定した.そして,その課題をクリアーさせるために,小久保式を用い,
0さんが特に不安に感じていた両腕で体を支えること,空中に浮くことに対し て安心感を持たすことを中心に行い,開脚跳びを成功させることを試みた。そ の結果,開脚跳びを成功させることができ,開脚跳びにおける状態不安は低下 し,特性不安もわずかながら低下した.このように特性不安が低下した要因を 次のように考える.
特性不安の対象になるには,「苦痛な体験を何回か繰り返す必要があるものと 強烈な体験による一回だけでも対象となるものがある.」という見解が示唆され
ており,0さんの特性不安は,跳び箱から落ちて骨折したという苦痛な体験が 大きく影響して生じた,一回の強烈な体験が対象となったものと考える.それ は,っまり今回,課題として設定し,解消させた開脚跳び運動における状態不 安と特性不安の対象が大きく重なっていたことを意味する.そこで,ウォルピ が系統的脱感作法の中で用いているr弱い恐怖が消失すればそれより少し強か った恐怖もその分弱まってくる。」という考え方と同様に,一回の強烈な苦痛体 験を対象とし,状態不安の対象と大きく重なっていた特性不安は,その対象に おける状態不安を解消することによってその分だけより大きく低下したと考え
る。
第5節 要約
Uさんの特性不安の具体的対象は「成功する見通しが持てないことに対して,自分はで きないと捉えてしまい新しい課題に挑戦できないこと」と推定した.そして,その特性不 安の解消に跳び箱運動を用い,跳び箱の高さを徐々に変え,見通しが持てている環境と大 きく環境を変えないで見通しを持てるようにする.そして,少しの努力で常に成功体験を させ,自己効力感を高めることで,状態不安を解消する方法を用いて行った.その結果,
自己効力感が高まり,状態不安が低下した部分もあった.しかし,指導を通してみると自 己効力感は高まらず,状態不安は低下しなかった.特性不安も低下しなかった.
0さんの特性不安の具体的対象は「再び失敗をして苦痛な体験をするかもしれないと感 じていること」と推定した.そして,小久保式を用いて指導することにより両腕で体を支 えること,空中に浮くことを安定して行えるようにする.そして,それらに対する自己効 力感を高め,状態不安を解消していく方法を用いて行った.その結果,自己効力感が高ま り,状態不安が低下した部分もあり,指導を通してみても自己効力感は高まり,状態不安 は低下した,そして特性不安もわずかながら低下した.
二人の結果の共通点は,自己効力感を高めることで状態不安を低下することができた部 分が見られたこと,特性不安は短期間では大きく変化しなかったことであった.