第 4 章 発芽における塩水浸漬の影響
4.2 塩水浸漬期間とクロマツとアカマツの種子内部への塩分蓄積量の関係について
4.2.7 結果
クロマツおよびアカマツの種子内の陽イオン含有率を表 4.2.1 に示す。クロマツでは Na 含有率が塩水浸漬期間の長い処理区ほど高くなる傾向を示したが,各処理区間に有意差は 認められなかった。アカマツの Na 含有率も塩水浸漬期間が長いほど高くなる傾向を示し,
15日区,10日区と対照区である0日区との間に有意差が認められた。両種のNa含有率の
差は0日区・1日区では0.07~0.06%だったが,5~15日区では0.11~2.31%と差が大きくな
りアカマツの方が高かった。5~15日区ではNa含有率の種間差は塩水浸漬期間が長いほど 大きく,15日区では有意差が認められた(表4.2.1,図4.2.1)。
K含有率について,両種ともに各処理区間に有意差は認められなかった。また,樹種間の 有意差も認められなかった(表4.2.1,図4.2.2)。
Mg含有率は,両種ともに処理区間における有意差や傾向は見られなかったが,全ての処 理区においてアカマツの方がクロマツより含有率が高く,有意差が認められた(表4.2.1,
図4.2.3)。Ca 含有率は,両種ともに処理区間の有意差は認められなかった。また,樹種間
の差を比較したところ,10日区以外でクロマツよりアカマツのCa含有率が高くなり,5日 区のみで有意差が認められたが他の処理区における樹種間差は認められなかった(表4.2.1,
図4.2.4)。
クロマツとアカマツの各処理区におけるK/ Na比を図4.2.5に示す。クロマツのK/ Na比 は塩水浸漬期間の長い処理区ほど低くなり,15日区と 0日区の間で有意差が認められた。
アカマツもクロマツと同様に塩水浸漬期間の長いほどK/Na比が低下した。各処理区間の比 較を行った結果,アカマツでは0~5日区と10日区,15日区との間で有意差が認められた。
56
表4.2.1 クロマツ(P. thunbergii)とアカマツ(P. densiflora)の各処理区における種子内 のイオン含有率
※小文字アルファベットの差異は各種における処理区間での有意差を示す(Tukey test, p < 0.05,
Kruskal-Walls test, p < 0.05)。
※大文字アルファベットの差異は処理区内における種間の有意差を示す (T test, p < 0.05)。
クロマツ 0日区 0.33±0.03 1.04±0.04 0.53±0.01 A 0.53±0.16 3.68±0.40 a
P. thunbergii 1日区 0.46±0.24 1.18±0.28 0.53±0.05 A 0.48±0.15 3.08±1.26 ab
5日区 0.40±0.08 1.01±0.05 0.50±0.04 A 0.43±0.01 2.92±0.55 ab
10日区 0.48±0.06 1.03±0.07 0.52±0.02 A 0.45±0.08 2.35±0.18 ab A
15日区 0.67±0.08 A 0.90±0.05 0.51±0.03 A 0.40±0.03 1.41±0.18 b A
アカマツ 0日区 0.40±0.12 a 1.11+0.09 0.69±0.04 B 0.62±0.34 3.28±0.75 a
P. densiflora 1日区 0.40±0.06 a 1.11±0.07 0.69±0.04 B 0.55±0.15 3.28±0.29 a 5日区 0.51±0.14 ab 1.12±0.21 0.69±0.08 B 0.56±0.05 2.56±0.57 a 10日区 0.71±0.14 bc 1.02±0.07 0.69±0.06 B 0.44±0.01 1.52±0.21 b B 15日区 0.98±0.08 bc B 0.89±0.02 0.74±0.07 B 0.48±0.06 0.93±0.10 B
樹種 処理区 イオン含有率 (%)±Sd.
Na K Mg Ca K / Na
0.0 0.5 1.0 1.5
0日区 1日区 5日区 10日区 15日区
Na含有率(%)
試験区
クロマツ
*
アカマツa a
ab
bc
bc
図4.2.1 各処理区におけるクロマツとアカマツの種子内のNa含有率
※エラーバーは標準偏差を表す。
※アルファベットの差異は各種における処理区間での有意差を示す(Tukey test, p < 0.05)。
※アスタリスクは処理区内における種間の有意差を示す(T test, p < 0.05)。
57 0.0
0.5 1.0 1.5
0日区 1日区 5日区 10日区 15日区
K含有率(%)
処理区
クロマツ アカマツ
図4.2.2 各処理区におけるクロマツとアカマツの種子内のK含有率
※エラーバーは標準偏差を表す。
※アルファベットの差異は各種における処理区間での有意差を示す(Tukey test, p < 0.05)。
※アスタリスクは処理区内における種間の有意差を示す(T test, p < 0.05)。
図4.2.3 各処理区におけるクロマツとアカマツの種子内のMg含有率
※エラーバーは標準偏差を表す。
※アルファベットの差異は各種における処理区間での有意差を示す(Tukey test, p < 0.05)。
※アスタリスクは処理区内における種間の有意差を示す(T test, p < 0.05)。
0.0 0.5 1.0 1.5
0日区 1日区 5日区 10日区 15日区
Mg含有率(%)
処理区
クロマツ ア カマツ
* * * * *
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図4.2.5 各処理区におけるクロマツとアカマツの種子内のK/ Na
※エラーバーは標準偏差を表す。
※アルファベットの差異は各種における処理区間での有意差を示す(Tukey test, p < 0.05)。
※アスタリスクは処理区内における種間の有意差を示す(T test, p < 0.05)。
0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00
0日区 1日区 5日区 10日区 15日区
K / Na 比
試験区
クロマツ アカマツ
b
a ab
ab
ab a
a
b
c
*
*
a
0.0 0.5 1.0 1.5
0日区 1日区 5日区 10日区 15日区
Ca含有率(%)
処理区
クロマツ アカマツ
図4.2.4 各処理区におけるクロマツとアカマツの種子内のCa含有率
※エラーバーは標準偏差を表す。
※アルファベットの差異は各種における処理区間での有意差を示す(Tukey test, p < 0.05)。
※アスタリスクは処理区内における種間の有意差を示す(T test, p < 0.05)。
59 4.2.8 考察
実験の結果,両種ともに塩水浸漬期間が長いほど多くの Na が増加する傾向が認められ,
クロマツでは処理区間の有意差は認められなかったものの,アカマツでは10日,15日区で 0日,1日区に比べ有意に高くなった。一方で,クロマツとアカマツともにK,Mg,Caは 試験区間の有意差は認められなかった。すなわち,塩水浸漬期間の長いほどNaが蓄積しす ることが分かった。一方でK,Mg,Caは塩水浸漬期間の長くなっても蓄積あるいは排出は ほとんどされず,種子内に潜在的に存在した量から変わらなかったと考えられる。Naの種 子内部への侵入はタンパク質代謝の攪乱,ホルモンバランスの攪乱,種子貯蔵物の減少など の影響をおよぼすことが確認されており(Ahmad et al.,2013),その結果として発芽と実生 の生長が抑制される(Tsegay and Gebrelassie,2014;KATEMBE et al.,1998;Sima et al.,2013; Mahdavi and Sanavy,2007;Meloni et al.,2008)と言われている。クロマツおよびアカマツ の種子においても,培地の塩分濃度が高くなるほど種子の発芽率が低下することが分かっ ており,その原因としてNaによる代謝の攪乱が指摘されている(浅野,1963)。また,両種 とも塩水浸漬期間が長いほどK/Na比が低下しており(表4.2.1),KよりNaの含有率が相 対的に高くなっていく傾向が認められた。植物体内でNaが過剰な状態となるとKとのイオ ンバランスが乱れることによって代謝の攪乱やエネルギー生産の阻害が発生する(ラルヘ ル,2004)ため,K/Na 比は耐塩性についての重要な決定要因のひとつ(MAATHUIS and
AMTMANN,1999)とされている。よって,耐塩性の高い植物は植物体内へのNaの侵入を
防ぐ(Parida and Das,2005)ため,K/Na比の高い状態を維持する(Zhang and Shi,2013)
とされている。よって,クロマツおよびアカマツともに塩水浸漬期間の長いほど種子内部へ Naが蓄積し,K/Na比が低下していることから,イオンバランスが乱されている可能性が示 された。
クロマツとアカマツの種子を比較すると,15 日区では Na 含有率がアカマツの方が有意 に高く,10 日以上の塩水浸漬処理を行った処理区ではクロマツはアカマツに比べ K/Na 比 が高く統計的な有意差が認められた。種子の吸水は種皮などの包皮組織の透過性による影 響も受ける(鈴木,2003)。よって,塩水の種子内への侵入しやすさも種皮透過性の影響を 受けると考えた。郷(1956)によりクロマツとアカマツの種子について,種皮,胚乳,胚の 重量の割合はほとんど変わらないことが示されている。また,クロマツとアカマツの種子の 重量を比較するとクロマツの方がアカマツの種子に比べて重い傾向が本研究および既往の 文献(浅川ら,1981)より認められている(表4.2.2,表4.2.3)。すなわち,クロマツの種子 はアカマツの種子に比べておおきく,種皮が厚い可能性が推察される。よって,クロマツの 種子はアカマツの種子に比べて厚く透過性が低いため,塩水の侵入が抑制されたため,アカ マツに比べてNaの蓄積が抑えられたと考えられる。
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表4.2.2 既往文献(浅川ら,1981)におけるクロマツとアカマツ種子の1000粒重(g)
ク ロ マ ツ ア カ マ ツ
13.00 9.00 大阪営林局(1952)
15.20 12.60 山田 (1929)
13.69 9.28 柳沢(1955)
13.40 9.30 竹内(1975)
11.95 9.31~11.84 小野 (1971)
9.03~17.85 5.39~11.65 遠山ら(1954)
1000粒 重 (g)
参 考 デ ー タ
ク ロ マ ツ ア カ マ ツ
13.12 2013年 採取種子(45粒)
15.07 2014年 採取種子(80粒)
16.09 7.67 2015年 採取種子(150粒)
13.76 9.48 2016年 採取種子(200粒)
19.32 2017年 採取種子(5粒)
種 子 平 均 重 量 (mg)
参 考 デ ー タ
表4.2.3 本研究において各実験に用いた種子の平均重量(mg)
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