第 4 章 腫瘍集積性 RBD を用いた音響化学治療の試み
4.1 緒言
本章では、キャビテーション誘導能、音響化学活性および腫瘍集積性を併せ持つ Rose
bengal誘導体(以降RBD;Alkyl 鎖の炭素数C=14のRBD3)を用いて、担がんマウスでの動
物実験で、音響化学治療によるin vivoでの抗腫瘍性を検証することを目的とする。また、本法 における抗腫瘍性の作用機序の解明も目指す。
4.1.1 In vivo での抗腫瘍性の評価における超音波照射系
(1)超音波照射系
超音波とRBDによる音響化学治療でのマウス実験腫瘍への抗腫瘍性の評価における超音 波照射系を図4.1に示す。
マウス下肢に移植した腫瘍に生体外から超音波を集束できるように、進行波条件の超音波 照射系とした。脱気水を満たした水槽内に、X-Y-Z ステージを用いて超音波トランスデューサ とマウスを配置した。図 4.1 は水槽横方向からの照射系構成成分の配置を示す。腫瘍に集束 した超音波が透過するよう、マウスは腫瘍位置をくり抜いた板に麻酔下で固定して実験に供し た。また、腫瘍を透過した超音波が反射して腫瘍部位に戻らないよう、マウス後方側水槽壁は 45 度に傾斜させた。超音波の照射方法は、進行波条件でも比較的キャビテーションが生成し やすい第2高調波重畳法30), 31)とした。実験方法の詳細は4.2.1項に記載した。
図4.1 抗腫瘍性の評価における超音波照射系
抗腫瘍性の評価は進行波条件で実施した。図は水槽横方向からの構成成分の配置を示す。
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(2)第2高調波重畳法
1.2.3 項で述べた通り、定在波条件ではキャビテーションは生じやすいが、進行波条件でキ
ャビテーションを生成することは非常に難しい。しかし、音響化学治療をヒトへ臨床応用し、身 体深部の腫瘍への適用を考えるうえでは、進行波条件での超音波照射は必須である。そのた め本研究ではキャビテーションを効率的に生成する化合物の開発を行い、得られた化合物
RBDはin vitroの実験ではキャビテーションの誘導能を持つ化合物であることは確認した。キ
ャビテーション生成の効率化は 1.2.3 項で述べたように超音波照射方法側からの研究が先行 して実施されている。今回はそれらキャビテーションを効率的に生成する超音波照射技術の 中で、キャビテーション誘導能をもつ化合物と組み合わせることで大きな超音波強度は必要と しない第2高調波重畳法を用いることとした。
第2高調波重畳法は超音波の基本波とその第2高調波を超音波の焦点位置で重ね合せる 照射方法である。基本波とその2 倍の周波数を持つ第 2高調波の組み合わせは波の負圧を 効果的に強調できる。基本波と第 2 高調波それぞれ単独ではキャビテーションが生じないよう な超音波強度でも、RB と第 2 高調波重畳法でキャビテーションが発生すること、生じたキャビ テーションで化学反応が促進されること、その効果は基本波と第2高調波を照射強度1:1の割 合とした場合に最も高い事がin vitroで見出された30)。この効果はin vitroのみならずマウス肝 臓を用いたin vivo 実験でも検証され、キャビテーションによる生体作用が増強されることが報 告されている30), 31)(図4.2)。
第2高調波重畳法の照射条件は基本波と第2高調波の照射強度比のみならず、周波数、
基本波と第2高調波の位相差についても詳細に検討されている63), 75)。
周波数については一般的に周波数が低い方ほどキャビテーションの生成効率が高いことが 知られている。マウス肝臓組織ダメージの肉眼観察を指標に基本波2.1 MHz、1.58 MHz、1.0
MHz、0.53 MHzの比較により、1.0 MHz、0.53 MHzで生体への音響化学作用が促進されるこ
とが確認されている 63)。更にマウス実験腫瘍を用いた予備的検討で基本波 0.75 MHz よりも
0.5 MHz の方が高い抗腫瘍性が得られることも確認されている。ただし、周波数を下げると振
動子が厚くなり、第 2 高調波重畳法にて安定な超音波照射を行うには、現状では基本波 0.5 MHzが下限となっている。
基本波と第2高調波の位相差については、位相差を変えて作成した合成波形を図4.3に示 す。位相差 1/2πが最も負圧の強調が見込める波形となっている。試料溶液として Ethanol を
用いた in vitro 実験で、位相差を固定して超音波を照射した場合、1/2が最もキャビテーショ
ンの生成効果が高いことがKawabata等によって検証されている(図4.3)。しかし、理想の位相 差での超音波照射はin vivoでは生体中の組織境界での屈折等の影響で困難である。そこで 位相差を周期的に変化させる照射方法をKawabata等は開発した。位相差のシフトは1間隔
の2 段階から 1/16間隔の32段階シフトまで検討し、シフト段数が大きいほどキャビテーショ
ン生成効率が向上し、8段階シフト以上で平衡に達することが報告されている75)。
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図4.2 第2高調波重畳法
基本波とその第2高調波を超音波の焦点位置で重ね合す照射方法。RBとの組み合わせで、水中およ びマウス肝臓内でキャビテーション生成が促進された30), 31)。
図4.3基本波と第2高調波の位相差
a:基本波と第2高調波の位相差による合成波形を示す。
b:基本波と第2高調波の位相差によるEthanol水溶液でのキャビテーションの生成を示す。
a 各位相差での合成波の波形 b 各位相差でのキャビテーション生成
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4.1.2 超音波の生体作用について
1.2.1項で述べたように、超音波の生体への作用は図1.6に示すように生体が超音波のエネ
ルギーを吸収して生じる作用と、超音波照射によって生じたキャビテーションによる作用の大き く2つが考えられる。
第3章におけるin vitroでの細胞障害作用機序の検討によると、キャビテーションによりRBD が活性化され、生じた 1 重項酸素による化学的作用が細胞障害の要因であることが示唆され た。マウスを用いたin vivo実験でも同様に超音波照射によるキャビテーションが抗腫瘍性の源 になっているのか、超音波照射時のキャビテーションの生成と加熱作用の有無を検証した。