近年,交通事故の削減や交通渋滞の緩和といった道路交通の安全性,円滑性向上に向けて,
自動車の自動運転技術の研究開発が進められている.わが国でも,2020 年を一里塚として社 会実装に向けた取り組みが官民で加速しており,2017 年には公道での大規模な実証実験が予 定されている.技術開発が進む一方で,自動運転技術を搭載した車両が一般車両と混在した際 に,交通流や周辺車両にどのような影響が生じるのかという,道路・交通管理上の課題は十分 議論されていない.そこで,本研究では,自動運転技術の根幹をなす ACC に着目して,ドラ イビング・シミュレータを用いた室内走行実験により,ACC 車両が混在した交通流を仮想空 間上で作成した.このとき,ACC 車両の混在比率が異なる複数の交通流を作成することで,
ACCの普及レベルに応じた影響を把握できるようにした.
作成された交通流に対して,交通流率などの指標を基に交通流の特性を考察し,さらに,コ ンフリクト指標などの各指標を基に車両挙動への影響を調査した.
その結果,道路線形によらず,混在比率が0%或いは10%のときに確認された交通流率の低 下が,混在比率が50%のときには緩和されることを確認した.そして,この交通流率の向上は,
道路線形の影響を受けず,前方車両の加減速に緩やかに反応するという ACC の性質に起因す ることを指摘した.
また,車両の横方向挙動や追従走行時の反応遅れについては,混在比率による影響は確認さ れず,むしろドライバーの運転頻度などの違いによる影響の方が大きいことが確認された.特 に,反応遅れは,普段運転をしないドライバーの方が有意に大きいことが示された.さらに,
コンフリクト指標の比較から,サグ部や急カーブにおいて,混在比率が 0%の場合,ドライバ ーの反応遅れによって追突事故リスクが高くなる事例が確認された.そして,ACC 車両の混 在比率上昇に伴い,追突事故リスクが低減する事例も確認された.
以上の知見から,ACC の導入によって,道路交通の円滑性,安全性が向上することが期待 される.また,ACC車両の混在比率の上昇は,ACC車両への追従走行などの,周辺車両の挙 動に与える影響が小さいことも明らかとなった.これらの知見は,自動運転技術の社会実装が 現実化しつつある現在,道路・交通管理の観点から有用なものと言えよう.
なお,今後の課題としては主に以下の4点が挙げられる.
まず,本研究では混在比率が0,10,50%の交通流を対象としたが,混在による影響をより 詳細に把握するためには,他の混在比率の下での調査を進めることが必要である.
次に,本研究では交通流や車両の挙動に着目しており.ドライバーの心理・生理状態までは 検討できていないため,ACC 車両の混在がドライバーの心理・生理状態に与える影響を検討 することが求められる.
そして,本研究ではサグ部や急カーブなど,多様な線形要素を有する道路をモデル化して調 査をしているが,実際の高速道路には,トンネル部など別のボトルネックや,また,単路部以 外にも分合流部など,多様な線形要素が存在することから,調査対象とする道路線形の種類を さらに広げることが必要である.
また,本研究においても,速度や車頭距離の変動は存在したが,現実には,急な車線変更に 伴う擾乱の発生,あるいは ACCのシステムのエラーなど別のリスクも存在する.これらのリ スクが顕在化した場合の影響も検討する必要があろう.
上述の課題が残されてはいるものの,本研究の成果が,自動運転技術により急速な変化を遂 げつつある道路交通の安全性・円滑性の維持・増進に資することができれば幸いである.
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第 2 部
自動運転システム制御車両が混在する交
通流での運転者行動と心理的な負荷
第 2 部概要
第2部では,ACC車両の混在比率がドライバーに与える影響についてミクロに考察するた め,第1部で構築した交通流の中を被験者に実際に走ってもらい,走行中の運転行動を計測す る実験とその結果について述べる.この実験では,走行後にドライビング・シミュレータの走 行再現機能を用いた振り返り走行を行うことで被験者が走行中に注意していた対象物など,心 理面のデータ計測も行った.
振り返り走行では,事前に設定したヒアリングポイントごとに,走行中注意していた対象に ついてのヒアリングを行った.こうして得られたヒアリングデータのうち,車間距離に関する 発話回数を比較したところ,ACC運転条件はMD運転条件よりも有意に少なくなり,前方車 両に対するドライバーの注意負荷はACC機能によりある程度軽減されることが示唆された.
一方,ACC運転時には追い越し車線に関する発話数が運転時間の経過とともに減少し,徐々 に周囲に注意を払わなくなる傾向が示唆された.ただし,今回の実験環境においては,ACC を運転することによる覚醒度の低下という負の効果は認められなかった.
ACC車両の混在比率ごとに比較したところ,ACC車両混在比率0%の交通流では,ACC運 転時とMD運転時とで車間距離に関する発話数に有意な差は認められなかった一方で,ACC 車両混在比率50%の交通流ではACC運転時に車間距離に関する発話は有意に減少した.すわ なち,交通流の乱れが比較的小さい状況,たとえば周辺に多くACC車両が存在する状況にお いて,ACC機能による前方車両への注意負荷の軽減効果は,より大きなものとなる可能性が 示唆された.
アイカメラデータの解析では, ACC運転時はMD運転時よりも前方(前方の車両ではなく,
単に前方)を長時間,他に視線を移動することなく見ていることが分かった.
以上の結果を総合すると,ACC運転は,ドライバーの前方への注意負荷を下げる効用があ る一方で,場合によっては漫然運転を誘発するリスクを孕む可能性があることが示唆された.