第 4 章 車両挙動の把握
4.4 反応遅れ時間に基づく追従挙動解析
35 4.3.4 高松道区間における負値PICUD検出率
そして,高松道区間における,各混在比率パターンの負値PICUD検出率を図 4.5に示す.
図 4.5 高松道区間における負値PICUD検出率
この図から,4-3-2項と同様に,パターンM0で負値PICUD検出率が高く,他のパターン M1,M5,A5では,M0 よりも検出率が低いことが確認できる.しかし,パターンA1では,
9.0kp付近においてM0よりも検出率が高く,4-3-2項の結果とは整合しない.
ここで,高松道区間における交通流の特性を確認すると(図 3.13),A1のみ8.0~9.0kpに かけて車頭距離の平均値が大きく低下しているのが確認できる.そこで,PICUD が負値とな ったID19とその前方車両の9.0kp付近におけるTime-Space図,速度とPIUCUDの推移を
参照し(図 4.6),車頭距離とPICUDの関連性を考察する.図 4.6から,実験開始後経過時刻
382秒(8.9kp,緩和曲線区間の始点)付近で先行するID18(MD車両)が減速を始め,それ に2,3秒遅れてID19(MD車両)が減速していることが読み取れる.この反応遅れにより,
2車両の車頭距離が減少するのが確認できる.その結果,PICUDは低下を続け,388秒(8.9kp, 緩和曲線区間の始点)付近で負値になったと考えられる.このような車頭距離の減少が多数発 生したため,A1で検出率が高くなったと考えられる.このように,ACCが導入されても,交 通流に擾乱が発生すると事故リスクは高まると考えられる.換言すれば,ACC 車両の混在比 率が 50%になれば交通流の整流化が期待できるため(3.4.2 項),追突事故リスク増加の契機 となる擾乱の発生そのものが抑制されることが予想される.
図 4.6 高松道区間における車両挙動とPICUD
36 とが確認できる.
そこで,このような反応遅れの違いが,ドライバーの違いから生じるのか,それとも前方車 両の種類やACC車両の混在比率など,他の要因から生じるのかを精査する.
4.4.1 反応遅れ時間の算出
はじめに,ドライバーの反応遅れを定量化するために,追従挙動モデルを導入し,MD車両 で走行する各被験者に対して,モデル式中の反応遅れ時間を推定する.本研究では,追従挙動 モデルとして最も一般的であり,式(4-2)で定義されるGazis et al.38)のモデルを適用する.
𝑎𝑎𝑛𝑛+1(𝑡𝑡 + 𝑇𝑇) = 𝛼𝛼 {𝑣𝑣𝑛𝑛+1(𝑡𝑡 + 𝑇𝑇)}𝑚𝑚
{𝑥𝑥𝑛𝑛(𝑡𝑡) − 𝑥𝑥𝑛𝑛+1(𝑡𝑡)}𝑙𝑙{𝑣𝑣𝑛𝑛(𝑡𝑡) − 𝑣𝑣𝑛𝑛+1(𝑡𝑡) } (4-2) ここに; 𝑎𝑎𝑛𝑛(𝑡𝑡):時刻𝑡𝑡 における車両𝑛𝑛 の加速度 [m/s2]
𝑣𝑣𝑛𝑛(𝑡𝑡):時刻𝑡𝑡 における車両𝑛𝑛 の速度 [km/h]
𝑥𝑥𝑛𝑛(𝑡𝑡):時刻𝑡𝑡 における車両𝑛𝑛 の走行位置[m]
𝑇𝑇:反応遅れ時間 [s]
𝑛𝑛, 𝑛𝑛+1:前方車両,追従車両
𝛼𝛼, 𝑚𝑚, 𝑙𝑙:モデルパラメータ
式(4-2)について,既往研究39)と同様に, 𝑚𝑚 = 𝑙𝑙 = 0とすると,追従車両の加速度は,追従車 両の前方車両に対する相対速度に比例する関数とみなすことができる.そこで,このモデルに 対して,これらの値の時系列変動の相互相関分析により,ドライバーの反応遅れ時間(制御の むだ時間)を推定する.具体には,式(4-2)に対して,反応遅れ時間T [s]を+5秒まで0.1秒ず つずらし,相対速度と追従車両の加速度間の相互相関係数が最大となるTの値を,その車両の 反応遅れ時間T [s]として算出する.これにより,分析対象区間別・混在比率パターン別に,被 験者ひとりひとりの反応遅れ時間が求まる.
ただし,以下の条件を満たすサンプルは,追従挙動モデルに適用することが不適当と考えら えるため,反応遅れ時間の算出から除外する.算出の対象となるサンプル数を表 4.4に示す.
前方車両との車間距離が120mを超えることがある(一般に車群の定義は車頭時 間が3秒以内であるが40),本研究ではACCやCMBSが車間距離120mを閾値 として制御されていること(2.5.4項)を踏まえ,車間距離120mを閾値とする).
分析対象区間内で,前方車両が車線変更をする,または前方に車線変更をしてく る車両が存在する.
反応遅れ時間が5秒以上または相関係数が0.5未満.
表 4.4 反応遅れ時間を算出したサンプル数
混在比率 中央道区間 山陽道区間 高松道区間
0% 13 10 12
10% 28 21 21
50% 8 10 15
合計 49 41 48
37
4.4.2 反応遅れ時間の比較
前項で得られた反応遅れ時間について,分析対象区間別に,混在比率(0%,10%,50%), 前方車両(ACC車両,MD車両),ドライバーの運転経験(無,有)を因子とする多元配置分 散分析を行い,ACC車両の混在が追従挙動に与える影響を把握する.なお,いずれの分析対 象区間に関しても,Bartlettの検定により,5%有意水準で等分散性を確認している.結果を表
4.5~表 4.7に示す.なお,表中有意差が認められた箇所を橙色に着色してある.
表 4.5 分散分析表(中央道区間)
Df Sum Sq Mean Sq F value Pr(>F)
前方車両 1 0.000 0.000 0.001 0.980
混在比率 2 1.900 0.950 1.340 0.273
運転経験 1 3.367 3.367 4.749 0.0353**
前方車両×混在比率 1 0.990 0.990 1.397 0.244
前方車両×運転経験 1 1.034 1.034 1.459 0.234
混在比率×運転経験 2 0.572 0.286 0.403 0.671
Residuals 40 28.360 0.709
注:**:p <.05(以下も同様)
表 4.6 分散分析表(山陽道区間)
Df Sum Sq Mean Sq F value Pr(>F)
前方車両 1 0.229 0.229 0.291 0.593
混在比率 2 0.143 0.071 0.091 0.914
運転経験 1 5.049 5.049 6.416 0.0164**
前方車両×混在比率 1 1.281 1.281 1.628 0.211
前方車両×運転経験 1 0.191 0.191 0.243 0.625
混在比率×運転経験 2 2.503 1.251 1.590 0.220
Residuals 32 25.180 0.787
表 4.7 分散分析表(高松道区間)
Df Sum Sq Mean Sq F value Pr(>F)
前方車両 1 1.256 1.256 1.655 0.206
混在比率 2 0.516 0.258 0.340 0.714
運転経験 1 2.025 2.025 2.669 0.110
前方車両×混在比率 1 0.375 0.375 0.494 0.486
前方車両×運転経験 1 0.324 0.324 0.427 0.517
混在比率×運転経験 2 0.235 0.117 0.155 0.857
Residuals 39 29.590 0.759
以上の結果から,中央道区間及び山陽道区間において,運転経験のみ 5%有意水準で主効果 が認められる.そこで,運転経験別に反応遅れ時間を比較する.各分析対象区間における,運 転経験別の反応遅れ時間の平均値と標準偏差を図 4.7~図 4.9に示す.
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図 4.7 中央道区間における運転経験別の反応遅れ時間
注:横軸のDriving Experienceは0:無,1:有(以下も同様)
図 4.8 山陽道区間における運転経験別の反応遅れ時間
図 4.9 高松道区間における運転経験別の反応遅れ時間
39
この結果から,中央道区間,山陽道区間ともに,運転経験無のグループの方が反応遅れ時間 が大きいことが分かる.また,有意であると確認できなかったものの,高松道区間においても,
同様に運転経験無のグループの方が反応遅れ時間が大きい傾向が確認できる.ここで,4.3 節 より,MD車両では反応遅れにより追突事故リスクが高まることが確認された.これらの知見 を統合すると,普段運転しない人の方が,追突事故リスクが高い状況にある可能性がある.そ して,ACCによって追突事故リスクの低減が期待できるという4.3節の指摘から,ACCによ る安全性向上の効果は,特に普段運転をしないドライバーに有効であると言えよう.
一方で,それ以外の因子の主効果及び因子間の交互作用は有意には確認できない.したがっ て,反応遅れ時間という観点から評価した場合は,前方車両の種類や,ACC 車両の混在比率 はドライバーの追従挙動に影響を与えないことが示唆される.前方車両の違いによってMD車 両の追従挙動が変化しないのであれば,加減速が緩やかな ACC車両に追従した方が,交通流 全体の整流化につながると予想できる.そして,この予想は,MD車両がACC車両に追従す ることも交通流率の向上に寄与していることを指摘した3.4.2項とも整合する.