大多数の個人主義者は、パーソナル・コミュニケーションを拒否、または消極 的である。それに伴い関心や知識が乏しく、支持する政党を持たない。また、彼 らの大多数は価値判断をマスコミに仰いでいる。よって、マスコミの報じる争点 等によって彼らの投票先が変わるという予測は確証されたと思われる。つまり、
下のモデルは成り立ったというものである。
コミュニケーションなし → 関心・知識(低い) → 政党支持なし → マスコミの影響(大きい) → 投票
だが、検証4でも証明されたように、投票に行くのは個人の自由と考えている個 人主義者だけでなく、投票に行くのは義務と考えている人達もマスコミの報じる争 点に影響されているのである。しかし、投票に行くのは義務と考えている人達は、
支持政党を持っているのでマスコミの報じる争点によって投票先が変わるとは言 えないのである。
それでも現代の選挙においてマスコミの影響力は巨大だということが判った。
8 . まとめ
19世紀前半のフランスの思想家、A・トクヴィルはアメリカに行った時に次の ようなことに気付いた「人々が一層平等化し、そして個人主義が一層恐るべきもの になるにしたがって、新聞は一層必要になってゆく。そして、人々は群衆の潮流の 中に一層容易にまきこまれるようになり、そして群衆が耽溺している世論のうちで、
一人のままでとどまることがむつかしくなってゆく」(トクヴィル・アメリカの民 主政治下・p209・p213)
彼は、個人主義が広がることによって、新聞の報道に仰がれやすい人々が現れる ことを19世紀前半にすでに気付いていた。そして、この現象は日本にも当てはま ることであり、新聞という媒体は、より大きなマスコミに変化した。
表5 世間一般の人の意見は、
マスコミの影響を受けているか 影響を受けている 影響を受けていない 合計 投票に行くのは 義務 86.0% 14.0% 100.0%
投票に行くのは 個人の自由 84.5% 15.5% 100.0%
出展 JESⅢ 2005年度 i
表5は、世間一般の人の意見は、マスコミの影響を受けているのかを投票に行く のは義務と考えている人たちと投票に行くのは個人の自由と考える個人主義者に 聞いた質問である。この表を見る限りではどちらも世間はマスコミに影響されてい ると考えている。彼らの周りのパーソナル・コミュニケーションはマスコミの報じ る論調と同じであるのだろう。
検証1の表1で、政治の話題をする人が、投票に行くのは個人の自由と考えてい る個人主義者の周りには49%以上いたが、その政治の話題をする人もほぼマスコ ミに影響された論調になっているだろう。ということは、パーソナル・コミュニケ ーションを持つ個人主義者も結局はマスコミに影響されているのである。
このことは、A・トクヴィルが言った「人々は群衆の潮流の中に一層容易にまき こまれるようになり、そして群衆が耽溺している世論のうちで、一人のままでとど まることがむつかしくなってゆく」という言葉は完全に個人主義者に当てはまるこ
とである。つまり、彼らはマスコミの報じる論調によって投票先を変えるのである。
個人主義者が日本の人口の大多数を占めたらどうなるのだろう。それは、マスコ ミの論調しだいで国が変わっていくことを意味する。それゆえにA・トクヴィルは
「新聞の天下」を予測していたのだろう。
注(1) DK・NAは(いない)ほうに含んである。
参考文献
三宅一郎 1989『投票行動』東京大学出版会。
蒲島郁夫 1988『政治参加』東京大学出版会。
小林良彰 1991『現代日本の選挙』東京大学出版会。
山崎正和 1987『柔らかい個人主義』中公文庫。
夏目漱石 1978『私の個人主義』講談社学術文庫。
川上和久 1994『情報操作のトリック』講談社現代新書。
コーンハウザー 辻村 明訳 1961『大衆社会の政治』東京創元社。
A・トクヴィル 井伊玄太郎 1987『アメリカの民主政治<下>』講談社学術文庫。
ここで利用したデータは、JES III で ある。JES III は、「21 世紀初頭の投票行動 の全国的・時系列的調査研究 (JES III SSJDA 版),2001-2005」 は、JES III 研 究会が実施された世論調査である。その個票 データについて、東京大学社会科学研 究所附属日本社会研究情報センター・データアーカイブ(Social Science Japan Data Archive)より教材としての利用許可(申請者:西澤由隆教授)を得 たものを使用し た。いずれも、同志社大学・法学部の西澤由隆先生のご指導と便宜により利用ができ た。そ れぞれのデータを公開・寄託され、利用でるようにしてくださった先生方に 感謝いたします。
4回生論文
公明党支持者の 自民党評価要因
〜連立政権前後を中心とした 時系列比較による検証〜
井上 拓紀
1.はじめに
本稿の目的は、公明党支持者の自民党評価(自民党に対する政党評価)が、何によ って
規定されているのかを明らかにすることである。
1999年10月5日に「自自公政権」が発足した。公明党支持者は1999年を境に、支 持政党が野党から与党へと変化したことになる。そこで今回、この連立政権前後を中 心とした時系列比較によって、公明党支持者の自民党評価要因を検証していきたい。
もともと筆者は、連立政権下での政党評価について感心があった。政権運営について 考えると、単独政権よりも連立政権の方が困難であると考えられている。そういった 状況において、パートナーである互いの政党に対して、それぞれの政党支持者はいっ たいどのような評価を行っているのか興味があったからである。
図1をご覧いただきたい。これは公明党支持者の自民党への感情温度平均値を、時 系列でまとめたものである。この図からもわかる通り、支持政党連立前後の1999年
5
図1 公明党支持者の自民党への感情温度平均値
を境に公明党支持者の自民党に対する感情温度が上昇している。(1)
では、なぜこのような変化がみられるのだろうか。そこで始めに、公明党支持者 に焦点を絞り、連立前の 1993 年から連立後の 2005 年まで 12 年間の態度変化を時系 列でみていく。そして、その態度変化がどういった要因により規定されているのか を検証していく。
2.研究意義
本稿では、時系列で公明党支持者の自民党評価要因を検証していく。そこから本 稿の研究意義として 2 点を導き出すことができる。
第 1 に、政権運営を連立政権という形態で行っている現在、パートナーとなった 互いの政党に対してどのような評価を行っているのか、またその評価を規定する要 因が何であるかを探ることは、大きな意味があると考えるからである。
第 2 に、連立政権下における政党評価を検証した先行研究が存在しないことであ る。その意味でも、今回の研究に取り組む意義は生まれると考える。
以上が本稿に取り組む意義である。
3.研究枠組
3-1 命題
本稿では以下の命題について検討する。
【命題】「なぜ連立政権下における公明党支持者の自民党評価は高いのか。」
図1でも確認したように、今回は 1999 年前後での公明党支持者の自民党に対する 政党評価要因を探りたいため、このように設定する。
3-2 仮説
上述した命題に対して、どのような要因が考えられるだろうか。以下では、この 命題の根拠になっていると考えられる 2 つの仮説について紹介する。(2)
【仮説①】「首相好意仮説」
極めて単純な理論であるが、同じ与党となったことで、公明党支持者が自民党党 首である首相へ好意を抱くようになったと考えられる。つまり公明党支持者にパー トナーとしての自覚が生まれ、この首相への好意が自民党評価の 1 要因になると考
える。
【仮説②】「内閣評価仮説」
首相自身も「連立政権」であるため、公明党にある程度配慮した政権運営を行う と考えられる。また、公明党からも毎回数名の閣僚を輩出しており、政策に対して より影響力が増していると考えられる。そのため公明党支持者は、公明党に配慮し た政権運営が行われているかをチェックし、その結果を基に内閣評価を行っている と考えられる。内閣がうまく機能していると考える公明党支持者の増加により、こ の内閣への評価が自民党評価の 1 要因になると考える。
3-3 使用するデータ
上述の命題に対しての仮説を検証するため、本稿では「JESⅡ」、「JESⅢ」という サーヴェイデータを用いる。
本稿では「JESⅡ」の中の 1993・1996 年のデータ、「JESⅢ」の中の 2001・2003・
2004・2005 年のデータを用いる。(3) 利点として、12 年間という期間での公明党支 持者の態度変容を明らかにできることである。本稿では政党評価要因を明らかにし たいので、12 年間のサーヴェイデータは個人にまで視点を落としたデータで、仮説 の検証には好材料だと考えられる。
3-4 従属変数
従属変数は、公明党支持者の自民党に対する感情温度である。まず支持政党を問 う項目があるので、そこから公明党支持者を抽出し母集団とする。その母集団の自 民党に対する感情温度を問うた項目を用いて、本稿における従属変数と設定する。
3-5 独立変数
本稿における独立変数は 4 つある。(4)
①首相に対する感情温度 ②内閣に対する評価 ③政治に対する満足度 ④政党支持強度
①と②については仮説の検証を行うために独立変数として設定している。また③ と④はコントロール変数として設定している。③は、公明党支持者は政治に満足す ると、自民党の政党評価に影響を与えると考えるため投入する。④は、公明党支持