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5.1全体を通した考察

 創造的態度得点や感動体験数は,中学年で一旦急激に減少することが今回の研究で明ら かにされた。これは,中学年の時期に自分を客観的に捉え始めたために,児童自身が肯定 的に捉える態度や体験数が減少していることを示している。このことは,周りとの関係も 考慮しながら精選した判断ができるようになってきていることを示し,一連の発達研究の 結果ともほぼ一致している。しかし,こうした創造的態度得点や感動体験数の中学年での 減少傾向が将来の創造的能力を減少させている可能性もないとは言えない。このため特に 中学年においては,学校や家庭,地域社会においてこうした周囲との同調性・協調性を養 いつつも,自分独自の考えや行動を周囲に対し表現することができる風土を培う必要があ ると考える。一方,努力・持続性,自主・独自性について中学1年を基準に項目得点の変 化を見た場合,小学校では学年を経るに従って得点が上昇していくことから,小学校生の 創造的態度因子は,努力・持続性,自主・独自性を中心に明確化していくといえる。

 また,創造的態度と豊かな体験(感動体験,全体験)との間には,有意な正の相関が6 年を除く全学年で見られた。これは,自分自身が自分を,あるいは対象をどう捉えている かということと共通しており,自分自身で高い創造的態度を持っていると捉えている人は,

体験に対する捉え方も肯定的であり,そういう人はまた体験の数も多いということを示し ている。つまり,豊かな態度は豊かな体験を生み,豊かな体験は豊かな態度を生む可能性 があると言い換えることもできるであろう。また,豊かな態度の育成に関係する豊かな体 験の質も重要であり,たった一つの感動体験でも豊かな態度を生み出す可能性もあろう。

以上のことより,学校教育において創造性に関する豊かな態度および体験を生み出す努力 が必要であると考えられる。

 一方,「学力」と関係する創造的態度,体験,創造的思考力は,学年が進むとともに有意 な正の関係が現れている。これは,教科学習にとって,小さいときからの豊かな体験や創 造性を生み出す態度,あるいは柔軟な見方,考え方というものが将来の教科内容の習得に 関係があることを示している。この申で4年では努力的な態度と,6年では周囲と独立し た態度との相関が強くなることが分かった。これは,「型に馴染み,型を破る」という創造 性の生成過程とも一致するものである。ただし,中学年の頃に現れた周囲への同調傾向は 発達特性上必要としても,常に周囲と同調することから抜け出せなかった場合,態度とし ての独自性のみならず柔軟な思考も減衰してしまう可能性もあろう。また,周囲と同調す ることだけが重要視されることで,集団にとけ込めない個性が排除されるという現代日本 の問題点も浮き彫りにされていると考えられる。

 また,創造的態度や体験数,創造的思考力に関しては全学年における明確な地域の差は 見出されず,1971年忌都市部と上部の比較を行った古川4)の結果とは異なり,時代の変化 と共に個々の違いは減少していることが分かる。他方,「学力」と関係する創造的態度,体

験,創造的思考力は,地域によってその関わり方に違いがあることも明らかになった。都 市部と島外を比較した場合,4年で努力との関係があるという点で同じ傾向を示したが,6 年では都市部が創造的思考力と,島部では感動体験や独自性といった態度面と関係すると いうように,両地域において違いが現れていることが分かった。この原因について本研究 では明確にすることはできなかったが,地域によってこのような違いが現れてくることは,

児童が成長していく過程の中で,広い意味での環境が影響している可能性を示唆している。

本研究での分析では因果関係を確かめることはできないが,今後の研究次第では,地域の 特長を伸ばしたり,あるいは他地域と比べて不足している特徴を補ったりといったアプロ ーチをすることで,授業により創造性を高める有効な方法が明確になっていくかもしれな

い。

5.2 創造性調査の教育への有用性について

 これまで児童の創造的態度や体験に関して教師が判断するためには,教師の主観に頼る ことが多かった。市販の人格検査や体験調査を実施するところもあったが,『そういった調 査を実施する学校は極少数であった。本研究で使用した創造性調査,体験調査は,調査用 紙としての信頼性と妥当性を確認できたため,従来「見えない・ 測れない」とされて敬遠 されてきた創造性評価についても1うの指標ができたと言える。ポートフォリオ的記録様 式が広まりつつある今日,創造性について客観的数値データを継続して記録していくこと は,創造的態度や体験に関する客観的データを蓄積しでいくという点において大変重要で あると考える。教師や保護者は,これらのデータからこれまでの教育活動を振り返る材料 となるだろうし,児童も自分自身の変化を客観的に捉えられるというメリッドがある。特 にこれらの調査票は項目数も比較的少ないため教室ですぐに使用できるし,ほとんどの分 析は表計算ソフトのアドイン機能を利用することで可能となる。

 また,将来的な応用として,調査用紙の内容を加除修正して独自のものを作ったり,態 度や体験に関して児童・生徒用,教師用,保護者用など,様々な対象で比較・分析したり することが考えられる。

 創造性的結果を残した人物は,小さいときに何かで評価され,それが動機となって研究 結果や作品等を作り上げたという逸話は余るほどある。それは,子どもに対する大人の評 価がいかに重要かを示すものであるが,何かを評価するためにはデータが必要である。今 回のような調査は,子どもを多面的に評価するための,教育上有用な一つの手段となると 思われる。

5.3児童を多面的に評価する新システムの開発について

 これまで「学力」だけではなく創造的態度や体験,創造的思考力など,多様な面から児 童の実態を把握して教育方法や教材開発に生かそうとした場合,調査を行い,分析するま で時間が必要であり,外部に分析を依頼するときにはさらに時間と費用が必要であった。

今後,創造的態度や体験,』創造的思考力などの実態把握に不可欠な要素として,「調査方法

が簡単で,時間を要しないこと」「すぐにデータを分析できること」「費用を最小限に抑え られること」などが考えられる。S・A創造性検査を除き,今回使用した調査はプリントを用 いたが,これをWebを用いて行った場合,さらなるメリットがある。それは,上に取り ・ 上げた必要な要素を満たしているのみならず,様々な年齢,職種,地域,性別など,ネッ

トに接続環境があるならば入力後直ちにデータベース化できることである。こういつたシ ステムが整えば,統一した調査用紙を用い,市町村単位,県単位でデータを収集すること ができるようになるだけでなく,その学校や地域でのデータの蓄積につながり,学校単位,

地域単位の変化を把握できることになる。

 また,こうして得たデータをもとにすることで,児童・生徒,教師,保護者に結果を知 らせることはもちろん,教育課程編成の資料としたり,教材開発や教育方法の改善等に役 立てたりする事が可能であろう。しかしこうしたシステムを構築するためには,1つの学 校で継続的に行うことはもちろん,隣接する諸学校と連携をとりながら,より広いネット

ワークを持って実践を積み重ねることが今後必要であると考えられる。

5.4今後の課題

 本研究では,児童の創造的態度を中心に体験や創造的思考力といった,創造性に関わる ことで,通常の学校教育では測定する機会が非常に少ないと思われる内容について調査を 行った。その結果明らかになったことは,鹿児島県内の一部の地域において得られたデー タを元にしているため,他の地域においても同様のことが必ずしも言えるとは限らない。

よって,今後は同地域における継続した調査と,他地域,他校種でのデータ収集をするこ とにより理論の信頼性向上を図りたい。また,児童の創造性を育成するという目標に立ち,

よりいっそう創造的態度や柔軟な思考力を高める教育方法を構築していきたい。

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